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特集 | 第49回JA全国女性大会特集号「 農と共生の世紀づくりは私たちの手で」 | |||
「私は土が大好き」 食料作る仕事を称える 農業女性は生産活動に誇りと自信を持って |
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浅茅 田んぼの作業が楽しかったですね。いやだなんて思ったことは全くありませんでした。空気と水が流れ、土にさわれる所、落葉がゴミにならない環境、そういうところで暮らせたらいいなと昔から思っていましたから。 司会 都会から見ると、環境の違いがわかるのですが、農村部の方々は、それが当たり前のように感じられてくるのだと思います。 浅茅 人間には慣れというものがありますからね。 司会 浅茅さんは以前に家庭菜園をつくっていらっしゃったと聞きました。 浅茅 ええ、4、5年やっていました。もう20年くらい前ですよ。分譲宅地の庭先だったので、掘り起こすと意地悪爺さんの庭じゃないけど空きカン、ビニール、発泡スチロールなどがざくざく出てきましてね。それらを捨て、黒土と腐葉土とたい肥を入れ、トマトやナスなど定番の苗を植えて収穫を楽しみました。 司会 どうして土が好きになったのですか。 浅茅 私は静岡生まれで子供のころは周りに土がいっぱいありました。もちろん田んぼも畑も。だから遊びといえば泥んこいじりです。土を練って団子にしたり、それをお稲荷さんに供えたり。女の子のくせに木登りもしました。そんな環境の中で育ったせいでしょうか。 司会 映画では、浅茅さんは農家を支えるお母さん役を演じます。家族をまとめるだけでなく、ほかの登場人物たちをも支えている非常に重要な役です。しかし、出しゃばらずに陰に回っている感じです。 ◆生きいき女性部 浅茅 私は以前に静岡第一テレビの報道番組でレポーターの仕事を9年間も続けさせていただき、県内各地の特産物などを紹介するためJAや生産農家をずいぶん回りました。JA静岡中央会がスポンサーです。番組のタイトルは「だいすきふるさと」でした。 司会 例えば、どんな加工品ですか。 浅茅 それはもう、珍しいものがいっぱいありました。例えばメロンの漬物とか。これは1本に1個の高級メロンを育てるために摘み取った余分の実を捨ててしまわないで活用した加工品です。ワサビのソフトクリームもありましたね。各地で創意工夫を発揮していました。 司会 確かにそうですね。 ◆消費者は待っている 浅茅 世の中には、健康問題にしても今までだったら、あり得ないような病気が新しく発生したりして、問題が起き過ぎているんじゃないかと思います。それは私たちの身の回りにあるもの、つまり生活環境が人間の体を余りにも過保護にし過ぎるところから起きてくる病気であったりします。いろんなことが発達し過ぎているんです。 司会 消費者は待っている、ということに着目することですね。 浅茅 誇りと自信を持って供給してくれたおかげで、こんなおいしいものが食べられるんだと消費者は感じます。ですから、農家の女性はもっと前面に立ってものをいうべきだと思います。 司会 作る側からのアピールをもっと強める必要があります。 浅茅 それぞれの家庭料理を発表し合う積極性もほしいですね。その中から女性部開発の加工品として生産ラインに乗せたいというものも出てくるでしょう。そうすれば張り合いが出てきます。 ◆米の物質化には抵抗がある 司会 1人だと難しいけど女性部組織だとやりやすいですから。 浅茅 おにぎり屋さんは今まさにブームですが、これから、ますます原点に返ろうという方向へいくと思います。また多少は高くてもおいしいもの、身につけたいもの、長く使えるものを求める方向です。流れ作業式に作られたものではなく、こだわりをもって作られたものを消費者は待っています。おにぎり1個にしても味が違うと思えば10円くらい高くても次からはそれを買いますからね。 司会 この映画の最初は、茶髪の若者が「こんなもの食えるか」と、おにぎりを蹴飛ばすシーンですが、ご飯がきらいなんていう若者もいるんですね。 斎藤 私が脚本を書いた4年くらい前は、米離れで、子どもたちも含め、ご飯を食べないのがはやりみたいな風潮も見られました。しかし、ここ2年くらい前からは変わりました。逆になっているんです。 司会 首都圏の主婦を対象に食生活の調査をしたところ、子どもたちに朝からケーキやスナック菓子を食べさせて、平気でいるという家庭がありました。ウソじゃないかとも思いましたが、実際にそういう調査結果が「変わる家族、変わる食卓」という本に出ていました。 ◆米を精神的支柱に
