農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:第23回JA全国大会特集 改革の風を吹かそう
    農と共生の世紀づくりのために

JAグループに望むこと
「農協よ、逆風に負けるな」
協同組合の「原点」強調を

小倉修悟 日本生活協同組合連合会会長
田代洋一 横浜国立大学大学院教授

 生協と農協の協同組合間提携をさらに強める立場から、田代教授は▽農協規制▽経済事業改革▽食の安全性▽組合員とのコミュニケーション▽職員の士気の問題などについて小倉会長の見解や意見を聞いた。会長は生協の取り組み経験や今後の方針を語る中で、農協改革への多くの示唆を与えた。また会長は「農協よ、逆風に負けるな」と力強いエールを贈った。さらに食の安全性ではJAグループのトレーサビリティについて消費者と一緒に推進していくプロセスが非常に大事だと強調。それは日本農業の大きな強みになるものと期待をかけた。

◆規制強化論への対応

 田代 財界サイドは農村を新たなビジネスチャンスとみて、農協の事業活動を封じるために、農協の規制強化を主張しています。具体的には、独禁法の適用除外の廃止、信用共済事業の分離、員外利用規制の強化などです。それに対して生協陣営もかつては生協規制、とくに出店規制等の激しい攻撃を受けましたが、それをみごとにはね返して発展してきた経緯があります。

小倉会長
おぐら・しゅうご 昭和18年旧満州で生まれ岡山県で育つ。岡山大学法文学部卒業。昭和44年灘神戸生協(コープこうべ)入所、平成3年同常任理事、9年同専務理事、11年同組合長理事、日本生協連理事、12年兵庫県生協連会長理事、15年日本生協連会長。

 小倉 協同組合の仲間としてざっくばらんにいいますと、農協さんには今、逆風が吹いていますね。しかし以前に生協が規制問題にさらされた時は、生協が大きくなり、強くなるのを遮る逆風でしたが、今の農協さんには“強くならないと困る”という批判があります。だったら強くなったら良いと思います。
 製造業を中心に経済界の人々は、グローバリズムとか市場主義経済が正しいという立場から農産物の関税が高いとか農業保護はいけないことだとかいっておりますが、農協としては、それに対して「すみません」という必要は少しもありません。

◆市場主義は正しいか

田代先生
たしろ・よういち 昭和18年千葉県生まれ。東京教育大学文学部卒業。経済学博士。昭和41年農林水産省入省、林野庁、農業総合研究所を経て50年横浜国立大学助教授、60年同大学教授、平成8年同大学経済学部長、平成11年同大学大学院国際社会科学研究科教授。主な著書に『新版 農業問題入門』(大月書店)、『農政「改革」の構図』(筑波書房)など。

 小倉 グローバリズムや市場主義経済は欠点を持っていると思うからです。そこをはっきり主張していくには、協同組合の原点を今こそ大いに強調すべきです。なぜ協同組合が必要かという原点をお互いにもっと語り合いたいと思います。
 コメの関税率が高い低いといった論議よりも農業の崩壊は地域の崩壊につながるといった関係もよく考えないとね。現に食生活や教育の崩壊も起きています。それがグローバリズムのやり方ならば、ダメなものはダメと胸を張って主張すべきです。
 生協規制問題の時も、我々は生協の役割や原点を正面から主張して対抗した思い出があります。生意気なようですが“農協さんよ負けるな”といいたい。
 自給率の問題も、あまり表に出過ぎると、世界の人々から見ると必ずしも良い返事が返ってこない面もありますから、協同組合の心というか、そういうものを前面に出して、世界的な飢饉があれば危機に陥ることなどを訴えれば良いと思います。

