農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:米改革

現地レポート 地域にみる水田農業ビジョンづくり
多様な担い手を地域につくる
役割分担で集落営農を構築−JA会津みどり
 水田農業の構造改革を加速化させるのが今回の対策の狙いだ。その戦略としてJAが地域水田農業ビジョンを描くことが求められている。そのためには米づくりだけではなく地域農業全体を変えていこうとする姿勢が必要だ。ビジョン策定に着手したばかりの地域が多いが、現場では実態に合わせた現実的なプランづくりが地道に進められている。

◆ビジョンづくりに向け営農企画課を新設

会津みどり地図

 JA会津みどりは、会津盆地の平坦部と山沿いの中山間地域を含むあわせて9町村を管内とした広域合併JAだ。
 耕地面積は約1万ヘクタールで、米のほか、麦、そば、果樹、野菜、花卉などそれぞれの町村の条件を生かした多彩な生産が行われている。ただ、JAの農産物販売高約88億円のうち米が約61億円と圧倒的に多い。
 15年産の米作付面積は5100ヘクタール。コシヒカリとひとめぼれで9割を占める。JAの契約数量は合計38万6000俵。昨年の集荷率は92%だった。
販売目的の稲作生産者は約4600戸。作付規模でみると1ヘクタール以下層が54%を占めるのが実態だが、一方で農家以外の生産法人などの事業体が99組織あるほか、機械共同利用組織や受託組織など集落営農への農家参加率は7・6%になるという。
 水田農業ビジョンづくりは、9つの町村と各町村に設置されたJAの総合支店が一体となってそれぞれの地域の農業振興計画を策定してきた。8月の上旬には、JA会津みどりとして一本化した水田農業ビジョンを策定するために9町村との連絡協議会を開く。
 JAでは、ビジョンづくりのために今年、営農部に営農企画課を新設した。今回の改革では、米部門だけが策定にあたるのではなく、園芸部門などの部署も統括し地域全体の農業振興に目配りしたプランづくりが必要との考えから設置した。今後、この営農企画課が中心となり各町村の振興策とJAの販売戦略をすりあわせて来年3月までにビジョンをまとめていくという。

◆作物の組み合わせで所得700万円以上を目標

 管内農地は、標高170メートルから750メートルと地域によって条件が大きく異なり、当然、立案されるビジョンも地域によって特色を出す。
 ただ、大きな柱としてJAが掲げているのが、作物の組み合わせで年間所得700万円以上の営農類型を築きあげることだ。
 たとえば、中山間地域の昭和村ではすでに稲作依存から脱却するためにかすみ草の栽培が盛んだ。そうした地域では、かすみ草で年5〜600万円、他の作物で2〜100万円の所得を得る農業をめざす。一方、会津坂下町など平坦部では、逆に米の所得を500万円程度に見込み、麦、大豆、そばなどの作業受託で200万円の上乗せを図る、といったように営農類型を考える。
 こうした営農類型を集落で実現する経営体を担い手と位置づけ、その担い手に農地の利用集積を集落ごとに図っていくというのがこれからの作業となる。

◆集落の実態に合わせ多様な担い手をつくりだす

谷澤貞芳氏
谷澤貞芳 代表理事専務

 農地利用集積では、管内に先進事例がすでにある。会津坂下町にある谷地集落の「谷地生産組合」がそれで、19戸の農地合わせて28ヘクタールのすべてを県が設立した開発公社に預け利用権を設定、2〜3戸の担い手が受託者の中心となって集落全体の農地で計画的に営農をしている。
 具体的には28ヘクタールの農地を米20ヘクタール、麦7ヘクタール、アスパラ栽培1ヘクタールで利用。いわゆる「一集落一農場」を実現した。機械の共同利用、カントリーエレベータの利用も進んでいる。
 こうした先進事例のほか、JAでは農地保有合理化事業で100ヘクタールほどの農地利用集積をし集落営農の確立を図っている地域もあるという。
 今回の水田農業改革について同JAの谷澤貞芳専務は「経済性だけの追求という感覚は否めないと思う。しかし、現実に高齢化が進み黙って見ていては地域の農業が自然消滅してしまう。将来を考えると担い手にいかに農地を集めるかが課題。手だてを打つ時だ」と語る。
 高齢農家には農地の利用を担い手に委ねることには抵抗感があるのが実態だ。「そのためにも高齢農家を農地の出し手としてだけではなく、草刈りや水管理など集落営農のなかで役割を持ってもらうなど、地域の実態にあった姿を示し合意を得る必要がある」。
 高齢者には野菜など転作部分を担ってもらい、担い手の生産を米、麦、大豆などに集中させるといったこれまでの転作対応とは異なる考え方も必要だという。
 一方、担い手についても柔軟に考えて選定していく方針だ。国の描く担い手像は、認定農業者や法人などだが、「認定農業者だけでなく、兼業、あるいは60歳以上の生産者でも地域がその人を担い手として位置づけようというのであれば柱になってもらう」と営農企画課の石田吉仁課長は話す。

◆水稲の直播栽培も利用集積を後押し

JA会津みどり・カントリーエレベーター
管内には4つのカントリーエレベーター。安全・安心と米の品質の均一化が課題

 JAではすでに担い手をある程度選定し今後、その生産者に合意を得るという手順を踏む。
 その際、担い手を後押しすることになるとみられているのが、水稲直播栽培が実績をあげていることだ。
 現在、管内合計で350ヘクタールに及び、このうち会津高田町では200ヘクタールと町村部での普及面積は日本一を誇る。
 農地を集積すれば、水利用も営農類型に合わせて自在になる。たとえば、収穫期の違う品種でも、それぞれ団地化して作付けることが可能だ。
 ただ、田植えをする通常の米づくりでは、専業ならともかく兼業の担い手となると作業負担が大きい。それを直播栽培にすれば道は開けてくる。つまり、新たな栽培技術を導入すれば、担い手像も柔軟に考えることができる、ということになる。
 また、減農薬・減化学肥料栽培、有機栽培といった付加価値のある米づくりも農地をまとめることで促進できると考えている。
 JAではこうした発想でまず核となる集落で集落営農を実現し他の集落へと波及させていく方針だ。

◆レベルアップめざす管内全体の米づくり

 米づくりについては15年産から栽培履歴管理に生産者が取り組んでいる。JAでは6月、8月、11月と3回、生産履歴台帳の確認を行うことにしている。とくに11月の記帳には、コンバイン、籾すり機、乾燥機などの清掃日まで記入する項目があるという。2品種を作付けている場合の混入を事前に防ぐためだ。
 「米づくりでは、安全・安心の確保と質の均一化に向けて全体のレベルアップを図り産地として評価されなければならない」と谷澤専務は話す。そのうえで今後は、地域全体で売れ筋の品種構成を考えていく方針だ。
 谷澤専務はビジョンづくりの問題として今後の生産調整面積の拡大をあげる。米の需要減が見込まれることからしても「50%まで拡大することを前提にしなければならない。そのときに米以外の作物でいかに所得を上げられるか。それは米づくりが生き残っていくためにも、大きな課題だ」と話している。 (2003.8.14)


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