農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:米穀事業改革 売れるコメづくりをめざして


地域水田農業ビジョン策定に向けた課題
耕畜連携を軸にした地域水田農業ビジョンづくり

福田 晋 九州大学大学院農学研究院助教授


◆構造改革 コメだけでは課題解決できず

 「米づくりの本来あるべき姿」にむけて米政策が動き出した。
福田助教授
ふくだ・すすむ 昭和32年宮崎県生まれ。九州大学農学部卒業。昭和60年九州大学大学院博士課程単位取得退学、63年宮崎大学農学部講師、平成4年同大学農学部助教授、13年九州大学大学院農学研究院助教授。主な論文に「中山間地域における畜産の役割」(『農業と経済』第65巻第4号、1999年)。
水田土地利用が30年以上の長期に渡って米の生産調整に縛られてきたことはいうまでもなく、その間に採られた政策が極めて錯綜したものとなってきたことはいうまでもない。したがって、市場動向を反映したコメ生産・流通システムを目指すという政策選択はもはや避けて通れないものであると考える。
 しかし、米づくりの本来あるべき姿が、「農業構造の展望」等で掲げられた効率的安定的な農業経営が太宗を占めているという点には、大いに疑問が残る。農業構造の改革は、米問題のみで解決できない複雑な要因が絡んでおり、まさに、麦、大豆、飼料作の本作化や地域の特性を活かした多様な水田農業が展開していく中で、そのような構造に到達するか否かが見えてくるであろう。そのような構造改革の実現と今回の米改革の1つの柱となる地域水田農業ビジョンの作成には、まだギャップがあるように思えてならない。基本的課題である。  
 ところで、地域水田農業ビジョンの作成は、今回の改革の1つの目玉である「産地づくり推進交
収穫作業
収穫作業
付金」(産地づくり対策)の要件である。 そこでは、地域農業の特性を踏まえた上で、作物振興及び水田利用の将来方向、担い手の明確化と育成の将来方向について打ち出す必要がある。そして、米政策改革基本要綱では、この水田利用のあり方・農業生産対策の中で、麦・大豆とともに飼料生産について耕畜連携推進のための方策を、(1)生産の太宗を担い手が担う構造への転換を推進しながら、 (ア)水田における飼料作物の拡大に資するよう、
米穀事業改革
水田において、稲作経営と連携した飼料作物の作付けを推進する取り組みを支援する。(イ)コントラクター(飼料生産受託組織)の育成(22年度に受託面積の3倍程度の拡大)や機械化等条件整備を推進する。(2)地域の特色ある水田農業の展開に資するよう、耕畜連携を図りつつ稲発酵粗飼料等の生産を計画的に推進する。(3)耕畜連携等を通じた飼料増産を展開するため、実行プログラムの作成等効果的な飼料増産戦略を構築する。つまり、少なくともこれらの方向に向かった「ビジョン」が描ければよいのである。

◆耕畜連携 宮崎・国富町 契約グループが多数

 宮崎県国富町では、日本一の葉タバコ生産の土壌クリーニング効果と転作消化及び畜産飼料増産に対する期待が契機となり、飼料稲に取り組み2001年で231ヘクタール、転作面積の28.6%を占め、転作達成率120.7%に貢献している。耕種農家と畜産農家同士あるいは農家集団同士で生産利用の契約をし、耕種農家は耕起、移植、収穫前の管理までを行って無償で供給し、収穫、乾燥調整を畜産農家が行っている。このような農家間、農家集団間の契約グループは13年度で120グループに及ぶ。飼料作物を作付けして経営確立助成に参加している農家は、畜産農家189戸(全畜産農家322戸の約59%、零細繁殖農家や17戸の肥育農家は参加していない)、無家畜農家386戸、合計575戸で全農家数の32%にあたる。
 国富町でこれほど急速に稲発酵粗飼料が普及したのは、(1)最高7.3万円の経営確立助成事業の実施(2)口蹄疫等による自給飼料確保の自覚(3)種子代(全額)苗代(なえだい)(1/3)の補助(4)イネ科による栽培技術の慣れ(5)水田たばこ後作による土壌クリーニング効果(6)繁殖農家が多く、イタリアンなどと同じ牧草系で嗜好にマッチ(7)畜産農家と耕種農家との連携などの要因が重層的に作用していると思われる。これは他の多くの地域でも概ね該当するであろう。

