農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:第23回JA全国大会特集 改革の風を吹かそう
    農と共生の世紀づくりのために

インタビュー
リテール競争の中で顧客基盤を拡充
JAバンクシステムへの信頼と評価高まる

大多和 巖 農林中央金庫副理事長
両角和夫 東北大学教授

 両角教授は、系統信用事業の収支基盤を確立するための戦略や、JA全国大会議案の柱である経済事業改革と信用事業の関係などについて聞いた。これに対して大多和副理事長は、貸出について住宅ローンなどのリテール戦略を強調。またJAが今後も大きな役割を果たしていくにはまず経営が成り立つことが大前提になると説いた。そして話題は米改革や農業法人育成などのテーマにも及んだ。

◆JAバンクの実績

 両角 最初に平成14年1月のJAバンクシステム立ち上げ以来の実績と、その中から出てきた今後の課題をうかがえればと思います。

大多和副理事長
おおたわ・いわお 昭和17年生まれ。京都大学経済学部卒業。昭和41年農林中央金庫入庫、営業第一本部営業第五部長、市場営業部長、証券業務部長、資金証券部長、総務部長を経て、平成10年常務理事、13年専務理事、14年代表理事副理事長。

 大多和 まず、最近の経済・金融情勢ですが、九月末の中間決算期は株価の一万円台維持で官も民もホッと一息といったところで、経済が回復過程にあることを思わせますが、一方で、デフレ状況の長期化や少子・高齢化、グローバル化の進展等さまざまな要因から本当に景気が底離れをしたのかどうか、まだ、みんな疑心暗鬼です。金融分野においては、ペイオフ全面解禁に向けた金融システム安定化のため、金融再生プログラムに沿って、主要行も地域金融機関も不良債権の最終処理や集中改善が求められており、この課題も引き続き大変大きいと思います。
 JAバンクシステムについては、スタートから約2年が経過するところです。このシステムの柱の1つは破たんの未然防止ですが、全国レベルで議論を重ねつつ、モニタリングや該当JAの資産精査など早め早めに対応を行ってきたものですから、お陰様で問題JAの経営改善取組みや自己資本比率改善など、色々な手が打てました。このため業界でも農協系統は前広に手を打ったとの評価があると聞きます。
私どもとしても、その成果は、JA貯金が対前年比1.9%程度伸びているということに表れているものと認識しております。つまり、ペイオフ全面解禁を控え、金融機関を選別する貯金者の目が厳しい中で、JAバンクシステムによる安全・安心が評価され、組合員・利用者から信頼されている結果だと思っています。
 JAバンクシステムの2つ目の柱は一体的な事業運営で、JA、信連、農林中金をあたかも1つの金融機関のように一体的に運営して、総合力を発揮できるよう取り組みを進めてきました。電算システムの一元化では、JASTEMシステムへの移行をすすめており、この10月までに17県の移行がなされております。
 このように、2つの柱はほぼ定着してきたと思います。
 次に、課題ですが、先程の経済・金融環境に加え、農業分野における自由化の進展、組合員の高齢化などJA基盤を揺るがす事態が進展しており、これらの影響からJA経営は長期的な悪化傾向をたどっていることです。JAの信用事業収支は事業利益の段階で、対前年比マイナスを続け、とてもこのような事態を放置することはできない状況です。このためには、JAごとの特性に応じた効率化によるコスト削減とローンを中心とした収益力向上策が重要な取組みになると考えております。また、ペイオフ全面解禁を念頭に、JAバンクシステムの一層の実効性確保の取組みもすすめていく必要があります。

◆生き残りをかけて

両角先生
もろずみ・かずお 昭和22年北海道生まれ。北海道大学大学院農学研究科修士課程修了。同年農林省入省。55年同省農業総合研究所へ出向、金融研究室長、農業構造部長を経て、平成11年東北大学大学院農学研究科教授(専攻:農業経済学、主に農業金融論、農協論、環境問題論)。最近の著書は『農協再編と改革の課題』(家の光協会)。

 両角 厳しい競争にうち勝っていく系統信用事業の競争力はいかがですか。

 大多和 設備投資など前向きな資金需要があまり企業にない中で、メガバンク中心に金融機関も従来通りの預金を集めて貸出をする形のビジネスモデルが描けず、従来の企業融資のスタイルでは収益を稼ぎにくくなっているのです。そこで金融機関はリテール分野に進出してきています。これは個人向け住宅ローンが代表的です。大企業向け融資は大口で、万一そこがつぶれるとリスクも大きいのですが、住宅ローンはそれに比較すると小口ですし、融資先も多くリスクが分散できます。
 また、企業融資に比べれば、住宅ローンの利ざやはまだ大きいのです。このため専門部署をつくって住宅ローンを推進するなど地銀あたりも目の色を変えています。
 その1つのターゲットが農村です。農村の混住化が進み、農家の息子さんで地元に残る人もいて賃貸住宅を含めた住宅ニーズが増えています。そこで他の金融機関も農村部に進出してきました。組合員への個人金融はJA本来の機能ですが、放っておくと浸食されます。昔ならJAの住宅ローンは例えば金利の競争力などの問題もありましたが、今は同等以上の競争力を持つ商品が提供できます。
 このように系統信用事業もリテール分野でがんばっていますし、さらに競争に打ち勝っていくための戦略も出していきたいと思います。

