農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:明日の農業に向けて農家を支援―新たなJA全農の農薬事業―

特許切れ農薬「ジェイエース」が登場

目に見える生産資材価格の引き下げへ

 輸入農産物の急増など農業をめぐる環境はいっそう厳しさを増しているなか、農業経営を維持していくためには生産資材コストの削減が「焦眉の急」となっている。JA全農では、「目に見える生産資材価格の引き下げ」の実現のために、購買機能の強化や配送拠点の整備など物流の合理化を進め、最大20%の生産資材コストの削減を目指している。ここでは農薬事業に焦点を当て、「ジェイエース」など生産資材コストの削減に貢献する各種農薬、およびこれを下支えし伸長する大型規格品の進捗状況と展望をJA全農肥料農薬部に、さらに現地の優良事例としてJA全農宮城県本部に、それぞれ取材した。
 農薬の低コスト重点品目は、園芸用殺虫剤、大型規格除草剤、MY-100混合水稲除草剤、低コスト箱剤と多岐にわたる。ここでは、「ジェイエース」、「ラウンドアップ」、「MY-100混合剤」、および「大型規格品」に絞り、その横顔を見ることにした。

◆ジェネリック第二弾ジェイエースの挑戦

 農薬の開発には、10数年の歳月と数10億円の経費がかかると言われている。開発農薬は、他のメーカーに無断で製造販売されないように特許制度で守られているが、この特許には有効期間があり、日本国内では原則として出願から20年で効力を失う。これら特許の切れた農薬については、安全性試験など登録に必要なデータを取り揃えて登録を取得すれば第三者が製造販売することが可能となる。
 これが特許切れ農薬(ジェネリック農薬)と呼ばれているもので、特許による独占に守られている農薬価格の引き下げを実現する有力な手段の一つとなっている。JA全農では、園芸用殺菌剤「マンゼブ」のジェネリック農薬として「ペンコゼブ」の開発を進め、平成6年に登録取得(農薬登録は、クミアイ化学工業(株)、三共(株)・現三共アグロ(株))、販売を開始し、その結果、先行剤に比べて15%の価格引き下げを実現している。
 JA全農では、大型園芸殺虫剤である「アセフェート」(既存商品名は「オルトラン」)を「ジェイエース」の商品名で開発を進めてきた。コスト低減の中で、ジェネリック農薬を開発することにより、新規剤開発でかかっている経費の一部をコスト低減に反映させていくのが開発の狙い。JA全農にとって、ジェネリック農薬の第二弾。
 粒剤は平成14年10月30日、水溶剤は同年12月20日に農薬登録を取得し、今年3月中旬から販売を開始した。本剤は、JA全農が農薬登録を取得し、製造するだけでなく、販売メーカーを起用しないでJAグループ自らが普及・販売するという、開発および流通上今までに前例のない農薬として登場した。
 発売開始から2カ月を経た現在、「出荷の開始が遅れたわりには、まずまず順調な滑り出しをみせている」(JA全農肥料農薬部)という。
 現在のところ、「予想以上に1キロ剤の規格が多く出荷されている」(同)。ホームセンターなどへの対応が反映されたものとみられ、JAグリーンを含めた農協店舗での荷動きが顕著のようだ。全農としては、平成17年度にはアセフェート剤に占める「ジェイエース」のシェアを30%程度まであげたいと考えている。
 なお、「ジェイエース」については、『ジェイエースほのぼの漫遊の旅キャンペーン』(期間:4月〜8月)が実施されている。にっぽんの名宿「とっておきの旅」が、毎月ペアで10組、合計50組に1泊2日の宿泊券がプレゼントされる。
 4月には、1200件を超える応募があったとのことで、こちらも順調なスタートをきったようである。

◆「直接購買」の成果でラウンドアップが躍進

 原体メーカーとの直接取引の大きな成功例は、除草剤の「ラウンドアップ」にみられる。本剤ほど歴史的に唯一無二な農薬はみられない、と言えよう。国内で販売している製剤メーカーを通さず、米国モンサント社から直接購入することにより、基準価格ベースで20%もの価格引き下げに成功した。JAグループの購買力の結束により、取引開始後もいっそうの価格低減を達成している。
 ラウンドアップについてここ7〜8年のJA全農シェアの推移をみると、直接購買の開始前には38%程度であったシェアが、現在では45%程度まで上昇してきている。
 JA全農実績における平成14年と平成11年(カッコ内)の規格別構成比をみると、基準規格である500ミリリットル規格は24%(70%)まで下がる一方で、2リットル、5リットルの大型規格は67%(30%)と、明らかに大型規格の構成比が急激に高まっている。