 田代 大変心強いコメントをいただきました。今回の大会の焦点は、農協の経済事業の改革ですが、生協も事業構造改革に取り組んでおられます。

◆やはり選択と集中で

 小倉 私はコープこうべの構造改革をする中で3つの基準による選択を重視して下さいといいました。1つは「それを組合員が望んでいるかどうか」ということです。農協でいえば、組合員がAコープ店舗を望んでいるかどうか、その地域の組合員から聞いてみることです。
 2つ目は、赤字か黒字か、赤字の場合は黒字になる見通しがあるのかどうかを関係者から聞くことです。
 3つ目は「同業者と比較して恥ずかしいと思うか、思わないか」を組合員に率直に聞き、自問自答もしてみることです。
 うち1つだけがダメという結果なら、何とか手だてを考えますが、2つがダメなら、その事業はもうやめましょうという選択基準を設けたのですよ。協同組合は組合員、地域、消費者のためにあるのだから、赤字を続けて組合員の財産を食いつぶすのは罪悪です。また“望まれていない”“恥ずかしい”という事業の続行もダメなんです。
 戦後、農協は大きな役割を果たしてきましたが、今のようなモノ余りの経済ともなると、やはり勇気を持って、それなりの選択をされ、アウトソーシング(業務の外部委託)なり何なりを進める一方、本当にやらなくちゃいけないコア(核)の事業に力を集中しないと、かえって組合員にご迷惑をかけるんじゃないかと思います。とにかくシンプル化しないと、なかなか黒字にはなりませんからね。

 田代 分かりやすい基準ですね。今回のJA全国大会議案も、「選択と集中」を強調しています。

◆組合員の参加参画を
インタビューの様子

 小倉 構造改革では、これしかありませんからね。私の場合は今申し上げた3つの尺度を使って改革をしています。

 田代 その場合、生協は何といっても組合員との対話を大切にしてきたと思います。農協の場合は組合員とのコミュニケーションが果たして十分かという問題がありそうです。

 小倉 単位生協のトップが見られる範囲は限られているためその範囲を生協の“事業”といい、組合員の参加・参画に任せながらやっていくのは“活動部分”といっています。その中に福祉や環境や、また子育てもあります。

 田代 とくに組合員との双方向的なコミュニケーションの工夫が各単協で試みられているようですが。

 小倉 コープこうべにはコープベルというのがあり、電話、ファクス、メールなどによる年間5万件以上のアクセスにすべて回答しています。また、それをデータベース化して常にニーズの傾向に合わせた事業を進めています。匿名のクレームに対しては店舗に回答を張り出しています。一方ではアンケート調査も実施していますが、とにかく女性の活動が生協の強みです。またインターネットメールは若い人が夜中でも送信してきます。

 田代 農協は若い人からアクセスがないのが悩みです。話は戻りますが、農協は自主マニュアルを作り、経済事業の赤字が続いたら別会社化するとか撤退なども考えています。

 小倉 それは生協も同様で、店舗では経常利益のマイナスが3年間続いたら店を閉めると組合員との間で決めているのですよ。しかし、すぐに閉めるのでは努力不足だから、それぞれ3年とか5年の経過をみます。

◆商品開発を次々に

 田代 
小倉会長
農協のAコープは苦戦しています。生協店舗に比べ商圏が小さいのが1つの難点かと思います。

 小倉 もう一つ、ほかのスーパーと違う“これだ”という商品がないと、先ほどの3つの基準による選択の結果“なくてもいい”となってしまいます。

 田代 Aコープにしかないという商品が欲しいわけですね。

 小倉 私どもは生協でなければ買えない商品をどんどん開発しています。

 田代 生協は組合員の声を聞きながら開発していく方針ですね。また事業連合、事業連帯というかたちで県域を越えたリージョナルな範囲での商品の開発・調達の工夫をしていらっしゃるようですが。

 小倉 主として日本生協連がまとめて一本でやるものが一番強いですね。中途半端な規模でやるとあまり育ちません。県域を越えた商品開発は生協としても大きな課題です。強力な連帯にしていくためには、自分が何もしないで、よそが何かしてくれる連帯ではダメです。“要求民主主義”や“ぶら下がりズム”になってしまいます。

