農業協同組合新聞 JACOM
 
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特集:第23回JA全国大会特集 改革の風を吹かそう
    農と共生の世紀づくりのために

現地ルポ
自らの手で地域農業の将来像を描こう
―JAがリードする水田農業ビジョンづくり―

均質な米生産で売れる産地づくりをめざす JA山口美祢(みね)

 JA販売事業の8割近くを米事業が占めながら、知名度も市場評価も高くないJA山口美祢は、卸売会社や量販店など実需者、消費者の「安心・美味しい」ニーズに合った「売れる米づくり」をめざして、「5つの約束」という“物語り”のある「金太郎飴戦略」を展開している。13年産米から始まったこの取組みは、県内消費者から支持され着実に生産者にも拡大してきている。そこで「金太郎飴戦略」とはどのようなものなのかを同JAに取材した。

◆均質な米を安定的に供給するために
JA山口美祢・地図

 本州の最西端・山口県の西部、長門中山間・北浦地帯に位置するJA山口美祢は、美祢(みね)市・秋芳町・美東町を管内とする広域JAだ。中国山地の端に位置し、県内では唯一海に面していないJAだが、JA販売事業の約77%を米が占めているように、稲作中心の農業が営まれている。しかし、「昔は防長(周防、長門)米は評価が高かったが、いつの間にか全国でも下から数えた方が早いという状況になってしまった」というように、知名度は低く、市場の評価も高いとはいえないのが現状だ。
 米を巡る情勢が「市場原理」が導入され大きく転換するなかで、生産者を守るためには売れる米づくりをしなければならないと同JAが取り組んでいるのが「山口美祢米金太郎飴戦略」だ。この金太郎飴戦略のキャッチフレーズは「育てよう! 晴るる坊やと美祢の米」。「晴るる」とは、コシヒカリを父にヤマホウシを母に、コシヒカリの食味とヤマホウシの光沢(外観品質の良さ)を併せもつ米として山口県農業試験場が開発した山口県独自の米だ。
 「売れる米」とは、「お米を製品にして流通させる卸会社、流通の大半を占める量販店・外食産業の要望を満たす米」。つまり、▼品種のロット(産地出荷量)が一定以上である▼品質にバラツキがない▼整粒歩合(お米の揃い)が高い▼玄米水分が適正である▼毎年安定した産地である▼産地の生産対策が明確である、という「実需者のニーズをキチンと把握して、情報交換しながら、産地対策に取り組むことで、均質な米を安定的に供給する」ことだと藤村茂樹営農販売課長。

◆「5つの約束」で生産者にメリット

 それを実現するための取り組みが「金太郎飴戦略」で、その目指すものは▼晴るるをモデルに、良質米品種への誘導▼一等米の生産(全量一等)▼整粒歩合の向上(80%以上)▼玄米水分の適正化(14.5〜15.0%)▼良食味化の推進(食味値80点以上)▼生産対策などの情報発信、によって山口美祢米の評価を向上させ、すぐに売れる米をつくることだ。
 そのための生産対策は
(1)秋鋤きとミネラルGまたはミネラルGFで土づくり
(2)薄播きと細植えで健康づくり(催芽籾150g/箱、田植えは3本/株)
(3)田植期間限定で一等米づくり(田植えは5月20〜30日の間)
(4)穂肥限定で良食味米づくり
(5)ライスセンター利用でブランドづくり、
という「5つの約束」の提示と徹底であり、これを守った生産者の米は、「金太郎飴生産晴るる」(9月24日に商標登録を取得)ブランドとして、玄米袋の場合には金太郎飴戦略のトレードマークを押印、精米の場合には全生産者の名前が印刷された精米袋でこだわり・差別販売される。約束を一つでも守れなかった生産者の米は、一般米として扱われることになる。
 生産者のメリットとしては、販売メリットとライスセンター(RC)利用助成合計400円/60kg程度が上乗せされ、さらにタンパク6.9以下、整粒歩合80%以上の米にはこれ以外に仮払金で1000円プラスされることになっている。

