農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 元気な地域づくりとJAバンクの役割

JAにおける信用事業店舗再編の現状と課題
農中総研のアンケート調査から
貯金量等をにらんだ「支所の基幹店への統合」目立つ
小野沢 康晴 (株)農林中金総合研究所 調査第一部 主任研究員

 低成長の長期化、企業の資金需要減少を反映して、どの業態でも預貯貸率が低下している中では、金融機関の預貯金獲得に対する意欲は、全体的には低下してきているとみられる。従来預貯金獲得の場としての位置付けの大きかった店舗について、今後どのように位置付けて展開すべきか、金融機関ごとの独自の戦略が問われる時代になっている。ここではJAの信用事業店舗に関するアンケート調査結果の紹介を中心に、JAにおける信用事業店舗再編の現状と課題について考えてみたい。

◆他業態の店舗の動向

小野沢 康晴氏
1961年生まれ。長野県松本市出身。91年に(株)農林中金総合研究所に入社。同社調査第二部にて米国や欧州のマクロ経済分析や金融機関経営の分析等を行い、2003年3月より調査第一部所属。最近の調査レポートとしては、「都銀・地銀の住宅ローン戦略」(2003年1月)、「わが国における住宅ローン証券化市場の現状と展望」(同年4月)等がある。
 まず、他業態の店舗について概観すれば、近年大幅に店舗数を減少させたのは都銀であり、合併を通じた支店統廃合の影響が大きい。都銀は2002年3月末時点で国内店舗数2400弱と、97年3月末に比べて3割程度も店舗数を減らしている(数字は「金融ジャーナル増刊2002年12月号」による)。ただし都銀はコンビニとの提携によるATM網の拡大やインターネットバンク、子会社を通じた個人リテール業務への進出、業者向け営業拠点である住宅ローンセンターの増設等も行っている。従来型の店舗を減らす一方で、機能特化型店舗や他業態との提携等、多様なルートを通じて、個人との接点を増やそうとしていると考えられる。
 一方で地銀等の地域金融機関の店舗数の減少は相対的に小幅で(例えば、地銀の同期間の国内店舗の減少率は2.3%)、店舗の機能別再編を行うとともに、自らの営業基盤エリアへの回帰という方針から、県外支店を統廃合する例が多いとみられる。

◆JAにおける信用事業店舗の現状

 それではJAの信用事業店舗は、近年どのような状況になっているのだろうか。
 JAの信用事業店舗の全体的な数については、「総合農協統計表」によってその推移を追うことが可能であり、それによれば、信用事業の店舗数は近年2%程度の減少を続けており、2002年3月末時点で1万4000店程度と97年3月末対比で1割程度の減少となっている。
 ただし統計上では、どのようなJAが店舗を削減をし、どのような効果・影響があらわれているのかは必ずしも明確ではない。当総研では、平成15年度第一回農協信用事業動向調査において、全国393の資金観測農協を対象に、信用事業店舗の削減や機能の見直しについてアンケート調査を行っているので、その概要の紹介を通じてJAにおける信用事業店舗再編の現状を概観してみよう。

◆アンケートにみる信用事業店舗の削減

 まず、最近の合併以後(過去10年以上合併していないJAでは最近10年間)、信用事業店舗の削減を行ったことがあるかどうかたずねると、「ある」と回答したのは45%であった。
 ただし、過去2〜3年の間に、店舗削減を実施したJAの数は急速に増加しており(表1)、今後は店舗削減実施JAの割合が高まってくる可能性がある。
表1 店舗削減実施JA数の年度別推移
 JAにおいて店舗削減を進めてきた要因としては、まず合併が考えられる。店舗削減を実施した166のJAに店舗削減の背景を尋ねると、54.2%のJAが「合併効果発現のための店舗再編」をあげている。合併が店舗の再編・削減のきっかけとなるケースが多いことは確かであるが、合併農協全体(サンプルでは346JA)の中で、店舗削減を実施したJAは47.0%であり、合併をその背景要因とするJAが5割程度とすれば、合併を直接の要因として店舗削減につながるケースは1/4程度と考えられる。
 店舗削減の背景としては、「店舗の採算悪化」(41.6%)、「信用事業の収支悪化」(24.1%)をあげるJAも多く、信用事業の採算性悪化の影響も大きい。実際、最終合併後の経過年数が10年以上〜30年未満のJA(最近合併したわけではないJA)でも54.5%のJAで店舗削減が行われている等、「合併が契機」とばかりはいえない状況である。ただ合併と店舗削減の関連で近年特徴的なのは、合併と同時、ないし合併後1年以内に店舗削減を行うケースが増えていることである(図1)。最近の農協合併では、店舗の削減が喫緊の課題になるケースが多くなっているとみられる。
図1 最終合併年次別の店舗削減を実施したJAの割合