◆戦略作目定め交付金の傾斜配分を

 しかしながら、現在の生産力とシステムを前提とした筆者の試算によると、
屋外に貯蔵するラッピングロールのホールクロップサイレージ
屋外に貯蔵するラッピングロールの
ホールクロップサイレージ
現行レベルの助成金水準が必要であること、助成金が削除されるとコスト削減が必要であり、有償取引や飼料稲の収量を反映した取引方式が必要となってくる。もちろん、米価水準でその関係が左右されることはいうまでもない。それらの与件変化を取り込んだビジョン作りが必要になる。
 ここで注目すべきは、今般の米改革の1つの柱となる産地づくり推進交付金における産地づくり対策である。この対策は、従来の転作作物に対する補助金でないことを理解すべきであり、当該地域の水田農業をどのように推進するかという点と深く関わっている。稲発酵粗飼料を重点的に推進するならば、例え総額としての助成金水準が減額された場合でも、稲発酵粗飼料について上述の助成金水準を確保すべきである。これは他の作目の助成金水準を引き下げることを意味する。
 国富町の場合、他の転作作物である施設野菜や葉タバコなどは、収益性の面から見ても水稲に明らかな比較優位を持っており、すでに主体的・合理的に定着した作物というべきである。つまり、これらの品目に対する助成金の減額は、「新たな産地づくり」のための戦略作目への資源配分という点からは、一定の妥当性がある。むしろ、飼料稲を今後伸ばすべきであるが、現状では生産力の低い幼稚産業であるために、一定の助成を必要とし、一定期間内に生産力をあげて産地形成をするためにも、産地づくり対策の傾斜配分を行うべきである。

◆ビジョン作成に必要な飼料稲供給システムの構築

 また、米価下落影響緩和対策と産地づくり対策の資金は、
肉用牛へのホールクロップサイレージの給与状況
肉用牛へのホールクロップ
サイレージの給与状況
「一定の条件の下で都道府県の実情に応じて、相互に資金の移動が可能な制度とする」とあるが、これを市町村レベルの実情や要望に合う形で弾力的運用が可能となるようにすべきである。つまり、助成金総額が減少した際に、米価下落を補填するような対策を選択せず、むしろ新たな産地づくり対策に重点を置く政策選択の自由度を市町村レベルに与えることが、産地形成の途上にある稲発酵粗飼料生産を支援する政策のあり方であろう。
 さらに、国富町では「担い手」の位置づけが重要になる。現在の耕種農家と畜産農家の協定が農家及び農家集団レベルで120グループ存在するという形態は、町の生産振興会等における合意形成の賜物であり、耕種農家、畜産農家ともに顔の見える地域内での調整システムが合理的に働いた結果ともいえる。しかしながら、高齢化、後継者不足を考慮すると、平成20年にこれらのグループすべてが現状のまま推移するとは思えない。すなわち、将来的に飼料稲を供給しうるシステムを構築してビジョンを作成しておく必要がある。自立した産地形成のためには、低コスト化や高品質サイレージの供給は必須の課題であり、そのための飼料稲を供給できる主体が形成されなければならない。実際の収穫作業や運搬作業が効率的に行えるコントラクターのような組織が必要になる。その意味では、すでにコントラクター等が飼料稲供給の主体になっている地域は、逆説的ではあるが、ビジョン構築の先行事例ともいえるのである。 (2003.9.18)


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