◆年間4億円。出荷者一人平均110万円超の直売所「からり」
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野田文子さんと名本良子さん
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「直売所は少量多品目だから、畑が小さくてもやり方しだいです。一人ひとりが試行錯誤し勉強して、工夫して、売れる作物を考え、努力して出してきます」
「自分で考えて作ったものをここに持ってきて売れれば、自分の口座に貯金がどんどん増えて楽しくなります」
「自分の口座を持って、自分で生きているから、母ちゃんたちは生き生きして元気ですよ」
「女性の自立は大事です。自分で考えて動けるような組織づくりをしないと、元気になりません。女性が明るくなければ、家も町も明るくなりません」
これは、夏目漱石の「坊っちゃん」や道後温泉で知られる松山市から南西に40キロ、人口1万1500人、総面積の70%以上が山林という典型的な中山間地の農村である内子町の直売所「内子フレッシュパークからり」(以下、からり)の特産品直売所運営協議会の野田文子会長と、農産加工品の開発をする「内子アグリベンチャー21」(からり農産加工品施設運営協議会、以下アグリ)の名本良子会長の話だ。
野田さんは別れ際に「直売所ができて人生が変わりました。本当に良かったです」とも語った。
からりは年間4億円近くを販売しているが、これは内子町農業総生産額の14%近くを占めるという。さらにここには、パン工房・シャーベット工房・薫製工房・アグリ加工場など農産物加工施設、レストランからりとあぐり亭などの飲食施設もあり、これらを合わせると年間5億2000万円になる。
からりに出荷する人は344人(女性が6割)、その平均販売額は年112万8000円(14年度)で、1000万円を超える人も数名いて、農業所得の50%以上を直売所で販売する人が30%いる。からりは、平成8年に内子町が半分、残りをJA愛媛たいきや森林組合、出荷者を含む町民などが出資する株式会社として設立されるが、直売所としては6年から運営されていた。6年当時の販売額は、4200万円弱で1人あたり42万円弱だった。出荷者は6年の100名から3.4倍になったが、販売額はそれを大きく上回る9.3倍に増加している。
◆女性・高齢者の自立をはかり農業活性化の拠点として町が設立
内子町の農業は、農家戸数1326戸・就農者2522人、農地面積は1139ヘクタール、平均耕作面積86アールと零細規模で、標高100メートルから400メートルの山腹や高台に帯状・棚状に点在している傾斜畑で、葉タバコや落葉果樹を中心に生産されている。かつて町内農業生産額の50%近くを占めていた葉タバコは、減反・価格の低迷・健康志向・高齢化などから廃作者が増えている。
その一方で、栗・柿・梨・ブドウ・リンゴ・キューイなど果樹栽培農家が700戸もあり、その生産額は町内農業生産額の37%を占め、全体の農業生産額が最盛期の60%に落ち込むなかで果樹生産額が微増する「フルーツ王国」でもある。しかし、果樹は全国的に生産過剰基調のうえに、輸入品との競合も激しくなっており従来通りのやり方では難しくなってきている。
さらに、生産者の46%が65歳以上と年々高齢化が進み、農家所得の減少、遊休農地の拡大など農地や集落の存続自体が危うくなってきた。そのため内子町は、都市との交流を深めることによって高付加価値農業へ転換し、女性や高齢者の自立をはかり、内子町の農業を活性化するための拠点としてからりをつくった。
◆畑が小さくても工夫次第で売り上げが自分名義の口座へ
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内子でしか買えない旬のものが並ぶ「からり」
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からりは「内子の人で、内子のものを出すなら何を出しても自由、値付けも自由、規格もない」。出荷者は毎日、交代でレジ脇に立ち、お客の買った品物を袋に入れているが、そこで「こんなものが売れるのか」という発見をしたり、どんなものが売れるのか勉強をし、自分でも考えて、工夫をして売れる作物をつくる努力をしている。
