農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:カントリーエレベーター品質事故防止強化月間 (9月1日〜10月31日)


先進地ルポ 米麦の品質事故ゼロをめざして
JAにいがた南蒲・いちいCE
経営トップから現場まで一体となってCEを運営


◆ドイツまで行って確認し冷却装置を導入  

 新潟県のほぼ中央に位置し「越後のへそ」とも呼ばれている南蒲原地域に、JAにいがた南蒲はある。
JAにいがた南蒲・地図
平成13年2月に、南蒲原地区3市3町1村(三条市・加茂市・田上町・下田村・栄町・見附市・中之島町)の8JAが合併して誕生した広域JAだ。地帯別にみると、水稲を中心とした大規模農家、生産組織、安定兼業農家層からなる平場地帯、園芸果樹と水稲の複合地帯、比較的経営規模の小さい中山間地帯からなっている。水稲では当然だが、コシヒカリの作付けが圧倒的に多い。
 JAには現在、カントリーエレベーター(CE)が5基ある。今回紹介するのは、火力を使わない自然乾燥方式(DAG方式)に冷却装置をつけ低温で籾を貯蔵する「いちいCE」(栄町)。同CEは平成9年に竣工されたが、そのときには冷却装置はなく、3年後の12年にこの装置が導入されている。
 冷却装置導入の経過と理由について、旧JAいちい(栄町)出身の小川政範JAにいがた南蒲組合長はこう話す。
JAにいがた南蒲いちいCE
冷却装置導入で荷受け能力がアップし、利用率も向上しているJAにいがた南蒲いちいCE

 DAG方式は自然に乾燥させるので、ある一定期間をおいてから籾摺りしないと結露してしまう危険がある。ところが、平成9年に「新米ができたらすぐにでも欲しい」という農家の心情に負けて早めに籾摺りをして渡してしまった。そのために、カビが発生し、臭いがついたり、洗うと黒くなるなどの苦情が出た。そのときは米を交換して収めたが、今後、JAとしてどういう対策をとるかということが大きな課題となったが、有効な対策なかった。   そんなときに、かつて雑誌で読んだ「穀物でも野菜でも収穫後に冷却すると休眠し、採れたての状態が持続できる」という話を思い出す。そして、ドイツの穀物大学に留学した経験のある人から「穀物は1粒づつ温度が異なり、温度が低いものが高いものから温度を吸収し、そのときに穀物が傷む」。ドイツでは小麦を冷却、休眠して保存することで品質を維持している。
小川政範組合長
小川政範組合長
そのことで虫にも食われないという話を聞き、ドイツへ行き小麦の農業倉庫やCEをみて間違いないことを確認。さらに当時試験導入していた佐賀県のJA佐城の川副CEへ行き、オペレーターの江頭巳喜男さんの「間違いありません」という話を聞き、冷却装置の導入を決意した。
 導入に際しては県の助成を受けたが経済的な負担は当然かかる。
 しかし「こういう米をこうやって作って欲しいと生産者にいう以上、JAが何もせずにいるわけにはいかない。そして、組合員から預かった米をいい状態で保管するのはJAの責任だ。そのためにはこの装置が適している」という判断だった。

◆籾を冷却し休眠させることで食味と品質を保持

冷却装置の外観
冷却装置の外観。意外に小さいことに驚かされる
 冷却装置の仕組みは、装置へ外気を取り込み、その外気をいったん冷却して水分を除去。その乾燥した空気を設定温度まで加熱してサイロに送風する。サイロでは図のように下から順に冷却が進み、穀物がもっていた熱は冷却によって上方へ抜け、サイロ上部の排気ダクトから換気扇によって放出されるというシンプルなものだ。そして温度だけではなく湿度も調整できるので過乾燥の心配もない。
 冷却することでの効果は、CEの運営面では1次乾燥工程でクーリングパスが不要となり、乾燥パスを減らすことができる。また、電気代など経費が節減できる。さらに低温で貯蔵するので害虫の活動を抑え安全・安心に貯蔵できることなどがあげられる。
 と同時に、品質面でも大きな効果がある。籾は生き物であり、生命を維持するために呼吸していて、栄養分を消耗し炭酸ガスと水と熱を出している。呼吸量が多いと自己発熱が大きくなり品質事故につながる。そこまでいかなくても、栄養分が消耗され籾がやせ食味が低下するという「呼吸損失」を起こす。冷却することで籾を休眠させ、呼吸損失を少なくすることで品質を保持できることが、この装置の大きなメリットだといえよう。
 従来通りの方式で乾燥させ籾摺りして低温倉庫で保管した米と冷却したものとを比べると、冷却したものは1000トン当たりの呼吸損失量が約5トン少ないというデータもある。
 いちいCEの職員さんによると、冷却装置がないときには3ヶ月くらい経つと籾がやせたけれど、いまはやせることがなく「コロっとしている」という。食味は新米時にはあまり差が感じられないだろうが、時間が経てばかなりの差が感じられるだろう。
サイロ冷却概要

◆荷受け能力がアップし利用率が95%に

 いちいCEの14年利用状況をみると、利用面積は385ha(農家数375戸)で、その87%強がコシヒカリだ。荷受生籾重量は3105トンで、これを18日間(実荷受日数)で荷受けしている。1日平均172トンにもなる。コシヒカリが90%近くを占め兼業農家も多いので、実際は1週間くらいの間に一挙に荷受けしなければならい。しかもこの地域は秋の湿度が高い。雨でも降れば風洞の入口付近の湿度は90%程度にまで上がってしまう。CE品質事故原因としてよく見られる「過剰荷受けによる事故」の危険性は高い。冷却装置を導入する前は調整日を設けるなどして事故を防いできた。
 いまは「水分25〜28%で入ってきた籾を1日半くらいかけて乾燥し、各ビンに重ねて堆積し冷却をかける。すると穀温が低温化し一定になるので、1〜2週間はそのままにして2次乾燥する」(長橋浩己オペレーター)。そのことで荷受け能力が向上し、調整日を設けず生産者の要望に応えられるので、利用率も11年75%から90%近くにまでアップし、15年産米では95%以上になる見通しだ。

◆機械の特性を理解し、米をみて的確に判断

 いちいCEの米袋には赤い文字で「冷却貯蔵米」と印刷されブランド化されて販売されている。前述のように玄米歩留まりもいいが、「精米歩留まり」もよく、食味もいいと卸や消費地で好評を得ている。JAでは最終的に5つのCEにこの装置を導入したいと考え、今年1ヶ所に導入することを決めている。
 しかし小川組合長は「機械を入れてそれに頼ってしまうのは危険だ」と話す。いちいCEが成功しているのは、オペレーターの人たちが、機械の特性を研究すると同時に、日々の穀温や水分、外気の状況をオペレーション室の計器だけではなく「ビン内の米を常に見て」的確に判断し、機械の特性を活かして「穀温を一定に保っている」からだという。
 「生産者から預かった米の品質を維持して販売するのはJAの責任」という考え方に、経営者から現場の人たちまでが立ち、一体となってそれぞれの立場でキチンと責任を果たしている。それが品質事故を起こさせない最大の対策だということを教えてくれているのではないだろうか。
 なお、紙幅の関係で触れなかったが、生産にあたってはJA推奨除草剤や良食味・良品質施肥設計の使用を基本とし、栽培日誌に記帳など「安全・安心確保に向けた取り組み」をCE利用生産者に要請していることを付記しておきたい。(2003.9.3)


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