農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:決意新たに。経済事業改革のめざすこと


日本農業を支える人・技術・商品づくりの拠点
―全農営農・技術センター―

 JA全農は、JAグループ経済事業を支える技術研究開発機関として、畜産関係の飼料畜産中央研究所、家畜衛生研究所と、耕種部門の営農・技術センターを設置している。このような研究機関を自らもっている農業団体は世界的にも珍しいといえる。
 安全・安心な国産農畜産物の供給と高品質で低コストな農畜産物の生産が求められる日本農業にとって、こうした研究機関の果たす役割は大きい。そこで、今特集では、全農営農・技術センターがもつ機能のなかから、残留農薬分析など食品の検査分析をしている「農産物・食品検査室」、生産者の省力、低コスト化ニーズと消費者の安全・高品質志向に応える生産システムの開発に取り組む「生産システム研究室」、営農技術・生産資材情報などの受発信基地である「アグリ情報室」、そしてJAグループの人づくりに貢献する「講習」について紹介する。

◆ISO14001取得し環境負荷軽減に取り組む

 全農営農・技術センターは、昭和37年8月に旧全購連の農業技術センターとして設立され、昨年8月に満40周年を迎えた。畜産部門を除くJAグループ経済事業の技術部門を支える総合技術センターとして、常にその時代の変化に対応して改革・前進しながら「試験研究・開発」「品質検査」「講習(人づくり)」を担うとともに、「視察・研修の受け入れ」を通して、JAグループ経済事業の人・技術・商品づくりと情報の拠点としての役割を果たしてきている。
 平成12年6月にはJAグループの中で先駆けて、同センターとしてISO14001(環境マネジメントシステム)を認証取得し、省エネ・省資源はもとより、各課・室の事業活動での環境負荷軽減に向けて積極的に取り組んでいる。すでに、今年5月に更新審査を受審して「適切な運用がされている」との評価を得て6月30日に登録が更新された。
 JAグループでもISO認証取得の動きが高まってきているが、これに応えるため同センターが蓄積してきたノウハウを活かして、ISO14001の構築担当者講習会や構築実務者研修会を実施してきているが、いずれも定員20名を上回る受講者が参加し、この面でもJAグループの牽引役となっている。

◆毎年100回の講習、2000人を超える受講者−人づくり  

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全農営農・技術センター講習会受講者推移
全農営農・技術センター講習会受講者推移
づくりとしては設立以来、組合員の営農・生活向上に貢献するために、資材の基礎から最新の知識や技術を習得する場として、JA・経済連・県本部の技術者養成を中心的な機能として担い、多くの受講生を送り出してきた。平成8年には10万人を超え、現在でも毎年100回前後の講習会が開催され、2000人を超える人たちが受講。14年度までの累計受講者は11万4000人を超えた。
 現在、従来の系統3段階を前提とした講習体系の抜本的な見直しを行い、広域JAから求められる専門能力をもった実践的な人材育成を重点化した講習体系を検討しており、16年度からの講習プログラムに反映することにしている。

◆特長ある農産物づくりから省力・低コスト技術まで−生産システム研究室

乾田不耕起直播機(生産システム研究室)
乾田不耕起直播機
(生産システム研究室)

 JAグループにおける営農技術とは農家の営農を支援する技術であり、それは作物ごとの品種情報、播種・育苗技術、栽培技術とそのための生産資材の品目情報、生産物の商品性の検定と経済性の検討など広範囲にわたる。それは「商品の提案から省力・低コスト技術まで一気通貫の生産システムを提案する」(金田武夫生産システム研究室長)ことであり、その研究開発を担っているのが生産システム研究室だ。
 同室の研究開発の柱は、(1)JAの営農指導に役立つ省力・低コスト栽培技術の開発・普及、(2)新品種の開発など特長のある売れる農作物づくりだ。

