農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:第23回JA全国大会特集 改革の風を吹かそう
    農と共生の世紀づくりのために

提言
危機、されど盛り上がらず
大会議案の審議経過を見て

先ア千尋 ひたちなか農業協同組合代表理事専務

◆ほんとうに開かれた大会か

先ア 千尋氏
まっさき・ちひろ 昭和17年茨城県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。全販連、群馬県永明農協、水戸市農協、瓜連町農協、瓜連町長を経て現在ひたちなか農協代表理事専務、鯉渕学園、茨城県立農業大学校講師、茨城大学地域総合研究所客員研究員。著書に『農協のあり方を考える』(日本経済評論社)、『農協の地権者会活動』(同)、『よみがえれ農協』(全国協同出版)など。

 かつてない危機の中で、今回の農協大会が開かれる。危機とは農業の危機であり、農協の危機である。関係者はその危機をどれだけ深く認識しているのだろうか。
 私は、今回の全国大会議案(組織協議案)についてこれまでに私見を述べてきた(『全酪新報』03年6月10日、7月10日、8月10日号、本紙7月1日号)ので、重複は避け、今何が問題なのかを整理してみたい。
 議案は、今回の大会を実践する大会、開かれた大会にし、改革を断行する、とうたっている。実践するかどうかは今後の課題であるので、後段の開かれた大会なのかどうかをまず検証しよう。
 私は、今回の議案審議がどう進められたのか、農協や県連からどのような意見が出されたのかを農協全国連と県中の関係者に聞いたが、確たる答えは得られなかった。ベールに包まれた密室での作業としか思えない。念の為、全中のホームページを開いて見た。JA改革推進会議、経済事業改革、米改革などは出てくるが、今回の農協大会に関しては、プレスリリースの中に、組織協議案の概要(4/3)と大会への一般参加者の募集(9/1)が載っているだけである。議案そのものも、審議経過も分からない。知ることもできない。ちなみに、私のいる茨城県では、県大会の議案に対して、各農協などから400以上の意見が寄せられ、各農協に配布されている。
 私は、農水省の「農協のあり方についての研究会」に対してもその進め方、内容に異論を述べてきたが、研究会の会議資料や議事録が農水省のホームページで公開され、また農協改革ボックスにも多くの意見が寄せられ、我々がそれを閲覧できるということを評価する。農水省の施策や法律案に対しても、どれだけ通るかは別にして、パブリックコメントという形で私たちは意見を述べることができる。
 しかし農協界では、今回の大会議案の審議過程がまったく不明朗であることひとつとってみても、とても「開かれた大会」であるとは思えない。「情報公開を通じて組合員・地域住民からの理解を得つつ、自主・自立の民主的運営を行います」と書いてあるけれども、このことは大会が終わってからのことなのか、とためいきが出てしまう。
 今回の大会原案について、これまでに農業、農協関係の新聞雑誌にかなりの論評、意見、感想が出されている。しかし、農業生産者や農協の役職員、すなわち農協現場からの意見はほとんど見られない。また、大会関係の記事が一般紙・総合雑誌に出てこない。それは何故なのだろうか。
 それを解くカギとして、私は岩手県西和賀農協・細川春雄専務の次の表現を引用したい。「(農協に)大会組織協議案がおりてきて、理事会で討議することになったが、討議にならない。だれも読まないのである。いや、読めないのである。(中略)大会草案というのはえてして無味乾燥なものであるが、普通我慢して読む。しかし、この文書には、なぜか心が感じられず、読む気がしないのである。ロボットの語る機械語の語感だ」(『文化連情報』03年9月号)。
 おそらく、大半の農協組合員は農協大会が開かれることを知らないか、知っていても「オレにはカンケイないや」と思っているのではないか。農協の役員や職員も、細川専務の言うように、見たとしても読む気がしない。だから、感想、意見も出てこない。こうした雰囲気の中で今月10日には全国大会が開かれるが、大会が終わってから、誰が書いたか分からない、心がこもらない決議を実践することなど考えられないではないか。
 農協陣営内部でさえそうなのだから、マスコミ一般が関心を示さないのは当然のことである。
 今回の農協大会原案に対するこれまでのコメントを私が見た範囲で整理してみると、農水省のあり方研究会の報告書とほとんど同じ内容である、生活活動の位置付けが弱い、連合会組織の役割を過小評価している、BSE問題、一連の偽装表示、不正表示など食の安全性を揺るがしたことについての反省が弱い(ない)、食と農の距離をどう縮めるかをもっと具体的に書くべきだ、農協運動の原点の確認をする必要がある、農協の置かれている環境、時代の変化の認識が不十分、切迫した問題意識や緊張感がない、農協の特徴である組合員組織をどう活用しようとしているかが見えない、「選択と集中」とは所詮赤字部門の切り捨てではないか、など多様である。

