農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:地域水田農業ビジョンづくりと米事業改革−1

現地ルポ 生産者・JAの知恵で描く「米改革」の道すじ
集落ごとにビジョン作る 担い手のリストアップ先行
JAいわて花巻(岩手県)

 岩手県は「地域水田農業ビジョン」だけでなく、集落単位のビジョンもつくる運動を展開している。JAいわて花巻は行政と一体で農業振興協議会を設け、集落ごとの組合員座談会で現状と将来を話し合っている。その中で7月末までに担い手をリストアップする。ビジョンに書き込む項目は数多いが、まず担い手の明確化を先行させる。全国に先駆けて1年前倒しの形でビジョンを策定するため協議会の下に設置された対策室は綿密な準備を整えながら推進を図っている。

◆草の根方式打ち出す

JA岩手花巻地図

 市町村域を基本に「地域水田農業ビジョン」を作るのが国の方針だが、岩手県はもっときめ細かく、これを集落ごとに策定するという全国でも珍しい“草の根”方式を打ち出した。
 JAいわて花巻は6月16日から「集落水田農業ビジョン」を策定するための集落座談会を始めた。集落にはそれぞれ農家組合があり、組合ごとの座談会といってもよい。その数115。
 とにかくJAの全組合員を対象に座談会ではまず「米政策改革大綱」を4ポイントに要約して説明。また水田農業の構造改革が進んでいない地域実態などを統計データで報告している。
 このままでは高齢化が進み、担い手が減っていく集落の現状を認識してもらい、ビジョンづくりを通して積極的にこれからの米づくりや水田農業の活性化を考えていこうという運動だ。
 単なる計画書策定ではなく、ビジョンを実行し、毎年検証していくことも訴えている。
 6月末に座談会を終了。7月末にはビジョンの各項目のうち担い手をリストアップする。大綱が強調する担い手の明確化を優先させるスケジュールだ。
 8月からはビジョンの骨子案を基に話し合いの輪を広げ、農水省の概算要求などをにらみながら肉付けをし、合意を形成していく。9月と来年2月にはまた集落座談会で全員の意見を聞き、こうして3月末に全集落のビジョン策定を完了する予定だ。

◆農政批判も飛び出す

 国が大綱の後に公表した要綱案によると、地域ビジョンの素案は15年度に「準備することが望ましい」となっているが、岩手では地域ビジョンと集落ビジョンをもろともに年度内に策定してしまう方針だ。
 岩手県は今年1月に「県水田農業改革大綱」を策定した。全国的には8月下旬の概算要求を見てから、という県が多い中で岩手の対応は実に素早い。
 増田寛也知事の姿勢が積極的だということもあるが、県農林水産部農産園芸課では「県の農業粗生産額は昭和60年に3600億円。それが平成13年には2800億円となり、その落ち込みの8割を米が占めているため水田農業の生産性を高めることが急務となっている」(水田農業推進主査)という。
 そうした危機感とともに「地域振興作物などを集落で話し合うには1回や2回では不十分。半年くらいかけて、地についたビジョンを作ろうというわけでスタートを早めた」(同)とのことだ。そして県が主導する水田農業改革運動の中で集落ビジョン策定が進んでいる。
 JAいわて花巻は集落座談会に先立って集落、つまり農家組合の代表者を対象に大綱の説明会を5月に11支店単位で開いた。
 そこでは「国の大綱は輸入米に一切触れていない」「担い手経営安定対策の対象は4ヘクタール(都府県)というハードルは高い」「大綱は制度面で農業者に厳しいではないか」「大綱は農家が希望したものではない」などの農政批判や異論が飛び出した。