◆乾田不耕起直播機など新しい技術に挑戦

 「省力・低コスト栽培技術」としては、未利用の有機質資源である籾殻を有効活用した環境に優しい「もみがら成型マット育苗・移植システム」がある。これは土の苗に比べ苗の重さが3割程度軽いので、農家の女性たちに好評だ。現在、さらに省力化を進めた「種子付きもみがら成型マットによる省力育苗技術」を開発している。
 三菱農機と共同開発した「乾田不耕起直播機」による「大豆不耕起栽培システム」も注目を集めている。これは耕起と培土をしない省力的な栽培システムで、培土をしないため畦がなくコンバイン刈刃の土噛みによる汚粒の発生が防げる。収穫時に高刈りする必要がないので収穫物のロスが少ない。慣行栽培に比べて収量が多い。麦収穫後すぐに大豆播種ができ、麦・大豆体系に適している。乾田不耕起直播機が、稲・麦などの不耕起栽培にも利用でき水田の高度利用に最適な直播機である、などが注目されている理由だ。
 園芸分野では、JAの野菜育苗センターの業務を効率化し施設を最大限に活用することを支援する「新JA苗生産管理システム」を普及中だ。さらに、ハウス栽培の土壌病害、塩類集積による連作障害解消を目的に開発された「スーパードレンベッド」で、必要なところに潅水と施肥を行う「潅水施肥栽培技術」を開発中であり、「循環式養液栽培システムによる環境に優しい栽培技術」の実用化も検討されている。

◆生産・流通・消費が連携した商品づくり

 「特長ある売れる農産物づくり」では、低たんぱく質米飯「AFTライス」やポリフェノールを含有するもち米「紫黒米」が販売されているが、臨床試験中の腎臓病患者用の米など、健康機能性など特長ある米の商品づくりが進められている。また、遺伝子分析による米の品種判定についてもすでに3品種で技術が確立されており、対象品種を拡大中だ。
 園芸分野では、全農スプレーギクがすでに産地でも消費地でも高い評価を得ているが、毎年、5品種程度を産地の協力もえて提案しつづけている。
 いまもっとも注目されるのは、生産・流通・消費の3者が連携する「特長ある野菜商品づくり」だ。日本の野菜品種は大量生産・販売を基調に画一化され、低価格な輸入野菜が入り込みやすい環境となっている。その反面で、おいしくて安心・安全な野菜を求めるニーズが高まり、こだわり・地域特産・高品質野菜など特長ある野菜が注目を集めている。同室では、こうしたことを踏まえて、特長ある野菜品種を探すための品種比較試験を行っている。
 現在、生活クラブ生協と提携し、同生協の「種子と農法の研究会」に参画し、食味・品種の来歴・地域性・栄養価など消費者の求めるニーズにあった品種の選定を行っている。すでに、同室が提供したデータと実際の食味評価から同室開発のネギ品種「あじぱわー」が選定され、同生協の組合員から好評を得ている。さらに、ニンジン、ダイコン、葉菜についても検討が進められている。選定された野菜は同生協の契約農家で栽培され全農首都圏青果センターを通じて同生協に供給されている。つまり、消費と生産・流通が一体となって共同で商品づくりを進めているわけで、今後の農業のあり方を示唆するものといえる。
 同室の仕事は非常に多岐にわたり、ここですべてを紹介することはできないが、全農安心システムのための「JA全農生産管理データベース」やトレーサビリティ推進のための「JA栽培履歴データベース」の開発も同室の仕事であることを付記しておきたい。

◆国際的にも高い評価を得ている残留農薬の分析検査−農産物・食品検査室

ゲル浸透クロマトグラフによる複製(農産物・食品検査室)
ゲル浸透クロマトグラフによる複製
(農産物・食品検査室)
 食品の安全・安心のニーズが高まる中でもっとも注目を浴びているのが「農産物・食品検査室」だ。同室では(1)栄養成分、微生物、異物混入など食品の検査分析と、(2)農産物・加工食品の残留農薬や重金属、食品添加物(防かび剤)の分析検査を行っている。とくに、中国産冷凍ホウレンソウの残留農薬問題や無登録農薬の販売・使用問題発生以降、消費者の残留農薬への関心が高まり、平成5年度に600〜700試料・1万1000成分程度だった検査実績が、
高速液体クロマトグラフによる測定(農産物・食品検査室)
高速液体クロマトグラフによる測定
(農産物・食品検査室)
14年度は996試料・1万2033成分と急激に増加している。
 そうした状況に対応することと、「時代に遅れないように技術を蓄積」(神田尚幸室長)し、分析能力の向上、分析可能な農薬数の拡大、そして迅速でより精度の高い分析検査を行うために、高速液体クロマトグラフ質量分析計と超臨界液体抽出装置を導入するとともに、機器の更新・増設をはかり面積も従来の約1.6倍に拡大した。

