農業協同組合新聞 JACOM
 
過去の記事検索

Powered by google
特集:米穀事業改革 売れるコメづくりをめざして

インタビュー
「売れる米づくり」はJA米と安心システム米で
JAグループ米事業改革が具体化

若林 一誠 JA全農米穀総合対策部部長
北出 俊昭 明治大学農学部教授

 JAグループ米事業改革の具体化について北出俊昭教授は、集荷から販売、そして共同計算に至るまで多面的に質問した。これに対して若林一誠・米穀総合対策部長は「JA米」や全農の「安心システム米」を1つのキーワードとした。計画流通制度の廃止など流通自由化の中でJAへの求心力を高めていく上で、この2つの新ブランドにかける期待は大きい。また抜本的に事業方針を見直し、米穀販売機能を再構築するという。具体的には地域実態に応じて機能分担のあり方を3分類する方向などを示した。

◆事業2段に向けて

 北出 最初に、米政策改革に対応するJAグループ米事業改革の基本的な考え方や構想などをお聞かせ下さい。

若林部長
わかばやし・いっせい 昭和25年生まれ。52歳。慶應大学法学部卒。50年入会。平成10年米穀総合対策部総合課、13年米穀総合対策部広域体制整備室長、14年同部広域体制整備グループリーダー、15年同部次長を経て現職。

 若林 全農としては、まず県本部・全国本部が一体化した事業2段の実現が基本構想のメインになると思います。
 次に、地域の実態に応じた集荷・販売を行い、消費地での販売力強化をはかります。
 それからパールライス卸では品質管理の強化や精米販売の拡大に力を入れます。集荷の関係上、どうしても卸間売買では玄米販売が多いからです。
 さらに実需者・消費者により接近した販売を目指し、炊飯事業などを強化します。例えば「ぴゅあ弁当」をすでにJR東京駅で販売していますし、また埼玉県のAコープ所沢店と、都内のJAビル地下にはおにぎり店を出店しており、大手町周辺ではさらにもう1店増やす計画です。
 以上は事業面ですが、一方、全農の経営面では、組織のスリム化とか業務・事務の効率化をさらに進めます。また手数料を機能・コスト・リスクに応じ、体系を見直します。
 さて、米事業改革の具体化ですが、売れる米作りの基本はやはり需要情報の伝達です。全国本部では専任部署を置いて情報を管理する体制を来年度中に構築する予定です。情報は販売先や販売センターで収集し、県本部等、JAや生産者にホームページやメールマガジンで流します。

◆求心力を高める

北出先生
きたで・としあき 昭和9年石川県生まれ。32年京都大学農学部卒。同年4月全国農業協同組合中央会に入会、58年退職、同年石川県農業短期大学教授、61年4月より現職。著書に『新食糧法と農協の米戦略』(日本経済評論社)『日本農政の50年』(日本経済評論社)など。

 北出 計画流通制度が廃止されると、JAは制度的な土台がない中で、今まで以上に事業を通じて農家を結集し、集荷しなくてはならなくなります。自由に作って自分で販売する組合員が増えてきた場合、情報伝達ルートにも従来とは違った工夫が必要になるのではないですか。

 若林 全農から得た情報をもとに自分で販売する組合員もいるでしょう。我々としてはJAへの求心力をどう高めるかを課題に取り組みます。その点では「JA米」を一つのよりどころにしたいと考えています。

 北出 JA米の話が出ましたが、戦略上非常に大切なことなので、まず、JA米について説明して下さい。

 若林 JA米は、JAグループの販売の優位性を確保したいということで名付けたブランド名です。その要件は▽品種が特定され▽生産履歴記帳がなされ▽JA検査員による農産物検査を受け▽生産基準(栽培暦)に基づいて生産された米となっており、もちろんJAに販売を委託した米のことです。
 JA米の取り組みは16年産米からですが15年産米では100万トン程度が生産履歴記帳の要件を充たすものと見ています。16年産米では同じく100万トンがすべての要件を充たす見込みです。3年間で300万トンに持っていきたいと考えています。

 北出 JA米とは別に安心システム米もありますね。

 若林 安心システム米は、産地を特定して、取引先と合意した生産基準に基づいて生産し、認証を受け、生産履歴はインターネットで公開されます。

◆地域格差への対応

 北出 そうした要件を農家に徹底していくわけですか。

 若林 種子の段階から徹底します。自家採取の種子については基本的にはDNA鑑定をすることも含めて今検討中です。

 北出 JA米と安心システム米により農協が扱う米に対する評価を高め、農協への出荷を促進することが重要な課題になりますね。
 しかし、そうした取り組みが進むと地域差や良質米地帯と、そうでない地帯に格差が出てくると思いますが、どうですか。