 両角 信用事業の伸び悩みは今後も続くのかどうか見通しとしてはどうですか。

 大多和 先程のとおり、信用事業がJAの経営を支えていくことは難しくなっています。各事業分野でそれぞれ努力するしかないのです。総合事業体の強みがあっても、トータルの決算尻で赤字を垂れ流していると組合員も大事な財産を安心して預けることができません。とにかく各事業で経営が成り立つことがJAの機能を継続的に発揮するための大前提です。もちろん信用事業も現状をよしとしているわけではなく、相当な危機感をもって安定的な経営基盤の確立に向け自ら改革を進めていきます。
 具体策としては、コスト削減を図るため、業務の選択と集中、事務の集約化・集中化、統廃合を含めた店舗機能の再構築、これらを踏まえた人員体制の見直しをすすめていきます。また、ローン業務については、住宅ローンを中心とした営業体制の強化、保証保険システムの再構築、業務・事務の集約化等による新たなビジネスモデルの構築等を検討しております。
 加えて、組織整備の取組みについても強化してまいります。昨年の宮城県信連との統合を皮切りに岡山・栃木との統合を実現し、今月は長崎・秋田、来月は山形との統合が予定されています。今後も県域の実情に応じた将来方向の明確化に向け踏み込んだ協議を行っていきたいと思います。

◆経済事業改革への取組み

 両角 JA全国大会議案に関して、経済事業改革に信用事業がどうかかわっていくのかお考えをお聞かせ下さい。

大田和副理事長

大多和 JAは総合事業体であり、オール系統として全事業で経営健全性確保に向けた取組みを進めることにより、JAやJAグループ全体の評価につながるものと考えています。経済事業改革が長年の懸案である部門別収支の確立を目標に進められることにより、総合事業体としての健全性確保が図られ、信用事業の利用者からの信頼も一層高まるものと期待しています。
 信用事業としては、JAバンクシステムとの関係や系統関連グループ会社等へのメイン融資機関として、十分協力・連携していきたいと考えています。

 両角 米政策改革は信用事業にどう影響しますか。

 大多和 食糧法改正により計画流通制度が廃止され、米の流通はより多様化・弾力化します。
 JAグループは、これまでの計画流通制度を前提とした全国一律の事業方式から、JAが販売戦略と生産・販売計画を主体的に策定するなど、販売を基点としたJAの取組みを基本とした米事業に転換することにしています。こうした動きに対応して、信用事業としてもこれまでの自主流通法人である全農に対する仮渡金原資の金庫一元対応から、販売を基点とした新たな資金対応の仕組みを構築していくこととしています。
 具体的には、米政策改革のもとにおける仮渡金の仕組みについては、JAを基本とした集荷・販売という考え方に基づき、資金対応についてもJAが自己資金で対応することを基本に、必要な場合には信連や農林中金が仮渡金原資を融資する仕組みも整備して、県域の実態を踏まえた方向を検討すること、としています。

◆農業法人対策も視野に

両角先生

 両角 中小企業金融の問題が社会の注目を集めていますが、農業関係の中小企業向け貸出についてはどのような取組みが行われていますか。

 大多和 JAが基盤とする地域の中小企業金融としては、農業法人貸出があげられます。農業法人は、個人農業者に比べて人材育成、後継者確保等の点で優れた側面を有し、有力な担い手になるものと期待されており、今後ここにどのように取り組んでいくかが課題です。
 従来の取組みを一歩進め、JA・信連・金庫が連携・補完しながら対応していく必要があります。
 また、昨年は農業法人育成のための投資育成会社であるアグリビジネス投資育成(株)がJAグループなどの出資で設立され、現在、きのこ生産、和牛肥育、野菜の生産・販売等を行う法人に対する投資実績があります。これらの機能も十分活用していきたいと思います。

◆新たな事業のモデル

 両角 地域の農業生産や農村生活をより活性化させ、地域の発展にJAが貢献するために、新たなビジネスローンを提供するなどといったお考えがあればお聞かせ下さい。

インタビューの様子

 大多和 まず、そのようなローンは、展望があって採算の取れる事業であることが融資の前提となります。そのうえで、地域や農村の活性化については、行政などと連携し、対応を検討していきたいと思います。いずれにしても、まず第一に担い手に対する農業金融対応として、相談機能の強化や資金メニューの多様化を図り、金融面からの育成・支援対応に徹底して取り組む必要があると考えています。
 最後に、JAが若い人たちをどうつなぎとめていくか、という大きなテーマを挙げておきたいと思います。カード戦略などJAバンクは色々なリテールの道具立てを持っていますから、それらを総合的に生かして若い後継者など次世代層とJAとの関係を強化していきたいと思います。

インタビューを終えて
 今回は、第23回JA全国大会の議案に関連する話題が中心であるが、私の主な関心事はほぼ次の点にある。1つは、JAの経営が悪化する中で、信用事業は果たして今後ともJAの経営を支えていくことができるのか。信用事業の今後にどのような展望を描けるか。2つは、総合農協という仕組みの中では信用事業と経済事業は今後どのような関係を考えればよいのか。信用事業はいつまで経済事業の赤字を補填する役割を果たすのか。そうした関係を根本的に見直す必要はないのか。もとより限られた時間でこうした重要問題を議論することは無理があるが、それでも一連の質問に率直にお答えいただいたことで、貴重なヒントは得られたように思う。大多和副理事長の回答の節々には、氏が堅実なバンカーとして経営問題に冷静に対処する一方、現実を直視し、柔軟な態度で今後の信用事業、そしてJAのあり方を懸命に模索している姿勢が窺える。私の強く印象に残るところである。

(両角)

(2003.10.14)


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