農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:水稲の安定生産に向けて 水稲の種子伝染性病害対策

病害の発生生態を見極め的確な防除を

小泉 信三
 独立行政法人農業技術研究機構中央農業総合研究センター 病害防除部糸状菌病害研究室長

 水稲の安定生産には、種子伝染性病害の防除が不可欠。最近の傾向と防除対策を、(独)農業技術研究機構中央農業総合研究センターの小泉信三病害防除部糸状菌病害研究室長にまとめていただき、さらに主力剤の横顔を見ることにした。

 播種密度が高い水稲の箱育苗では、育苗期に種子伝染による病害が発生しやすく、これらの病害に対する防除を怠ると著しい被害が生じる。また、種子伝染性病害によって罹病した苗を本田に植え込むと、これが本田で伝染源となり病害の発生を助けることがある。この様に水稲の安定生産には種子伝染性病害の防除は、欠くことができない。ここでは水稲の種子伝染性病害とその防除対策について述べてみたい。

【いもち病】

 いもち病菌に保菌した種もみによってイネ苗で発生するいもち病には2つのタイプがある。1つ目は種もみの護頴や内外頴などに病原菌がある時、発生するタイプで、このタイプでは苗の鞘葉や不完全葉そして第1本葉に本病が発生する。この様なタイプは、種もみを厚播きし、覆土を浅くした時、露出したもみの表面に病原菌の胞子が形成されて、よく発生する。2つ目は玄米がいもち病菌に侵されている場合に発生するタイプで、この場合では苗は第1葉、不完全葉、鞘葉の順に内側から発病して枯死する。
 当然種もみの病原菌による保菌率が高いと苗いもちの発生率も高くなる。このため、種子伝染による苗いもちの発生を防ぐには、塩水選した健全種子を用い、種子消毒をしっかり行い、厚播きせず、覆土を十分に行う必要がある。なお、種子消毒剤の一部は玄米まで侵入したいもち病菌に十分な殺菌効果を示さず、いもち病菌はイネの登熟後期まで穂に感染できる。このため、外観健全な種もみを種子消毒して播種しても苗いもちが発生することがあるので、十分気を付けたい。
 種子伝染により苗が発病または感染していると、その後、補植用苗でも本病が発生する。また、本田にも罹病株が植え込まれ、大きな伝染源となる。これらは本田でのいもち病の発生時期を早め、本病の多発を助長する可能性がある。また、予防用の水面施用粒剤の効果を減じる。このため、苗いもちの防除はいもち病を効果的に防除するためには欠くことができない。
 苗いもちは発生すると育苗箱のなかで急激に蔓延する。このため、その発生を認めたら直ちに薬剤を散布する必要がある。また、育苗期間が長い時には液剤による灌注や散布剤も施用したい。なお、一部の育苗箱施用剤の播種時散布や床土または覆土混和、ケイ酸資材の施用は苗いもちの発生を抑制することが知られている。また、育苗ハウスに被害わら、もみなどを放置すると、それらの上で形成された胞子が苗に感染するので、育苗ハウス内ではこれらを放置しない。

【ばか苗】

ばか苗病
ばか苗病

 本病の罹病もみを播種して、苗に本病が発生すると、枯死する場合もあるが一般には苗が黄化して徒長する。また、ばか苗病は浸種、催芽中、病原菌の分生子が健全もみに付着したり、育苗期間中、罹病苗基部やもみに生えた病原菌のかび(白または紅色)で拡がることがある。罹病株、汚染株を本田に移植すると本田でも本病が発生する。そして、罹病株はのちに枯死する。罹病株上に形成された分生子は、出穂後穂に付着あるいは感染して種子を通じて次年度の伝染源となる。

【ごま葉枯病】

 保菌もみの播種で、本病が発生すると苗の鞘葉、子葉鞘および本葉の葉鞘が褐変する。また、葉身にも病斑が形成される。ごま葉枯病に罹病すると苗の生育が劣り、葉が出すくんだり、ねじれたりする。本田では秋落ち田で多発し、葉、葉鞘、節および穂に褐色の病斑を生じる。本病の第一次伝染源は罹病種もみおよび被害わらである。

