JAグループ米販売・流通の拠点である農業倉庫は、いま全国に8150棟あり、その収容能力は650万トンにおよんでいる。農協倉庫にとって今年は、10年ぶりの不作という「米不足」を背景に、米の盗難事件が多発していること。長年、米麦保管管理の道標であった「政府所有食糧等の保管管理要領」が3月で廃止され、自主保管管理体制の強化が必須となったこと。さらに、米麦についてもトレーサビリティシステムの確立が求められ「保管履歴」の情報開示が必要となってきていることなど、従来にもまして火災盗難予防と品質管理に細心の注意をはらわなければならない状況となっている。
JAグループでは毎年この時期に「農業倉庫火災盗難予防月間」運動を実施しているが、この運動の重要性が一段と大きくなってきたといえる。そこで今年は、JAのトップが県内の農業倉庫を巡回し、火災盗難予防はもとより品質管理に万全を期している「茨城県農業倉庫保管管理対策協議会」の活動を取材した。 |
茨城県JAグループに見る
万全な保管管理で盗難事故を防止
◆9、10月で76件の米泥棒が発生
農水省は、11月28日に食料・農業・農村政策審議会の総合食料分科会食糧部会を開き、米の需給と価格の安定に関する基本方針を固めたが、その審議会で配布された資料に「多発する米泥棒」というグラフ付きの一文が挿入されている。それによると、15年8月末までにコメの盗難事件は50件発生し「その後も冷害、日照不足により米の価格が上昇していることから、米泥棒が多発」。農水省が把握しているだけでも「15年9月から10月までの2ヶ月間で76件の米泥棒が発生」している。このため農水省は10月に「関係団体に早期出荷、盗品の流通防止等の協力要請を行うとともに、警察庁に対して米泥棒の撲滅、防犯の徹底を図るための協力要請」を行ったという。
いまのところ、農業倉庫での盗難事件は起きていないようだが、農家が所有する米が少なくなれば農業倉庫が狙われる可能性は大きくなることが予想される。JAグループ米事業の販売・流通の拠点であり、農家組合員が丹精込めて作り上げた大事な米を預かる農業倉庫としては1件も盗難事故を発生させてはならないことは当然だ。そのためには、盗難事故防止に重点をおいた倉庫見回り、施設・設備の整備・点検を行うことが重要になってくる。
今回取材したJA全農茨城県本部は8月に県内JAに、1)事務所に隣接していない倉庫の巡回・見回り強化、2)防犯ベル・防犯灯の設置、3)倉庫周りを除草し無人倉庫という印象をもたれないようにするなど、防止対策を呼びかける文書を配布した。これを受けてJA茨城中央では「農作物の盗難に注意!」というチラシを農家に配布した。その効果があって、同JAでは組合員から「籾摺りが終わったらすぐに集荷して欲しい」などの要望があったという。
◆「保管履歴」情報の開示が求められる時代に
さらに、長年にわたって米麦保管管理の道標となってきた「政府所有食糧等の保管管理要領」が15年3月末で廃止され、農業倉庫業者であるJAが自らの責任と判断で保管管理を行う自主管理体制の強化が求められていることもこれからの農業倉庫にとって重要な課題となっている。
とくに、「食の安全」を確保するために米麦においてもトレーサビリティシステムの確立が求められているが、これは「生産・栽培履歴」とともに、販売・流通の起点である農業倉庫での「保管履歴」の情報開示も必要となっている。さらに農薬取締法が改正され、農業倉庫における病害虫・ネズミ防除に「登録農薬」の使用が義務づけられている。
こうしたことから、農業倉庫業者であるJAは、この月間を契機にして、自主管理体制のよりいっそうの強化をはかり、火災盗難はもとより、品質管理に万全を期す必要がある。
◆保管技術から事務管理まできめ細かくチェック
この協議会の活動でもっとも注目されるのは、梅雨期〜夏期の「農業倉庫保管管理強化月間」と、冬期の「農業倉庫火災盗難予防月間」にあわせて、協議会委員が県農政事務所(旧食糧事務所)の協力を得て、県内を4ブロックに分けて倉庫の巡回指導を行っていることだ。専任指導員をおいて農業倉庫の巡回指導を実施している県はあるが、JAの常勤役員自らが巡回指導している茨城県のようなケースは珍しいといえる。