米と、ほかの食べ物が並列化されるのは、学校給食の影響じゃないかと思います。山形といえども、給食はご飯食だけではなく、パンやスパゲッティなども出す。そうした洋食風食べ物の普及が米への依存度を低くしています。 映画の意図は、給食で育った子供たちが大人になって、さらにまた依存度を低めるという悪循環に警鐘を鳴らしたかったことが1つあります。 浅茅 私が撮影中に体験したことですが、建物を借りている農家のお母さんが自分の畑から野菜を引っこ抜いてきて、土を洗い落とし、山の水、伏流水をわかし、さっとゆがいて、おひたしにおかかをかけたり、天ぷらを揚げたり、そのおいしかったこと。とにかくさっきまで畑で育っていたものが30分くらいあとにはもう、ずらりと食卓に並んでいるのには感激しました。 斎藤 だから、ロケ弁(ロケの時の弁当)の米のうまさが、よけいに引き立ちましたよ。 浅茅 また山の雪解け水のうまさは格別でした。東京の水道水はカルキくさいので、私は自宅に浄水器を置き、マイナスイオン水みたいなものにして、お茶を入れたり、ご飯を炊いたり、調理にも全部それを使うようにしていますが、それでも山のミネラルをたくさん含んだ水とは違います。山形の子どもたちはそういう食生活をしているわけです。 ◆まないたと包丁減る 斎藤 山形の人は、お米の食べ方がうまいですよ。お新香から、おかず、調味料と、ご飯を取り巻く食べ物を含めて米を一番おいしく食べる方法をね。 浅茅 空気が良いのでよけいにね。何を食べてもおいしかった。 斎藤 実は、それが日本人の生活の伝統だったんですよ。 浅茅 そう、原点ですね。 斎藤 都会はそれを忘れてしまった。 浅茅 どこそこのハンバーガーが食いたい、なんていってね。 斎藤 ほんとうの米のおいしさを知っている人たちが山形などの産地にいるということは、心強いことです。 浅茅 しかし一方、都会では、まないたと包丁のある新婚家庭が少なくなっていると聞いています。新婚でなくても、主婦の日常が朝はぎりぎりまで寝て、起きると近くのコンビニなどへ走ってインスタント食品や、おにぎりを買い、それを夫や子どもに食べさせて送り出し、昼は1人でファストフードを食べ、夜は夫の帰宅を待ってレストランへいく、といった生活なら、まないたも包丁もいりませんものね。 斎藤 話が前後するようですが、撮影のために俳優を含むスタッフたちが実際に稲を育てて米を作りました。そのお米もまたうまかった。みんなで食べながら「これ、ほんとに私たちが作った米ですか」と何べんもみな農家の人に聞くんですよ。信じられないのですね。「そうですよ。俳優さんたちの手作りの米です。よその米を持ってきたりしていません」との答えにやっと納得しました。 浅茅 ほんとに、ずぶずぶの田んぼに足もとをとられながら田植えをしましたもんね。私は楽しかった。 ◆今年は「国際コメ年」 司会 撮影用の田はどれくらいの面積でしたか。収穫量は? 斎藤 あれは2反でしたね。穫れたのは6俵でした。「花の舞」という品種です。機械を使わない天日干しの乾燥をしました。みんなで分けたり、農家にもあげたりしました。 浅茅 私は5キロただきましたが、映画の写真を印刷してある米袋は捨てずに大事にとってあります。 斎藤 お米の味については、山形と東京を数え切れないほど新幹線で往復しましたが、輸入駅弁を見ると〈もっとうまい米があるのに〉と焦りを感じたという経験もあります。 浅茅 ほんとにおいしいものを食べた経験のない人は、何がおいしいのかわからないのじゃないでしようか。 司会 今年は国連の「国際コメ年」で世界各国が「コメはいのち」とコメの重要性をアピールし、国内でも多彩な取り組みがあります。偶然ですが、この映画の上映開始は絶好のタイミングです。監督がこの映画を作ろうと思い立ったきっかけなどをお話下さい。 斎藤 米を取り上げる企画は数年前に立てましたが、切り口で悩みました。映画で農業に役立つことは何かということも考え、結局、日本人にとって米とは何かを見つめ直すことにしました。 ◆土に触れないと… 司会 娯楽映画といっても、稲の成長とともに人間も育っていくというストーリーであり、ドキュメンタリーの部分もありますね。 斎藤 娯楽映画は娯楽性を忘れないように、観念的にならないようにと、装いや取っつきで観客に親しみを持たせ、引き寄せておいてテーマを語ります。一方、ドキュメンタリーはテーマそのもののかたまりみたいなものですが、どちらも、言おうとしていることは同じなんです。この作品の場合、今の時代の米を語るのが大きなテーマです。 司会 映画の題名は、最初は「ARCADIA」でしたね。 斎藤 アルカディアはギリシアの地名で理想郷を意味します、イギリス人旅行家が昔、置賜地方の美しさを「東洋のアルカディア」と称えたので、地元の方々が、この題名を推薦されました。 浅茅 確かにそうだと思います。 斎藤 私の子供時代は東京にもまだ土がいっぱいありました。その意味で理想郷というのは、やはり土の世界だと。 自給自足の世界を考えると… 何がなくても、おにぎりが… ◆おむすびは“縁結び” 司会 その題名が「おにぎり」に変わりましたが、そこには日本人なら、つい手が出るといった感じがあり、なるほどなあと思いました。 浅茅 お米の食べ方として、おにぎりは最もおいしい食べ方ではないでしょうか。調理法も、手に塩して握るだけだから非常に簡単です。シンプルイズベストという言葉がありますが、まさに、それを言い尽くしているのがおにぎりです。おみそをつけて焼けば携帯食にもなります。 司会 この映画は都会の人にもたくさん見てほしいと思います。では最後にもうひとこと、観客動員のプラスになるようなお話をして下さい。 斎藤 この映画は「農業への応援歌です」といってるものですから、本当の農家の人たちが見て、どうなんだろうと気がかりでした。しかしJA女性部の集会で、試写を見た宮城の女性から「元気が出ました」「感動しました」という声を聞き、ほっとすると同時にこの映画を作ってよかったと思いました。
(2004.1.30)
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