【もみ枯細菌病】

もみ枯細菌病
もみ枯細菌病

 苗の生育初期に苗がひどく本病の病原細菌に感染すると幼芽はわん曲、褐変し、腐敗・枯死する。また、苗の生育が進んでから本菌が感染すると、葉鞘が褐変、腐敗し、芯葉の基部が腐敗し抜けやすくなる。そして、葉の基部が退色し、最後には腐敗して枯死する。本病の発生は坪状に起こることが多い。
 本病は浸種中にも保菌もみから健全もみへ伝染するが、この伝染は浸種温度が高いと著しくなる。また、発病は催芽、出芽温度が高いほど激しくなる。塩水選、健全種子の使用、種子消毒の他、カスミン粒剤の育苗土混和、同粒剤、液剤の播種時覆土前の散布および生物農薬モミゲンキ水和剤の覆土混和などが本病防除に有効である。本田では穂ではもみに発病し、重症穂のもみは不稔となることがある。玄米では褐色、淡褐色の条斑が帯状に生じることが多い。

【苗立枯細菌病、褐条病】

苗立枯細菌病 褐条病
苗立枯細菌病
褐条病

 苗立枯細菌病および褐条病は共にもみ枯細菌病同様、細菌によって生じる。苗立枯細菌病の初期症状はもみ枯細菌病によるものと似ている。しかし、本病では苗が腐敗することはない。また、末期には苗が赤茶けて枯死する。褐条病では葉しょうや葉身に暗褐色水浸病斑が形成されるが、初期に激しく侵されると幼芽が腐敗する。
 防除はもみ枯細菌病と原則的には同じ様に行う。また、プール育苗によってもみ枯細菌病と苗立枯細菌病の発生が抑制されることが報告されている。

◆微生物農薬や温湯消毒も種子消毒

苗立枯病(リゾーブス菌)
苗立枯病
(リゾーブス菌)

 薬剤による種子消毒には、化学合成農薬と微生物農薬がある。浸漬処理の場合は薬液の温度に留意し、化学合成農薬処理では耐性菌の発生に注意する。最近登録された微生物農薬モミゲンギ水和剤(もみ枯細菌病と苗立枯細菌病に有効)とエコホープ(糸状菌および細菌病に効果がある)は、病原菌の薬剤耐性と廃液処理の心配をしなくて良いので注目されている。60度の温湯に種もみを10〜15分間浸漬する浸漬温湯消毒は、各種病害の防除に有効である。浸漬温湯消毒については専用の機械が市販されているが、最近、1回で40kgの種もみを消毒できる大型の機械が開発された。

バラエティに富んだ各社の主力製品

◆廃液の少ない塗沫処理も
 テクリードCフロアブル
  《クミアイ化学》

 クミアイ化学工業(株)の『テクリードCフロアブル』(農林水産省登録第18601号、有効成分=イプコナゾール・水酸化第二銅)は、ばか苗病、苗立枯病等の他、細菌病にも有効であることからイネ総合種子消毒剤として農家から熱い視線を浴びている。
 他の特長としては、優れた付着力と浸透性、使い易いフロアブル製剤、常に安定した効果が挙げられる。本剤の使用方法は、浸漬処理、吹き付け処理、特に浸漬処理が多いが、環境問題への対応から廃液の少ない塗沫処理もできることが大きな魅力となっている。

◆健全育苗の通過点
  スターナ水和剤 
《住友化学》

 住友化学工業(株)の稲用細菌病防除剤『スターナ水和剤』(農林水産省登録第17203号、有効成分=オキソリニック酸)は、健全育苗に向けての通過点として広く愛用されている。
 多くの細菌病被害を防ぐには、適宜・適切な育苗管理が大切だ。これを礎とした「スターナ」は、種子消毒剤として安定した効果を示すとともに、本田防除剤としても大きく貢献している。
 姉妹品の『スポルタックスターナSE』(農林水産省登録第18554号、有効成分=プロクロラズ・オキソリニック酸)は、さきがけの稲用種子消毒剤として人気を呼ぶ。液状タイプであることから、取り扱いも簡便だ。

◆細菌病対応で初の微生物防除剤
  モミゲンキ水和剤 
《セントラル硝子》

 環境保全、環境持続など21世紀の農業は、「環境にやさしく」が不可欠。これを乗りこえ「環境を創造」したのがセントラル硝子(株)の『モミゲンキ水和剤』(農林水産省登録第20699号、有効成分=シュードモナス属細菌 CAB―02株)だ。本剤は、イネ種子のもみ枯細菌病、苗立枯細菌病に対する初の微生物防除剤である。
 本剤は、病原菌を種籾上で増やさないため、イネもみ枯細菌病やイネ苗立枯細菌病を防除できる。新JAS法対応の本剤の取り扱いは、日産化学工業(株)、アリスタ ライフサイエンス(株)、セントラル硝子(株)の3社。

