4月からの新たな米政策のスタートに向けて全国各地で「地域水田農業ビジョン」づくりが進んでいる。これは地域の将来の農業をどうするのか、担い手や振興作物などについて生産現場自らが考えて明日の姿を描こうというものだ。ビジョンを実現するには、その実践の基盤となる集落単位で具体的な計画を立てることが重要になっている。集落ごとにビジョンを策定した岩手県のJAにこれまでの取り組みと今後の実践に向けた課題などを取材した。 |
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◆担い手の特定を最優先
JAいわて花巻も155ある集落の農家組合すべてで集落水田農業ビジョンを策定した。
管内が1市3町のためJAと各市町及び県、地方振興局担当者で花巻地方水田農業構造改革推進対策室を設置して推進してきた。
集落レベルでは農家組合内に集落水田農業ビジョン策定チームを設置、同時にJAと行政はビジョン策定支援チームをつくった。
昨年5月から農家組合長研修や座談会を開催し、その後、策定チームと支援チームの話し合いに入った。
管内の農家組合はすでに平成11年に集落営農振興計画を全組合で策定し、麦・大豆の本作化に向けてこれまでに麦、大豆、雑穀などの作付け面積を増加させ、団地化面積も増やすなど実績を上げてきた。
今回のビジョン策定ではこうした取り組みをふまえて、農家組合内の担い手を明確化させることを最優先課題とした。
「改革の総論ではなく、最初から各論を話合ってもらい、すぐに具体的な作業に取り組むということが大切だと考えた」と水田農業構造改革推進室の大和章利室長は話す。
最初の策定チームとの話し合いの場でビジョンの記載様式例を示したのもすぐに具体的作業に入るためだった。そこには集落内の農地の利用状況や担い手の状況など現状分析を記入する欄や今後、誰を担い手として特定するのか、振興作物は何にするのかなど、約半年かけて集落で決めて記入していかなければならないことが示されている。
「最初は国の政策が変更されることへの批判や、あるいは自分への助成額がどうなるのかという点での意見が多かったが、話し合いをするうちに次第に農家組合内の現状と課題に目が向けられるようになった。この問題は自らの課題だ、という意識になったのは徹底した話し合いの成果だと思います」。
◆意識改革でビジョンをレベルアップ
8月に担い手を集約したところ個別農家で約1000、集落型経営体をめざすものが約100となった。
今度はこの担い手と集落ビジョン策定チームのリーダーを対象に9月に研修会を開いた。そして11月には集落座談会を開催、そこで示したのが新たな政策のもとでの助成金体系だ。この段階では国も具体的な金額は示していなかったが、産地づくり交付金の使い方についての試案をポイント制で示した。
基本部分、担い手加算、対象作物などを一覧にしたものだが、団地化や利用集積に取り組まなければポイントは上がらないことが分かる。そのため集落でいくら自分が担い手として特定されても農地の利用集積など集落全体の合意がなければ必ずしも有利な支援があるわけではないという理解が生まれたという。そして担い手自身が自分の集落での話し合いを促進して最終的なビジョンをまとめていこうという気運につながった。
意識改革によって自分たちの集落ビジョンのレベルアップを図るという取り組みになったといえるだろう。
◆農家組合がマネージメント担う
こうした取り組みを経て、今年1月末に全集落の策定チームからビジョンが提出された。現在、これを集落ごとに説明し承認するという作業に入っており3月には成案を提出することになっている。
集落ビジョンは担い手の特定を優先課題としたが、担い手のリストは一集落に個別農家もあれば集落型経営体もあるというように緩やかなリストアップとした。
むしろ特徴的なのが農家組合がリーダーシップを発揮して地域農業をマネジメントしていくという点だ。集落型経営体も農家組合を基盤として組織化、農地の利用調整機能を持つため、個別農家と集落型経営体が担い手として両立できる。
そのほか転作面積、利用集積、作付け作物などの現場での確認も担う。すなわち、農家組合は集落全体の水田農業の計画を策定するだけでなく、それが確実に実践されているかどうかも自ら点検していくという機能を持つのである。
「ポイントは、ビジョンづくりを特定された担い手が行うのではなく農家組合を主体としたこと。農家組合を母体とした米政策改革ということもであります。これはビジョンを絵に終わらせず実際に改革が進む仕掛けであり、改革のための運動体でもあると考えています」と大和室長は強調していた。 (2004.3.11)