農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:地域水田農業ビジョンづくりと米事業改革−1

現地ルポ 生産者・JAの知恵で描く「米改革」の道すじ
レディメードからオーダーメイドの農業へ 
JA筑前あさくら
(福岡県)

 米政策改革の議論の過程で浮上したのが「売れる米づくり」だ。地域水田農業ビジョンを策定するうえで、生産者もJAもこの考え方を避けては通れない。では、「売れる米づくり」とは何か、そして何に取り組めばよいのか。福岡県のJA筑前あさくらではすでに6年前からこの課題を受け止め、今後も米づくりを続けられる体制づくりをめざしてきた。キーワードは「レディメイドからオーダーメイドの農業へ」だ。現地で課題を探った。

◆麦・大豆生産で水田農業を確立

行武美徳 農産部ライス事業課課長
行武美徳 農産部ライス事業課課長

 JA筑前あさくらは、平成6年に1市4町2村の7JA(甘木市、杷木市、朝倉町、大三輪、夜須、小石原村、宝珠山村)が合併して誕生した。福岡県のほぼ中央が同JAの管内で、米、麦、大豆のほか野菜、果樹生産も盛んな地域だ。
 米、麦、大豆を合わせた販売高は、14年度で約46億円。農産物販売高140億のうちほぼ3分の1を占めている。
 作付け面積(14年度)は米3230ヘクタール、麦(大麦・小麦)3100ヘクタール、大豆1250ヘクタール。麦、大豆づくりにも力を入れている。
 同JAが行政とともに具体的な地域水田農業ビジョンづくりの検討に入るのは今月末からだが、農産部ライス事業課の行武美徳課長は、基本的な考え方は「売れてはじめて生産できる」という意識への転換だと話す。
 すでに同JAでは「売れるものを作る」という考え方に立った事業方式には平成8年ごろから取り組んできた。
 きっかけは生産調整面積の拡大にともなう大豆の増産。生産量が増えてもJAとして売り切れるかどうかが課題となった。そこで営農担当だった当時の小西友喜副組合長は、実需者がどういう大豆なら仕入れるのかを熱心に聞いて回ったという。その結果、品質の均一化がもっとも求められていることが分かり、JAは大豆の共同乾燥調製施設を3つ設置して集荷する体制を整えた。現在では大豆生産量の100%がこの施設に出荷されるようになり実需者の評価も得た。
 「買ってくれる人が何を求めているのかを知り、その要望を満足させることが大事」というのが当時から強調された。

◆JAとして実需者への営業を重視

JA筑前あさくら本所

 同様に米でも平成8年から卸業者との「サイロ1本」単位の契約をめざして役員がトップセールスを行い、一方でカントリーエレベーターで卸が要求する品質の米に仕上げ、サイロを区分けして管理する体制をとった。
 地域で生産されている品種は、「ヒノヒカリ」と「夢つくし」の2品種。6基のカントリーエレベーターと3か所のライスセンターでの集荷は集荷率93%を誇る。販売量は例年約19万俵(60kg)になるという。
 これらの施設に集荷された米の乾燥調製などの基準を卸業者と協議、水分(14.6%〜15.0%)、ふるい目(1.85mm以上)、整粒歩合などの規格を決めて、「商品」として仕上げる。米の出来は年によって異なるため出来秋に卸業者などと具体的な規格について話し合うようにしている。
 現在、サイロ単位の契約は7〜8卸業者と行われており、このうちには福岡県の生協・エフコープとの契約栽培も含まれている。
 「農産物はあくまで組合員から預かったもの。米の価格は入札で決まる制度だが、ただ、JAとしてはまず業者に“札”を入れてもらうよう品質向上など努力をしなければならないと思う」と行武課長は話す。

◆生産段階での品質向上が今後の課題

JA筑前あさくら地図

 現在のサイロ単位での販売について、行武課長は「玄米として仕上げる段階で相手の要望に合わせるという、いわばイージーオーダーのようなもの」と話し、「今後は、生産段階からニーズに応えた本当のオーダーメイドの米づくりが求められる」と課題をあげる。
 こうした課題を掲げる背景には、ヒノヒカリの売れ行きがここに来て芳しくないという状況もある。14年産の福岡県全体のヒノヒカリの販売状況は、4月末現在で前年比77%となっている。
 「今までどおりでは他産地に勝てない。JAとして特徴を出すことが大事」。
 JAとして生産者に取り組みを進めているのが、減農薬・減化学肥料栽培だ。いわゆる「減・減」栽培への取り組みは生協との契約栽培で18ヘクタールで夢つくしが栽培されるようになった。
 また、減化学肥料栽培は40ヘクタールまで広がってきた。いずれも通常の使用量の半分に抑えた栽培だ。今後は福岡県の減農薬・減化学肥料栽培基準の認証取得も目標としている。
 もちろん一方で、生産履歴記帳と農薬の使用基準遵守を生産者に徹底させることも今年度からの大きな課題だ。生産履歴の記帳については日誌を配布するほか、栽培暦に基づいた生産によって農薬の使用基準を守るよう指導する。
 「食の安全に対する考え方を前進させる必要がある。カントリーエレベーターの運営委員会やそのほか生産者との会合で繰り返し強調していく」。

◆売り方変えて「売れるコメづくり」へ

 一方、JAは6つのカントリーエレベーターすべてに色彩選別機を導入しさらに品質管理体制を強化した。
 また、ヒノヒカリの販売戦略の練り直しも検討課題だという。行武課長は「ヒノヒカリの特徴をよく考えたPRも必要だ」という。
 米の味としては、十分においしさはあるものの、東北などに銘柄にくらべて粘りは少ないとされる。
 しかし、粘りが少なくさらっとしているという特徴をいかせる分野もあるはずだと行武課長は話す。
 たとえば、機械を使ったおにぎりや握り寿司の製造。粘りがない米のほうが容器に米粒が張り付くことなくスムーズに製品が作れるというのが業界の見方だという。
 今回の米改革では、家庭用だけではなく業務用、加工用、新規用途など向けの米づくりを通じて売れる米づくりを実現しようと叫ばれているが、一口に外食産業など業務用と捉えず、さらにきめ細かく、それぞれの「業態」の特徴を把握すれば「生き残る道はある」(行武課長)ということだろう。
 「売り方を変えることも、売れる米づくりにつながることだと思います」。
 JAのマーケティング強化も課題となる。

◆売れ残さない米づくりを

 米づくりに携わる生産者は約6000人。高齢化が進み生産者の減少は避けられないが、将来像として担い手に農地利用が集積する方向か、それとも集落型経営体の育成に進むのか、まだ地域で結論が出ているところはほとんどない。
 というのも現在の価格水準では経営的に成り立つのかという不安があるからだ。今後、経営安定対策が本格的に議論されるが、行武課長は「直接所得保障策が導入されなければ担い手は育成されない」と厳しくみる。
 その一方、生産者に対してはこれまで以上に市場情報を伝え、生産者も販売動向を厳しく見る必要があるとする。
 「自分たちの作った米がどう評価されているかを知ることが大切。リピートが毎年あれば、それはこの地域で米づくりを続けていけるということ。今後は、在庫があれば翌年の生産量に影響するわけで、産地としてはいかに売れ残さない米づくりをするかにかかっている」と強調している。 

(2003.6.25)

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