◆温湯殺菌装置付催芽機
  環境に優しい『湯芽工房』 
《タイガーカワシマ》

 (株)タイガーカワシマが、永年にわたり培ってきたノウハウを十二分に活かしたのが、温湯種子消毒の『湯芽工房』。これまでの農家の気持ちを大切にするという、地道な努力が結晶した。農薬を使わないため低コスト、しかも環境に優しい催芽機として好評を博している。
 この技術は、約60℃のお湯に10分間種もみを浸し種子伝染性病害を防除するもので、農薬使用と同等の殺菌効果と90%以上の発芽率を確保できる。高精度のセンサーで、常に一定の温度を保ち、消毒が終了するとタイマーのブザーが鳴り知らせてくれるため、簡単、確実に温湯種子消毒ができる。この分野の成長に大きな期待が寄せられている。

◆経済的で簡便なトリフミン乳剤 《日本曹達》

 日本曹達(株)の『トリフミン乳剤』(農林水産省登録第17375号、有効成分=トリフルミゾール)は、製剤改良により乳剤化が可能となり、経済面で有利となったほか、作業の省力化を実現した。薬剤の計量・希釈が簡単に行え、容易に浸漬液が作れることが魅力となっている。
 また、薬液中のエマルジョン粒子が微小であることから、もみ表面の微細構造部までムラなく薬剤が付着し効果を高めた。さらに、その高い付着性及び薬剤の流亡が少ないことから、浸漬後の風乾を省き、水切り後直ちに浸種することも可能となった。

◆横綱的存在のウィンアドマイヤー箱粒剤 《バイエル クロップサイエンス》

 バイエル クロップサイエンス(株)の『ウィンアドマイヤー箱粒剤』(農林水産省登録第19836号、有効成分=イミダクロプリド・カルプロパミド)は、この分野の押しも押されぬ横綱的存在。
 本剤は、新規いもち防除薬剤「ウィン」と殺虫剤「アドマイヤー」との混合剤で、育苗箱施用1回で水稲の重要病害虫の同時防除を可能としている。両剤とも優れた残効性があり、従来と比較して防除回数の削減を実現した。
 なお、本年度より市場投入された姉妹品の『ウィンアドマイヤー顆粒水和剤』(農林水産省登録第20820号、有効成分=同)は、灌注施用で省力化をいっそう前進させている。

◆モミガードCでドライフロアブルも 《北興化学》

 北興化学工業(株)は、この分野で豊富な経験を持ち、農家からの信頼が厚い。
 主力の『ヘルシードTフロアブル』(農林水産省登録第18274号、有効成分=チウラム・ペフラゾエート)は、従来の殺菌剤と作用性が異なる新規化合物ペフラゾエートと、幅広い抗菌スペクトラムを持つチウラムを合理的に配合している。ばか苗病をはじめ各種の種子伝染病に卓越した効果を示し、極めて市場性が高い。
 また、『モミガードC水和剤』(農林水産省登録第19736号、有効成分=フルジオキソニル・ペフラゾエート・塩基性塩化銅)は、水稲総合種子消毒剤として定評がある。このほど、ドライフロアブル(農林水産省登録第20868号、有効成分=同)を加えより使い易くなった。 (2003.4.16)

よい種の準備から

 おいしい米づくりの第1歩は、よい種を選ぶところから始まる。よい種とは、中身のしっかり充実した種で、芽や根が力強く、たくましく、病気にもかかりにくい。この選別の方法の1つに「塩水選」がある。
 重い種を選び出すのに、塩水を使うのは真水よりも塩水の方が比重が大きいからで、その比重が大きければ大きいほどものを浮かす力が強くなる。これは、プールよりも海の方が私たちの体が浮きやすいことで実証されている。
 種を選ぶときの塩水の比重は、うるち品種で1.13が適当とされている。塩のかわりに硫安を使う場合もある。また、比重計がないときは鶏の新しい卵を使って計量することもできる。


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