農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:着実に成果をあげる代替技術 ―2005年の臭化メチル全廃に向けて―

代替薬剤で十分に対応できるポスト臭化メチル対策
群馬県の動向

高橋 富治氏 土壌薬剤技術分科委員会委員



高橋 富治氏

 1.臭化メチルはなぜ、土壌消毒剤として全廃するのか、と問われれば成層圏のオゾン層破壊の源であるからです。そのことは誰でも承知しています。

◆オゾンの破壊力は塩素の58倍も

 日本の南極越冬隊が南極オゾン層に穴があることを確認したことから、昭和49年カリフォルニア大学で、オゾンホールの発生メカニズムが解明され、その原因がおおよそ7種類の化学物質によることが分かっています。
 その中の1つである臭化メチルが分解した臭素は、オゾンを分解してただの酸素にしてしまいます。その破壊力は塩素の58倍の威力があることから、国際的に使用規制をして、紫外線からの健康と生態系の保全を目的としたモントリオール議定書が制定されました。
 そして先進国・開発途上国それぞれの削減計画のもとに、1995(平成11)年より10年をかけ臭化メチルに代わる代替技術を開発中です。日本でも生産現場で戸惑いのないよう、国・全国の研究機関で代替技術を確立し、普及現場で実証しながら円滑な移行ができるよう、努力しています。
 2.臭化メチルは1932(昭和7)年、フランスで使用された記録がありますが、当時は倉庫燻蒸剤として使用されたようです。広く普及定着した大きな特徴の1つに、「沸点が非常に低く1年中安定して使用可能であり(地温5度以上)、広範囲な土壌病害虫と雑草の防除まで可能とスペクトラムが広く、効果が確実である」ことが挙げられます。園芸農家では、床土・鉢用土への利用からビニールフィルムの普及に伴い、1973年頃から施設園芸栽培が急増し、臭化メチルは欠くことの出来ない薬剤となりました。
 一方、安全面などから蒸気土壌消毒技術も推進されましたが、臭化メチルや他の土壌消毒剤を凌駕する技術として定着はしませんでした。
 このような背景のもと、薫蒸技術の重要性と安全対策の一元化が求められて、昭和52年5月に(社)日本くん蒸技術協会が設立され、今般の臭化メチル代替農薬に係わる窓口として、土壌消毒薬剤製造メーカーから提出の効果・実用性等々を評価して農薬登録へと繋いでいます。[主要作物に対する土壌消毒剤の適用表(2003年)]

◆健全な土壌の維持に欠かせない土壌消毒

 3.土壌病害虫防除は何故必要なのか?
 今さらこと改めて問いなおすまでもなく、高品質な生鮮食品を安全で持続的に消費者に提供していくためには避けて通れない関門だからです。
 作物の根圏域環境には想像しえない微生物の社会があることはご存知の通りです。その土壌中の環境条件が、連作や栄養の片寄った土壌管理等々が長年積み重ねられることで、作物の根を侵す病原菌や害虫が巧みに繁殖し密度を高めます。そして、農作物の根を侵すと地上部が枯死しないまでも、健全な成育が妨げられ、高品質農作物にはなりません。
 茎葉に発生する病害虫の大変さは、おわかりの通りです。しかし、根部の病害虫はひとたび発生してからでは、適用のある防除薬剤が限定され効果の高いものではありません。例えばキュウリ立枯性疫病ではパンソイル乳剤を平方メートル/3リットル灌注し、地表を乾燥させ、最後には抜取り焼却処分となります。
 土壌環境の健全維持の観点からも、有害微生物の殺菌をし、堆肥など有機物を施して有益菌群たちの棲息密度をコントロールして、健全な土壌条件を維持していくうえに、土壌消毒は欠かすことができない必須要件です。
 4.新規薬剤の開発について、各メーカーが必死になって進めているところですが、2〜3年前からヨウド化合物で基礎研究から効果試験の段階にあるものに、ヨウ化メチル(別名ヨードメタン)があります。臭化メチルに似たところがあって、土壌伝染性ウィルス対策、木材くん蒸、くり果のクリシギゾウムシ防除に期待が寄せられております。
 5.薬剤による防除だけでなく、現在広く普及している太陽熱利用や蒸気消毒、最近研究が進められている熱水散布も注目されています。また、火を利用した焼土造成によるポット育苗用土や、微生物利用による拮抗菌、寄生かび利用の研究も一層推進していただきたい。もっとも基本的技術として輪作体系の実施可能な地域では、地域として取組むことや優良堆肥を多用して、土壌の健全化に努めることが大事でしょう。むずかしい対応には、総合防除という防除法がありますが、具体的な組合せデータを示す必要を痛感します。

