農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:決意新たに。経済事業改革のめざすこと

インタビュー
全農に期待すること

国内生産を維持し国産1次産品を食べ続けるために

生活クラブ事業連合 生活協同組合連合会専務理事
加藤好一氏に聞く

 ここ数年、生活クラブ事業連合生協連とJA全農との提携関係が強まっている。それは、米・畜産関係・乳製品から青果物、NON―GMO(非遺伝子組み換え)なたねなど多岐にわたっている。全農チキンフーズの問題が起きて以降も国産鶏種「はりま」の事業を継続するために、同生協組合員と全農グループが参加する「鶏肉事業点検協議会」を立ち上げて、原種牧場から食卓までを徹底的に点検・確認することで、取扱高は伸長している。
 いま、なぜ全農グループとの提携関係を強めているのか。そして今後なにを期待するのかを加藤好一専務理事に聞いた。

◆食生活と国内生産に
  重要な品目中心に事業を構築

 ――現在「第3次中期計画」を進められていますがその柱はなんでしょうか。

加藤好一氏
かとう・こういち 昭和32年生まれ。昭和55年生活クラブ・神奈川入職。平成12年生活クラブ連合会専務理事就任、現在に至る。「びん再生使用ネットワーク」代表幹事。「ストップ!遺伝子組み換えイネ 生協ネットワーク」事務局。

 加藤 生活クラブ生協では、組合員の食生活に占める重要性と、国内生産に占める位置の重要性から、豚・牛・鶏肉、米、牛乳、鶏卵に青果物を加え主要品目と位置づけています。率直に申し上げて、90年代の私どもの事業は低迷していました。そこでこの主要品目をテコにして共同購入を再構築をしたいということがポイントです。具体的には、青果物を除いた主要品目で全体の供給高の40%を占めるようにしたいということですが、これはかなり高い目標です。それに近づけるために品目ごとの「組合員の利用人員率」を高めていこうとしています。
 利用を訴えていくためには、それなりの物語がなければダメだといえます。その物語は、安全・安心ということもありますが、一番大事なことは、どのように生産されているかという情報公開です。そして食べる側も可能な限り「生産時間と生産空間」など、生産のあり方を理解する。そのことを踏まえながら主要品目にこだわっていくことで、生活クラブ生協らしい事業を構築していこうとここ数年やっているわけです。

◆「食」と「環境」問題 質が変わり深刻化した

 ――主要品目を取り巻く状況はかなり厳しいものがあると思いますが…

 加藤 私は1996年ごろから、問題の質が変わり深刻化したという印象をもっています。前年にWTOが発足していますが、第1次BSEショックが起こりましたし、遺伝子組み換え食品(GMO)の認可がされました。全酪連の水増し牛乳事件とかO157も問題になりました。それ以前の消費者運動で問題にしていたのは、残留農薬とか食品添加物でしたが、このころを境にして「食」「環境」問題は複雑化・高度化・国際化して、水準が変わりました。
 そして生活クラブのアイデンティティーである主要品目とその生産者が、この新しい「食」「環境」問題に直撃されているわけです。ですから従来のように「食べる力=購買力」を集めて共同購入を進めて行くんだということを唱えてみても、その購買力の束ね方がどうなっているかを重視しないと、新しい問題になんら対抗力をもてない、という問題意識を強めています。つまり「安全なものがあったから、自分たちでお金を払って買ってきた」という水準では対抗力にはなりえないと思います。

◆全農との提携で有効な対抗力を発揮

 ――全農グループの利用が増えていますが、その対抗力を強めるためですか?

 加藤 全農さんは私どもと比べられない大組織ですが、全農グループとの提携を強めてきている問題意識は、質が変わった問題に対して有効に対抗力を発揮するためには、全農の持っている仕組みや機能とか、全農に集っている生産者の力を私ども流に使わせていただこうということです。これは一挙にできたわけではなく、一つひとつのテーマを積み重ねてきた結果としてみたら提携が深まってきたということです。
 例えば、新食糧法ができたときに、主要品目である米について、米卸を取得し、提携産地と主体的に関わっていこうと考えたわけですが、実際には全農パールライスのバックアップがなければどうにもなりませんでした。
 それから、いまでは大手企業でも区分管理が当たり前になっているNON―GMO飼料についても、当初は少量でしたがPHF飼料の区分管理をしてもらうという前史があって、NON―GMOの区分管理をしてもらっています。
 そして事業ということで関係を深めたのは野菜の共同事業ですね。これは99年ごろから準備を始めて2000年から提携を本格化し、今年は首都圏青果センターの隣に配送センターをつくり、さらに提携を深めています。現状では生活クラブの供給高で70億円ほどですが、早い時期に100億円規模にし、青果物を生活クラブの主要な取組み品目に仕上げたいと考えています。

