女性のJA運営への参画もJA改革の課題のひとつである。具体的な取り組みとして、まず女性の正組合員、総代を増やすこと、そして女性理事を誕生させることを各地のJAで目標にしている。ここでは県下のJAすべてに複数の女性理事を誕生させた福岡県の取り組みについて九州大学大学院農学研究院の村田武教授に解説してもらうとともに、二人の女性にJA運営と女性の役割について話しあってもらった。キーワードは「女性の声を生かせるかどうかがJA改革の成否を決める」である。 |
福岡県では、昨年2003年6月に、県下22広域JAのすべてに複数の、合計48名の女性理事を誕生させました。これは、第36回JA福岡県大会(2000年)での「広域JAでの複数女性理事設置」決議をもとに、2001年の各広域JAの総代会で、「別枠での女性理事登用のための定款変更」の提案と可決をおこない、全県での運動の結果、全広域JAでの女性理事誕生となったものです。福岡県では、15年ほども前からの運動で、1990(平成2)年には、JAふくおか八女やJA福岡市で女性理事が生まれ、その後の漸増のなかで、第36回JA福岡県大会での決議となったものでした。
さらに、女性のJA運営への参画を強める取り組みの結果、女性正組合員と女性総代の割合はそれぞれ17.4%、5.9%になっています。
2002年7月には、「女性理事ネットワーク」が自由参加の自主的組織として設立されています。私は、2003年度に3回開催されたネットワーク研修会の常任講師でした。このネットワークに参加しているJA福岡市の女性理事大神弘子さんと、ボランティア的にネットワークをお手伝いしている橋本久美子さん(JA福岡農協中央会地域生活部生活福祉担当)に、対談してもらいました。
「女性の声を生かせるかどうか、それが農協改革の成否を決める」というのが、お二人の対談をお聞きしながら、私の感じたことでした。さらに、福岡県のJAには、別枠でない、つまり、通常の定員内の理事にいつ女性理事が誕生するのかが問われているようです。
◆女性理事ネットワーク
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橋本 久美子 さん
昭和61年に福岡県農協中央会に入会。一貫して生活活動分野の仕事に従事。
管理栄養士、介護支援専門委員(ケアマネジャー)の資格を持つ。 |
橋本 「女性理事ネットワーク」の今年度の代表はJAふくおか嘉穂の奥野美代子さんです。彼女は、つい先日開かれた「全国JA女性理事研修会」で体験発表し、全国の注目を浴びました。
この福岡県での「女性理事ネットワーク」は設立して2年目ですが、参加は全くの自主参加で、年会費5千円も自己負担です。48名の理事の大半が参加しています。このネットワークの存在意義は、ネットワークで県下の女性理事と活動を語り合うことで、なによりも「自分の農協がわかり、自分が理事として何をすればよいのかを考えるチャンスになる」ということのようです。
大神 そのとおりですね。ネットワークは、県下の女性理事がお互いに知り合いになる機会をつくりましたが、それだけではありませんね。
第1年目には、中央会の高武孝充教育センター長の講義「農業情勢と女性理事に期待するもの」を聞き、北九州市民生協(現在はエフコープ)の発起人のひとりであった藤本蔦枝さんのレクチャー「理事会ではどう発言するか」で、自分の考えを簡潔にまとめて発言するにはどうしたらいいのかを勉強しました。
2年目の今年度は、同じく中央会の地域生活部・鳥養学さんの講義「総代会資料を読む」で財務諸表の見方を教わり、村田先生の講義「WTOと日本農業をどう考えるか」を聞くことで、しっかり勉強しました。
しかし、それだけでなく、ネットワークの議論のなかで、JA間で役員報酬に大きな差があるのを知って驚き、新任女性理事に研修機会を与えているかどうか、つまり女性理事についての理解にJA間でこれまた大きな差があることを知ることになったのは大きいですね。
◆女性理事の参加で理事会が変わる
橋本 女性理事になられた皆さんは、それぞれ苦労しながら、がんばっていますね。ネットワークでの発言のいくつかをひろってみましょう。
「慎重な発言が必要だと思って、1年間は理事会で発言しなかった。」
「親から農協がだいじだと言われ続けてきたが、自分が理事になって、その意味がようやくわかってきた。組合員の生活がたいへんになってきたことを女性として実感する。JAがこの組合員の実態にどう対応するか。JAが手を引くとたいへんなことになる。女性理事として、しっかり意見を言わねばならないと思う。」
「このままのJAでは次の若い世代に見放される。次の世代がJAにどう関わるか、関わらせるかが、男性理事にはわかっていないのでないか。」
