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特集:第23回JA全国大会特集 改革の風を吹かそう |
インタビュー 長谷川 久夫 (社)日本農業法人協会会長・(有)みずほ代表取締役 |
木南 最近、農協のあり方についてさまざまな提言がなされていますが、長谷川さんご自身あるいは大規模経営、法人経営の皆さんは、農協をどのようにみておられますか。
長谷川 時代に即した農協組織のあり方が問われていると思います。問題は、時代に即応していない部分はなにかということです。農協改革への提言で「競争」ということがいわれていますが、大事なことは「価格」と「量」の競争になり「質」が忘れられていることです。質の競争をするために、農協が営農指導をキチンとやり、組合員を自立した経営者にしていくという視点をもつべきです。例えば米の場合、生産コストに関係なく、作れば相手が価格を決めてくれてそれなりの価格で売れました。だから農家自身が経営者たりえなかった。しかし、米政策も社会のニーズに合ったものになってきているし、消費者も質を求めていますから、質のいい農産物を作る自立した農業者を育てないで、価格や量の競争だけをやっていては、消費者は離れていきます。 いま国民1人が年間平均60kg米を食べていますが、米代を1日100円出してくれれば1年で3万6500円となり、1kg600円の米ということになります。農家の諸々の経費が30%とすると約3万円くらいが手取りになるので、米農家でも生きられるわけですよ。ところが、1s600円の米は高いと消費者に感じさせている要因があるわけです。それは従来の販売のあり方が米政策の上に胡坐を欠いて、生産者の自己主張と自己責任を問わなかったからです。 ◆違いが分かればモノは動く
木南 「みずほ」を経営されていますが、消費者の求めているものをどう感じていますか。
木南 いろいろな消費者がいて選択しているわけですね…。 長谷川 消費者は違いを求めているんです。どの米を食べても米は米だけれども、魚沼産の米が爆発的に売れるのは違いがあるからです。違いが分かるからモノが動くんです。農協の指導はどうしてもロット・量だけを追ったから違いが出てこない。一元出荷は効率面からみれば意味があったかもしれないが、消費者からみれば違いが分からないからマイナスだし、リピーターになりえなかった。そして努力した生産者は報われない…。 木南 だから、量の競争から質の競争にいくべきだと…。 長谷川 量を求めたのは消費者ではなくて、量販店などの販売業者が品切れを恐れたからでしょう。そして、消費者はいつでもあるという錯覚に陥っているわけです。日本人は農耕民族ですから、生産することでお互いに生活するという原点をもう1度考えるべきではないですか。産地間競争という名の下にそういうことが忘れられ、消費者が離れていったわけです。CVSは、米を商品としてキチンと位置づけ、おにぎりの質を求めたから、ここまで伸びたと思います。そうでなければ、ここまで伸びなかったと私は思います。 木南 CVSのおにぎりはけして安くありませんね。 長谷川 消費者は安いものは必ずしも求めていません。安心で美味しいものを求めているわけです。 木南 時代は変わった…。 ◆販売事業が伸びなければ農家は豊かにならない 長谷川 昭和30年代までの食糧難の時代をいつまでも引きずることはないわけです。「継続は力」というのは間違いだと思います。「時代に即応した進化」が力ですよ。 ◆「農業は環境産業」を前面に 木南 そうすると産地間競争という問題がでてきますね。 長谷川 量の産地間競争ではなく、質の産地間競争をするべきです。同じ作物であっても産地ごとの質を問うべきなんです。どんなに優れた農業者でも作物を作ることはできません。農業者にできることは、その作物が育つ環境づくりなんです。だから農協は「農業は環境産業だ」ということを打ち出すべきです。農畜産物を育てやすい環境は、そこに住んでいる人にとってもいい環境ですね。だったら消費者は応分の負担をすべきだと思います。「これだけの米を作るには1kg600円かかります。1日100円の負担でこれだけの環境が維持できるんです」と消費者に強烈に訴えるべきだと思います。そのことで、買ってもらえる農産物から、売ってやれる農産物になる…。 木南 環境を前面に出していくことは地域ごとの違いを出すことでもあるわけですね。 長谷川 同じキャベツでも産地が違えば環境が違うのだから、味も質も違って当然だというコンセンサスを得られるように農協が一丸となって取り組むべきだと思いますね。 なぜ農業者が無登録農薬を使わざるをえなかったかといえば、使わざるをえない状況があったからですよ。それは、価格と量のみを追いかけたからです。雪印があれだけの問題を起こしたのも価格だけを追ったからで、質を問うていたら起きなかったと思います。そのことを農家にも消費者にもしっかり分かってもらうことが農協の仕事だと思いますね。 ◆画一化ではなく適地適作適材適所が基本 木南 みずほを始められて10年以上経ち、つくば周辺でもいろいろな動きがでてきていますが農協からの反応はどうですか。 長谷川 基本的に同じ農業者ですから、敵対することはなにもないわけです。いままでの農業界にはなかったことですが、互いに切磋琢磨すればいいんです。他の産業ではそうやって伸びてきているわけですし、農業法人はやってきています。そして、規模の大小ではなく、1農業者として再生産でき生活できればいいわけですから、互いに理解し合い議論することだと思います。議論することが農村社会では少なくなってきていることが問題です。議論をしなくなったから仲間がいなくなったんだと思いますね。 木南 議論する場をつくることに汗を流せということですね。 話は変わりますが、資材の価格が農協は高いといわれますが、本当に高いんですか。 長谷川 例えば肥料の場合、単に窒素・りん酸・カリと表示するのではなく、どういう窒素なのかをキチンと表示すべきです。そしてこの土地でこの作物を作るならこの肥料がいいという情報を提供すべきです。それをしないから、単に高い安いという話になってしまうわけです。これは資材などでも同じことがいえますね。 木南 農業者が判断できる材料を提供するということですね。 長谷川 そうすれば農協の経営が楽になると思いますよ。 木南 そういう点を変えていけば農協の経済事業に改善の余地があるといえますね。 長谷川 ありますね。金融、共済、営農のなかで農協がプロになれるのは何かといえば、唯一、営農活動ですよ。その長所を伸ばすことで、欠点がみえなくなると思いますね。 木南 農業者にもいろいろな人がいるなかで、どう農協が舵をとればいいと思いますか。 長谷川 基本的には適地適作適材適所だと思います。画一的にやろうとしたから問題が起きているわけです。その地域にとってマイナスは、他からみればプラスなんです。そういう発想の転換が必要ですね。その地域地域でそこにあった農協の形態があっていいと思うし、画一的に全国同じ形態にすべきではないと思いますね。 ◆人づくりが大事――農協は教育分野に踏み込むべき 木南 そのなかで生産者を育てていく… 長谷川 日本の農業者の悪い点は「門前の小僧が習わぬお経を読む」という世襲制にあるといえますね。習ってキチンと経を読ませるべきです。そのためには、農業も免許制にして、農外から入りやすい制度をつくればいいと思いますね。これからの農業にとって人づくりが大事だから、農協が教育分野に踏み込むべきだと思いますね。各県にある農業大学校が有名無実になっているので、これを改革して経営者教育をするとか、それができるのは農協しかないと思いますね。 木南 最後に、これからの農協との関係について一言お願いします。 長谷川 法人と農協は敵対する組織のように見られがちですが、同じ環境で農業をする農家の組織だから互いに切磋琢磨できるような場をつくりあげて、どういう方向をめざすのかを議論すべきだと思います。そのために、農協側も法人側も門戸を開くべきですね。 木南 ありがとうございました。
(2003.9.29) |
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