 若林 地域実態に応じた販売機能の再構築ということで多くの課題検討が必要ですが、その前段としては地域水田農業ビジョンの問題があります。
 一方、JA、県本部等、全国本部が機能分担をし、なおかつ連携を取り、今まで以上に有機的なつながりを持って進む方針を明確に打ち出し、事業2段の実現を目指します。
 いずれにしても生産者には▽種子の更新率を高めること▽地域の生産基準を守ること▽生産履歴記帳の確実な実行をお願いしたいと思います。
 我々としては要するに生産者の負託に応えることです。作ったものを全農が売ってくれるという安心感、信頼感を構築するのが最終の目的です。
 しかし、おっしゃったように産地には、いろいろな状況があります。そこで販売機能分担のあり方を3分類としました。

◆販売センターつくる

 北出 米事業改革で、地域に合わせた米穀事業の3方式を構想されていますが、非常に現実的だと思います。

若林部長

 若林 まず第1分類は県間販売主体のところです。ここの産米は県内販売は、県連、県本部等が実施し、県間流通は、全国本部が大消費地に販売センターをつくって販売します。
 センターは(1)新規需要先の開拓や調整保管の古米販売(2)安心システム米の販売(3)原材料米の販売(4)県間流通米の販売をそれぞれ推進します。
 安心システム米は15年産で2万トン、16年産で5万トンを見込みます。量販店も生協も商品の差別化を進めており、すでに引き合いがたくさんあります。価格は少し割高ですが、消費者の安全志向は強いですから、どんどん積み上げていく計画です。
 一方、主産地の県連と県本部は東京や大阪に駐在事務所を構えていますが、この際、みんな一緒に販売センターに入って固定費を節減してもらうよう勧めており、参加の意向を確認した県組織もあります。

 北出 ほかには、消費地近郊で生産量が一定量ある県、それから生産量が少なくてパールライス会社が集荷も一体的に実施する県、という分類がありますが、問題はこの3種類の事業方式がどう機能するかですね。

◆宣伝もっと強力に

 若林 現在実施している方式をルート的にまとめて、より明確にしたのが、この3つです。
とにかく県間販売では、今までの全農支所ではなく、販売センターの力を発揮する中でやっていくしかないと思います。

北出先生

 北出 販売・流通が自由化されてきた中では、農協単位で直接、卸と取引して出荷契約している農協があり、今後も増えてくると思います。農家レベルでもグループや法人でそういうところがあります。計画流通制度がなくなったあと、そうした動きを3方式に乗せていくにはどうしたらよいと考えますか。

 若林 1つ試みているのは、消費者と産地が結びついている生協などの部分では、安心システム米に切り替えて下さいと提案しています。自由経済の下では今やっていることをやめなさいよとはいえませんから、こちらに向かわせるツールとしてはJA米や安心システム米ということでお願いしていくことになると思います。

 北出 不正表示問題が消費者のイメージに残っている中ではJA米や安全システム米をもっとPRしていくべきではないかと思います。

◆実需者に食い込む

 若林 全農パールライス(株)東日本は全農グループですが、売り手側としてはJAS法に対する認識不足がありました。しかし、その後、コンプライアンス(法令順守)意識は高まっていますから国の指導等は生かされていると思います。それからJA米や安全システム米をもっと宣伝しろという意見は組織の会議などでよく出ます。

 北出 ところで全農卸のシェアは今どれくらいですか。

 若林 25%くらいです。

 北出 今後は、大消費地に販売センターをつくってもっと伸ばしていくという考え方ですね。

 若林 16年産から販売の自由化という世界になりますから、従来のように卸さんへの販売だけでは面白くも何ともない。業務用筋とか量販店などに食い込んでいきたいと思います。しかし物議を醸すといけないので、当面は、目当ての社に従来から卸している卸さんとタイアップしていくとか、とにかく1歩前に出たいと考えています。

 北出 弱い者いじめなんていわれると困りますからね。重要なことは、今後はJAグループ全体としてJA米や安全システム米に取り組んでいくと理解してよいのですか。戦略として。

 若林 その体制に持っていきたいですね。しかし各県組織は自県産米を売るために大消費地に駐在を置いており、それが販売センターの一員にされると吸収という結果になるのではないかと懸念しています。そこで我々は参画後も自県産米を売ってくださって結構ですといっています。しかし将来は力を合わせて他県の米も日本の米として売るように一体となって努力したいと考えます。

