JAグループは全国大会の決議のなかで「アジアとの共生」を掲げ、各地のJAでもアジアの農協と提携した交流活動も広がってきている。こうした草の根レベルでの活動は共に生き、共に学びあってお互いの理解を進める21世紀の新たな国際関係のあり方を示す協同組合らしい取り組みだ。
一方、アジアの農協組織の人づくりに貢献してきたIDACA(アジア農協振興機関)も昨年設立40周年を迎え、今後の役割が一層期待される時代になっている。「アジアとの共生」を掲げるJAグループは何をめざすべきか。JA全中の塚田和夫常務に語ってもらった。聞き手は白石正彦東京農大教授。 |
■「協同」の理念を内外に発信する
白石 「アジアとの共生」は平成9年の第21回JA全国大会決議で3つの共生のひとつとして打ち出され、その後、「農と共生の世紀づくり」をスローガンにした第22回、さらに昨年の第23回大会でも取り上げられました。最初にこのキーワードの理念についてお聞かせいただけますか。
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つかだ・かずお
昭和20年富山県生まれ。東京大学農学部卒業。昭和45年全国農協中央会入会、61年教育部教育課長、62年畜産園芸対策部畜産園芸課長、平成2年国際部国際課長、5年農政部農政企画課長、6年農業対策部営農対策室長、8年農業対策部長、10年農業基本政策対策部長、11年総務企画部長、14年常務理事。 |
塚田 世の中、グローバル化ということが大変喧伝されています。その背景にあるのは競争で、市場がすべてだといういわゆる市場万能主義です。
しかし、市場での競争だけが人が生きていくときの唯一の理念なのかという疑問があります。協同という理念もあるのではないか。また、人のさまざまな生き方、地域の個性、そういうものを保障しながらグローバル化があるのではないか。
こういう考えを大切にしていくことが今こそ求められているという考えから『共生』を打ち出したわけです。
JAグループは地域に根ざした農業協同組合であり、その観点から考えると地域のなかにもさまざまな人たちがいらっしゃいますから、地域との共生が大切ですし、世代間の共生もある。また、世界との関わりも単なる市場競争だけではなく、協同の理念に立脚した付き合い方があるということから、アジアとの共生を打ち出したわけです。
白石 1997〜99年のFAO(国連食料農業機関)の推計では栄養不足人口が8億1500万人で世界人口の13.8%にもなります。しかも栄養不足人口はアジア、アフリカ地域に集中しているという状況です。
私たちはともすれば飽食になりがちですが、一方には飢餓がある。飽食と飢餓がいわば背中あわせになっているわけですから、先進国の日本としてはやはり共に生きていくという課題があると思います。
そういうなかでJAグループの国際的な取り組みのひとつにIDACA(アジア農協振興機関)があります。昨年は設立40周年を迎えましたね。IDACA設立の経緯をお聞かせいただけますか。
■アジアの農協指導者づくりに貢献するIDACA
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しらいし・まさひこ
昭和17年山口県生まれ。九州大学大学院修了。農学博士。東京農業大学国際食料情報学部教授。昭和53年〜54年英国オックスフォード大学農業経済研究所客員研究員、平成5〜7年ICA新協同組合原則検討委員会委員、10年ドイツ・マールブルク大学経済学部客員教授。 |
塚田 戦後、農協が新たにスタートした、草創期のころはいろいろ課題も多かったと思いますが、日本経済が発展してくるなかで農協の組織や経営も落ち着きをみせてきました。そういうなかで改めて海外をみると、途上国のとくに農村では貧困などさまざまな課題があって、それを解決するには日本の経験からしても、農協が地域にきちんと根付いていくことが大変重要で、それにJAグループは協力できるのではないかという熱い思いがIDACA設立につながっていったと思います。
白石 99カ国から研修生を受け入れており40年間で4600人です。この取り組みは結局、人づくりということですね。貿易ではなく、地域のリーダーを育成していくという点で大きな役割を果たしてきたと思います。
塚田 IDACAがお招きしている研修生の方々は、まず農協の指導者、それからそれぞれの国で農協に関係する行政に携っている方です。アジアを中心とする各国の農協の指導者に日本のノウハウを伝えるのがIDACAのそもそものスタートだったわけです。
今、WTO(世界貿易機関)交渉やEPA(経済連携協定交渉)といった農産物貿易をめぐる国際的な課題がありますが、それに対してJAグループの考え方を国際的にアピールしていく必要があることから、われわれは各国の農業団体とも日ごろから連携をしています。ところで、アジアの農業団体の指導者のみなさんの中にはIDACAの卒業生がかなり多いんです。ですから、日本の農業の実状やJAグループのついてもよくご存知です。アジアモンスーン地帯の農業の課題には共通のものもありますから、そういう意味では、アジアの農業や農協をともに考えるという種をIDACAが播いてきたということは間違いないことだと思います。
■草の根レベルの交流でともに豊かな農村づくりを
