「経済事業改革」は、いま全国の農協組織にとって最大の課題となっている。JA全農経済事業改革推進部JAコンサル室の「全農総合コンサル」(以下全農コンサル)は、JAの経済事業改革の実現をサポートするために、個々のJAがおかれた環境を詳細に分析し、経済事業で培ってきたノウハウを駆使して、最適な改革案を提案し、その実行をフォローしている。既に全国で50JAがコンサルを導入し、改革に取り組んでいる。そこで、全農総合コンサルの内容と実際にコンサルを導入し、15年度から改革に着手しているJAみのり(兵庫)と、最終報告書を受けこれから改革に着手するJAひがしみの(岐阜)に取材した。
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JA全農JAコンサル室
◆経営状況から組合員・役職員の意識まで客観的に分析
経済事業改革は、単に経済事業の赤字を解消すればいいというものでもない。改革をすることで、農家組合員の営農と生活の向上に貢献し、組合員から支持されなければならない。改革を成功させるためにはまずJA経営や経済事業について、その強みも弱みも客観的に分析・評価し、どのような改革を行うのかという方向性を具体的に組合員やJA職員に提示して、改革の方向を共有することが必要だといえる。そのため、全農コンサルは、JAごとの経営状況の把握はもちろん、アンケート調査やインタビュー調査による組合員ニーズの把握やJA職員の意識調査を行い、改革の提案と実践への支援を行っている。
組合員への各種調査では、組合員がどうJAを評価しているのか、どのような意見や不満をもっているのか。職員への調査では経済事業担当者だけではなく金融・共済担当者が経済事業をどうみているのかも調査する。さらに、常勤・非常勤役員や部課長など管理職の意識の違いなどについても明らかにする。
◆JA職員も参加した具体策協議―最終報告後も1年間フォロー
そのうえで課題や問題点を整理し、着手して半年後に「中間報告」が提出される。さらにJA職員とプロジェクト方式でより具体的な改革方策を検討し、着手して約1年後に「最終報告」がJA理事会に提出される。民間のコンサル会社ならここで仕事が終わるが、全農コンサルは最終報告後1年間フォロー活動を行い、改革の実現を促進(後押し)している。
JA職員とのプロジェクト方式で改革方策を検討するので、プロジェクトに参加した職員の意識改革がされるという効果もあるという。また、提案内容は、連合会の各現業部門や関連会社の機能を取り込んだもので、連合会の総力を発揮したものとなっているのも、全農ならではのものといえる。
JAコンサル室の活動は、平成8年からだが、すでに27県50JAが導入。そのうち、提案後2年間の収支推移ができる18JAの状況は(平均値)、購買事業では事業総利益が4900万円減収したが、事業利益は7300万円の増益。販売事業は市況による変動があるが、事業総利益が1900万円増収し、事業利益も2900万円増益となっている。
JAみのり(兵庫)
CHANGE(変革)をCHANCE(好機)ととらえ
兵庫県のほぼ中央に位置するJAみのり(津田篤男組合長)は、平成12年に、JA三木市南・JAみのう吉川町・JA加東郡・JA北はりまの4JAが合併して誕生した広域JAで、三木市・美嚢郡吉川町・加東郡社町・同滝野町・同東条町・西脇市・多可郡中町・同加美町・八千代町・黒田庄町の2市8町をエリアとしている。
同JAの農業の中心は酒造好適米「山田錦」で、作付面積が2300haと日本一の産地だ。また、黒田庄和牛、播州地卵産卵鶏、播州100日どりなどの産地としても知られている。
JAみのりが全農コンサルを導入したのは平成14年で、同年2月から6月にかけて各種調査を実施し、7月初めに「中間報告」がされた。中間報告は改革の方向性として、(1)営農経済センターの地域拠点機能強化、(2)営農経済センターの収支改善と推進力強化、(3)物流合理化と資材供給機能の強化、(4)農機事業の再編と収支改善、(5)JAファーマーズマーケットの設置の5課題を設定した。
◆「最終報告書」はプロジェクト参加職員の成果
