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特集:第23回JA全国大会特集 改革の風を吹かそう
    農と共生の世紀づくりのために

現地ルポ
自らの手で地域農業の将来像を描こう
―JAがリードする水田農業ビジョンづくり―

担い手づくりは集落営農が焦点 JAグリーン近江

 「売れるコメづくり」というよりは「売り切れるコメづくりを」とJAはグリーン近江米の生き残りをかけて品質向上に挑戦中だ。「構造改革だ、担い手づくりだ」といっても作ったものが売れなければ担い手は育たない。このためJAはコメ改革を転機として商品力と販売力を高め「販売を起点」に構造改革を展開する戦略だ。また担い手づくりでは集落営農を集落経営として育成していく。同JAは麦・大豆の本作化にも早くから取り組んでいる。

◆早くから集落に着目
JAグリーン近江・地図

 滋賀県は早くから集落営農を推進。「みんなでがんばる集落営農」をうたっている。コメ改革では、これをベースに水田営農の担い手を幅広く認めていく方針を9月下旬に打ち出した。JAグリーン近江も県の方針に合わせて担い手づくりに本腰を入れる。
 管内の集落数はざっと300。うち199団体がすでに「集落営農ビジョン」というのをつくっている。
 県は水田農業生産を維持するために稲作の協業化をねらって平成元年から集落営農の組織化を進めた。
 その手段として転作の団地化とブロックローテーションに機械化一貫体系を導入しようと補助金を交付。これを受けるために各集落がビジョンを策定した。行政主導の形でJAも集落営農に取り組み始めた。

◆いない農地の出し手

 しかし、その後の展開では、法人になった集落営農はまだ1つもない。担い手の明確化を1つの大きな柱とする今回の国の米政策改革大綱は、集落営農を担い手として認める場合「一元的に経理を行い、5年以内に法人化する計画など」を持つことを要件とした。
 だが同JA管内では一元的経理をしている集落も10団体ほど。これからすぐに一元化へと切り替えられるのも10団体ほどの見込みだという。合わせて約20団体が今度の担い手要件をクリアできそうだが、それはビジョンを持つ199の約1割に過ぎない。
 全国に先駆ける形で集落営農に取り組みながら、実態がともなわないという要因は、その1つに組織力のある人、リ
JAグリーン近江の本店(八日市市)
JAグリーン近江の本店
(八日市市)
ーダーシップを発揮できる人がなかなか育ってこないという点が挙げられそうだ。
 核となる人の説得力が弱ければ参画農家の理解を得にくい。また集団の組合長は無償のボランティアだから適任者を選びにくいといった難点もある。
 もう1つは、農家が個々に農機を持っていて手離さないこと。まだ十分に動く我が家の機械を使いたい、自己完結したいというのは人情だ。このため集団が補助事業で導入したコンバインが宝の持ち腐れとなり、作業料金収入が入らない。このため償却や積み立てが思うように進まないという状態にもなっている。
 最近は家庭の不要品を買うリサイクルショップや交換市が増えた。そこで「農家の農機処分にもリサイクルシステムが是非必要だ」との声も上がっている(JA営農事業部)。
 「JAには農機事業部があってもリサイクルまでは手が回らない。全国的システムが構築されれば良いのだが、せめて県レベルの交換ができないものか。農業法人などの需要もあるのだから」とのことだ。
 さらに3点目は、農地が集まらないことだ。大綱は「利用集積の加速化」に触れているが、水田は先祖代々の不動産だという意識は根強い。手放さない農家が多い。所有権と利用権を1元化しないと1集落1農場は実現できないといったところが現場の声だ。

◆モデル集団の特徴点
原 義夫 営農事業部 営農企画課長
原 義夫 営農事業部
営農企画課長

 集落営農の組織化をめぐるグリーン近江の悩みは全国共通の悩みでもある。
 だが「すでにモデル的な集落営農も10団体ある。そこは『売れるコメづくり』をしてくれるところで今後のコメ改革にとって大いに期待される団体だ」と営農事業部営農企画課の原義夫課長は展望を語る。
 複数のモデル集団の特徴点を要約すると、全員参加型であり、また1集落1農場型の協業経営だ。高齢者や女性それぞれの立場や持ち場を認め合ってやっているという。
 えてして主業農家などの“担い手”任せにすると全員参加型にならないケースも出てくるが、グリーン近江の各モデルは、兼業農家みんなが担い手となり、お互いに存在意義を尊重している。大型農家中心の集落営農ではない特徴もある。
 面白いことに10団体の参画農家には、それぞれJA職員がいて集落営農の核となり、仕掛人の役目を担っている。組織をまとめていくノウハウを持った人が集落にいるという点に10団体の共通点がある。

