|
特集 絆の強化と仲間づくりで事業基盤を確立――JA共済事業のめざすもの |
対談 「農の魂」を忘れずに事業を展開 |
前田 千尋 JA共済連代表理事理事長 梶井 功 東京農工大名誉教授 |
系統役職員の努力で全国目標を達成――15年度実績
梶井 昨年度の事業実績は、長期共済で6年連続、年金共済で4年連続して目標を達成しましたが、これをどう評価されていますか。 前田 景気低迷が長引いていること、天候不順による農作物への影響で農家所得が伸び悩むなど、厳しい環境でしたが、JAの総合事業の一つとして長年にわたる組合員や地域住民の方々の信頼があったこと。そしてなによりもJAを中心とした系統役職員のご努力の賜物だと考えていますし、本当にありがたいと思いますね。 梶井 このご時世に目標を達成されたというのは、大変に立派なことだと思いますね。 前田 ただ個別にみていくと、長期共済の場合には、建物更生共済はぐっと伸びましたが、生命共済はちょっと低迷したという問題はあります。建物更生共済が伸びたのは、昨年5月26日、7月26日、9月26日と北日本で3回地震が発生したことも影響していると思います。 梶井 建物更生共済は私も契約者ですが、JA共済のなかでも評判がいいようですね。 前田 損害保険と異なり地震が主契約で保障されており、自然災害に対する保障仕組みの良さを広くご理解いただいていることだと思いますね。 ◆利用者の期待と信頼に応え競争激化に対応
梶井 最近の状況をみると、生損保との競争が激しいようですが。 前田 保険業界も自由化、規制緩和が相当に進行して、お互いに熾烈な競争をし、生き残りを賭けた経営統合も進んでいます。と同時に、契約者・利用者のニーズも変化しております。その変化をどう敏感に察知して新しい仕組み・商品を出していくかという面での競争も出てきています。 梶井 最近は国内大手の「漢字」生損保よりも外資系の「カタカナ」生損保の方が伸びているようですね。 前田 私たちの立場からみれば競争が少ない方がいいのですが、利用者のみなさんからみればいろいろな選択肢があった方がいいわけです。やはり、事業体としても、利用するみなさんがJA共済に加入して本当によかったと思ってもらえるような取組みを、組合員・利用者が満足できるように常に努力をしていくことが必要ですね。そういう意味では、競争がシビアになってくることは、利用者からみれば選択肢が広がりいいことだともいえますね。 JA共済の強みの発揮と事業力の強化 「3か年計画」のポイント ◆「絆の強化と仲間づくり」をJAの総合力で実現 梶井 そういうことを意識されて策定されたのが、今年度からの「3か年計画」ということだと思いますが、一番のポイントはなんですか。 前田 組合員のご理解と諸先輩を含めて系統役職員のご尽力による50数年の歴史によって、これだけの事業規模にまで発展をさせていただきました。したがってこれに応える社会的な責任があるわけです。「3か年計画」では「No.1の安心と満足の提供のために」というサブタイトルをつけましたが、これをどう実現していくかだと考えています。 梶井 「JA共済の強み」とは何をさしているのですか。 前田 共済事業は、JAの総合事業の一つとしてやってきたことで組合員から安心・信頼を得ていること。そして、より良い保障仕組みをより安い掛け金で提供しているということ。さらに、経営の健全性が確保されていることです。 梶井 「絆の強化」というのは…。 前田 農村部での高齢化の伸展や混住化、組合員の減少と准組合員の増加など事業基盤が変容してきています。そうしたなかで、既契約者に一定のサービスを提供する「JA共済しあわせ夢くらぶ」を軸に、既存の利用者との結びつきをもっと強めようということです。 梶井 「仲間づくり」は未契約者との関係ですか。 前田 次世代を担う人たちにJA共済の良さを理解してもらい、積極的に利用してもらえたらと願っています。 ◆競争力・健全性・信頼性を確保し「事業力」を強化 梶井 重点取組事項の2つ目はなんですか。 前田 「“JA共済事業改革”の着実な実践による事業力の強化」ということです。昨年のJA全国大会でも、JA改革の断行を決議していますが、JA共済も改革を実行することで事業力を強化していくということです。 梶井 「事業力」というのは、独特な言葉だと思いますが、どういう内容ですか。 