農業協同組合新聞 JACOM
   

特集「改革の風をふかそう 農と共生の世紀づくりのために」


  経済事業改革の指針 改革の断行で「新生JAづくり」を 

向井地純一 JA全中常務理事

 昨年10月の第23回JA全国大会決議を受け、昨年12月の全中理事会で、「経済事業改革指針」を決定した。
 本指針は、経済事業改革中央本部委員会を中心に、JA改革推進本部委員会や各県ブロック会議等の検討を重ねたものであり、15年度から17年度の3か年にJAグループ全体で取り組む経済事業改革の目標を定めるとともに、それを実現するために、JA・全農・経済連、経済事業改革本部が取り組むべき事項を定めたものである。
 この実践へ向けて、現在、全国段階では、昨年7月全中に設置した、JA・県域代表、全農等の全国機関による「経済事業改革中央本部」を核に、全農と連携して改革に取組み中である。また、県域においても昨年末のJA県大会の決議を受け設置した、JA、全農県本部・経済連、中央会等で構成する「県域改革本部」を中心に、本指針や昨年7月に全農が統合効果の発揮をねらいに策定した「事業改革構想」にもとづき、県域経済事業改革のマスタープラン作り等に取組み中である。

◆経済事業改革の背景

向井地純一 JA全中常務理事
むかいち・じゅんいち 昭和25年北海道生まれ。48年北海道大学法学部法律学科卒。同年農林中央金庫入庫。61年同開発部部長代理、平成2年事務管理部システム企画課長、5年水戸支店長、7年農業部副部長、9年静岡支店長、11年開発部長、12年業務開発部長、14年JAバンク企画実践部長、同年全国農業協同組合中央会 常務理事就任、現在に至る(担当:組織対策、経営指導、監査、システム)。

 経済事業改革の背景は、農産物販売市場や購買事業の競争環境の劇的な変化にともなうJAグループの競争力の低下と「JA離れ」「JA批判」の顕在化や、偽装表示や無登録農薬問題等、消費者の食の安全・安心へのニーズの高まりに加えて、政府の諮問機関である経済財政諮問会議や総合規制改革会議等におけるJAのあり方に対する厳しい提言などにある。さらに最今、WTO・FTAの進行の中で政府は農業基本計画の見直しによる日本農業の構造改革に着手しており、その中でJAグループの経済事業改革を強く求めている。そして何よりも、JA経営収支の深刻さである。今後3年後の収支を見込むと全JAの事業利益合計は、限りなくゼロに近づく。特に収益部門である信用・共済事業は、競争激化・デフレ経済下のなかで相当程度収益低下が見込まれており、構造的に赤字体質の経済事業の収支確立は不可欠となっている。

◆改革の基本的考え方

 経済事業改革の基本方向は、(1)協同経済事業を通じての農業者への最大のメリット提供(2)安全・安心な国産農産物の提供を通じた消費者への満足度の提供(3)競争環境のもとで継続して事業を展開するための事業ごとの収支確立の3点であり、次の基本スタンスで改革に取組む。
 一つは、JAグループ一体となり総力をあげて経済事業改革を確実に実践するための仕組みを作り、組合員はじめ国民に見える形で、主体的にかつスピーディに取り組む。また、組合員に改革進捗状況等の情報公開を行い、組合員とともに対策を考える仕組みを構築する。
 二つ目は、JAの経済事業改革であるが、JAを取り巻く外部環境や経営資源の実態をふまえて、JAの強みと弱みを把握し、経済事業全般の選択と集中を図る。いわゆる「絞り込み」である。
 三つ目は、全農の事業システム改革であるが、統合効果発揮の観点から、県域・全国域の枠組みを払拭し、一体となって統合連合として最も効率的な事業システムをJAに提供するため、事業システムを抜本的に見直す。全農は、昨年7月「事業改革構想」を策定し、現在、全中の経済事業改革中央本部と一体となって県域へ推進中である。

◆改革指針の内容

 経済事業改革指針は、事業目標と財務目標で構成され、その実践に向けて、JA段階では実践体制を整備するとともに、県域・全国の改革本部はJAの改革支援体制整備とあわせて進捗管理を実施する。

