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特集:2003年春・水稲病害虫防除のポイント |
育苗箱処理は省力・環境負荷低減技術 稲作農業をバックアップ 病害虫・コスト・労力を考慮して ―長期持続型殺虫殺菌剤を中心に― 藤田俊一氏 (社)日本植物防疫協会 |
病害虫防除技術は新農薬の開発とともに大きく進歩してきたが、水稲における長期持続型箱処理剤ほど単一作物の防除体系を大きく進化させたものは近年例をみない。10年前に登場したこの技術は、それまでの育苗箱処理技術を一変させ、いまやすっかり基幹的技術として全国に定着している。既に数多くの優れた育苗箱処理剤が開発・上市されているが、現在もなお新しい製品開発が続けられ、さながら一発処理除草剤のごとき様相を呈してきている。高価な農薬だけに、特徴をよく知ったうえで、必要な成分を見極めて選択したい。 |
◆登場の背景と開発の流れ
平成のはじめ頃までの水稲病害虫防除の平均的なスタイルは、種籾消毒や初期病害虫防除のための育苗箱処理を経て、移植後の本田で数回以上の防除を行っていた。このうち航空防除が利用できる地域では、主に中後期の防除をこれに頼っていた。しかし、水稲農家は年々高齢化が深刻になり、共同防除など労力のかかる本田防除はなかなか実施しにくい状況となってきたうえ、航空防除が出来なくなってくると効率的な防除方法に対する要請がますます強くなってきた。こうした背景のもとで、畦畔からの投げ込み剤や水口から注入する製剤などが相次いで開発され、また一方では乗用管理機による液剤の少量散布技術も開発されてきたが、どれも一長一短があり決定打にはならなかった。
一方、殺菌剤分野では中心となるいもち病防除剤の開発が遅れていたが、平成9年のカルプロパミド(ウィン)剤が登録されると新たな開発が相次ぐようになり、懸案であった殺虫・殺菌の混合剤という展開が拓け始めた。これによって箱剤が飛躍的に普及することとなったといえる。現在では紋枯病にも有効な成分を含めた3種以上の混合製剤が登場しており、育苗箱処理であらゆる主要病害虫に対応できるところまですすんできている。 ◆普及状況 平成13年1月に日本植物防疫協会が行ったシンポジウムでは、長期残効型の箱剤の普及率は平成12年の時点で熊本県75%、山口県60%、滋賀県30%以上、山形県庄内地方で60%以上などと報告されている。その中心はやはり殺虫殺菌混合剤であるが、単剤ベースでの使用も根強いものがあるようだ。現在の普及状況に関する詳しい資料は無いが、農薬全体の出荷量が年々低下するなかで混合箱剤の出荷量は拡大している(表1)。単剤からの移行による増加もあろうが、地域によっては極めて高い普及率になっているものと推定される。この結果、本田防除は大きく軽減され、近年の低レベルの病害虫発生ともあいまって、なかには本田防除を全く実施していないケースもある。 ◆長期持続型箱剤の現状 現在登録されている長期持続型箱剤は、殺虫剤、殺菌剤それぞれ10成分前後となっており、それらの組み合わせによって多くの混合剤が開発されている。組み合わせは複雑で、長期持続型の殺虫成分と殺菌成分の組み合わせ以外に、長期持続型殺菌剤と初中期害虫防除剤との組み合わせ、殺菌2成分と殺虫成分の組み合わせ、さらに殺虫成分を複数に増強したものまで多種多様である。現在開発中のものも含め、組み合わせを表に整理した。
◆より上手な利用のために
このようにきめ細かなニーズに対応できるメニューが充実してきたが、その分かえって選択に迷う懸念もある。多成分混合剤はオールマイティーであるが価格が高いため、地域で例年問題となる病害虫とコスト・労力をよく考慮して選択するようにしたい。また、長期持続型箱剤だからといって追加防除が不要ということではなく、農薬ごとに残効期間に違いもあるので、後期の病害虫発生には気をつけておかなければならない。とくに最近ますます増加してきたカメムシ対策には、今のところ本田防除に頼る以外にない。この点では、身近になってきた無人ヘリ防除との組み合わせによって、箱剤との役割分担を考えるのも一法である。一方、病害虫によっては箱剤の連年使用によって地域の密度が低減するため、隔年か数年おきの箱剤使用を推奨している例もある。なお、最近長期持続型のいもち剤に対する耐性菌が顕在化し始めた地域があり、地元の指導機関の情報に注意してほしい。
また、処理時期による選択もできる。田植え日の繁忙を避けるため、多くの剤が移植数日前までの使用ができるようになっているが、なかには緑化期に使用できるものもある。時期をもっと前倒しした播種同時処理は育苗センター向けの処理法であるが、幾つかの剤で登録がある。ただし、このような処理時期の大幅な前倒しは、作業の省力化に貢献する一方、本田期での残効切れを早めることもある。また、一部の剤では液剤を育苗箱上から散布する方法も登録されており、育苗規模の大きい農家では省力的な方法といえる。 ◆今後の展望
指導者の間には、発生予察に基づく臨機防除が基本であるとの考えから、予防的な防除手段である箱剤への過度の依存には、当初から慎重な意見があった。しかし農家の省力化に対する強い要請のなかで、この技術はすっかり定着したといえ、今後も基幹的技術としてさらなる改良がすすめられるものと考えられる。また、最近の研究で箱処理は水系への農薬流出がほとんど無いことが明らかにされており、環境負荷低減技術としても利用が推奨されるべきであろう。 |
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