創立から50余年を経たJA全国女性協は、少子高齢化と長引くデフレのなかで組織存亡の危機に直面している。その原因をさぐり、この苦境を脱する現実的なシナリオを考えてみたい。 |
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◆JA女性部が消滅する?
まず、JA女性部員数の推移を見てみよう。比較対象はJA正組合員戸数だ。
1973年を100とすれば、正組合員は30年間で85になったが、減少率は10年に5〜6%でほぼ一定。これに対して、女性部員は30年間で40にまで落ち込み、いまや正組合員の4分の1弱の110万人。減少率は当初10年が正組合員とほぼ同じ5%、次の10年は26%、バブル崩壊後の最近10年は43%と急加速している。(図1)
女性部員も正組合員も高齢化や組織活動の低迷が問題とされてきたが、女性部員だけの激減には何か別の原因がありそうだ。
一方、都市女性が主体の生協組合員数は、バブル崩壊後も毎年2〜3%ずつ増え続けて、いまや全世帯の4割を超える2160万人。なかでも、デフレが続く近年は、購買生協の組合員数の伸びがめだっている。
都市と農村の違いはあっても、同じ女性の地位向上をめざす組織にこれほどの差がついたのはなぜか。
◆共同購入に代わる活動は
農協婦人部が拡大を続けていた1950年代。部員たちにとって、モノ不足のなかで生活必需品が安く手に入る共同購入は、組織力と実利・実益をもっとも実感できる中心的活動であったに違いない。その後、モノ不足が解消して暮らしが安定し、農村女性の生活ニーズが多様化するとともに、健康管理、文化活動、スポーツ、環境問題、高齢者介護などへと活動の幅が広がっていった。
だが、モノ余りの時代になって、かつて組織拡大の原動力であった共同購入はパワーを失った。その後は、共同購入に代わって実利・実益を実感できる活動はほとんど見あたらない。実利・実益を実感できないままに社会的活動に傾斜していったために、女性部は農村女性を引きつける求心力を失ったのではないか。
「実利・実益だけがすべてではない」と言われるかも知れないが、JA女性組織綱領の第一項には『女性の経済的地位の向上』が掲げられている。経済的な自立があってこそ、社会的な活動が生きてくるのだ。(図2)
◆自分の居場所をつくる
若い農村女性の立場を考ればそれがよく分かる。農村女性の8割以上は義父母との同居(または近居)である。子育て期は育児・家事・農業に追われ、子育てが終われば家事・農業のほかに介護が加わる。そんな立場にあって、女性部の料理教室、バレーボール大会、リサイクル運動、福祉施設の慰問などに参加していれば、夫や義母からは「ろくな働きもせずに外にばかり出て」と白い目で見られるのがオチだろう。
だが、経済的に自立すれば事情は変わる。多少でも家計に貢献できる『自分の財布』を持っていれば、外出や旅行で育児や介護に支障があるならベビーシッターやヘルパーを頼めばいい。女性部活動に参加するのにもう気兼ねはいらない。それで、夫や義母の見る目は違ってくるし、子供の母親に対する見方も変わる。
つまり、経済的に自立できれば、家庭内で自分の居場所ができ、精神的にも自立することができるというわけだ。
◆農村女性の優位性を活かす
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やまもと・まさゆき 昭和19年生まれ。東京大学工学部建築学科卒。48年JAグループのシンクタンク設立準備に参画。49年全国JAグループの出資で(社)地域社会計画センター設立。以来、JAの施設再編・業務改革、生活総合センター建設、ファーマーズマーケット建設、農住まちづくり、優良田園住宅団地建設などの実践プロジェクトを多数手がける。 |
この『自分の財布』をつくるのに、農村女性ほど恵まれた環境はないだろう。都市女性からみれば、本当にうらやましい限りだ。
