農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:米穀事業改革 売れるコメづくりをめざして

現地レポート
JA米の確立と売れる米づくりに取り組む産地
生産から集荷まで品質管理を重視 売り切れる産地をめざす JA三次(広島)

◆新コメづくりプロジェクトを立ち上げ

ばら集荷する集約倉庫
ばら集荷する集約倉庫
 来年度からの米政策改革にともなってJAでは新コメづくり運動プロジェクトを立ち上げた。JAの職員だけではなく全農県本部、パールライス会社の担当者も加わって、販売戦略、生産戦略、担い手対策づくりなどを検討してきている。
 検討にあたっての視点は「市場を重視した米づくり」。「このスタンスを忘れない、がプロジェクトのキーワードだ」と営農経済部の森木三千雄部長は語る。 JA三次(村上光雄代表理事組合長)管内の米作付け面積は約2900ヘクタール。販売農家数は約4880戸でJAの集荷量は約17万俵(60kg)だ。
 品種ではコシヒカリとひとめぼれが生産量の約半分、そのほか酒造好適米の生産量も盛んだ。
 市場重視の米づくりとは、JAにとって課題となっている「販売を念頭においた米づくり」をすすめることだ。
 「全国的にはここを米産地と捉えられていないかもしれないが、農家の技術レベルは高く市場のニーズに対応した生産は可能だ」と森木部長。
 生産対策として、基本技術の徹底を農家に指導、品質向上を図る。
 たとえば、高温障害による品質低下がしばしば問題となっているが、出穂後の水管理の重要性を指導、また、立毛中の胴割れを防ぐために出穂期からの積算温度を生産者に知らせ、適期収穫を促している。こうした技術指導の情報は有線放送や防災無線を活用して生産者に提供することにも力を入れてきた。
 一方、15年産からは生産履歴記帳運動にも取り組んでいる。
 今年は「まず記入してもらうことが大事」との姿勢で生産者に呼びかけ、出荷時に提出してもらう体制とした。

◆集約倉庫の機能と生産履歴を活かす

森木三千雄 営農経済部長
森木三千雄
営農経済部長
 JAの施設として特徴的なのが、平成9年に完成した集約倉庫(米麦品質向上物流合理化施設)。生産者が収穫、乾燥した米をバラで受け入れる施設である。JAではばら出荷を支援するために「通い袋」を無償で貸し出し、生産コストの低下と集荷率向上に役立ている。
 集約倉庫には食味計も導入されている。
 今年からは試験的に食味計を活用して米の区分管理を実施することにした。
 「そもそもばら集荷した米をこの施設でパッケージし直している。それならばたんぱく含量で区分して集約し均質化したロットをつくればいい、と考えました」という。今年は試験的にたんぱく含量で2グループに分ける方針だ。
 さらにJAとしては生産者から提出された生産履歴と照合して、たんぱく含量が低い米はどのような栽培が行われたのかを把握、生産者に情報をフィードバックして栽培技術の向上に役立てていく。
 「生産履歴は単に安全性の確保だけではなく、品質向上にも役立てるデータとして考えるべき」と森木部長は話す。

◆米の用途、機能などで生産者部会を再編

 品種はコシヒカリとひとめぼれが主力だが、管内ではそのほか多くの品種が作られている。
 「ただ単に品種を絞り込むという発想でいいか。主力品種以外でもニーズに見合った生産規模など体制が整えば売れる米づくりになる」という。
 家庭消費用だけではなく今後は業務用への対応も課題となっており、契約栽培など販売形態の面での対応が必要になることも考えられる。
 こうしたことから、生産者組織をひとつの水稲部会として組織するのではなく、品種別、用途別といった米づくりの特性に合わせて再編することも検討するという。現在、200ヘクタールほど作付けがある酒造好適米では酒米部会があり、また、県内に種籾を供給する生産者は種籾部会をつくっている。今後、主食用米づくりでもそうした機能別に生産者部会を作り直すことで営農指導も効率的になると考えている。

◆アンテナショップが意識改革を促進

 市場ニーズに合った米づくり、あるいは生産履歴記帳の必要性について「生産者にどう理解してもらえるか、情報伝達が非常に重要になっている」と森木部長は強調する。
 JAでは年に数回、営農指導員によるあぜ道相談会を開催しているが、そうした機会に、栽培技術のみならず流通、販売の現状についても積極的に話すことにしているという。
 生産者、JAともに意識改革が課題だが、それを促進する取り組みとして好影響をもたらしているのが、平成13年からスタートしたアンテナショップ開設とインショップ形態での直売事業だ。
実りの秋。今年は天候不順で収穫がやや遅れている(写真/JA三次提供)
実りの秋。今年は天候不順で収穫がやや
 遅れている(写真/JA三次提供)

 いずれも店舗は広島市内。アンテナショップ「きんさい館」とスーパー、生協、百貨店合わせて9店舗にインショップコーナーがある。
 一日2回、三次から広島に野菜や果物、加工品など生産者が出荷したものが各店舗に届けられる。
 米の直売は生産者直売ではなくJAに出荷されたものを販売しているが、そのほかは生産者自らが価格をつけて売る。現在、出荷者は702名。この2年の間に店頭に出かけ消費者の反応、売れ行きなど視察する機会も作った。ふだんは夜、各店の店長のコメントをつけた売り上げ情報が各会員宅にファックスで送られてくる。
 「この事業はJAへの結集力を高めたし、どのような農産物が売れるのか、価格も含めて市場の反応を肌で感じる生産者が増えたことが大きい。米も野菜などと同様に市場から求められているものを生産する必要があることへの理解が広まってきているようだ」と森木部長は評価、今後は「集約倉庫の活用などにより品質管理がしっかりされている産地として評価を高め、安定的に完売できる産地、がわれわれがめざす方向」と話している。 (2003.9.19)


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