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特集 命と暮らしを守る21世紀の農業を考える |
使える技術をすべて使って食糧問題解決に貢献する |
マイケル・ケスター(Michael Kester)シンジェンタ ジャパン(株)社長 梶井 功 東京農工大学名誉教授 |
◆人と人を結びつける――社名にこめられた思想
梶井 はじめに、シンジェンタ(Syngenta)という社名のいわれからお話いただけますか。 ケスター シンジェンタは、3年半前にノバルティスとゼネカの農薬部門が合併してスタートした会社です。両社とも自分たちの社名を継承したいという希望がありましたが、共に歩んでいくためには新しい社名を見つけなくてはいけないということになりました。 梶井 人びとを結びつける、しかもそれを新しいテクノロジーで結びつけるという思想がこの社名にこめられているわけですね。 ◆農薬は医薬品のテクノロジーの応用
梶井 この新聞で農薬の権威である松中昭一神戸大名誉教授と対談する機会があって、その時に農薬のことを俄か勉強しました。それまで私は、農薬は毒物ばかりを使っていると思っていましたが、毒物を使っている農薬はほとんどなくなって、多くの農薬の原料は普通物で、植物や昆虫の生理特性に注目して、その生理機能を阻害するような形で防除目的を達しているということを知りましたが、それを教えてくれたのが貴社のパンフレットでした。 ケスター これまで私たち農薬業界は、一般の人たちにどういうテクノロジーを使っているかを説明する方法が良くなかったと思います。先生が「農薬は毒である」と思われていたといわれましたが、一般の人たちも同じだと思います。 ◆世界のテクノロジーを日本のために活用する 梶井 「世界のテクノロジーを日本のために応用・活用していく。それが私たちの使命です」とパンフレットには書いてありますが、とくにいま、日本で普及したいテクノロジーにはどういうものがありますか。 ケスター 一つの例として、シンジェンタが開発したアミスターという殺菌剤があります。これは森に生えている茸の成分からつくったものです。この茸は、自分たちが植生している周囲に他の茸や菌が入ってこないように防御しています。これを不思議に思い、どうやって防御しているのか研究を進めたところ、ストロビルリンという成分が発見されました。このストロビルリンをその茸から取り出したところ、半減期が非常に短く、茸から取り出すとすぐに有効でなくなってしまいます。そこで、半減期を長くし化合物を安定化させる研究を行い、いろいろな作物に対して広く使える理想的な殺菌剤として商品化しました。 ◆いずれ必要になるGMOの技術 梶井 これからのものとしてはどうですか。 ケスター バイオテクノロジーを駆使して、新しい農薬の開発や新たな種子の開発を行っています。毎日毎日新しい発見が研究開発部門ではありますが、製品化までは7〜10年の時間がかかります。シンジェンタには幅広い製品がありますが、そのなかで多くの最新技術が使われているのが特徴だといえます。 梶井 種子では遺伝子組み換え(GMO)もあるわけですか。 ケスター ありますが、日本では開発・販売していません。米国や南米ではGMOが受け入れられ、よく売れています。 梶井 大豆ですか。 ケスター 大豆、トウモロコシ、綿花ですね。とくに綿花栽培農家にとっては、GMO綿花を栽培することで殺虫剤を使わなくても害虫から守ることができます。50%くらい殺虫剤の使用量を減らすことができますから、コストを低く抑えられますし、環境にも優しくできます。 梶井 GMOの綿実油を日本の食品会社が使うことを食品安全委員会がOKしましたね。 ケスター コットン油の場合、GMOでもNON−GMOでも、たんぱく質が高温で変質してしまい同じものになってしまいます。しかし、消費者は一方は安全で、一方は安全でないと思っている現実があります。 ◆感情ベースではなくサイエンスベースでの判断が求められる
梶井 これからを考えると必要があるということですか。 ケスター 21世紀を考えると、人口が増加し都市に集中する傾向にあると思いますので、食料不足がおこると思います。さらに、いずれ石油が枯渇してしまうだろうともいわれていますから、それぞれの国でどのようにエネルギーをつくりだしていくかが課題になり、農業にも大きな影響が出てきます。水も大きな問題となりますし、自然資源に関しては再生できる資源を見つけていかなくては大変なことになると思います。こうしたことは現実的な問題として起きてくると思いますので、問題解決にどう貢献できるかを考えていかなければいけません。 梶井 21世紀の食料を考えるときに、GMOも含めて狭い面積からでも必要な食料が取れる技術を用意しておかなければいけないわけですね。しかし、日本は米が余っているので収量をあげる技術開発には臆病になっていますね。 ケスター 今は過剰でも、今後足りなくなることもあるわけで、長期的な視点で米についてのインフラを守っていく必要があると思います。 ◆各国共通の「保健・安全・環境ポリシー」 ケスター 日本の企業も環境や安全性については非常に配慮されていると思います。HSEポリシーの目的は、事故や問題が起きる前にそれを防止するためのものです。最初は社内でと思っていましたが、世界130カ国にわたるというグローバルな企業なので、国ごとに作ると国によって安全性や環境の基準が違いバラバラなものになるので、世界中どこでも同じ基準でやっていこうということで、できたのがHSEポリシーです。 ◆日本の農業は品質重視 信頼できる農協 梶井 日本の農村を歩かれましたか。 ケスター 歩きましたね。 梶井 率直な感想を聞かせてください。 ケスター 日本の農家を回って感動したことがあります。それは、品質に対して注意がはらわれていることです。日本以外の国だと、どちらかといえば量が先で質はその次という傾向がありますが日本はまったく逆だという印象を持ちました。二つ目は、アルゼンチンでは農家の規模は10万haとか40万haと大きく平均でも5万haですが、日本は平均1haと規模が小さいと思いました。しかし、日本では、害虫や病気、あるいは肥料の撒き方などがよく管理されていますから、注力の仕方が違います。 梶井 日本の農業の方向性としては質に力をいれていく方向が良いと思いますか。 ケスター 質を重視しながら農家によっては1ha以上に規模を拡大すれば効率を上げられると思います。 梶井 規模拡大しても5万haなんて経営はできませんね。 ケスター 日本はフォーカスすべき作物を定めてベストクオリティーなものをだしていくことになると思います。 梶井 日本の農協に対してはどうですか。 ケスター 日本と他の国の農家を比べると、日本の農家はユニークなサービスを農協から提供されていると思います。例えば、農家の生産物を市場に出すまでの品質管理まで農協でみているという素晴らしいサービスを提供しています。お世辞ではなく、日本の農協には弱い領域がなく他の国に比べてしっかりしていると思います。そして農家とのパートナーシップは素晴らしいと思いますね。 梶井 今日はありがとうございました。
(2004.7.16)
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