白石 ところで、日本ではJA段階でのアジアとの交流も盛んになってきました。たとえば、神奈川県の「JAはだの」では、韓国の知道農協と姉妹結縁関係を結び、JA女性部が本場でキムチの作り方を習い、キムチ同好会が結成され、キムチを作って直売所で販売し女性部活動が元気になっています。
またタイの農協との交流では、JA組合員が募金援助している小学校を訪問したとき、子どもたちは小さくなったクレヨンを本当になくなるまで大事に使いながら絵を描いていて、それを見たとき自分たちがいかに無駄に使っているかを気づいたといいます。
ですから、交流というのは何かモノを贈るという一方的な援助ではなく、たとえば、贈ったクレヨンというものを通じて日本人として自分たちの生き方を学ぶというような双方向性が大事だと私は思います。
塚田 JAグループの国際的な交流活動には次第に幅の広さ、深みが出てきました。
IDACAがスタートしたときは、アジアの各国から日本に来て日本の農協について学んでいただくということが多かったわけですが、その後、こちらから出向いていくという協力も行うようになりました。
研修に来ていただく場合は人数がどうしても限られますから、日本から専門家が行って現地の農協振興に協力するという取り組みもタイやフィリピンをはじめ多くの国で行ってきました。
ただ、いずれの場合も専門家が指導するという方式なわけですが、最近ではさらに広がり農協どうしの交流が行われるようになったということです。 活動内容もたとえば、女性部のみなさんがカンパして学校を贈るとか、里親として学校に行けない子どもたちを援助し、自分たちも現地に行くし、子どもたちにも来てもらうというように、草の根レベルの交流に広まってきており、私はJAグループの国際交流、国際協力は厚みを増してきていると思っています。
白石 それは次世代づくりにも貢献しているということですね。
塚田 政府の農業開発協力でダムや水路を建設するといったインフラ整備に力を入れても、たとえば、水路を作ったとしてもそれを農家が活用して農業をするためには農家の組織が必要だということになりますね。
開発協力のあり方については、地域の人々が自ら発展していく自主性を引き出すことが大事だという考え方が強まってきていると思います。また、国が国に援助するだけではなくNGO(非政府組織)のようなボランティアが活躍しやすいように国が支援するという方向も重視されるようになってきています。JAグループの共生の取り組みはまさにその方向にあるわけです。
■貿易ルールづくりも相互発展の視点で臨むべき
白石 人を通じた支援と相互理解の段階に入ってきたということですね。
ところで先ほども話題にされたEPAについても共生という視点が必要だというのがJAグループの考え方ですね。
塚田 FTAは自由貿易ということですが、他方、EPAは経済連携ですね。
今いくつかとの国で交渉が行われていますが、われわれが提起しているのは、国と国との関係というのはただただ貿易を自由化すればいい、関税をゼロにすればいいということではなくて、各国にはそれぞれの農業の実状があるわけですから、お互いにそれを理解したうえでお互いに発展していけることが大切だということです。
JAグループの考え方についてはアジア各国の農業団体からも理解をいただいています。アジアでは、食料の供給確保や食品の安全性、貧困の解決が大きな課題になっているので、JAグループも改めてどういう協力ができるのか、どういう提案ができるのかを検討しているところです。
アジア各国がそれぞれノウハウを出しあって健全な農業や農村をつくることに向けて協力していかなければならないと思いますし、日本も国としてこうした考えを大切にすべきではないかと考えます。
白石 アジアとの共生はよい農村づくりや元気な農業者をお互いつくっていこうということですね。また、不公正な貿易ルールについてはおかしいということを連携して発信していくことも大事です。
共に生き、共に教え学び合う、という草の根からの運動の広がりがこれからますます重要になりますね。
塚田 これまでのJAグループのさまざまな取り組みをふまえて、今後どう深めていくかが大事だと考えています。新たな時代における協力のあり方、相互理解のあり方が求められていると思います。
白石 ありがとうございました。
インタビューを終えて
塚田全中常務理事へのインタビューを通じて、(1)全中が40年前に設立したIDACAがアジアをはじめ途上国の農協発展のための人づくり面から「協同組合教育・研修活動」を効果的に継続し、修了生が4600人に達した成果を土台に、今後アジア地域等の協同組合とNPOの教育・研修センターとしての充実が期待されること、(2)各単位JAにおいては、アジアとの共生を目指した「生活文化活動」の輪が、教え合う学び合う多様な組合員組織等の草の根活動へと深化している成果を土台に、今後「アジアとの共生運動」が「協同組合らしい組織・事業・経営にJAを復元していく土壌づくり」として位置づけを鮮明にすること、(3)タイ、フィリピンなど東アジアとの経済連携協定(EPA)の協議が本格化する中で、JAグループがIDACAで学んだ修了生を含む協同組合関係者の人的ネットワークづくり、農業者の尊厳と環境保全型水田農業づくりを重視し、東アジア地域の「相利共生型」協同組合間提携事業の創造時代に入りつつあることを痛感した。(白石)
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(2004.8.2)