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JAみのり津田篤男組合長 |
これを受けJAでは、23名の職員によるプロジェクトチームを結成。「どんな方法で組合員を満足させるのか。組合員が満足すれば農協に跳ね返ってくる」(荻野庸一同JAアグリ改革課長)。そのための事業体制をどう構築するのか。同時に、生産・生活購買事業が赤字構造になっているので、組合員サービスの向上と事業の合理化をどう両立させるかという具体策の協議と検討を行った。
プロジェクトチームがまとめた「課題別提案書」を土台に14年12月に「最終報告書」がJA理事会に提出された。「最終報告書」は全農コンサルがまとめたものだが、その内容は「プロジェクトに参加した職員さん全員の成果」(村田雅彦JA全農兵庫県本部事業改革推進室リーダー)だともいえる。
「最終報告書」は、営農経済事業改革の最大の狙いは「営農経済センターの活性化」にあるとし、機構改革や将来的な統廃合を前提に、(1)地域生産振興の拠点への転換、(2)物流改革、(3)組合員に出向く拠点への転換を提案している。
◆キーは物流合理化の共有化
「キーは物流だった」と荻野課長は振り返る。調査によれば営農経済センター全体の業務のうち生産・生活購買業務が50%以上を占め、全体の34%が物流業務に携わっており、供給高に占める物流コストは11.4%と高く、物流コストの62%が人件費だった。そこで「物を運ぶということは、注文された物がキチンと届けられれば終わりと割り切り」外部委託し、職員を配送業務から分離することにしたが、「物流合理化の必要性と改革の方向を“共有化”するのに十分時間をかけた」そうだ。
物流合理化は、15年度は県域物流への移行を目指した諸改革を実施し、16年4月からは県域物流による戸配送が実施されている。
物流合理化によって「商流と物流を分離」し、配送業務から解放された職員は、組合員に対する営農相談や情報交換で信頼関係を築くと同時に、個別組合員の実態に応じた事業提案を行う提案型事業推進にシフトしていく。その牽引役として「グリーンアドバイザー(営農経済渉外員)」制度を導入する。
◆「出向く体制」で「守り」から「攻め」へ
組合員へのアンケートやインタビューでは「合併でJAとの接点が薄れている」として、JA職員との気さくな「ふれあい活動」を求める声が多かった。さらに生産・生活資材ではJAは「守り」だけの仕事になっていることから、積極的な訪問活動を日常的・恒常的に行うことで、JAの存在意義を高め、サービスの向上でJAと組合員との信頼関係を築くことがグリーンアドバイザーの目的だといえる。15年度に6名からスタートしたグリーンアドバイザーは16年度に10名に増員され、1日30件訪問を目標に活動している。
地域生産振興は「山田錦プラスαの生産振興」だが、目玉はファーマーズマーケットの設置で組合員の農業所得の向上だ。JAには酒米以上に卓越した生産量を見込める品目は見当たらないが、農家人口を差し引いても10万人のマーケットがある。消費者の安全で新鮮、生産者の顔の見える地場野菜への期待も大きい。こうしたニーズに応えるには多品目少量生産が基本となるので、専業だけではなく兼業農家や定年退職者、女性など広範囲な人たちが作り手となりえる。そのための仕掛けづくりと販売拠点として、JAが運営するファーマーズマーケットを設置しようということだ。
30坪と小規模だが1号店がすでにオープンし、年間7000万円が見込まれているが、将来的には3億円近い販売を計画している。
「機構や仕組みはできたが、内容はこれからだ。問題があればどんなことでも直接出向いて説明する。改革をし経営基盤を確立するのが仕事だと考えているので、命がけで取り組む」と津田篤男組合長は決意を語った。そして16年度のスローガンは「CHANGE(変革)をCHANCE(好機)ととらえ、“勝ち組”から“価値組”(組合員満足の創造)へステップアップしよう」だとも。
JAひがしみの(岐阜)
外部の知恵を借り、思い切った改革を
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JAひがしみの塚田晃常務 |