市場へ出荷するなら一定のロットが必要だが、からりなら極端な話「1個でも10個でも、自分のペースで出せばいい」し、少量多品目だから「畑が小さくても、やり方しだいでいろいろなことができる」。山の珍しいものを採ってくる人もいて、店にはいろいろなものが並ぶ。「ここには山そのものが並んでいる」と野田さんはいう。
からりには、冬にトマトやキュウリはない。内子では冬場には作っていないからだ。そのことをキチンと説明し、内子でしか買えないもの、旬のものをとお客に伝えている。お客もいろいろなものがあるので「見るだけでも楽しい」といい、「見よったらいいものがあったから買った」という。買った商品のラベルには商品名・値段・バーコード・からりの電話番号と一緒に生産者の名前と電話番号も表示されている。そのことでファンもでき、直接、生産者に電話して買う人もいるという。
からりへ出荷する340名余の6割は女性だ。みんなが農協に自分名義の口座を持っていて、売り上げ代金はそこに振り込まれる。それは誰に遠慮することなく使える自分のお金だ。仲間で旅行するときもそのお金で行くのだからいままでのように家族に遠慮せず「行くよ」といえばすむと名本さん。
◆地元産素材で農産加工品を開発する「アグリ」
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地元産食材を使った手づくりメニューが好評の「あぐり亭」 |
ここには、「レストランからり」と「あぐり亭」の2つの飲食施設がある。レストランは地元の旬の食材にこだわった通常のレストランだが、あぐり亭は名本さんが会長を務めるアグリが運営し、地元産素材からうどんやそばを手づくりし提供している店だ。
実はこのあぐり亭は、農産加工品の研究・開発をするアグリの研究開発資金を捻出するための店だ。アグリは、農産加工に関する知識・技術を養成し、内子純正の新たな農産加工品を開発するために13年に設立された組織だが、新たな加工品を開発するためには、材料費など費用がかかる。その費用をあぐり亭で得ようというのが狙いだ。
アグリには飲食店部のほかに製菓製造部・製麺部・素材製造部があり、メンバーは43名。あぐり亭のメニュー30品目も含めて70品目ほど開発してきたという。特産品の柿を使った「柿ようかん」は年間2000本販売する人気商品になったし、地元の完熟トマトを1日がかりで煮詰めて作った「トマトケチャップ」は保存料など添加物を使わない自然で健康的な加工品として消費者から喜ばれている。そして手づくり加工品を詰め合わせた「内子のふるさと便」もお歳暮などで利用され好評を得ている。
名本さんは、アグリのモットーは「安心・安全・健康」と、新たなものに挑戦する勇気と頑張ってやりぬく気持ちを表した「勇気・やる気・元気」だと語った。
◆直売と家族経営協定で人生が変わった!
からりもアグリもそこに参加している「母ちゃんたちは元気だ」。その元気の素になっている一つの要因に「家族経営協定」がある。内子町では「県内トップの52家族ほどが協定している」と、あぐりの指導をしている町役場産業振興課の山本真二係長。
野田さんもその一人だ。協定を結ぶまでは大変だったが「結んだらそれは別世界」だった。「やらされている」と愚痴ばかりいっていたのが、「自分でやる」に変わり「父ちゃんには負けんぞ」と農業が楽しくなったという。そして「農村の女性が明るく楽しくなるそういう時代にしないといけない。そうしなければ後継者もこないと思う」と。
家族経営協定は「とことん納得がいくまで話し合い、相手のことを考えて締結する」ことだ。締結しても「家族構成も地域も変わりません。お互いの割り切りと役割が変わるだけ、やり方と考え方を変えるだけです」という。
野田さんの家では、当初はご主人は農協や森林組合に出荷し、野田さんはからりに出荷していたが、いまは「からりはすごくいいところだ」とご主人も評価し、ご主人の分も含めて全量をからりに出荷しているという。
そして最後に「直売所ができて人生が変わりました。視野が広がり、心が広くなり、考え方も変わりました。これを作った行政に感謝しますし、旦那さんに表彰状をあげたいです」と爽やかに野田さんはインタビューを締めくくった。 (2004.2.5)