前田 競争力と健全性と信頼性の3つを合わせたものです。この3つは相互に作用します。信頼性があるから利用してもらう。利用してもらうから競争力が強くなる。競争力が強いから信頼してもらえるし、健全性も確保できるというようにです。 ◆組合員・利用者への「奉仕」が協同組合の精神 梶井 協同組合の事業のあり方そのものですね。 前田 そうです。そういう原点に則った事業展開ということです。 梶井 共済事業は「協同組合事業の一環としてやっているのであって、不特定多数を相手にした保険とは違うんですよ」ということですね。 前田 農協法8条には「組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行つてはならない」と書いてあります。短い文面ですが、農協法は良くできているなと思いますね。損をしてはいけないわけですが…。 梶井 損をすれば事業継続ができないわけですからね。 前田 「奉仕」ということはある意味では、最近いわれる法令遵守とかコンプライアンスに通じますね。法令違反というのは自分だけ得をしようとやるから起きるわけですね。 梶井 本来、協同組合としての事業のあり方を踏まえていれば、コンプライアンスなんて問題になるはずがないんですね。 前田 現実には、いろいろと問題が起きていますので、私たち役員も含めて心しなければいけないと思いますね。 梶井 昭和22年制定時の農協法では、組合事業についての組合員への教育も組合の事業だと書いてあったんですね。いまは、それがなくなり問題だと、私は思っているんですが…。 前田 教育は組合員との相互教育ではないかと思いますね。 梶井 職員が事業は組合員に奉仕するためにやっていることを踏まえていれば、組合員からも返ってくるわけですよ。 前田 農家組合員があってJAがあり連合会があるわけですからね。 梶井 ここのところ事業効率ばかりがいわれて、そういった精神が忘れられている感がありますね。 前田 JA共済連の新井会長は「農魂耕心」「農魂商才」ということを話されます。つまり、技術論は生損保と同じだから、そうした専門性については高いレベルをめざす。しかし、「農の魂」「農の心」はしっかり持ち、忘れてはいけないという意味だと私は理解しています。 梶井 「事業力」という言葉には、そういう思いが込められているわけですね。 ◆共栄火災含めて経営資源の有効活用――事業改革のポイント 梶井 話は戻りますが、事業改革については、何がポイントだとお考えですか。 前田 JAは組合員・利用者との接点であり、第一線ですから、そこにおける推進活動とか専門性をもったLAの充実、事務処理を適切かつ迅速に実施するといった意味での体制整備と人材の育成が重要だと思っています。連合会も12年4月に統合しましたが、共済事業を推進するために第一線のJAがより行動しやすいようなバックアップ体制をどうとるかだと考えています。 ◆時代の変化に対応した仕組み・保障を開発 梶井 「3か年」のスタートにあたって新しい商品も出されているわけですね。 前田 いろいろ検討し、この4月に5つの保障仕組みを出しました。1つは医療共済「べすとけあ」です。従来、49歳までを対象にした「定期医療共済」がありましたが、高齢者からも要望がありましたので、そういう年齢層の方にも利用していただける仕組みとして開発しました。2つ目は、年金共済で予定利率変動型のものを新設しました。3つ目が建物更生共済を自然災害の小損害に対応できるようにリニューアルすると同時に、将来の環境変化にも柔軟に対応できる仕組みの構築をめざして、保障期間を5年または10年に短縮し、10年契約の場合には、契約者の希望により最長30年まで保障が継続できる「継続特約」を設けるなど制度を変更しました。 梶井 医療共済とか年金共済は、外資系がずいぶん売り込んでいますね。 前田 昔なら親父が死亡したら家族が困るだろうからと「家族のために」とか、いざというときにもらえる保障・仕組みが主流でしたが、いまは、長命になっていますから、介護とか医療とか自分のための保障にニーズが変化をしてきています。農村部でもそういう変化が起きていますね。 ◆組織力の発揮で組合員の営農・生活向上に貢献 梶井 これまでのお話を伺っていると「絆の強化」と「事業力」は裏表の関係にあるんですね。 前田 そうなんです。絆を強めて、それなりの利用者がいなければ事業力もついてきませんしね。