今年度冬期の巡回指導は年明けに実施されるが、夏期の場合には、6月25日〜7月15日に、県北(2班)、鹿行(1班)、県南(2班)、県南(1班)に分かれ、14農業倉庫を巡回指導したが、おおむね3年に一度は全倉庫を巡回できるように計画されている。
現地倉庫では「農業倉庫事故防止対策巡回記録票」にもとづいて、保管技術(虫鼠対策・はい付)、防災体制の確立、施設の整備(防火対策)、施設の警備(盗難防止対策)、事務管理(管理日誌などの管理対策)の各項目ごとにきめ細かくチェックし、「評定基準」にもとづいて、A(完全に実施されている)、B(一部不完全である)、C(不完全)の3段階で評定される。
現場でのチェックが終了すると、巡回指導員全員による所見・改善事項などが当該JAに報告される。さらにすべての倉庫巡回が終了すると、県本部は意見をとりまとめ、JAにフィードバックしている。
JAトップが県内農業倉庫を巡回指導
◆50年近い歴史をもつ「茨城県農業倉庫保管管理対策協議会」
茨城県は首都圏の重要な食料基地だが、現在、県内には294の農業倉庫と4つの連合倉庫がある。その標準収容力は22万トン強で、そのうち低温・準低温倉庫で8万4000トン強となっている。
茨城県JAグループでは、米麦の保管施設である農業倉庫の果たす役割が重要であることから、JAの組合長を含む常勤役員の代表による「茨城県農業倉庫保管管理対策協議会」(委員長・萩原久JA全農茨城県本部運営委員会副会長)を昭和32年に設置、今日まで50年近い歴史をもち、継続的に活動してきている。JAのトップによるこうした協議会は、全国でも稀有の存在だといえる。
この協議会の目的は、JA全農いばらき県本部運営委員会長の「諮問に応じ、倉庫施設の整備補充と保管管理の指導について意見を具申する」ことにあるが、その目的を達成するために保管管理の理念高揚、保管施設の整備、保管管理技術の向上、倉庫の効率化運用、貯蔵試験および管理に必要なる研究指導、倉庫の実態および経営調査、保管貨物の事故損害の処理、積立金の料率およびこれらの運用、その他目的を達成するに必要な項目について、調査および指導を実施することにしている。
◆改善点が明確になる巡回指導
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JA茨城中央理事長 稲野辺茂夫 |
長年、協議会の委員を努めている稲野辺茂生同協議会副委員長(JA茨城中央理事長:写真)は「米はJA事業の柱だから守っていかなければいけない。いまは品質のよいものでなければ受け入れられない時代だから、保管管理は従来以上に重要になっている」ことを強調したうえで、JA常勤役員が巡回指導することの効果について
1)巡回したJAの常勤役員とは顔見知りなので「あそこを直してくれないと困る」と率直に話し合える。
2)JAの担当者とも話ができるので、自分のJAで足りない部分を補うときの参考になる。
3)倉庫担当者に違う角度から倉庫をみている人間がいるということを認識してもらい保管管理について考えてもらう機会になる。
ことをあげた。
巡回を受けるJA役員も「いつもはこの程度でいいだろうと思いがちだが、他人の目でみてもらい、改善点が検討でき役に立つ」と評価している。県本部の大高精一技術顧問も「巡回することで、経営者も含めて農業倉庫保管管理に関心を持ってもらえのに役立っている」という。
同協議会では、巡回指導の他にも、はい作業主任者技能講習会や保管管理担当者研修会などの研修会や共栄火災と提携した米の盗難補償も行っている。
◆信用を失うのは一瞬、築くには長い時間が
火災盗難はもちろんだが、品質管理が悪いと「信用を失うのは一瞬だが、信用を築くには長い時間がかかることになる」(稲野辺理事長)。だからこそ日常的な自主保管管理が大切なのだ。茨城県では、そのことを現場の担当者だけに任せず、JAのトップまでが組織的に、意識的・具体的に取り組んでいるといえる。いま自主保管管理体制の強化が求められているが、茨城県の取り組みは全国に広げていきたい取り組みだといえる。
(2003.12.15)