◆農協は何をすべきか

 私は、それに加えて、この決議が実践されると、組合員農家の暮らしがどう変わっていくのか、良くなっていくのか、という視点を持つことと、農協の日常の活動や運営の中で組合員の役割を明確にすることが必要である、と考えている。それは、農協は誰のために、何のためにあるのか、私たちが農村社会で暮らしていくのに協同活動は何故必要なのかという原点に立ち返ってものごとを整理してみたら、ということでもある。
 山口一門さんはかって「農協の協同組合としての事業活動は、その行為の発生のプロセスからみても、農民の営農なり生活の路線上に発生する。問題の解決、期待や願望の実現が自己完結では不十分であるか、不可能な部分を協同活動によって処理していこうとしたものが事業であり、当然すべての事業は、組合員の営農と生活の延長線上に仕組まれたものであるべきはずのものである」と述べていた(『農協と営農指導を考える』、全中)が、このことは今日でも農協と組合員の関わり方を考えていくベースになる、と私は考えている。
 戦後の民主化政策の一つとして農協が誕生して50年余。社会経済情勢の変化の中で、農業の地位は大きく後退し、大半の農家は農業だけでは生活ができず、国の農産物の自給率も40%にまで落ち込んだ。その責任を農協がひとりで背負う必要はないが、農家の営農、生活上の問題解決、期待や願望の実現のために、農協そして個々の組合員はこれまで何をしてきたのだろうか、そして何をしてこなかったのだろうか。「農家のための農協ではなく、農協のための農協になってしまっている」と国に言われて、私は平気ではいられない。

◆組織討議は生かされたか

 さて、「組織討議」の結果、大会議案はどう変わったのだろうか。識者のコメントは活かされたのだろうか。
 まず、農協の役割については、「JAグループのめざすべき方向」の冒頭に「JAの運営と事業活動は組合員が主体です。組合員に貢献することがJAの本質的役割であり、JA経営理念の基本です。事業運営にあたっては、JAへの結集をはかり、良質で高度なサービスを低コストで提供し、組合員の所得向上につとめていきます」という文言が挿入された。当たり前のことが当たり前に書かれているが、素直に評価しよう。
 問題はこれまで進めてきた農協の活動、事業に対する総括である。あり方研究会の報告書では、偽装表示事件を始めとする不祥事は農業者に対する背信行為である、組合員のための組織ではなく、組織のための組織になってしまっている、合併で規模が大きくなったが、それに見合った運営ノウハウが未確立だ、消費者ニーズを踏まえた農産物販売になっていない、などの問題点を指摘している。これに対して大会議案では、課題として「食の安全・安心を揺るがす事件」など指摘されていることに関連する項目を五つあげ、取組み結果を羅列して掲げているだけで、何故そうなってしまったのか、誰の責任なのか、どうすれば改善されるのかなどにはまったく触れていない。
 農協はうそをついてはいけないということは、ロッチデール以来の協同組合として守るべきモラルだが、近年に農協陣営が相次いで不祥事を起しているということは、一担当者、一農協だけのことではなく、農協全体の体質に由来する。そしてその根っこはもうければいいという市場主義、競争原理にある。一方で市場主義を批判し、「共生」をうたいながら、市場主義から生じた不祥事について、「食の安全性への対応が急務となっています」と他人事のような表現で済ましてしまっている。しかし国民の食料供給を担う農協が、ここできちんとした総括をしなければ、今後もまた同じことが起きるであろう。

