JA上伊那の地域水田農業ビジョンづくりは、まず収益性のある果実、野菜、畜産の生産をどこまで拡大できるかを基本に今、品目別の試算を積み上げている。次いでコメを従来の実績以上に販売していく戦略を価格帯もにらみながら練り上げる運びだ。収益性品目とコメの作付面積を優先的にはじき出した後に残る水田で麦・大豆・そばの3品目を作る。この3品目は今の価格では生産費を償えないため地域とも補償で農家所得を補う方策を管内10市町村に提案する。3品目を作る担い手は集落営農や法人などとし、そこに農地を集積させ、本作化を図るために産地づくり対策交付金の1部を充てる構想だ。
|
◆転作3品目は赤字
コメの代わりに麦・大豆を作っても今の販売価格では赤字だ。生産調整面積の拡大で麦・大豆の転作が増え、コメと同様に供給過剰となった。国産物は、安くて品質にばらつきのない輸入品にはかなわない。また消費拡大も見えてこない。
転作農家の収支をまかなっているのは、水田農業経営確立対策の助成金や、とも補償だ。仮に収量が落ち込んでも、そうしたいわば奨励金で、ある程度の所得は補てんされている。
生産コストを償えない価格動向の下では、本気になって麦・大豆を本作化する気にはなれない。品質向上の意欲も高まらない。
多くのJAは「地域水田農業ビジョン」づくりに当たって、そうした現実を抱えている。これ以上、コメを作らない農業構造に変えるというのがコメ政策改革なら、転作から本作への強力な誘導対策が必要だ。
しかし新たな「産地づくり対策」は水田農業経営確立対策に比べ助成対象を担い手に絞り込んでいる。
JA上伊那の場合も、こうしたあい路の打開で頭が痛い。そこが構造改革への一つの難所となっている。
◆強い輸入品の圧迫
信州らしく転作品目の特徴は麦・大豆と並び、そばが多いが、その作付面積は平成14年度の442ヘクタールに比べ15年度は約3割減った。
麦・大豆と同じく、そばも安い輸入品にはかなわないからだ。実需大手は中国等から製粉されたそば粉を買う。原料取引をしている国産品は製粉の歩留まりが悪いなどという。
JAでも製粉施設をつくったが、大手はやはり輸入品のコスト安を取る。また地産地消には限界があり、作付を減らさざるを得なかった。
しかし、あくまで地元原料にこだわった手打ちそばを供給したいという組合員もおり、これらを今後、ビジョンにどう取り込んでいくかも一つの課題だ。
ここは東西を南アルプスと木曽山脈に囲まれて昼夜の温度差が大きく、コメの品質は良い。値ごろ感もあって市場では好評だ。コシヒカリ、あきたこまち、ひとめぼれが主力で水田面積は8348ヘクタールだが、今年の転作率は約4割にのぼる。面積にして3625ヘクタール。
だが転作の主役たちは、そばを筆頭に3品目とも今年の作付面積を減らした。供給過剰からだ。麦は前年比6%減の350ヘクタール。大豆は3%減の320ヘクタール。
◆定着しない本作化
もちろん、飼料作物、果樹、野菜への転作もある。しかし本作化が定着した品目はほとんどない。
ビジョンづくりでは「基本的にまず果実、野菜、畜産を収益性品目として、今後どこまで生産を拡大できるか、今、数字を積み上げている」とJA営農部の新谷久男次長は語る。
次いで「コメの販売見込みをはじき出す」段取りだという。来年産米の生産調整面積は今年よりさらに4%ほど拡大されるとの予想をもとにする。販売実績は14年産が32万5000俵。15年産の出荷申し込み量は31万1000俵だ。
そこでビジョンでは「加工用米も含め32万4000俵の販売目標を掲げ、これに見合う作付計画を立てたい」との考えだ。
こうして収益性各品目とコメの作付面積を確定、その後に残った面積に麦・大豆・そばの3品目を作る。 収益性品目が増えれば3品目の作付が減るという戦略とした。3品目は稲作と同じ機械体系で生産できるため新たな投資がいらないから、すでに転作の主役となったが、今の低価格では所得補償が必要だ。
産地づくり対策の交付金を所得補償に使うとしても、構造改革が進んで「米づくりのあるべき姿」が実現する22年までには交付が打ち切られ、それを縁の切れ目に農家が3品目の生産をやめてしまえば結局、本作化はできないことになる。
◆地域とも補償拡充
このためJAは地域とも補償による所得補てんで、収益性の低い品目をある程度本作化できる方策を考えている。それでも個人では大規模化できないため、作付については集落営農や法人が担う方策を検討中だ。
それには担い手への農地集積が必要なので、それを促進するため産地づくり交付金の1部をその支援に当てることなどを管内10市町村に提案していくという。地域とも補償は市町村単位だが、生産調整参加者は全戸が入っている。
ビジョンは各市町村ごとに水田農業推進協議会を設けて策定する。しかし10市町村の農業振興をトータルに考えていくには、どの品目を、どれだけ作って、どのように売っていくかという具体策が必要だ。
つまり上伊那全体の水田8348ヘクタールをどう活性化して生産性を上げていくかはJAがまとめる。このため販売の目標・計画はJAで一本化して策定するという体制を整えた。
市町村が明確にした数字をJAが品目別にまとめ、それを、さらに産地別に分けて各地域に示すという段取りで作業を進めている。
◆11月末までに策定
|
地元産の農畜産物がずらり。活気あふれるJA上伊那本店のAコープ店舗 |
JAはすでに3月末に総代会前の集落懇談会で米政策改革のポイントを説明。今後は9月上旬に集落懇談会を開き、ビジョンについて各市町村の考え方を示してもらい、11月末までに、それぞれのビジョン策定となる予定だ。
3月末の懇談会では組合員から、生産調整が国主導型ではなくなることに対する不安が色濃く出た。
なお、麦・大豆・そばの転作面積減少だけでなく、飼料作物づくりの減少見通しもビジョン策定に当たって1つの問題点だ。
現状は酪農家が農地を借りて自給用の飼料を作っているが、飼養頭数をまかなってなお余るほどの作付面積を貸借する状況となっているため、今後、必要量だけを作る面積に縮小すればその分の転作をほかの作物で消化しなければならなくなるという問題だ。
飼料作物の作付面積は277ヘクタール。家畜ふん尿処理規制が厳しくなることもあって、その面積の減少は避けられない見通しだ。
(概要)
JA上伊那▽征矢福二組合長▽長野県伊那市▽正組合員戸数1万8224戸、准組合員戸数4313戸▽農畜産物販売高181億7368万円(米穀54億円、きのこ36億円、畜産25億円、野菜24億円、果実17億円、花15億円、その他)▽生産購買品供給高59億円、生活購買同105億円。
|
(2003.8.21)