◆連作による土壌病害対策に取り組む

 6.では、具体的に代替防除法の推進手段としての各県の指導指針ですが、臭化メチルを県防除基準から削除している県が大半です。群馬県では関係機関と作物毎に代替薬剤について、既往の研究結果を集めて検討した結果、代替薬剤で十分対応できることから、平成13年度の防除基準から削除しました。
 他方、臭化メチル不可欠用途として、次の5作物と5病害虫がもっとも重要な県で、代替薬剤のないもののみに使用が許されております。5作物・病害虫は、メロン=メロンえそ斑点病、スイカ=スイカ緑斑モザイク、ピーマン=ピーマンモザイク病、キュウリ=キュウリ緑斑モザイク、クリ=クリシギゾウムシとなっております。
 7.群馬県における臭化メチルの使用動向について、平成7年〜平成13年の間に50%の削減となっています。2001年防除基準より削除した年までの大まかな推移は表のとおりです。
 防除基準では33頁を割いて、現場での間違いのない指針策定をして、臭化メチル全廃に対応した体制を確立させています。その裏付けとして、群馬県下の主要園芸作物生産地での臭化メチルの使用実態調査133カ所から、臭化メチル使用量と代替技術の有無の中で、有68、開発中33、無2という結果を得ました。
 すでにあると答えたものの概要は、施設トマトの病害虫にバスアミド剤と太陽熱処理、接ぎ木栽培、ネマトリン処理。施設キュウリではバスアミド剤と太陽熱処理、クロールピクリン剤・D-D剤、ネマトリン処理。施設ナスではバスアミド剤、クロールピクリン剤・D-D剤、接ぎ木栽培、ネマトリン処理。小玉スイカではバスアミド剤、クロールピクリン剤・D-D剤、ネマトリン処理。夏季雨除けホウレンソウ立枯れ病にはバスアミド剤で、このほかにはイチゴ、ニラ、キャベツ、雨除けトマト、露地ナス、シクラメンに対して対処しております(白石専技談)。
 群馬県は、初冬〜春にかけての日照時間が全国1長く、この条件を利用した施設栽培が早くから農業経営に導入され、キュウリ、促成の小玉スイカは全国1位の生産県ですが、連作による土壌病害虫に悩まされています。
 最近では、キュウリのホモプシス根腐病が目立ち、ネコブセンチュウの被害も目立ってきています。このような現地の促成栽培後の圃場で臭化メチル代替薬剤試験(供試薬剤バスアミド微粒剤・キルパー液剤・ディトラペックス油剤・対象に臭化メチル)の効果を、抑制栽培で見た結果は次の通りです。
 ホモプシス根腐病は、ほとんど問題なく、散水むらから僅かな発病をみました。
 ネコブセンチュウの被害は抑えましたが、多発圃場ではD-Dやネマトリンエースなどの補完により対処可能とのことでした。
 小玉スイカ黒点根腐病には、キルパー液剤注入、クロルピクリン錠剤の15センチ埋設処理で実用性が高いとの結果です。
 ハウス内、特に高温時のホウレンソウ萎凋病では、灌水装置を活用したカーバム剤(キルパー液剤)のトンネル内散布を行うことで、安全面だけでなく防除効果も高く、園試圃場での試験では処理14日後に被覆除去し、1日放置後直接播種した結果では、臭化メチルと同等の効果を得ています。
 また、群馬といえば高原キャベツが有名ですが、これの土壌病害は、萎黄病から根こぶ病まであります。平成5年のパーティシリウム萎凋病の初発生から4年経過して急激に増加しました。根こぶ病の二の舞にしないと、農家はもとより村役場、農協および農業技術センター病害虫グループ、県高冷地野菜研究センター、専門技術員・現地普及センターが一丸となって、耐病性品種や輪作等を始めとしたあらゆる防除対策を強力に推進した結果、平成11年の約60ヘクタールをピークに、発生面積が下降傾向を辿るようになりました。
 また、大規模圃場に適応した安全・正確な土壌消毒機を、県高冷地野菜研究センターで開発をみました(白石専技・農技センター酒井主任データ)。

◆個々の農家がJAを経営の柱として

 ここで、紙幅をお借りし最近の社会現象に一言申し述べさせて頂きます。
 内外ともに厳しい社会情勢下にあって、マスコミや心ない一部消費者が、あたかも農薬が環境破壊や国民の健康に係わるかのような発言をされることがあります。火のないところに煙は立たずといわれます。何か忘れていることはないか、自己反省することも必要だと思います。
 昭和23年制定の農薬取締法の一部改正された法律と、省令をざっと駆け足で拝見しまして、ふと思い起こしたことがあります。昭和47年頃、植物防疫法に基づく農作物有害動植物防除実施要領に基づく都道府県・市町村の防除実施計画、同実施実績取りまとめは、病害虫防除員活動の一場面でした。
 現在要領が活きていたら、昨年のような不祥事は起こらなかったろうにと残念でなりません。農薬の使用にあたっては、改良普及員や病害虫防除員の指導を受けなかった者(法第12条の3)や使用方法を間違えば100万円以下の罰金、3年以下の懲役です。特に、農薬を購入する時、散布する時には、しっかり使用方法などの指導を受けて下さい。安全・安心な農産物を生産し、消費者の信頼を得るためにも、くれぐれも法律違反のないように心したい。ただ、指導を要請しても応じない者に罰則がないのかといったことを指摘しておきます。
 省令第5号の第1条の農薬使用者は、農業者や全国民を包括するものです。庭園には雑多な樹種、草花が混植されているが、これをどうするのか。例えば、キンチョールなどでアメリカシロヒトリを駆除したり、樹木・プランター植の野菜のアブラムシ、アオムシに使った場合は無登録農薬の使用にならないか。防除員・農薬管理指導士の資質向上で、世界に先駆けた安全農薬と安全使用に向けた「食の安全・安心」への国民・国家づくりを目指しては如何でしょうか。病害虫防除員の大多数は、JAの営農指導員です。今後は、農薬の安全使用と農家の庭先指導を通して、ますます大型・広域化する組織の潤滑役として、個々の農家がJAを経営の柱として、盛り上げていけるよう信頼を勝ち取る手段にされてはいかがでしょうか。 (2003.4.23)


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