農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:カントリーエレベーター品質事故防止強化月間特集 (9月1日〜10月31日)


経営者が先頭に立ち、「食」の安全に応えた品質管理を

河合 利光 (財)農業倉庫受寄物損害補償基金理事長に聞く

 食糧法が改正され、16年4月からは、米の保管業務もJAが自主的に行わなければならなくなる。一方で、消費者の「食」に対する見方が厳しくなっており、米もその例外ではなくなったといえる。CE品質事故防止強化月間を迎えるにあって、全農パールライス東日本の専務を務められた河合利光(財)農倉基金理事長に、消費サイドの状況を踏まえて、米の貯蔵・流通の拠点であるカントリーエレベーター(CE)の果たす役割について語っていただいた。

◆業務用でも厳しくなる品質管理

――河合理事長は、全農パールライス東日本の専務をされておられましたが、消費サイドからみた最近の米の状況についてどうみておられますか。

河合 利光氏
かわい・としみつ 昭和21年生まれ。昭和44年東京教育大学農学部卒業。同年全国販売農業協同組合連合会入会。平成6年JA全農東京支所米穀部長。同10年本所パールライス部次長。同12年JA全農札幌支所長。同13年全農パールライス東日本(株)代表取締役専務。同15年(財)農業倉庫受寄物損害補償基金理事長に就任し現在に至る。

 河合 全国でも有数の生協とか大手量販店や食品スーパー、そしてCVSのおにぎりとか弁当などの業務用など取引先は多岐にわたっていました。例えばCVSのおにぎりや弁当用の米でも、品質が大変に厳しくチェックされるなど、消費サイドは大きく変わってきています。しかも、年間を通して安定して供給することが求められます。
 とくに、雪印食品や日本ハムなどの偽装表示事件以降の消費者の食品への安全・安心志向が強くなっています。業界では常識であっても、消費者から見るとそれはおかしいということがいわれるようになり、食品全体に生産履歴を明確にすることが求められてきています。そして、米もその例外ではありません。
 そういうことを踏まえた事業展開が求められました。消費者が求めるのは少量多品種ですから、従来の大型精米工場では、消費者の求めるものをつくることが難しくなりましたね。しかも、関東は単品銘柄主義で、DNA鑑定をして他のものが混じっているとJAS法違反となるわけです。
 間違いのないものを、どう消費者に届けるかは、重い課題だといえます。
 生協の場合には、産地・生産者を限定し、自然環境などを重視した契約栽培のような仕組みでやってきましたが、食品スーパーでも全農安心システム米を取り扱うとかそういう傾向は強くなってきていますね。いまはまだ、こうした自然環境を大事にしたり、農薬の使用回数をきちんと決めて契約して栽培するというのは全国的にみれば点ですが、これを面に広げていかなければ、消費者から支持されませんし、日本の農業は立ちいかなくなると思いましたね。

◆品質事故を防ぐのは経営者の姿勢

 ――そういう意味では、CEや農業倉庫など米を保管・貯蔵する施設も同じですね。

 河合 CEで事故を起こさないためには、過剰荷受をしないことです。そして過剰荷受をしないためには、早稲・中生・晩生ごとの品種をできるだけ単一にするとか、どういう品種が適しているのかとか、CEを利用する地域全体の作付体系・稲作体系をしっかりつくることが一番大事だといえます。
 それをするためには、JAの組合長をはじめとする役職員と生産者が一体となって取り組まなければならないと思います。CEのオペレーター任せにしてできることではありません。

 ――JAの経営者のそうした認識がないと事故が起きる…

 河合 経営者の理解がないと、農倉基金の経験からみても、事故が起きる可能性は高いですね。
 そういう意味で、JAの役員の方々は、現場任せにせずに、ぜひ自ら現場に行ってオペレーターと一緒に仕事をしていただきたいと思いますね。

◆明確な区分管理と情報公開で心のこもった仕事を

 ――先ほどDNA鑑定の話がありましたが、違った米の混入もこれからは大きな問題になりますね。

 河合 生協との仕事をしていると、生協との約束である減農薬とか減化学肥料米を生産者は一所懸命作っているわけですが、JAの役職員が意外とそのことに無関心なケースがありますね。だから、流通する段階で慣行のものと一緒にしてしまったりしているところがあります。
 きちんと鋭く、消費者や生産者が求めているもの、取り引き内容を理解し、区分管理をしていかなければいけないと思います。そのことをきちんとやっているJAもたくさんあるわけですから…。
 それから、一つひとつの米が、どういう栽培方法をしてどのような米かという情報を、生産者・JAから精米工場まできちんと伝えられることも大事だと思います。そのことがきちんと伝わらないと、どこかの段階で混ぜられたり、事故につながる危険性があるからです。
 そのことで、みんなが苦労しているんだということを分かり合った仕事をすることができる。表示はもちろん大事ですが、これは表示以上に心のこもった仕事ではないでしょうか。

◆厳しい姿勢で保管・検査をしなければ売れなくなる

 ――国の制度が変わり、「国の保管管理要領」が廃止され自主管理になりますし、検査も民営化されますが、そうしたなかでこれからの品質管理はどうあるべきだとお考えですか。

