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特集:第23回JA全国大会特集 改革の風を吹かそう |
インタビュー
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日本からコメがなくなる?という危機感を動機に 映画人は農業のテーマは苦手 −この映画の意図やテーマなどのあらましを、改めてご説明下さい。
斎藤 農業は今の日本が抱えている大きな問題なのですが、真正面から取り組んだ日本映画は意外に少なく、主として興行的な面からか手を付けないで避けています。でも誰かがやらなきゃいけないということで、現場のありのままを映画的に面白く見せて関心を高めようと考えました。それが農業の元気づけになればよいのですが。とにかくモデルとして格好の人物と出会ったものですから、そこを話の切り口にしました。やって良かったと思っていますが、しかし取り上げたい農業問題が次々にいっぱい出てきましてね。 −間もなく完成ですね。 斎藤 映画は稲刈りが終わって、めでたしめでたしといった流れではなく、主人公たちに芽生えた精神的な変化が、ある方向性を見出したということで終わります。決定的部分は、若者たちが農業を超えて、人間として成長していく過程に自分の育てた稲の成長が非常に影響し、教訓を与えたというシーンです。 農家の主婦に憧れて −ストーリーは稲の成長と同時進行ですが、撮影のほうは2年越しですね。
斎藤 やはり映画は手間暇がかかるものです。負け惜しみでいうのではなく、繰り返したことで、より丁寧に撮れたということになりますか。この前、ラッシュを見たスタッフの一人が「一年間の同時進行で撮るものは結局2年かけなきゃ完璧なものが撮れないんですね」としみじみもらしました。四季の変化は待ってくれません。 −ご苦労が重なったと思います。
斎藤 この前は雨ばかり続いたころ、水がなくて困るというシーンを撮りました。田んぼの泥が干からびて見えるように技術が細工しました。いろんなことがあります。 −「大日本生き残り隊」という冗談めいた名前の新規就農者グループが描かれていますが、隊長である百姓の妻の役が浅茅さんです。こんな役は初めてですか。 浅茅 そうです。本当にうれしい役どころです。私自身、土を耕すことが大好きで、日焼けや手の汚れや爪の間に土が入ったりすることが全然苦にならないのです。家庭菜園もやっていました。私の中には農家のおかみさんに対するある種の憧れみたいなものもあるんです。甘いかも知れませんが。土の中に根を張る植物、言葉を持たない生き物と向かい合っている生活にすごく魅力を感じます。 −夫の役は俳優ではなくて地元のフォークシンガーの方だそうですね。 斎藤 いや須貝智郎さんといい、本職は百姓です。農業に誇りを持ち、決してマイナーにならない明るくてタフな人です。私は最初、そこに、ある方向性を見つけて彼をクローズアップしました。 浅茅 シンガーソングライターの顔を持つお百姓さんといえばよいかと思います。 題名変更のいきさつ −浅茅さんから見た斎藤監督像はいかがですか。ご本人の前ですけど……。 浅茅 斎藤 あうんの呼吸というかな。 浅茅 監督の音楽の趣味はジャズですが、私の父の趣味もジャズやポップス系で、その影響から、身に付いたリズム感が監督と合うのではないかと思います。 −出演者は実に多彩ですね。 斎藤 これまでは、映画会社に所属していた頃は制約の中で撮ってきましたが、今回は私の個人のプロでやっておりますので、写真は自分のねらい通り、キャスティングは自分のねらい通りにと、まず浅茅さん、ベテランでは日活時代からの仲間・松原智恵子さんに頼みました。彼女は最も農業に縁のない人で、浅茅さんとは対照的です。 −物語の舞台となる山形県置賜地方については。 斎藤 県全体が映画の後押ししてくれますのでロケ地も広げています。1年目は人間と田んぼのドラマを中心に撮りましたが、2年目には大自然のドラマがカメラに入ってくるようになりました。 −当初、題名の予定は「ARCADIA」。昔のギリシアの地名で「理想郷」を意味しました。それを「おにぎり」という題名に変更されたのは、どうしてですか。 斎藤 「おにぎり」はインパクトが強く、日本的なので最初から有力候補でした。しかし地元の方の中には、イギリス人旅行家が昔、置賜地方の美しさを「東洋のアルカディア」と称えた形容に愛着があります。しかし一方で、公認のおにぎり第1号は山形のものです。さらに学校給食におにぎりを初めて採用したのも山形です。 ご飯がないと寂しくて 浅茅 日本人には「おにぎり」と聞いただけで、わっと湧くものがあり、いろいろな具を包んだり、巻いたりした懐かしい思い出もありますからね。今でも私の常備食といってもよいくらいです。 斎藤 それに、どこかユーモラスでしょ。営業面でも印象が深いと思います。 −浅茅さんはテレビの料理番組にも出演され、造詣が深いと聞きますが。 浅茅 いえいえ、素人の趣味的なものですけど出させていただいています。 −おコメをベースにした日本食というものについては。 浅茅 私はご飯がないと食がさみしくって仕様がないんです。ご飯は日本人の生活の基本だと思います。また、おにぎりはコメのうまさが一番実感できる調理法だと思います。ちょっと勉強したことですが、コメさえ食べていれば栄養失調にはならないって。すべての栄養分が含まれているからで、菜食主義者が健康なのはコメを食べるからだとのことです。 私はタイトル変更を大決定打だと思います。これで半分以上は成功したのではないかと思います。 斎藤 この映画の内容について、農業をつらいもの、くらい話と捉える作品ではないかと危惧する人が山形にもまだいらっしゃいますが、私はそうじゃない、今度は明るい農業映画、農業に希望が持てる映画なんだと説明に回っています。 浅茅 脚本を読み直すたびに随所で笑います。ほんとに面白い脚本です。 −ところで、来年は国連の「国際コメ年」で世界各国が「コメはいのち」とコメの重要性をアピールします。この映画の上映開始は絶好のタイミングです。 斎藤 そうですか。ぴったりですね。驚いたな。2年越しになったけど。 浅茅 本当によかったですね。 家庭菜園にも感動が −コメを映画のテーマに選んだ思いをもう一度お聞かせ下さい。 斎藤 日本人の主食であるコメを作る農家の方々と話をすると、先行きの見方が暗いのですよ。これでは日本からコメがなくなっちゃうんではないかという危機感を持ちました。そこで具体的な解決策の話は後にして、とにかく意識革命をやって若者を農業に戻したいということで映画を一度撮ろうと考えました。そんなことで青春映画ともなっています。 −浅茅さんは今も家庭菜園を作っていますか。 浅茅 いえ、今はマンション住まいですから。以前の1戸建てでは庭にトマトやナス、キュウリ、ダイコンと全部私が作って楽しんでいました。小さな種子や双葉が大きくなって自分の口に入る作物ができたという収穫の喜びと感動はかけがえのないものだと思います。
(2003.10.1) |
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