◆地帯区分別の特徴

 それではどのようなJAが店舗削減を行ってきたのだろうか。JAを地帯区分にわけると、中核都市や都市的農村のJAで店舗削減を行ったJAの割合が高い。そしてそれらの地帯のJAの特徴は、店舗当りの貯金量、貸出残高が他の地帯区分に比べて少ないことである(表2)。つまり、店舗当りの貯金量や貸出残高といった事業量の少ないJAで、店舗の削減が行われるケースが多かったことがわかる。
 なお表2において過疎地域の店舗当り貯金量、店舗当り貸出残高が大きくなっているのは、過疎地域の調査対象JAの約半数が北海道のJAであることが影響している。北海道の過疎地域のJAでは、店舗は本所のみというJAも多く、都府県の過疎地域JAよりも、店舗当たりの貯金量等が大きい。店舗削減の実施割合も、北海道の過疎地域JAでは8.3%だが、都府県の過疎地域JAでは38.5%と、農村地域とほぼ同じ水準となる。
 いずれにせよ、これまでのJAの信用事業店舗の削減は、貯金量等の事業規模の小さい店舗を有するJAを中心に行われてきたと考えられる。
表2 地帯区分別の店舗削減実施JAの割合、

◆具体的内容とその影響

 次いで、店舗削減を行ったJA(166組合)に具体的な削減内容を質問したところ(複数回実施した場合は各回について回答)、「支所の基幹店への統合」(65.7%)、「支所間統合」(62.0%)、「出張所の廃止・統合」(56.6%)等が多い。削減店舗選定の基準(複数回答)としては、「店舗の採算」をあげるJAが72.3%と最も多く、「貯金量」(59.0%)、「店舗間距離」(48.8%)がそれに次いだ。
 信用事業を行わなくなった店舗の利用法については、「売却した」「賃貸している」「他の事業に転用した」等はそれぞれ廃止店舗総数の1割前後にとどまり、「活用方法を検討中」(27.5%)「特になにもしていない」(16.2%)との回答が多い等、全体としては廃止店舗の有効活用が課題であるといえる。ただし個別には、直売所等に転用する例や葬祭センター、福祉関連事業の場として利用している例もあり、地域独自の有効活用が模索されている。
 店舗削減した管内での削減後1年間の事業量(貯金残高、貯金口座数、年金受給口座数、新規貸出、共済新規契約高)への影響をたずねたところ、新規貸出や共済新規契約高については8割以上が「影響なし」との回答で、貯金残高や貯金口座数等、他の項目に関しても、「影響なし」が半数以上であった。ただし、店舗削減を行ったJAのうち9割が、利便性低下を補う何らかの対策(渉外員の増強は72.3%で実施)を講じていることを考慮する必要がある。
 事業量への影響の中では、年金受給口座数について、40.5%のJAが「減少」と回答し、影響が最も大きかった。高齢者が多いというJAの顧客基盤を考えると、店舗の削減が、対応次第では、顧客の流出、事業量の大幅減少につながるリスクも否定できない。店舗削減の代替措置として年金宅配サービスを実施した例もあったが、顧客基盤に配慮した十分な対策が必要であろう。
 一方店舗削減の効果としては、信用事業のコストについて53.8%のJAが「減少」と回答している。渉外員の増強等による新規貸出の増加といった回答は少なく、現状の効果としてはコスト削減が中心になっている。

◆信用事業店舗再編の課題

 調査対象の全てのJAに対して「信用事業店舗網の課題」(複数回答可能)をたずねたところ、「店舗ごとの採算性把握が課題」(37.3%)、「統廃合を実施したいが難しい」(34.5%)、「機能見直し、再編を行いたいが難しい」(24.1%)等の回答が多く、相当程度のJAが、店舗網(ひいては信用事業担当者)の効率的な再配置の必要性を認識しているとみられる。また「統廃合等が難しい」の理由としては「組合員の理解が得られない」とするJAが多かった。
 昨年末に発表されたJAバンク中期戦略では、店舗統廃合・再構築を中心とした効率化によるコスト削減が重要な柱となっており、JAバンク一体となった効率的店舗・人員配置体制の構築が、信用事業の収益性回復にとって、重要な課題とされている。
 他業態がリテール(個人)分野に注力して体制を整えつつある中では、JAの信用事業においても、更なる機能強化・効率化が求められているといえる。組合員を中心とした顧客に対するサービス提供能力を高めるために、これまで以上に効率的な店舗網に再編していかなければならない場合もあろう。そういった場合には、JAの信用事業における店舗の位置付けを組合員に明確にした上で、店舗別の詳細な採算性等を明らかにすることを通じて、組合員に理解を求めていくことが重要といえよう。 (2004.4.1)


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