農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:安全・安心で環境にやさしい畜産事業を
    ――JA全農畜産事業15年度の取組み年

販売価格是正に曙光 生乳不足対策整える
「メグ」ブランド定着 液状乳製品の販売拡大
酪農部 松尾要治部長
 酪農家が小規模層を中心に減り続ける中で、乳製品は乱売されないのに、なぜ牛乳だけが目玉商品扱いされるのかと生産者団体や乳業メーカーは販売環境の是正を訴え続けてきた。松尾部長は、その成果がやっと出てきたと見る。今年の生乳生産は都府県で減る見込みだ。全農は北海道からの移出対策を整えている。一方、メグミルクブランドは「定着した」と語った。

◆価格はやや上昇気味

 ─牛乳は量販店などで特売の目玉商品にされていますが、販売価格を是正していく取り組み状況はいかがですか。

松尾要治部長
松尾要治部長
 「牛乳は『水より安い』と象徴的にいわれるように値引き販売は、古くからの問題ですが、酪農・乳業にとって牛乳は主力商品であり、また海外との競合があまりない商品ですから、適正価格の実現は非常に重要な課題です」
 「この問題については、長年、業界で取り組んでこられましたが、なかなか実効が上がらなかった経過があります。しかし最近の牛乳価格の統計を見ますと、やや上がり気味の数字が出てきています」
 「このことは、昨年来の乳業メーカーを中心にした価格是正への取り組みの成果だと考えられます」
 「また、ブランド牛乳がテレビコマーシャルされ、比較的高い価格で、多くの量が購入されるという今までにない動きも出てきています」

◆交渉力の強化に協力

 ─県単位だった指定生乳生産者団体が8ブロックに再編され、ホクレンを含めて9団体となりました。その広域的な体制では2年目となる今年の乳価交渉はいかがですか。

 「乳価交渉には、全体的な乳価水準をどうするかということと、個別取引ごと地域ごとの事情を反映した価格をどうするかという面があります」
 「広域化された指定団体は、乳価交渉の強化が求められる機能の1つですが、特に個別取引ごと・地域ごとの事情を反映した適正乳価の実現について精力的に取り組まれ、成果を挙げられている指定団体もあるようです」
 「さらに適正乳価の実現に向けた乳価交渉力の強化のためには、生乳の需給調整の強化が重要なことであり、全農としても全面的に協力してまいりたいと思っております」

 ─牛乳の消費は伸びているのに、酪農家は減少しているという推移の中で、今年は都府県で生乳が不足するとのことですが、生乳の需給見通しはどうでしょうか。

 「生乳の需給は、都府県の生乳生産が前年に比べて2〜3%減少し、飲用向け需要が前年並みという前提に立てば生乳が不足する見通しです。需要が前年並みということに確信はありませんが、生産減はほぼ確実であり、不足を前提に対策を立てておく必要はあります」

◆液状乳製品が伸びる

 「9月を中心とした需要期の生乳不足対策については、全農はホクレンの協力の下、北海道からの生乳移出を前年より増やすため道内の乳業への協力を要請して、出荷能力・輸送能力を増強しております。生乳は在庫できませんから、絶対大丈夫とはいえませんが、昨年よりは十分な体制をとっております」

 ─ 一時はバターの過剰在庫が問題でしたが、これは好転しました。昨年からは脱脂粉乳の在庫が急増したとのことですが…。

 「脱脂粉乳の過剰在庫問題は、主に加工乳の著しい消費減退によって発生したものですが、業界をあげて脱脂粉乳を使った加工乳・乳飲料などの開発に取り組まれていることと、国の対策の活用により徐々に解消への実効が上がってくるものと考えています」

 ─全農の畜産事業は平成14年度の取扱高が計画比105%と好調でした。その中で酪農部門の実績はいかがでしたか。

 「取扱実績は約2300億円で計画比104%、前年比では106%と比較的好調でした。特に生乳の需要増に対応し、その取扱高が伸びました。また殺菌乳や生クリームなど液状乳製品の取り扱いが拡大できました」

◆メグミルクの認知度

 ─では、15年度事業計画の進捗状況はどうですか。

 「6月末の取扱実績は、ほぼ事業計画どおりの進度となっています」
 「重点実施事項である『余乳処理施設の確保による需給調整機能の強化』につきましては、現在、東日本地区の余乳処理体制について検討していまして、早急に方向付けをして必要な投資などを実施していきたいと考えています」
 「また『フレッシュな液状乳製品の販売拡大』にはここ数年重点的に取り組んでいますが、、殺菌乳についてはユーザーと安定的な取引手法を検討し、生クリーム・脱脂濃縮乳については物流など、きめ細かなユーザー対応をして取り扱い拡大をはかっていきます」

 ─全国農協直販、雪印乳業の市乳部門、ジャパンミルクネットの3社が市乳統合会社『日本ミルクコミュニティ(株)』を発足させましたが、『メグミルク』という新しいブランドの認知度は広がっているようです。しかし乳飲料やヨーグルトは不振とのことですが、どうですか。

 「日本ミルクコミュニティは本年1月にスタートし、まずメグミルクブランドの定着化を最重点に取り組んでいますが、消費者の皆様の『認知度』『好感度』も高く、その目的を果たしたと考えています」

◆拡販へ新商品を投入

 「ただ、広告宣伝などをメグミルク牛乳に集中したこと、設立当初の物流などの混乱から十分に営業活動ができなかったことなどにより、ご指摘のように牛乳以外の商品の売れ行きが今1つです」
 「したがって会社では現在、6月に発売した『メグミルクヨーグルト』など新商品を投入するなどして販売拡大に全力を挙げて取り組んでいるところです」

◆牛乳の価値を再認識

 ─今年も7月11日に開いた『全農酪農経営体験発表会』で安全な生乳生産のための牧草づくりとか牛の健康管理とか生産者の様々な努力が発表されましたが、そうした価値がもっと評価されるべきですね。

 「そうです。今年の発表会には酪農関係者だけでなく、食の安全・安心を考える生活者の皆様にも参加していただきたいと呼びかけて開催しました。畜産担当の大野健三常務が閉会あいさつで述べたように、牛乳の価値を改めて理解していただけたと思います」

 ─とにかく料理研究家の小林カツ代さんの講演にもあったように牛乳は栄養学的に優れた貴重な食品ですから安定的な販売が求められます。

 「タンパク質、ミネラル、ビタミンなどの栄養素をバランス良く含み、特にカルシウムは他の食品に比べて含有量が多く、吸収率も高いことが知られています」

 ─ところで酪農事業の場合、全農と経済連との統合効果はどのように高められているのでしようか。

 「酪農事業の場合、生産対応は県本部、販売は全国本部という機能分担を基本に進めています」
 「県本部は酪農家の指導・生産支援対応を行っています。全国本部は生乳・乳製品の販売・需給調整を行い、酪農家・JAに対して果たしてきた機能は維持・充実し、県本部と全国本部の一体的事業運営を目指して、事業収支の確立をはかります」
 「ただ、生乳の取り扱いでは指定団体制度があること、地域ごとに酪農組織の実態が異なることから全農だけで決められないという問題があります。したがって指定団体も含めて、どう効率的な組織体制にすべきか、地域実態を踏まえて地域ごとに検討を始めつつあります」 
(2003.7.22)

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