河合 利光氏

 河合 CEはほとんど民間検査ですから、検査が民営化されたからといって検査そのものが変わることはないと思います。しかし、JA自身が厳しく検査をする必要はあるでしょうね。精米工場は受けるときにデータを全部取りますから、JAが甘い検査をすれば「あなたのところの米はこういう品質だから、もういらない」といわれるだけですからね。
 かつては入れ目が多い米をといわれましたが、いまは品質の良い米が求められる時代だといえますね。

 ――国の保管管理要領がなくなることはどうですか。

 河合 それも検査と同じで、自らやるしかないわけです。いいかげんな保管をしているところの米を欲しいという人などいるわけがないわけですから…。
 それから、減農薬とか減化学肥料米とか生産履歴や保管記録をきちんと記帳し、その米の素性を証明することです。CEの事故でも記録がなければ補償の対象になりませんしね。

◆専門技術者が 全CEを巡回指導

 ――それを徹底するために基金として指導事業に力をいれているわけですね。

 河合 そうです。経営者や管理者を対象にした研修会や巡回指導を実施しています。

 ――巡回指導は具体的にどのようにやっているのでしょうか。

 河合 13年9月に制定した「CE品質事故防止の指導体制強化について」に基づいて、経済連・全農県本部と打ち合わせをおこないながら、農倉基金の技術者4名が、全国にある764のCEすべてを巡回しています。13年11月から巡回を始めて今年の7月末までにすでに、30経済連・県本部の199JA500CEを回りました。
 この巡回指導のなかで、重大な品質事故を起こしかねない実態や、万一事故が発生しても農倉基金の補償対象にならないようなケースもありました。そのような施設に対しては、そのつど、CEの責任者に対してはもちろんですが、JAの管理者・経営者や経済連・県本部に助言するとともに、巡回後に発信する「巡回結果報告書」で改善を要請しています。

 ――巡回の費用はどうしているのですか。

 河合 とりあえず、全施設を一巡するまでは、当基金の指導事業の一環として巡回するという考え方で、経費等は基金負担で行っています。

 ――最近はCEでの事故が起きてますか。

 河合 14年産米では、いまのところ1件も起きていません。

 ――巡回指導で日本列島に緊張感が走っているのではないですか…。

 河合 CEについて専門知識をもった技術者が、第3者としてきちんと指摘していますから、効果があるのではないでしょうか。
 そしてCEを見た後に、組合長とか専務とかJAの責任ある立場の人と必ず話をして、問題点を明確に指摘しますから、緊張感が走っているかもしれませんね。

◆CEを中心とした地域の稲作体系の確立を

 ――先ほどもお話がありましたが、経営者が先頭に立って仕事をするということですね。

 河合 例えば雨が降りそうだから早く刈ってしまえといって水分の高い籾を荷受すれば、事故につながる可能性が高いわけですからそういうことはしてはいけないわけです。水分と乾燥能力に合わせた荷受計画を立て、そのことを組合長がきちんと理解をして、水分の高い籾を持ち込むと乾燥能力が落ち、荷受量も減るということを組合員に説明し徹底しなければいけないと思います。
 そして、毎日の荷受作業については、オペレーターに責任と権限をもたせ、できないことは現場ではっきり断ることができるような体制づくりをすることも必要だと思います。
 それから、CEにはいくつかの方式がありますし、新しい方式もありますから、機械に対する正しい知識をオペレーターはもちろんですが、組合長ももっていないと組合員に説明できませんね。
 そうしたことを、CEの運営委員会などを通じて生産者に説明し理解してもらえば、大きな問題は起きないと思いますね。運営委員会があるところとないところでは、はっきりした差が出てきていますから、巡回指導ではそういうことも指摘をしています。

 ――作付品種が多かったり、栽培方法がいろいろだと、CEでの荷受計画も難しいのではないですか。

 河合 例えば、全農安心システム米のように、量が少ないものはCEではなくライスセンターで処理するとか工夫は必要ですね。
 いまは、トレーサビリティが求められる時代ですから、CEを利用するほ場を特定し、そのほ場では肥料も同じものを使い、農薬を使う回数も決めるなど栽培方法を一定にして、その米だけをCEにいれるという地域も増えてきています。
 そうすることで、利用率も向上し、運営もうまくいくようになるのではないでしょうか。

◆保管管理履歴などの指導事業に力をいれる

 ――最後になりましたが、理事長に就任された抱負を一言お願いします。

 河合 農倉基金は、みなさんからの基金で運営されているわけですが、長期低金利時代ですので安全な資金運営をしていきます。
 それから、食糧法が改正され保管管理要領がなくなりますので、政府の指定倉庫が低温倉庫の一部だけになります。そうすると基金として補償対象倉庫をどうやって特定するのか、その登録する仕組みをつくることが当面の課題ですね。
 米の検査と保管は車の両輪のようなものですが、これからは全部自分たちでやっていかなければいけないわけです。そして、何度も繰り返しましたが、「食」に対する見方が厳しくなっていることを理解しないと、大変なことになります。CEや倉庫は米の流通の基点でもあるわけで、米のトレーサビリティを完結するためにはCEや倉庫の保管履歴も重要な要素となるわけです。そういうことの指導事業に力点をおいていかざるを得ないと思いますね。

 ――ありがとうございました。

(2003.9.3)


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