◆とぼしい経営的視点

 JAは平成13年から、いち早く「売れる農畜産物づくり」を掲げ、14年産米から独自の栽培ガイドラインによる栽培管理日誌をつける運動を展開してきた。
 集落営農のモデル団体はこの日誌の記帳を実行。またJA施設を活用し、すべての農産物をJAを通じて販売している。さらに一元経理では、翌年の再生産経費などを留保して利益を分配している。
 ところが、モデル以外の集落営農の中には留保をしないで利益をすべて分配してしまうところがある。これでは、コメが売れなくなってくると、経営組織体として成り立たない。
 こうした収支面からも今後の集落営農には「集落経営」としての立場が求められる。大綱も「集落型経営体」の組織化による担い手の確保を挙げている。
 さらに考え方では、コメ改革に対応する集落型経営体というよりは、もっと基本的に地域農業の持続を大前提にした集落経営のあり方を追求すべきではないかと原課長は指摘する。
 モデル的な集落営農にはたまたま核となるJA職員がいたという偶然性があるが、今後はJAとして、300の集落全体を視野に入れた担い手づくりを本格化する。その場合、「核」の職員たちとは違った取り組み方が必要となる。

◆認定農業者への対応

 そこをどう整理していくかが課題だ。「国県の取り組み方が見えてきたので、私個人の考え方としては、JAが営農という枠を超えて地域農業全体を振興していく独立の専門部署を置くと共に、担当者が直接集落に入り集落の意思を尊重する中で、経営体作りのブースター役やサポート役を果たす必要がある。経営体作りを具体的に進めるにあたっては、まずは集落のみんなで集落の「水田農業のあるべき姿」の話し合いをする必要がある。話し合う中身については、集落全体の利益(共益)についてであり、共益の追求を通じて担い手の利益(私益)の極大化をどう図っていくかについてである。この話し合いの場づくりとと誘導役をJAの担当者が務めるのである。この誘導場面にはJAの「販売戦略に基づいた生産計画」「コスト競争に打ち勝つ指導購買」「出向く営農指導」を三位一体の取り組みとして、全身全霊で傾注する必要がある。まさに、JAの存在意義の発揮である」と原課長は提起する。
 担い手づくりは認定農業者、特定農業団体、集落型経営体などに及ぶ。政策が必要だ。実務をこなすだけの部署では対応できないとのことだ。
 一方、認定農業者は237人。県全体では約600人だからグリーン近江の率はかなり高い。それぞれに規模拡大の意欲を持っている。むしろ意欲があり過ぎて、それがJAへの不満の背景になっている形だ。
 不満は、JAの販売力や生産資材価格に向けられている。このため個々の販売に走る傾向がある。JAの支援で育った認定農業者がJAから疎遠になっていくという形が全国的にみられる。しかし自力での販売は代金回収一つにしても大変だ。そうした認定農業者への支援も担い手対策の大きな課題となっている。
 大綱の柱には「販売を起点とした事業方式」「売れるコメづくり」があるが、JAはすでに13年に地域農業戦略として「売れる農畜産物づくり」を掲げ「テーマは品質」「求めるのは商品力」と組合員に訴え、14年産から推進している。

◆品質向上に挑戦して
実需者への売り込み冊子も意欲的。売れる農産物づくりへパンフやリーフを次々に
実需者への売り込み冊子も意欲的。売れる農産物づくりへパンフやリーフを次々に

 「担い手づくりといっても、作ったものが売れなければ担い手は育たない。売れるものづくりが原点だ。だからコメ改革を転機としてグリーン近江米の評価向上に挑戦する。これを出発点に改めて担い手育成を本格化したい」と原課長。
 戦略の背景には地元産米の市場評価が低いことがあった。このため、どんなコメが売れるのか、組合員のイメージが湧きやすいようにと、感覚的な表現で「プリップリ米」と名付け、ガイドラインを提示。記帳運動を始めた。昨年は練習。今年は本番に入って90%以上が記帳をしている。
 作る前から営業を開始して契約を進め、出来秋にはすべて販売先が決まっていることを理想とし「売れるコメ」というよりは「売り切れるコメ」をねらう。
 このため実需者に売り込む冊子を作ったりもした。去年は早稲の品質が悪かったので今年は遅植えを指導し、高い等級を増やすなどの対策もとった。

◇      ◇      ◇

 JAグリーン近江(滋賀県八日市市)▽組合員2万94人(うち正9977人)▽コメ取扱量94万2000袋(30キロ袋)▽麦同7945トン▽大豆同1616トン。

(2003.10.17)

 


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