 事業目標――大会決議重点事項のうち、とりわけJAと全農・経済連が連携して取り組む事項についてJAと全農・経済連の年次別行動計画を策定するとともに、改革本部がその進捗管理を実施することにより改革の促進をはかる。
 第1は「消費者接近のための農産物販売戦略の見直し」である。JAにおける直売所の設置や生産履歴記帳の実施に加え、全農における「JA米」の取組み強化など消費者に信頼される「JAブランド」を確立する。さらに、JAグループを通じた実需者への直接販売の拡大をはかる。そのために、全農は、米穀・青果の大消費地販売拠点(センター)を設置・拡充し、JAの生産販売企画専任者と連携して大消費地におけるJAグループの実需者への直接販売を強化するとともに、機能・コスト・リスクに応じた手数料・経費の設定をすすめる。
 第2は、「生産者とりわけ担い手に実感される生産資材価格の引下げ」である。JAは物流合理化の実施とともに、価格調査にもとづく弾力的な農家向け価格の設定、担い手や集団への一括購入条件等についての合意形成を行う。全農は、競合品について地域別の価格設定を行うとともに大口需要者向け規格の開発・普及を行う。
 第3は、「拠点型事業等(物流・農機・SS・Aコープ)の収支改善と競争力の強化」である。拠点ごとの経営実態を把握し、それに基づき県域の拠点再編計画等を盛り込んだマスタープランを策定し、17年度までに収支均衡を実現することを基本とする。

 財務目標――農業関連、生活その他事業、子会社についての収支改善の目標を策定し、改善に緊急を要するJAについては改革本部が個別指導を実施する。また、固定資産投資へは自主ルールを策定して対応する。
 部門損益の目標としては、全てのJAで農業関連事業は共管費配賦前の事業利益段階、生活その他事業については純損益段階において、原則3年以内に収支均衡をはかる。改革本部が個別指導を実施するのは、全体収支が赤字で、かつ農業関連、生活その他事業の赤字が自己資本対比で1%以上のJAとする。このうち農業、生活その他事業がともに赤字のJAについては、県域改革本部とともに中央本部が指導ならびに進捗管理を実施する。
 次に、JAの出資比率が50%以上の経済事業子会社の赤字は、原則3年以内に解消をはかることを目標とする。実質債務超過、繰越欠損会社で黒字化・債務超過解消が困難と見込まれる場合は、清算も視野に入れ再構築計画を策定して取り組む。
 経済事業の財務改善については、まず、自己資本基準(固定比率)、他部門運用基準超過JAは、経営改善計画を策定し、新規投資には自主ルールを定めこれを遵守する。また、遊休施設については、減損会計の導入を控え、17年度までに、有効活用または会計処理を実施する。

 実践体制と進捗管理――経済事業改革はJAの自発的な取組みが基本であり、まずJA内に経済事業改革プロジェクト等を設置するとともに事業改革について定期的に理事会や総代会等に諮る。
 改革本部は、全農・経済連と連携してJA個別指導のための体制を整備する。指導にあたっては、関係機関のコンサル部門、全国監査機構やJAバンク等とも連携を密にして取り組む。
 事業目標・財務目標の進捗管理については、県域改革本部・中央本部で定期的に行い、JAグループ全体で改革状況が見える措置を講ずる。さらに、改革本部による指導を徹底するため、中央会は農協法に基づいて文書による指導を実施する。

◆おわりに

 経済事業は、協同組織であるJAの根幹をなす事業であり、この事業改革は、いわば、新時代に向けての「新生JAづくり」である。本年は、いよいよ経済事業改革の本番であり、また、組織の力のバロメーターである「実行力」についてJAグループの真価が問われる1年でもある。加えて、WTO・FTAへの対応、米改革、農業基本計画の見直し、卸売市場法の改正など日本農業の構造改革に直面しており、合せてペイオフ全面解禁に向けての不良債権処理の一層の加速化や国際会計基準の適用に伴うJA収支の悪化の進行の中で、JAグループはこれまでに経験したことのない危急存亡の秋にあり、経済事業改革を不退転の覚悟で断行する所存である。 

(2004.1.9)


社団法人 農協協会
 
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル Tel. 03-3261-0051 Fax. 03-3261-9778 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。