農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:安全・安心で環境にやさしい畜産事業を
    ――JA全農畜産事業15年度の取組み年

独自のトレーサビリティシステム普及へ
販の強化着々と1.5次加工に力
畜産販売部 狩谷哲夫部長
 全国に生産地を持ち、また飼料工場から畜産物加工まで一貫して手がけるJAグループの強みは大きい。系統は消費者や取引先の多様なニーズに応えていく力を十分に持っている、と確信を語った。そして『もっと近くに』を強調して▽直販事業の強化▽1.5次加工食材の供給拡大▽全農独自のトレーサビリティシステム普及などに取り組んでいく意気込みを示した。

◆国産回帰で取扱拡大


狩谷哲夫部長
狩谷哲夫部長
 ―JA全農の畜産事業は前年度の取扱高が1兆4093億円で計画比105と好調でした。販売環境はいかがでしたか。

 「BSE(牛海綿状脳症)発生で落ち込んだ牛肉消費が回復過程で国産志向を強めました。国が全頭検査や在庫品の隔離を実施したため、輸入品よりは安全だ、とされました」
 「その後、偽装表示問題もあり、取引先からは産地指定が増え、このため1頭丸ごとを売買するフルセットの取引が拡大しました」

 ―なぜですか。

 「前置きの説明をしますと、牛肉にはロースとかヒレとかの部位がいろいろあり、小売店さんなどが売れ筋の部位だけを買い付けると、需要の少ない、つまり不需要部位が余ってくる。そのアンバランスが従来から問題となっていました」
 「ところが産地指定の場合、どこどこの県産のロースだけが欲しいと注文されても品物がそろわないため私どもは、商品の確保がすすめやすいとお願いしてきました。

 ―豚肉のほうはどうですか。

◆企画提案を積極的に

 「牛と同じようにセット取引を進めています」

 ―全農にはハイコープSPF豚「ぴゅあ」という特徴商品がありますが。

 「特定の病原菌を持たない清浄豚といいますが、これも伸びています。だんだん、そういう豚肉のシェアが高まっています」

 ―鶏卵はどうですか。

 「昨年の卵価は堅調でしたし、それに普通の卵とは違う特徴卵が非常に伸びて取扱高を増やしました。全農ブランドには「しんたまご」や「QC卵」などがありますが、量販店にはプライベートブランド(PB)商品をそれぞれ提供しています。餌を変えたりして、各社独自の商品をつくる企画提案に力を入れました一般卵は値下がりしていますが、今後も特徴卵事業は強化していきます」

 ―農畜産物の履歴を追跡できるトレーサビリティシステムには経費がかかりますが、消費者は、安全な食品なら多少高くても買うといいます。安全・安心と価格の関係をどうみますか。

 「景気が悪い中で、枝肉市場でも安いほうの品物に引き合いが強い。消費者はやはり『安くて良いもの』を求めていると思います。『高くても買う』という言葉には『多少は』という前置きがつきますからね」

◆安心システムに信頼

 ―『全農安心システム』商品の評価はどうですか。

 「例えば、北海道の宗谷岬肉牛牧場が、全農安心システムで生産した牛肉は大阪のいずみ市民生協に供給されていますが、BSEが発生した時も、一般の牛肉より需要の落ち込みが小さいという結果が出ました」
 「私は当時、大阪の全農近畿畜産センターにいましたから全農安心システムへの信頼感を実感しました。宗谷でいえば、自家繁殖を中心に、餌や飼い方から、どこで加工してといったことまでがすべて明らかですし、また、それが第三者に認証されています。生協の組合員にもつぶさに現地を見てもらいました」

 ―全農安心システムを含めてトレーサビリティシステム確立に向けた今後の課題はどうでしょうか。

 「6月4日に牛肉トレーサビリティ法が通りましたね。これは10ケタ番号で個体管理をし、個体管理が難しい包装肉は最大50頭のロットでトレースしなさいとなっているので、加工場で牛肉をパックする時などは管理に少し工夫が必要となると思います。」
 「全農としては、生産情報まで関与できるシステムを、すでに確立していて現在8県連・県本部が導入しています」
 「これは全農安心システムを基本に、いわば生産者の顔写真も表示できる仕組みです。昨年11月の鹿児島県経済連をトップに導入が進み、現在24県ほどの導入を目指しています」