◆行政と一体の体制で

大和章利 農業構造改革推進対策室長
大和章利 農業構造改革推進対策室長

 「担い手経営安定対策の補てん8割の他に農済の共済金がもらえるのか」「ビジョンに参加しない者が出てくるのではないか」「売れる米の生産量は増やせるのか」などの質問も続出。
 しかし問題の過剰米処理対策ではほとんど質問がなかった。農水省のパンフには短期融資限度額などの数字が一切ないため「わけがわからないから結局、質問できなかったようだ。具体的な想定がつけば質問も増えると思う」と同JA営農推進部の大和章利次長は苦笑いする。
 「農政批判の声は今後、国に伝えるとして、とにかく改正食糧法に対応し、大綱を農家サイドの内容へと肉付けできないものか」などの意見も出た。
 一方、改革運動の推進主体となる花巻地方農業振興協議会が4月3日に発足した。会長はJAの藤原徹組合長。副会長は管内1市3町の首長と県地方振興局長の5人。その下に幹事会と農業構造改革推進対策室を置いた。室長は大和氏でスタッフはJAと市町の職員計5人。
 協議会には集落営農推進などの5部会があり、集落営農が改革路線の中に位置づけられた。
 国は地域ビジョンの画一化を避けるため記載様式を示さず、自由な発想に任せるとしたが、集落段階ではやはり見本が必要として対策室は様式を作った。
 それによると、担い手は個別経営と組織経営の2つに大別してリストアップする。大規模家族経営体と、集落型経営体・農業生産法人に分ける様式だ。

◆農家組合の類型化も

 国は20ヘクタール以上の集落型経営体を担い手経営安定対策の対象にするとしたが、花巻では、そんな要件にこだわらず、現実に集落にいる担い手を書き込む。
 各生産組合にしても、経理の一元化や法人化に挑戦する意欲があれば組織経営の欄に記入。今後、その組合に対してはJAが研修会を開くなどして支援し育成していく方針だ。
 上部で担い手を認定すると、その人に助成金がきた場合など“なぜ、あの人のところへ?”といった異議が出たりする。このため担い手はあくまで集落の話合いで認知することとした。
 またビジョンを実現するための農家組合組織をどうするかを話し合って計画を立てる。
 そのために対策室は農家組合を4タイプに類型化。(1)全戸が兼業農家(全戸出役・共同経営)(2)そのうちオペレーターが特定できる(3)何人かの担い手組織がある(4)大規模個別経営がある─と分けた。そして(1)と(2)は集落型経営体から法人化へと進み、(3)と(4)は大規模家族経営体に進んでいくというイメージを例示した。集落ビジョンは農家組合ビジョンと呼んでもよい。

◆売れる米作りとは?

 農家組合は最小が10戸、最大が250戸で差が大きく、複数の集落にまたがる組合もある。
 花巻ではこれを、JAグループの「米戦略」でいう水田営農実践組合と位置づけている。農家組合には正副組合長の下に営農部と生活部がある。その体制でビジョン策定チームをつくって立案し、座談会にかける。
 売れる米づくりについてはJAで戦略を示し、8月以降に農家組合でビジョンに書き込む。
 花巻の米生産は、ひとめぼれが9割だ。コシヒカリに混ぜる業者が多かったため産地表示の厳格化で銘柄として一本立ちを余儀なくされ、13年産は多くの在庫を抱えた。これをバネに減農薬栽培を広げ、現在は作付面積の95%を占める。こうして人気が上昇。14年産は値段が手ごろとあって業務用にバカ売れの状況だ。
 生産調整はずっと目標達成を続け、麦、大豆の本作化も進んでおり、ヒエ・アワ・キビ・ソバなど雑穀づくりも増えた。
 しかし麦には連作障害が出てきてブロックローテーションが課題になる。また助成金頼みの対応ではない恒常的な作付も求められている。集落ビジョン策定ではこうした幾多の課題に挑む中長期計画をどうまとめていくか注目される。

 JAいわて花巻
 ☆正組合員戸数1万370☆販売高135億8600万円(14年度)☆内訳は▽米80億4600万円▽米以外の農産物32億9100万円▽畜産物22億4800万円。

(2003.6.25)

 


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