「男性だけの理事会には、女性部の活動がほとんど見えていなかったのでないか。理事会で女性理事が女性活動の報告をするだけでも意味がある。今年度の総代会で、女性総代が前列に陣取っていただけで、総代会の雰囲気が変わったのと同じでしょう。」
「食と農の連携を強める事業、学校給食や食農教育にJAがどれだけ参画するかが問われている。女性理事がその先頭に立てば、大きな役割を担えるのではないか。」
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大神 弘子さん
昭和14年生まれ。福岡市南区で農業。専業農家として、かつては2haの経営。ナス・キュウリ・トマトなど野菜づくりにも力を入れた。長い女性部活動の経験を生かして、平成14年6月からJA福岡市の理事。趣味は、歌、卓球、花づくりと多彩。 |
大神 私は、支部役員を経て女性部副部長を2年、そして2002年に理事に選ばれました。理事になって一番感じたのは、自分も含めて、組合員(農家)は組合員としての自覚に乏しく、発言する力のないことを自覚していない、勉強不足なんだということでした。その点で、女性の正組合員づくりは本当に重要です。理事として、女性部のリーダーと協力してそれにがんばっています。私の所属する花畑支店の集まりでそれを発言し、支店を上げての取り組みにしてもらいました。その結果、JA福岡市の女性組合員比率は平均26%ですが、花畑支店の管内では30.4%になりました。支店活動で成果を上げ、支店活動を支えることが女性理事にとっては重要だと思います。そして、支店長をはじめ、支店の職員の頑張りをしっかり認め、激励できるのも女性の役割でないでしょうか。今後のJAがどうなるかは、支店活動にかかっていると思います。有為の人材こそ支店へ配置すべきことを、理事会で発言しています。
◆女性の力で開かれたJAへ
橋本 大神さんは、農業をやりながら女性組織で長く活動されてきました。JA福岡市のような都市型農協が何をしなければならないかを理解されていると思います。
大神 私たちの女性活動の走りは、17年前の花畑支店の「花幸会(かこうかい)」の味噌、梅干しづくりでしたね。「花幸みそ」、「梅小町」の名で生協や園芸公園などでの販売で、福岡市民との関係をつくってきました。
橋本 消費者を巻き込むさらに新しい運動を始めていますね。
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むらた・たけし 昭和17年福岡県生まれ。昭和41年京都大学経済学部卒業。44年同大学院経済学研究科博士課程中退、同年大阪外国語大学(ドイツ語学科)助手、講師、助教授を経て、56年金沢大学経済学部助教授、61年同大学教授、平成10年九州大学農学部教授、12年より同大学大学院農学研究院教授。経済学博士。主著に『問われるガット農産物自由貿易』(編集、筑波書房、1995年)、『世界貿易と農業政策』(ミネルヴァ書房、1996年)、『農政転換と価格・所得政策』(共著、筑波書房、2000年)、『中国黒龍江省のコメ輸出戦略』(監修、家の光協会、2001年)。 |
大神 昨年の春に始めた女性部メンバーによる取り組みが、“まめひめさん”です。女性部メンバー48名がまめひめ(豆姫)さんとして、「味噌づくり+だんご汁づくり」を指導して、小学校の子どもたちの食教育に参加しようというものです。地元の大豆を原料に、子どもたちと一緒に味噌をつくり、3、4か月の熟成を待って、今度はだんご汁を一緒につくって食べます。すでに小学校や公民館など20か所で実施し、子どもたちや関係者に喜ばれています。
JA福岡市の本店総務企画課が市民に呼びかけて農業体験を広げようというのが、「はかたん農業応援団」(はかたん=博多の)です。これに呼応して各支店が創意をこらして市民との交流を進めていますが、私の所属する花畑支店が、昨年6月に立ち上げたのが“さつまいも掘り”です。
これは、高齢農家の畑7、8畝を荒らさないために、地域住民(非組合員)にも呼びかけて、“さつまいも掘り”の体験会員を募集するものでした。いもの苗植え・管理は農協職員が担当し、10月末には、会員に掘り取りをやってもらい、蒸かしいも・焼きそばを一緒に楽しみました。JA福岡市に1万円の貯金口座を開けば、入会が認められます。会員は220人、いも掘りに参加した会員は60人に上りました。
このような取り組みを推進し、参加してみてよくわかるのは、都市内で減反をきっかけに荒れる農地を抱える農協とは言いながら、農協(男性)は、消費者がどう喜んでいるかをなかなかつかめないということです。
都市型農協は、消費者にも開かれた農協になること、それが農協改革の中身だと思います。外に向けて、消費者に農業を知ってもらうことです。ところが、私の体験からすると、それは男性理事だけではできないのではないでしょうか。女性が農協運営に参画することの意味はそこにあるように思われます。 (2004.1.28)