農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 安全・安心な畜産物の生産基盤と販売事業の強化

液状乳製品の販売 さらに拡大へ
地域別余乳処理体制の整備も
酪農部 松尾要治部長

 年末年始や学校給食休止期に需要を上回って生産される生乳を処理して、乳製品を製造するJA全農の協力工場は、各地域にある。酪農部は地域別余乳処理体制の整備を今年度事業計画の課題とした。またクリームなどの液状乳製品の販売拡大にも全力を上げる。輸入乳製品に対抗できるフレッシュな品目であるからだ。取扱数量の目標を品目別に掲げ、これも課題とした。

◆生乳の安全・安心対策

松尾要治酪農部長
松尾要治酪農部長

――酪農部門の15年度実績はいかがでしたか。

 「取扱高実績は計画対比で106%と、前年度に引き続いて計画を達成しました。16年度も、15年度計画と同じく、生乳では165万トンの取り扱いを目指しています」

 ――今年度事業の重点にはまず安全・安心対策があります。具体策は?
 「生乳は、牛肉のような個別管理が難しいのですが、引き続き積極的に取り組んでいきます」
 「例えば、4トンのベビーローリー車で個々の酪農家から生乳を集め、クーラーステーション(CS)で送乳できる単位としますから、生乳の個別管理はCSのタンクごとの管理となってしまうのです」
 「そこで、酪農家個別のサンプルを採って、検査しています。これは乳業者への送乳ローリー単位でも行っています。CSに集めた生乳は10トン以上の大型ローリーで乳業メーカーへ運びますが、安全対策は各段階それぞれに実施しています」
 「今年度は、各段階ごとの安全機能を再確認し、生乳生産から乳業工場搬入までの役割分担を明確にして、もし何かがあった場合でも酪農家個別サンプルの段階までスムーズにフィードバックできるような体制に持っていきたいと考えています」


◆指定団体との機能分担

 ――安全意識の向上が基本だということですか。

 「そうですね。少し説明を加えると、生乳の物流はシンプルですが、商流のほうは酪農家→JAまたは酪農協→県組織→広域指定団体→全農→乳業メーカーとなりますから、各段階が、その流れの中で、責任をもって安全確保の役割を果たすという認識を明確にしたいとの考え方です」

 ――次にくる重点的な実行具体策は何ですか。

 「生乳共販体制の整備・強化という柱の中では、全国本部の事業拠点を東西2ヵ所に整備したことが挙げられます。4月から大阪と福岡の支所酪農部を廃止し、大阪に西日本酪農事業所を設置しました。東日本の業務は本所が対応します。今後は、この2拠点の業務円滑化を進めます」

 ――広域化した指定生乳生産者団体との機能分担も課題だと聞いています。

 「県ごとの指定団体が全国8団体(ブロック単位)に再編されて広域指定団体が業務を開始し、3年から4年経ちましたが、まだ機能が充分に移管されず県域組織が実施している部分もあります。国も指定団体の機能を早く強化するようにと指導しています」


◆効率的輸送体制の整備

 ――どんな機能のことをいうのですか。

 「どの産地から、どの乳業メーカーに、いつ、どれだけの生乳を搬入するか、という配乳計画をつくり、それに基づく手配をすることなどは、本来は指定団体が分担すべき機能ですが充分に実施されておりません」

 ――需給調整の機能といえますね。

 「そうした配乳の機能を指定団体に集約して集荷・販売をより効率的にすることが求められています。それは、全農の経済事業改革構想と方向が一致しています」

 ――そこで改革構想に基づき、指定団体への機能移管を進めるわけですね。

 「全農の全国本部・県本部による地域別協議会を設置し、地域別の生乳共販と生産基盤事業のあり方を協議して、広域指定団体などとの協議が整った地域から順次、機能を移管します」