◆重視すべき組合員組織

 この点では、1970年の農協大会で決議された「生活基本構想」にある「農協運動の反省」という総括が今でも有効である、と私は考えている。そのエキスの部分を引用しておく。
 「農協が、その基盤である農業者、農業、農村の変化に対応できず、しかも企業との競争にうちかてず、組合員に利益と便益をもたらしえなければ、その存立さえむずかしい」。
 「(農協の)事業が運動として展開されるためには、構成員が協同して企画し、協同して活動に参加することが基本であり、構成員の間の人的結合が前提となる」。
 「組合員の意思にもとづく企画、活動への参加がうすく、役職員が組合員を顧客としてとらえたり、組合員が農協を他の企業と同列視したり、連合会が農協を事業推進の対象としてのみとらえるのでは、それは農協運動の実態をそなえているとはいえない」。
 これらの指摘以外にも、経営能率の向上、質的向上の目標設定、総合機能の発揮、生活活動の積極的展開などについて触れており、今日でも充分に通用する分析がなされている。そしてここには、農協と組合員とを分けてしまう「組合員の負託に応える」というような考え方が入り込む余地はまったくない。
 農協という組織が他の企業と決定的に違うのは、農協には組合員の組織活動、協同活動があるということである。農協の優位性はそれしかない。農協はこれまで生産部会、女性部などの組合員組織による協同活動によって支えられてきた。今日でも、モデルといわれる農協はこれらの組織がフルに動いている。生協の班活動も同じであり、生協はその特性を活かすことによって急成長を遂げてきた。これらの組織活動は組合員の無償労働であり、これを職員が担えば、コストは高くなる。
 しかし現在では、各種の事業推進で分かるように、組合員と農協職員とのつながりが一対一の関係になってしまっている。そうなれば、組合員にとっては価格やサービス面で農協が安いか高いか、親切かどうかなどが判断基準になる。農協が自らの優位性である協同活動、組織活動を放棄してしまって、企業と同じレベル、土俵で競争していいのだろうか。
 大会議案を見ると、「JAグループの重点実施事項」の最後に、「協同活動の強化による組織基盤の拡充と地域の活性化」があげられている。そして具体的な項目として、組合員組織の活性化と結びつき強化、組合員ニーズに応じた取組みと組合員加入促進、食と農を軸とした地域の活性化と食農教育の展開などを打ち出している。
 字面だけ追えば、まったくその通りなのだが、農協はこれまで手間暇がかかる割にはカネにならないこれらの活動を避けてきた。ホントに出来るのかなと考えてしまう。
 私は環境問題に関心ある市町村で構成している環境自治体会議の活動に関わってきたが、議案にある食と農を軸とした地域の活性化や、農地の多面的利用と景観を保全するまち・むらづくりなどは、既に東京都日野市、山形県藤島町、埼玉県宮代町などで農業基本条例や人と環境にやさしいまちづくり条例の制定、農を活かしたまちづくりなど、それぞれの地域にあった取組みがなされている。各地のまちづくりの事例を見ると、むしろ農協の方が遅れているのではないかと思う。
 この項目の最後に、安心で豊かなくらしづくりがあり、生活活動の整理と重点化があげられている。その内容は、事業収支を重視し、何をやるかを選別しなさい、ということである。このくだりを見ていると、筆者は農協の生活活動とは何なのか、これまでに生活活動が果たしてきた役割を知らないのではないか、と思ってしまう。
 これ以上細部について触れられないが、総じて、議案をまとめるにあたって、寄せられた意見はほとんど反映されなかったのではないかと思える。
 現場にいる我々はやはり自らが処方箋を書かなければならない。  (2003.10.8)


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