 田代 事業規模という点で、農協合併についてはどう見ておられますか。

 小倉 株式会社じゃないから事業単位としての上限は生協の場合、組合員がJRの快速電車で会議などに出席できる生活圏の範囲を念頭に統合・合併を進める話し合いをしています。そうするとコープこうべほどの規模の事業連合が全国に10くらいできることになります。
 農協の場合、地産地消などの運動をしていますが、食品スーパーの大手や中堅と取引する場合、それでは供給量が足りない場合もあると思います。生協では事業連帯を進めて事業範囲を地方ブロックに広げる方向を目指しています。

 田代 生活圏の範囲、快速電車でいける範囲というのはたいへん示唆的です。生協の生活圏にあたるものは、農家や農協にとっては生活圏に加えて生産圏、産地形成圏ということになるかも知れませんが、よく考えてみる必要があります。

◆素材重視からの転換

 田代 
田代先生
ところで生協では個配が伸びていますが、その背景をどうお考えですか。

 小倉 東京で急激に伸びていますが、都心回帰で住民が戻ってきているのに最寄り店が少ない点があります。もう1つは女性の社会進出ですね。コメなどの重量商品は戸配を頼み、買い物を楽しみたい時は店舗に出向く傾向になっています。

 田代 最近では買物を楽しめる店舗づくりも進んでいるようですが。

 小倉 生協の店舗は素材重視型でしたが、今は惣菜とか中食にかなり進出しています。この辺を強化していく方針です。

 田代 前回大会から今回までの3年間で最も大きな問題が食の安全性です。農協も安全性をそこなう点で例外ではありえませんでした。生協陣営のお考えをお聞かせ下さい。

 小倉 食の安心安全は永遠に続く問題です。農協の新しいトレーサビリティ(履歴管理)は消費者と一緒にやる方式として大歓迎です。消費者も産地に出向いて記帳運動の約束事や基準をつくるというのはすごいことですよ。安心安全な農畜産物づくりは、そのプロセスが非常に大事ですからね。
 日本の消費者と米国の農業者が、そんなことを一緒にやれるわけはないし、それに国内の場合は味の課題も加わります。トレーサビリティは日本農業の一番強い方式ではないですか。それをやろうとすることは素晴らしいことだと思います。

 田代 「顔の見える関係」といいますが、「プロセスのみえる関係」というか、安全を追求するプロセスが透明になるということが大切ですね。

 小倉 面白いことがありますよ。生協と国の食品安全の取り組みの歴史を年表にして2つを並べますと、国のほうは生協より3、4年ずつ遅れて後を追っていることが見事に比較できます。そんなことでコープこうべの組合員も熱心に産地に足を運び、病害虫防除がしんどいことをよく知っています。だからフードプランの商品は有機や無農薬のものではありません。トレーサビリティを一緒にやれることは鬼に金棒といえます。

 田代 最後に事業改革といっても、事業規模の縮小になってしまうと、職員の士気にも影響します。

 小倉 やはり協同組合の理念を徹底的に勉強し直すべきですね。念仏のように理念を唱えても良いと思います。それをやらないと、生協もスーパーも一緒じゃないかなどと政府やマスコミにいわれたりします。

インタビューを終えて
 小倉会長は叩き上げの生協人という感じ。腰は低いが、おっしゃることは骨太。グローバリズムや市場主義に対して「協同組合の原点」を対置すべき、「念仏のように」協同組合の精神を唱えよという言葉は印象深かった。
 とくに興味深いのは、生協と組合員の双方向型コミュニケーションのあり方。コープこうべの場合、年間5万件の情報のやりとりが集積、分析され事業に活かされるという。総代会での質問、意見もほぼその範囲という。「組合員の負託に応える」「組合員の声を聴く」というが、そのためには農協も職員のゆとり、情報が活かされる仕組みが必要だ。
 生協の生活協同と農協の生産協同の違いもあるが、とくに事業やコミュニケーションの仕組みに立ち入った交流が進むことを期待したい。実は会長とは同い年。人生過ぎこしかたによってもこうも差がつくものかと、やや質問が萎縮した感が残る。(田代)

(2003.10.9)


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