◆子会社集約の方針

対談風景

 北出 JA米の表示はどうするのですか。

 若林 要件を充たしたJA米の袋には商標登録した(出願中)シールを張って他の米と区別します。

 北出 パールライス会社の課題についてはどうですか。

 若林 パールライスも含めて全国本部と県本部の子会社は合計約250社あり、これでは多すぎて効率が悪い。
 パールライス会社の場合も同一業種なのに、それぞれ地域別にあります。このため東西のパールライス会社に、集約していく方針ですし、結集を呼びかけています。ただ地域別各社は業績が悪くなく、また量販店などと業務提携をしているという点で結集・統合の難しさがあります。しかし先行きには限界があるためそれぞれの実態を踏まえながら方針通り進めたいと思っています。

 北出 東西2社を核にして統合を進めるということですか。

 若林 生産者の信頼を得るにしても、それなりの規模がないと売っていけませんからね。

 北出 最近の農協批判の中には全農が独占を強めるのではないかという意見がみられますが。

 若林 機能を強化して消費者の要望に応える方向が、たまたま統合という手法になったということなんですがね。

 北出 やはり農協組織の持てる力を100%発揮していくことが大事だと思いますね。

 若林 とにかく全国に店舗展開している大手量販店などは、全農に頼めば安心だということもお伺いしていますし、日本唯一の、全国的な組織の力をフルに生かさないと意味がありません。

◆JAグループの一体化

 北出 最後に、米に限らず無条件委託や共同計算などの事業方式が問題になっていますが、その点の議論はどうですか。

 若林 生産者やJAは共計を問題にしますね。次年度にまたがった精算に不満が強いのですが、これは全部売れてから精算するからです。だから事業改革の中で共計の透明化はぜひやっていきたいと考えています。

 北出 米事業改革を進めるに当たって組合員や組織会員に訴えたいことを最後にお話下さい。

 若林 自主流通制度が廃止される中で生産者が安心して稲作に励める販売力を我々が持つべきと考えています。
 ただ最初に申し上げた需要情報を生産者も1企業のオーナーとして把握し、売れるものを作ること、昔のように気候的なリスクをヘッジするためにじゃなくて、ある程度、売れるものを目指して生産してもらいたいということです。
 われわれとしては1円でも高く精算できるように事業の効率化もはかっていくし、情報をいろんな形でお伝えします。
 とくに16年産以降は本当に正念場になりますから、1日も早くJA米を定着させて、みなさんと一体となれるような生産・販売活動ができればよいと考えています。

3方式に改革 全農の米販売事業

 全農は別図のように米の販売機能を再構築する方向だ。

地域実態に応じた米穀販売機能の再構築

 (1)「主産地」の米は米穀販売センターを通じて卸売業者(パールライス会社を含む)に販売するという流れとする。販売センターは東京と大阪に新設。
 (2)「消費地近郊で生産量が一定量ある県」の米は各県連・県本部などが県の内外に販売する。JAグループの集荷率が低い地域で実需者と結びついた従来の計画外需要は買い取って取引先に売る制度も導入。
 (3)「生産量が少ない県」の米はJAが実需者(量販店・外食産業など)に直接販売するか、またはパールライス会社が買い取って販売する。その場合はパールライス会社が集荷もする。つまり県連・県本部などは販売業務をやめる。ただし、この場合、生産調整や助成金事務をJAで行う必要がある。
 以上、産地によって流通が異なるという3分類の事業方式へと改革。事業2段を目指す。手数料体系も見直す。

インタビューを終えて
 現在の情勢の重要な特徴は、農協組織の在り方の検討と米政策改革が同時に進められていることである。したがって今回の米事業改革は、農協組織が本来の役割をどう果たすのかにも直接かかわり、その実行は「農協改革元年」ともいえる意義を持つ。
 そうした観点からみると、JA米の確立や安心システム米の拡大などにより農協組織が扱う米の優位性の確立を目指すことと同時に、大消費地販売拠点として米穀販売センターを設置し消費者に接近した事業強化を目指すなど、今度の米穀事業改革にはこれまでにない方向が示されている。
 それだけに、この事業改革が成功するためには、生産者・会員が現在の農協組織と米をめぐる情勢をよく認識し、一致した取り組みができるかどうか、が鍵となる。これは若林部長もよく理解されていることで、実行への強い意欲も感じられた。
 米事業の改革を通じて、農協運動の再構築が進むことを期待したい。(北出)

(2003.9.17)

 


社団法人 農協協会
 
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル Tel. 03-3261-0051 Fax. 03-3261-9778 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。