◆往復葉書で栽培履歴を確認 共乾施設ごとに部会を設立

 この取り組みは、平成13年産米でまずモデル地区で取り組まれ、14年産米から全地域で本格的に取り組まれるのだが、13年産米の段階からすでに生産履歴が情報開示されていることに注目したい。生産履歴の記帳はJAが配布する「栽培暦」に添付されていて、集荷時にRCで回収されるが、その時点で金太郎飴米なのかどうかの判断をするのは難しいので、田植え終了後の6月上旬と穂肥、病害虫対策が終わった8月下旬の2回「金太郎飴戦略ブランド晴るるづくり栽培状況調査票」を往復葉書で生産者に送付、栽培履歴を記入してJAに返送してもらい「5つの約束」が守られているかどうかをチェックしている。
 具体的な取り組みの経過は、13年産米は厚保地区で1616俵/60kgが生産され全量一等米の評価を得た。14年産米ではJA管内全域の341農家が取り組み1万1181俵が生産され、全量が全農山口県本部経由で瑞穂糧穀に販売され、県内のスーパーの店頭に並んだ。先行した厚保地区をモデルに、ライスグレーダーの網目を1.9mmに調整し、高品質米が確保できたこともあり、実需者からは高い評価をえ、ブランド米産地化に向けて大きな成果をあげることができたといえる。
 14年には6つの共同乾燥施設単位に「金太郎飴生産部会」を設立し、リーダーの育成と組織活動の活性化をはかることもにも取り組んでいる。
 15年産米では516農家(前年比158.8%)2万2650a(同170.6%)が取り組んでおり、1万7325俵(同159.5%)が計画されている。同JAの15年産全集荷予定数量は10万6000俵余で、コシヒカリが約44%、一般晴るる約22%、そして「金太郎飴生産晴るる」が17%弱、ヒノヒカリ16%弱となっており、「金太郎飴生産晴るる」のウェイトが高くなってきている。

◆10日に1回のほ場巡回もとに「きんたろうあめ通信」発行
10日ごとに巡回で生育状況が記入された指標田の掲示板
10日ごとに巡回で生育状況が
記入された指標田の掲示板

 豊富な情報提供も金太郎飴戦略の大きな特徴だ。指標となるほ場を7ヶ所選定し、10日に1回巡回し、稲の生育状況や病害虫の発生をチェックし、指標田の掲示板に栽培情報を記入して誰でも確認できるようにしている。この調査データをもとに年4回、その時期の栽培のポイントを「きんたろうあめ通信」として生産者に配布している。金太郎飴戦略に参加している農家の主要ほ場にはのぼりが立てられているが、これは「誰にでも参加していることを分かってもらうことと、そのことで農家の意識を高揚させよう」という狙いがある。
 田植え時期を5月下旬に指定するのは、「連休に田植えをすると出穂から刈り取りまでの一日の平均気温が高すぎて食味が落ちる」からだが、「晴るるは過熟すると胴割れすることが多く、他JAではそうしたケースが多い」ので、刈り取り時期が迫ると、営農指導員が巡回してのぼりに「刈り取り適期」の月日が記入された紙が貼付され、これに従って農家は刈り取りをする。そのことで、過熟による胴割れはないという。

◆JA役員が先頭に立ってスーパー店頭で販促活動
県内スーパーの店頭での販促にはJAの役員も参加
県内スーパーの店頭での販促にはJAの役員も参加

 「5つの約束」をもとにした栽培方法を徹底することで、均質で高品質な「金太郎飴生産晴るる」が生産され、14年産米では、同JA内のコシヒカリよりも食味値が高い米ができた。だが、それだけでは「米は売れない」。実需者や消費者に「安心で美味しいお米」ということを分かってもらえる「イメージ的な販売戦略」をどう展開するかが課題となる。
 精米袋に全生産者の名前が印刷され「5つの約束」を徹底して栽培している「金太郎飴生産晴るる」は「だれが、どのようにつくったという、“物語り”」がある。そして、その“物語り”は、栽培履歴などでキチンと裏づけされた間違いのないものだから、消費者に強い印象と「安心感」を与えることができるわけだ。
 同JAでは、販売専任担当者1名を配置し、ほぼ月1回のペースで県内スーパー店頭で“物語り”をPRし試食してもらう販売促進活動を行っている。これには組合長や各地区の役員も参加し、消費者の反応や意見を肌で感じ取ってもらっているという。さらに来年春には、アンテナショップを設置し、全国に宅配することも検討している。

◆共乾施設の米はすべて「金太郎飴」に

 15年産米までは、参加者を募って拡大してきたが、16年産米からは共乾施設を利用する「晴るるは全量、金太郎にする」という。そして「17年産米では、晴るるだけではなく、コシヒカリもヒノヒカリも共乾施設は金太郎でなければ受け付けないようにしたい」と、晴るるから他品種まで金太郎飴戦略を拡大する計画を検討している。
消費者に稲刈りを体験してもらうイベントも
消費者に稲刈りを体験してもらうイベントも
 実需者・消費者が望む米とはどういう米かを把握し、そのために何をしなければならないかを明確にして、それを理解し実行する仲間(生産者)づくりによって「金太郎飴生産晴るる」のブランドを確立。さらに「金太郎飴生産コシヒカリ」など、「金太郎飴生産」ブランドを拡大し、「売れ残らない産地」となることで、厳しい環境のなかで生産者にメリットを還元していこうとJA山口美祢は奮闘している。今年は、天候が悪くコシヒカリの作況は悪いようだが、晴るるは平年作で推移しており、今年も安心で美味しい「金太郎飴生産晴るる」が店頭に並ぶ日は近い。
 

(2003.10.17)

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