まず、自分で稼ぐ手段が身近にある。庭先や休耕田のちょっとした農地と農機具で、簡単に野菜や花をつくれる。裏山に行けば、山菜や野草がたくさん採れる。台所を改造したり庭の片隅にプレハブ小屋を置けば、漬物・団子・総菜・ジュースなどの農産加工ができる。少しお金をかけて自宅を改装すれば、農家レストランや農家民宿の経営も可能だ。
それに、家庭内には応援団がいっぱいいる。農作業のことなら夫、農産加工のことなら義母、ワラ細工のことなら義父というように、経験と知恵を持つベテランと同居しているから、いつでも無料でノウハウを習得できる。忙しいときには、子供を安心して義父母に預けられることも大きなメリットである。
さらに、地域や組織の支援がある。一人では品ぞろえが難しい農産物直売も、仲間が集まれば消費者の求める品目・数量を揃えられる。個人では不安な農産加工も、グループで取り組めば施設整備費の調達や売れ筋商品の開発が可能。農家レストランや農家民宿の集客も、地元の組織や行政の協力があれば何とかなる。
『自分の財布』づくりをめざす農村女性にとって、「食」と「農」におけるこのような優位性を活かさない手はない。
◆経済的自立を支援する
いま、JA女性部にもっとも求められているのは、このような「食」と「農」で経済的自立を実現しようという農村女性に対して、目に見える支援の手を差しのべることである。
そこでまず、経済的自立が可能な収入目標を設定することから始めよう。たとえば年収100万円。強力な集客力を持つJA直営のファーマーズマーケットなら、ワンパック200円の野菜や花など30パック程度を2日に1回出荷すれば軽くクリアできる。これを支援するために女性部では、地元消費者との交流会を通じて消費者が必要とする農産物の品目・数量・品質を把握し、それを周年生産・出荷するための栽培講習会、生産資材やミニハウスの共同購入などを進めよう。
農産加工に取り組めば、年収100万円くらいわけはない。ただし、施設整備の資金調達、加工技術の習得、消費者ニーズに合った商品開発などをうまくかみあわせる必要がある。これを支援するために女性部では、加工技術の研修会、共同経営のグループづくり、公的助成制度やJA融資の紹介・斡旋、商品開発の相談やテスト販売などに対応してほしい。
◆社会的自立を支援する
農村女性の経済的自立を促すために、ヒト・モノ・カネの確保や販路の確保など目に見える支援活動を展開すること。それが、農村女性をJA女性部に再結集するカギである。
『自分の財布』を持って経済的に自立した農村女性は、家庭内で存在感のある居場所を確保して、精神的にも自立することができる。それによって、家族経営協定も経済的裏付けを伴った実質的な男女共同参画になるはずだ。
そして、家庭内の居場所が確保できて、はじめて文化・スポーツ活動やリサイクル運動や高齢者福祉活動などの幅広い活動に心おきなく参加できるようになり、その活動を通して知識と人脈が広がって、社会的にも自立することができる。
◆JA女性部の再生に向けて
これまで、女性部員の加速度的な減少に関してさまざまな角度から検討され、その原因の究明が行われてきた。たとえば、兼業農家の増加、メンバーの高齢化、地域婦人会との重複、基礎的学習の不足、共同購入の強制的推進、役員の固定化、世代間のニーズの違い、メンバーの世代交代の遅れ、JA組合員組織としての位置づけの不明確さ、JA事務局体制の弱体、JA合併の弊害などなど。
だが、そのほとんどは原因ではなく現象または結果である。農村女性、とりわけ若い女性がJA女性部の活動に魅力を感じなくなった根本的な原因は、実利・実益が実感できないことだ。それは、バブル崩壊後の長引く不況下に、JA女性部員が急減する一方で、生協組合員が順調に増えていることでも分かる。
いまこそ『経済的地位の向上』の原点に戻り、農村女性の経済的自立の支援を柱として、JA女性部の組織と活動メニューを再構築しなければならない。 (2004.1.29)