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特集:決意新たに。経済事業改革のめざすこと |
対談 氏本長一 宗谷岬肉牛牧場長 |
◆格付けではなく消費者の納得を得るためのシステム
原 食の安全性への関心の高まりのなかで全農安心システムがクローズアップされています。しかし、最初にこのシステムを考えたときは、食の安全性確保を無視したわけではないけれども、基本コンセプトは食と農の距離を縮めるということでしたね。当時の思いをまず振り返ってもらえまえんか。 氏本 私が全農安心システムをつくろうという話に注目したのは、どのように牛を飼いどういう畜産物をつくろうとしているのかを地域の人やわれわれの会社の株主など関係者に分かってもらうという開かれた経営をしたいと思っていたからです。それが信頼関係を築くことになり、単なる安全ではなく安心にまで踏み込めると思いました。 原 確かに最初は、有機農産物の認証を取得するなど差別化戦略として議論がスタートしました。しかし、法律や制度による格付けについて消費者は本当に信頼しているのかという疑問にぶつかったわけですね。生産者は格付けというお墨付きがあれば高く売れると思っているが、実は消費者が本当に望んでいることは格付けではなく、自分たち自身が納得して買う、そのように意識が変わってきているということに気づかなければいけないということでした。これが安心システムを構築する過程の転換でしたね。 ◆農業のビジネス・モデルとコミュニケーション・モデル
氏本 売る側の一方的な思いは必ずしも消費する側のこうしてほしい、という要望とかみ合っていない。それをどうマッチングさせるかといえば、結局はつねにコミュニケーションをとるなかでお互いの思いというものをすりあわせていくしかない。 原 BSE発生以降、食の安全性がクローズアップされて、それを解決する手法としてトレーサビリティの考え方がでてきましたが、それがすべてを解決してくれるという風潮になっている。もちろん生産履歴が遡及できるのは食の安全にとっては大切ですが、いちばん大切なのは生産者自らがどういう農業をするのかについて情報を発信していくかです。 ◆まず自らの農業の姿を描くこと
氏本 宗谷岬牧場は海に囲まれていて沿岸は北海道でも有数の漁場です。ホタテや昆布、毛ガニなど良質な海産物が穫れますから、漁師も漁場にプライドを持っています。そういう地域にわれわれが牧場をつくって牛を飼うときに、漁場を痛めるような飼い方をすれば稚内の大きな産業を痛めることになります。肉牛経営を地域に貢献する産業にするには漁業者に受け入れてもらえるような牛の飼い方をしなければいけない。それが私が就任したときの考えだったんです。 原 自分たちの農業生産を考えるとき、多くは消費者が望んでいるから、ということで決めていますね。しかし、そうではなくて消費者のことはもちろん考えなくてはなりませんが、その前に大事なのはまず自分たちが地域で農業をするためには最低限こういうことをする、と決めることです。 氏本 全農安心システムは、あくまでも道具です。その道具を使って何を伝えていくか、そのストーリーは産地側で考えるということだと思っています。生産者自身が自分の頭でその生産者にしか書けないストーリーをつくらないことにはこのシステムは意味がないということです。 原 ですから、いわゆる基準というものがないわけですね。しかし、当初の議論ではなぜ基準がないのか、減農薬・減化学肥料栽培といった基準があってはじめて認証システムといえるのではないかとずいぶん言われました。極端にいえば、全農安心システムでは、有機栽培であれ慣行栽培であれ、そこは問わないというシステムなんですが、なかなか理解されませんでした。 ◆問われる生産者の説明責任 氏本 いわゆる慣行栽培であっても私は「慣行」の意味を考える必要があると思っています。 原 また、このシステムでは検査し認証するということになっています。ではなぜ検査・認証するのかということですが、そもそも自立した生産者と消費者がいれば必要ありません。しかし、まさに生産者が自己責任できちんと生産するということを考えてほしいということなんですね。検査・認証はある意味では外からのプレッシャーになるわけですが、そのことによって自立を支援するということです。 ◆農業のグローバルスタンダードは「持続可能性」 氏本 あのときの議論の典型的な例がホルモン使用の問題でした。IFOAMが考えている基準ではいかなるホルモンも使用してはならないとなっていました。ただ、宗谷の気候では衛生条件の良い夏の限られた期間内に子牛を産ませないと弱い子牛になって死亡率が高くなる。ですから、受精時期も限られるので発情同期化ホルモンを使わなければならないと考えていたが、彼らの基準では使えないことになるなと思っていた。ところが、IFOAMの幹部が、日本は日本でしょう、と言った。 原 グローバル・スタンダードというと、なぜか思い込みがあってそれに従わなければならないとみな考えてしまう。しかし、地球環境全体に影響を及ぼすというならともかく、それぞれの国、地域自らが特性を認識したうえで農業生産のあり方を考えていいということなんですね。農業のグローバルスタンダードは持続可能性だと思います。 ◆全農安心システムの拡大がJAグループへの信頼高める
氏本 私はこのシステムは全農が取り組んだことに意味があると思っています。 原 まさに生産者と消費者の共通の価値創造が実現したんだと思います。全農には販売から購買までの部門がありますが、販売担当者も飼料担当者も氏本さんたちと一同に会して議論した。コストはかかるが飼料にこだわった肉牛だということを全員が認識した。その意味では流通に携わるわれわれの行動も変わっていったということですね。 原 今、非遺伝子組み換え飼料製造は全国の工場に広がりました。その突破口となったのが氏本さんたちの取り組みであり、つまり、全農安心システムが全農の事業を変えることにもつながったわけです。
(2003.8.27) |
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