◆全農も加わった「鶏肉点検協議会」で今後のルールを確立

 ――早くから鶏肉での提携もされていましたが、全農チキンフーズの偽装問題では、大変な議論があったと聞いていますが…。

 加藤 私どもと全農チキンフーズとの提携に直接偽装問題が発生したということではありませんでしたが、全農グループの主要な子会社が起こした問題だということで、蜂の巣を突いたような大騒ぎになり、全農に対してかなり手厳しい文書を出さざるをえませんでした。
 私たちは、外国鶏種に支配されている国内の鶏肉産業の実情を踏まえて、国内で種から一貫してコントロールでき、生産過程の各段階で確認できる国産鶏種「はりま」を食べるために、全農や全農チキンフーズの機能を使って、群馬農協チキンフーズで鶏雛の飼育や処理をしているわけです。
 群馬農協チキンフーズに問題があればお終いですが、何ら問題がありませんでしたので、群馬の生産者を支え、私たちも「はりま」を食べ続けるために必要な対策はなにかと議論するなかで、群馬単独では「はりま」の事業は無理であり、全農チキンフーズの機能とバックアップが必要だということになったわけです。

 ――全農チキンフーズや全農も加わった「生活クラブ鶏肉事業点検協議会」をつくられましたね。

加藤 好一氏

 加藤 「はりま」の事業でこうした問題を起こさないために、全農チキンフーズの体質が改善されていくことを目的にした協議会を設置しようということでつくりました。ここには、食べる側の生協組合員が参加し、原々種の維持と原種雛の供給をする兵庫の牧場から「はりま」が組合員の口に入るまでの全国のポイントを歩き、自分の目と耳と五感で問題がないことを確認する作業を、徹底した情報公開の下でやりました。生活クラブ流のトレーサビリティをやらせていただいたわけです。
 そして、今後こういう問題を起こさないための重要監視点はどこかを設定し、どういう時間軸と方法で相互に点検するかについての確認事項もルール化しました。
 もう一つは、点検協議会の答申が「一連の偽装事件の中で、農産物の生産と流通にかかる時間を無視した商慣習が事件の根本要因であったことを確認」したと指摘している点です。全農チキンフーズに責任があることは間違いありませんが、BSEで牛肉離れが進んでいたとはいえ、今日発注して明後日来るほど単純なものではないことは誰しも分からなければいけないことです。そういう意味で、私たちが反省しなければいけない点もありますし、厳しく自己点検していかなければいけないと思います。
 「生産時間と生産空間」をキチンと理解した食べ方をすることが大事ですし、食べる側も含めて、そのことが常識になっていなければいけないわけです。

◆全農との相互理解が深まる重要なステップに

 ――そのことが、全農や全農チキンフーズとも確認できたということですね。

 加藤 全農チキンフーズでは生産から販売まで一貫した体制を組み立て、主体的に事業管理できる体制をつくりあげることが報告されましたし、全農も消費者・生産者の信頼を取り戻すために子会社を含む全農グループの体質改善と役職員の意識改革を行うことを確認しました。

 ――そのことで信頼関係が深まったわけですか。

 加藤 他の品目を含めて重要なモデルを全農さんの協力も得てつくることができました。そして情報公開も含めて消費者とともにありたいという全農グループの誠意も伝わり、私どもの組合員が全農を理解し相互理解が深まる重要なステップになりました。この協議会をやらせていただいて非常に良かったですね。

◆食べることを主体的にコントロールするために
  ――国産種へのこだわり

 ――「はりま」もそうですが鶏卵でも国産鶏種にこだわっておられますが、それはなぜですか。

 加藤 遺伝子組み換えもそうですが、食べる側が自覚しなければいけないことは、「安全・安心」もありますが、食べ物が外国資本に支配されていいのかということです。食べることを主体的にコントロールするためには、種については自分たちが分かり、可能であれば種の改良について参画できコントロールできることが、国産とか自給とかいうのであれば望ましいわけです。そういう仕組みを全農の力も借りてつくっていきたいと考えています。

 ――全農営農・技術センターも加わった野菜の「種子と農法推進会議」もそういう考え方で始められたわけですね。

 加藤 私たち単独ではできませんから、全農のバックアップをえて、一つひとつ自前の種を選定し、生産者にも理解してもらい、それを食べる。そしてそれを全農首都圏青果センターの機能で、私たちだけではなく他の人たちにも食べてもらえるブランド的なものに仕上がっていけばいいなと考えています。

 ――一般にもオープンにする…

 加藤 全農と提携するのは、クローズにしないという意味です。むしろ一般化したいですね。

◆地域の機能を維持する人たちの人情を含めて食べ続けたい…

 ――最後に、これからJAグループや生産者へ望むことはなんでしょうか。

 加藤 国産の1次産品を維持し食べ続けたいと私たちは思っています。それは単にモノとして食卓に上がるということだけではありません。そこに住み暮らす人たちが、景観とか自然環境を含むその地域の機能を維持してこその国産1次産品であり、それをつくる人たちの人情を含めて食べ続けたい。安全・安心はその次の問題だと思いますね。そのことは重い課題ですが、食べる側としては期待したいですね。
 安全・安心でいえば、まず情報公開です。農薬を使っていても、どういう農薬を何のためにどう使っているかが公開され、確認できる方がいいというのが、私たちのスタンスです。その積み重ねとして、3回使っていたのを2回にしようと努力するのが課題ですし、私たちの期待です。そういう観点に立った全農の機能とか役割に大いに期待をしています。 (2003.8.26)


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