◆次世代のヒエ剤を共同開発画期的なMY―100除草剤

 JA全農は、安全で効果が高く、しかも安価な農薬を農家に供給するために、新剤の共同開発・導入を積極的に進めているが、JA全農が初めて自ら農薬登録を取得し、急先鋒となったのがこの「MY―100」。
 本剤は、ヒエに卓効を示し、効果の持続期間が長く、さらにイネへの安全性にも優れている。平成11年から新農薬普及性評価試験、防除合理化圃場試験などを実施し、平成13年より市場投入された。
 これまでの実績の推移をみると、初年度の平成13年=12万ha、平成14年=24万5000haと着実に実績を伸ばしている。平成15年4月末の実績は27万5000haとなっている。

◆大型規格品の中心は茎葉処理型の除草剤

 農業生産の低コスト化に貢献しているのが、急激に伸長している大型規格品。農業生産法人、大規模生産農家など担い手農家対策にも一役かっている。
 平成14年の大型規格品をみると、「ラウンドアップハイロード」、「バスタ」、「プリグロックスL」、「サンダーボルト」(以上、非選択性茎葉処理除草剤)、「ゴーゴーサン細粒剤」、「ゴーゴーサン乳剤」(以上、畑作用除草剤)、「トレディ顆粒」(水稲除草剤)、「Dr.オリゼプリンス粒剤6」(水稲殺虫殺菌箱処理剤)、「トマトトーン」(植物成長調整剤)があげられている。大型規格品は、茎葉処理型の除草剤が中心となっている。

◆アイテムを増す大型規格品担い手農家対策にも一役

 大型規格品は、「ラウンドアップ」が先行した。平成9年3月に2リットルボトルを発売し、翌年の平成10年には5リットルボトルが加わった。これに、園芸・畑作除草剤の「バスタ」、「プリグロックスL」、「ゴーゴーサン」、さらに水稲用除草剤の「トレディ顆粒」が追加され、よりワイドになった。

◆大型規格で先行するラウンドアップ

 「ラウンドアップ」は、基準規格の価格の値下げもさることながら、大型規格を増やすことによって、実質的に農家購入価格を下げている。
 直接購買開始以降、基準価格の建値では42%下がっているが、大型規格の割安感をカウントするとほぼ半値になっている。大型規格の比率を増やすほど割安になる訳だ。
 平成15年で特筆すべきことは、この「ラウンドアップ」で5.5リットル規格を発売したことだ。5リットル1本に対して500ミリリットル1本をセットにする規格で、5リットルと同じ価格で購入できる。JAだけの限定商品であり、かつ数量も限定した。平成15年4月末のJA全農の「ラウンドアップハイロード」の出荷実績は、対前年同期比で130%と好調に推移している。「5.5リットル規格を出すことによって、一気に5リットル規格の構成比が上がった」(JA全農肥料農薬部)という。

◆急伸するバスタ期待のトレディ

 平成13年2月より販売されている「バスタ」の2.2リットル規格は、系統独自の規格。4月末で対前年同期比210%と十分な伸長を見せている。
 この結果、JA全農の出荷ベースで、「バスタ」の大型規格の比率は23%から41%に拡大した。
 JA全農の実績における、大型規格の比率が非常に拡大しているが、これは大型規格の価格差(基準C価ベース)が平成14年の9%から平成15年には15%に拡大したもので、これにより「バスタ」にも割安感がでてきた。
 「プリグロックスL」の大型規格は5リットル。4月末の対前年同期比では250%となっているが、「JA全農の実績における大型規格の比率は現在14%となっており、まだまだ小さい数字だ。これは、プリグロの大型規格の価格差が10%に据え置きになっているためもある」(同)という。
 「トレディ」の動きも顕著だ。「トレディプラス」は、抵抗性雑草対策として、茨城、愛知などを中心に出荷された。「ゴーゴーサン」については、今後、知名度・認知度をいっそう高め、市場の掘り起こしをはかっていく模様だ。
 各剤とも、大型規格品として、大きな期待が寄せられている。

◆低コスト・省力化に加え農家直送で担い手対応

 大型規格品は、低コスト・省力化に大きく貢献しているが、一方で着実に農業生産法人、大規模生産農家に貢献し、現在その地歩を固めつつある。
 例えば、「ラウンドアップ」の20リットルが順調に伸びてきている。これは、JA経由で農家への直送も実施しているためだ。「物流の面で、農家直送もいいですよということで、担い手、生産法人へ、物流面で直送出来る物流改革のメリットは大きい」(同)という。これまで見てきたように、低コスト農薬および大型規格品は、大きく低コスト・省力化に貢献している。
 ホームセンターや農業資材店を通じた農薬の流通金額は国内需要の約6%と言われ、営農指導・配送業務などのサービスを排除した手法に対して、JAグループの確かな手法の構築が待たれている。
(2003.5.29)


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