◆教育訓練はハードに――信頼支える技術力

 残留農薬分析で重要なことは、分析値の正確さ、分析結果の信頼性だ。いかに優秀な分析機器を導入しても、その機能を十分に使いこなせる担当者の技術が優れていなければ信頼性をえることは難しい。そういう意味では、13年4月に試験所認定の国際規格であるISO/IEC17025を食品・農薬分野では国内で最初に取得し、国際的な基準からみても信頼性が高いことが証明された。さらに、対象農薬の拡大と豆類、茶など対象作物の拡大にも取り組んでいる。
 また14年には、世界28カ国の75試験機関が参加した国際的な「残留農薬分析技能試験プログラム(英国FAPAS)」に参加し、非常に高い評価も得ている。神田室長は「複数担当者業務では個人差がないか技能チェックを行うなど、分析検査担当者の教育訓練はハードに行っている」というが、そうしたことが国際的にも高い評価を得ている同室の信頼を支えているといえるだろう。
 最近は、JAグループでもJAや県段階で残留農薬分析を行う部門を設けるところが増えているが、そうしたところと「JAグループ残留農薬研究会」を13年から開催しているが、今年も9月に予定するなど、JA・県連・県本部の技術力のアップや個別の技術相談にも対応していくことにしている。

◆営農技術・生産資材情報を迅速・的確に提供する−アグリ情報室

 営農技術や生産資材の情報発信拠点としての役割を果たしているのがアグリ情報室だ。
 営農技術情報の提供を目的として昭和60年9月に創刊された「グリーンレポート」は、すでに406号(15年8月1日号)まで発刊されている。当初は営農指導員向けに発行していたが、平成2年からは担い手農家・大規模農家にも配布し、現在、約3万1000部の読者がいる。
 最近は、トレーサビリティや安全・安心な農産物づくりを重点に編集されるなど、常に時代の変化に合わせた適切な内容で高い評価を得ている。現在は月2回発行だが、来年1月には増ページし、月刊にする計画だという。

◆使いやすいアピネスの農薬登録データベース

 インターネットで営農技術・生産資材情報を提供する「アピネス/アグリインフォ」は、平成10年11月開設以来約7万5000ページにおよぶ豊富なデータを蓄積、農業に関するあらゆる情報があるデータベース(DB)といえる。
 とくに農薬登録DBは、マイナー作物を含めて作物を指定するだけで、その作物・グループで使用できる農薬が瞬時に検索できる。また農薬の残留基準についても最新の情報が提供されるなど、使いやすさと情報の正確さ・豊富さからみて他にはみられない非常に優れたDBだといえる。
 インターネットで受け付け、全農の技術者が回答する「営農技術相談」は、デジカメの写真を添付して相談できるようになり、利便性がいっそう向上した。
 また、セリ日当日の青果物市況を午後2時に提供する「青果物市況情報」は、全国20市場の価格比較や県別比較ができるなど、Webの特性を活かした内容だといえる。
 現在、JA会員(入会金5000円、月基本料金500円)356JA、農家会員(入会金なし、月基本料金300円)2217名となっているが、JA会員については、今年度中に400までの拡大をめざしている。
 同室では、携帯電話を活用した「JA営農サポートシステム」を開発し、JAへの普及を行っている。すでにJA兵庫六甲で導入され使われているが、JA秋田やまもとでも導入が決まっている。JAの広域化が進むなか、組合員農家とJAとのコミュニケーションを強化するツールとして期待されている。 (2003.8.27)


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