◆売場の変化注視して

 ―ところで、市場流通以外に量販店や生協との直接取引は進んでいますか。

 「今年度からの3か年計画にも直販事業の強化を掲げて積極的に取り組んでいます。Aコープ店舗や外食産業向けを直販のシェアに含めるかどうか数字の取り方は別として、おおむね食肉では現在30%弱が直販です。豚肉が33%弱、牛肉が26%弱などです」
 「自ら量販店などの売場を確保していくためには今後もさらに直販に力を入れていきたいと思います」

 ―そのためには食肉ならカットやパックといった加工事業も大事ですね。

 「直販を伸ばすためにはお客のニーズを的確に早めにとらえて対応することです。そこで1つは商品力、もうつが加工ですね。パック肉は全国7工場で月間600トン(製品ベース)を製造しています」

 ―商品開発はどうですか。

 「近年は味付け(調味)、トンカツ用の衣つけ、串差しなどの肉や、また鍋容器に野菜と肉を盛り合わせたキットなど1.5次加工の食材を出しています」
 「スーパーの新規店は食品売場の正面に加工食材を含めた惣菜売場を設けたりして、しかも、そのスペースが広がる傾向です。素材の生肉コーナーは加工食材に押され気味です。この動向に対応しないと売場確保につながりません」

◆産地と取引先結んで

 ―全農の合言葉は『もっと近くに』ですから、商品開発でも消費者、量販店、生協などに、もっと近寄っていく必要があります。

 「全農の加工食材はまだ取扱量が少ないので、もっと伸ばしていくことが、売場の確保と直販の拡大につながっていくと思います」
 「私どもは全国の産地につながっているのですから、お客のニーズにあった品ぞろえができます。それから例えば遺伝子組み換えをしていない飼料で育てた肉や卵を欲しいと注文されれば全農は飼料生産もしているのですから、それにも応えられます。JAグループが持っている大きな強みをさらに生かすべきですね」

 ―系統が持つ加工能力も大きいですね。

 「全農関連会社では全農ミート(株)が食肉加工品、また全農鶏卵(株)は例えば温泉卵を扱っています。その商品は多種多様ですから、全国4つの畜産センターと中央鶏卵センターでは、単品ではなくそれらを肉や卵といっしょに販売していく手法が必要です」

◆地産地消で直販拡大

 ―食肉や卵の地産地消についてはいかがですか。

 「各地域ごとに中堅スーパーや生協や外食産業などがあるわけですから、各JAがもっと地産地消つまり直販を拡大すれば、全国的な販売力強化、ボリュームアップにつながると思います。マーケットが小さくて消化できない分は私どもが引き受け、大消費地で販売していきます」

 ―全農は品質管理に力を入れておりますね。

 「昨年1月、畜産販売部内に、6月には5センターと関連会社に品質管理室を設け、国際的な品質保証規格であるISOに準じた各種の手順書を作り、職員に徹底をはかっています」
 「ISO9000シリーズは八千代(千葉)、神奈川、鳴尾浜(兵庫)の液卵工場で昨年、取得し、中央鶏卵センターでは事務所全体で取得しました」
 「今は鳥栖(佐賀)の食肉パック工場が、ISOとHACCPとを合体した国際規格であるSQFの取得に向けて取り組んでいます」

 ―最後に、牛肉関税の緊急措置発動に関連して、国産食肉の価格競争力についてはどうですか。

 「価格では輸入品に対抗できません。このため輸入品のシェアは牛肉で60%以上、豚肉で50%強となっています。しかし国産はどこで、どうつくられたかが見え、情報開示がどんどん進んでいます。やはり安全・安心という有利な面を最大限に発揮して販売していくことです」
(2003.7.22)

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