JAひがしみの(張山正和組合長)は、岐阜県の中津川市・恵那市の2市と恵那郡の加子母村・付知町・川上村・坂下町・福岡町・蛭川村・岩村町・山岡町・明智町・上矢作町・串原村の11カ町村、さらに県境を越えた長野県山口村神坂地区をエリアとする広域JAで、平成10年4月4JAが合併し誕生した。
同JAのエリアは、「恵那コシヒカリ」として高い評価を得ている米を中心に、夏秋トマト・夏秋ナスなどの園芸品目、高級肉牛の飛騨牛や成分無調整牛乳の発祥地という生乳などの畜産酪農、さらにここは栗きんとんが全国的に有名だが、そのための大玉栗ブランド「超特選栗」など、恵那山を背景にした地域特性を活かした多彩な農業を展開している。
全農コンサルを導入した理由について、塚田晃同JA常務は「合併直後から内部でプロジェクトを立ち上げてやってきたが、部分的には進んでも、全体としての改革にまでならなかった。外部の知恵を借りることで、思い切った改革につなげたい」ということだったという。15年1月に依頼し、同年12月に「最終報告書」がJA理事会に提出され、16年1月に組合長・専務・常務が参加する「営農・経済改革推進会議」を設置し、その下に担当部署職員による4つのプロジェクトを設置。さらに改革推進会議の事務局として「事業改革推進室」を設置し、営農・経済事業の収支均衡を達成し、組合員・地域住民の負託に応えられる改革実践に取り組むことにした。本格的なスタートは17年4月からだが、今年4月に人事異動を行い体制を整え、さらにこの10月の第2次人事異動によって「半年の慣らし期間」に入ることにしている。
◆生産資材は営農指導員が推進する
改革のポイントは、(1)事業内容と機能を見直し、経済施設および支店要員の再編集約することで人件費の大幅な圧縮をはかる。組合員へのサービス向上をとおして経済事業収支を改善する。(2)出向く体制を確立して組合員との接点強化をはかり事業基盤を固め、供給高の減少に歯止めをかける。(3)組合員が期待している農産物の販売強化に応える。(4)事業管理や個人別目標管理をきちんとすることだ。
組合員との接点を強め信頼関係を高める「出向く体制」は、多くのJAで取り組まれているが、同JAの特色は「農業に関係するもの(生産関連資材)は営農指導員が目標数字をもって推進する」(塚田康夫同JA企画部長・営農経済改革担当部長)ことだ。それは「兼業農家が95%以上で米が中心で、営農指導員がかかわる業務はコシヒカリを中心とした米づくりだから、営農指導しながら生産資材を推進した方が効率的で効果もあがる」からだ。
◆ポイント制導入で何をすればいいかが明確に
4地域にアグリセンター(営農経済センター)を設置し、営農指導と経済渉外担当者を配置(合計で40名)し、1日1人20軒訪問する徹底した「出向く体制」をつくる。センターごとの目標と個人目標の管理を行い、実績と内容によるポイント制度を導入する。継続性の高い仕事には高いポイントが設定されており「このことで何をすればいいのかが明確になる。最初は相談だけでもいいから、まず訪問するという意識をもつことが大事だ」(塚田常務)。
こうした改革案は「実際は職員さんたちが作り上げたもので、検討する過程で職員の意識が変わり」(西條寛治全農JAコンサル室副審査役)、すでに15年度から「供給高がアップ」してきているという。
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「全農コンサル最終報告書」の内容はA4判140頁(JAみのり)と詳細なものだ。そこに至るまでには、全農コンサルから「ずいぶんとキツイこともいわれた」り、職員同士の激しい議論が積み重ねられてきている。だからこそ「報告書」を自分たちがやるべき「改革の方向性」として役員から職員さらには組合員まで共有できるのではないだろうか。
営農経済事業改革はJAグループにとって避けられない課題となっている。「それに取り組むキッカケづくりとして、JAにとって身近な存在である全農コンサルを活用していただく」ことを近藤剛全農JAコンサル室長は望んでいる。
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JAみのり営農経済事業改革の全体イメージ |
(2004.8.13)