機能を高め運用力そして保障仕組みの質も良くなければいけない。そして自分たちの仕事は、農家組合員・利用者の幸せにつながるんだ、組合員の営農・生活の向上に寄与しているんだという自負をもつことですね。 梶井 親父は農業をやっていてJA共済を利用しているが、息子は会社に勤めていてそちらで保険にとなりがちですね。 前田 そうなんです。農村から都会に出てこられると、JAが近くにない場合があるので、例えばJA共済連の全国本部に窓口を設けて相談にきてもらったらどうかなと思いますね。そして信用事業関係の相談がきたら農林中金につなぐとか、経済事業関係なら全農につなげばいいわけです。全国連がそれぞれそういう窓口を設けて連携すればいいのではないか。それが組織力ではないでしょうか。 梶井 水田農業ビジョンも検討されていますが、誰かに任せようというところは少ないですね。お互いの力を出し合ってがんばってやっていこうと知恵を働かせています。 前田 そういう協同の力・組織の力が全国目標達成の原動力だと思いますね。 ◆良さを理解してもらえばまだ普及できる余地はある 梶井 普及推進面での課題としてはどういうことがありますか。 前田 長期共済の保有が5年連続減少していることで、これになんとか歯止めをかけなければいけないと考えています。そのためにもニューパートナーをいかに獲得するかが課題ですね。 梶井 まだまだ余地があるわけですね。 前田 本当に理解をしていただく努力をすれば余地はあると思います。それをどう実現するかですね。 従来の諸施策を法定化し社会的責任を明確にする農協法改正 梶井 国会で農協法改正が審議されていますが、これだけ共済事業関係が農協法改正に入ったのは、昭和29年以来50年ぶりですね。 前田 現在は通達・通知など行政指導と定款や共済規程など自治規範で事業の健全性を確保するための諸施策を実施していますが、これでは関係者しか分からないわけです。JA共済は資金面でも事業量の面でも大きな規模になりましたから、これらを法定化することで、社会的な責任や信頼性、健全性を法律的にきちんと明確にすることだと思います。 梶井 国会を通らなければ確定しませんが、改正案のポイントはなんですか。 前田 一つは、組合員・利用者の利便性向上の観点から、自動車・自賠責共済取次店制度について機能の強化をはかることです。 梶井 法改正がされても、運営に変わりはないわけですね。 前田 基本的には変わりはありません。 「相互扶助」を事業の原点に 梶井 最後に、JAの事業活動のなかで共済事業はどのような役割を果たしていくとお考えですか。 前田 JAは、農家組合員と地域住民の営農と生活の向上・安定、言葉を代えれば、豊かな生活、幸せな生活をめざすための協同組合組織です。そのためにいろいろな事業展開をしているわけです。そのなかで共済事業は「ひと・いえ・くるま」の総合保障を通じて、生活の安定・向上に貢献をすることだと考えていますし、JA総合事業の大きな柱の一つを担っていると考えています。 梶井 これはどのような経過でつくられたのですか。 前田 これは「3か年計画」を策定するために、JAや県本部の役員と協議するなかで、キチンと役職員が「何のために仕事をしているのか」をお互いに確認しようではないかという提案がありまとめたものです。 梶井 一番初めに「“相互扶助”を事業活動の原点として」とありますが、大事なのはここのところですね。 前田 私たちはそういう精神で仕事をしているのだから、職員間でも足を引っ張り合うのではなく、お互いに手をさしのべあったらどうだ、と職員にもいうんですよ。そうでないと事業も伸びないと思いますね。 梶井 こういうことを出すことで、不特定多数を相手にする保険とは根本的な性格が違うということが明確になりますね。 前田 新井会長がいわれるように、技術論や制度上の課題については生損保に負けない専門性をもちながら、農の魂を忘れずに事業展開をすることで、これからの厳しい状況を乗り切っていきたいと考えています。 梶井 今日はありがとうございました。
(2004.5.20)
|
特集企画 | 検証・時の話題 | 論説 | ニュース | アグリビジネス情報 | 新製品情報 | man・人・woman 催しもの | 人事速報 | 訃報 | シリーズ | コメ関連情報 | 農薬関連情報 |
||
社団法人 農協協会 | ||
|