 ――物流経費の削減という課題はどうですか。

 「例えば、錯綜した集乳路線を効率的に再編したり、生乳を運ぶローリーを10トン車から、15トンとか20トンへと輸送単位を大きくするなどしてコストを削減していきます。またJAグループの総合物流会社としては(株)エーコープラインがありますから、同社を活用した、より効率的な輸送体制の整備を進めます」


◆業務用を計画的に販売

 ――次に生乳生産が需要を上回った場合、余乳を乳製品にする余乳処理体制の整備は進んでいますか。

 「各地域ごとに余乳処理を実施してもらう協力工場は明確になっています。しかし施設の更新や増強が必要な工場も年々出てきますから、これを支援して、効率の良い処理ができるように体制整備を進めています」
 「全農が余乳処理施設を設置し、それを稼働させている協力工場もあります。今年度は関東エリアの拠点工場を整備する予定です」

 ――販売面での重点施策はいかがですか。

 「業務用乳製品の販売力を強化します。その1つは大口取引先への計画的販売です。大口先との商談で需要はほぼ分かり、計画的な販売ができます」
 「販売の主力商品は、系統乳業メーカーであるよつば乳業(北海道)の製品です。全国的に見て業務用の乳製品シェアは、同社製品がトップです」


◆輸入乳製品に対抗して

 ――生クリーム、脱脂濃縮乳、殺菌乳などの液状乳製品の取り扱いが伸びていますね。

 「ええ、引き続き販売を拡大していきます。液状乳製品は、脱脂粉乳やバターと違ってフレッシュな品目なので輸入が難しいという事情があり、海外の乳製品に対抗できる国産品です。しかしWTO農業交渉では市場アクセス(関税引下げ)が争点となっており、先行は不透明です。このため生乳生産の基盤を守るためにも、液状乳製品の販売を強化します」

 ――液状乳製品の販売は重要な位置づけを持っているのですね。

 「製造面では、殺菌乳出荷工場の集約化も進めています」

 ――さて今、話に出た脱脂粉乳が過剰在庫となっています。少し解説して下さい。

 「適正在庫は平均消費量の2ヶ月分とされているのに今年の4月末では6ヶ月分となっています。これは脱脂粉乳を原料とする乳飲料、加工乳の消費が食中毒事故以来落ち込み、需要が激減したことが影響しています」


◆脱脂粉乳の過剰解消へ

 ――解消策は?

 「北海道内の大手乳業に、輸入調製品との置き換えで国産の脱脂粉乳を使用してもらったり、飼料用に使用してもらうなど、需要拡大を図ります。全農としても、脱脂粉乳の販売拡大に努めています」

 ――バターのほうはどうですか。

 「同様に4月末の在庫が3.6ヶ月分であり、ピーク時の5.5ヶ月分からすると、かなり減少しました。バターも適正在庫は2ヶ月分といわれています。

 ――経済事業改革構想に基づく事業の会社化という課題もありますね。

 「ユーザーの要求に迅速に応え、効率よく事業を展開し、競争力を強化するには、株式会社化構想ということで、乳製品販売事業を全農本体から切り離し、会社化の枠組み検討に入ります」

 ――日本ミルクコミュニティ(株)についてはいかがですか。


◆関係会社との連携強化

 「同社の経営改善への取り組みを継続して実施します。またその他関連乳業会社の事業強化にも取り組むなど全農の関係会社との連携を、さらに強めます」

 ――ほかにも課題が多いと思いますが、最後に何か1つ挙げるとすれば、どんな実施策がありますか。

 「16年度には、生乳生産基盤の維持および乳用牛取り扱い体制の見直しを実施する方向で検討中です」

 ――ところで都府県の生乳生産量は、今年に入って、月々の波はあるものの上昇傾向です。需要も回復気味です。一方、大手乳業メーカーの牛乳がヒットして値段のほうは低価格一辺倒から脱しつつあるともいわれますが。

 「牛乳の小売価格は二極化してきたといったところでしょうか。今後とも適正価格の実現に向けて取り組んでいきます」 (2004.7.20)



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