農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 改革の風を吹かそう、命と暮らしを守る21世紀の農業とJA全農の役割

 「全農安心システム」はJA改革の推進力
現地レポート JAかしまなだ(茨城県)
産地から消費地へ、消費地から産地に吹く新しい風

JA全農 大消費地販売推進部

 産地と販売先で生産基準を話し合いで決め第三者機関が認証、生産履歴などの情報を公開して農産物を販売する「全農安心システム」。茨城県のJAかしまなだでは、このシステムが立ち上がった2000年度からいち早く取り組み現在3品目が認証を受けている。「全農安心システムは生産者とJAに新しい風を吹かせている」と同JA。消費者の支持を得て地域農業の基盤が確実なものになっている。

◆生産者の意欲を支えるシステム

JAかしまなだ営農情報センター
JAかしまなだ営農情報センター
 JAかしまなだの農産物販売額は約79億円(15年度)。このうち野菜と果実が70億円以上を占める園芸作物の大産地である。
 現在、安心システムの認証を受けているのはアンデスメロン、トマト、イチゴの3品目。
 スタートはアンデスメロンからだった。同システムが立ち上がる前、意欲のある一部の生産者が味のいい品種の生産に農薬の使用量を抑えるなど独自の基準をつくって取り組んだ。
 アンデスメロンには、1号から5号まであるが、味、風味では1号がもっとも評価が高いという。しかし、商品として十分な大きさを得るには栽培法が難しくほとんどの生産者が他の品種を作っていた。そんななか5人の生産者が栽培法にこだわり、ほ場で完熟させて販売するメロンづくりにチャレンジしたのである。
 日持ちしないため当初は販売先が定着するのに苦労したが、JA全農経由で東京都内のある量販店で販売することになったところ評判に。味がいいだけでなく生産者はメロンに自分たちの顔写真をつけて売ったことも売り場で支持された。
 こうして売り先が確保された時期に全農安心システムが構築され、産地と量販店の間で改めて生産基準に合意し認証を受けた。もちろん生産者側は生産履歴などの情報公開に取り組む。

◆売り場から品目拡大の提案も

テレビの料理番組でも紹介された『ちゅう太郎』
テレビの料理番組でも紹介された『ちゅう太郎』

 売り場の差別化を図りたい量販店にとって、全農安心システムの認証を受けた農産物が並ぶコーナーへの消費者の支持は次の一歩を踏み出させることになった。量販店から品目拡大の要請があったのである。
 JAでは生産者に呼びかけ、まずトマトが加わった。
 JAかしまなだでは、糖度の高いトマトの開発研究に生産部会がJAとともに取り組み、ミニトマト「あまエル」、中玉トマト「ちゅう太郎」をオリジナル品として開発していた。
 現在、7名の生産者がこのふたつの品種で認証を受けて販売している。さらにその後、イチゴも認証を受けている。
 全農安心システムは、取引先と合意した生産基準どおりに参加する生産者すべてが取り組まなければならない。農薬使用の基準や生産履歴記帳はもちろんだが、基準どおりに生産されているかどうかの認証検査はトマトでは春と秋の年2回受ける。
 その一方、売り場は確保されているというメリットがある。JAでは生産者に売り場の視察を体験してもらった。
 「作った農産物がどこでどう売られているかを知って、実際に購入されている場面を見ると生産者も安心する。このシステムは生産者にとっても安心できる」と担当者は話す。
 最近では売り場の視察から、出荷の包装形態をどうすればいいのかといったことまで生産者の間で議論になるようになったという。
 「これまではJAに出荷すればそれで仕事は終わり、という意識が強かった。しかし、農産物を『商品』として売るにはどうすればいいかという意識が生まれてきたようです」(担当者談)。

◆技術を共有し生産レベルを上げる

トマトを栽培する石崎順一さんと孝子さん
トマトを栽培する石崎順一さんと孝子さん

 年間を通してトマトを出荷する生産者の石崎順一さん(56歳)は「昔は作れば売れる時代だったが、今は味に加えて安全・安心を優先した生産が求められる時代。生産履歴記帳などは当然」と話す。トマトの味には自信があるが、とくに農薬使用にはみな神経を使っているという。
 さらに認証を受けたからといってもそこにとどまっていない。各生産部会には研究部会があるが、できるだけ農薬を使わないで済む防虫ネットや粘着シートなどによる防除法をJAとともに研究し導入している。
 「生産者が一体となって技術を共有し、レベルを上げることが大切。今後は私たちの生産現場を消費者が定期的に訪れ交流できる機会が作れれば、より消費者の視点での農業ができるようになる」と石崎さん。

◆ほ場全体を安心システムにする

 安心システムへの参加者は生産者どうしの情報交換、いわゆる口コミで広がっているという。流通の多様化を見据えて生産者にも市場流通のみではなく、別の販売戦略が必要だとの考えが次第に出てきた。「そう考える生産者が新たに挑戦する登竜門に全農安心システムがあると位置づけています」という。
 ただ、安定的な販売というメリットは確かにあるが、JAが生産者によびかけているのは「おいしい農産物を作るという原点をつねに忘れない」だ。
 「認証を受けることが目的ではなく、あくまでも農産物を売ることが目的。安心システムに参加すればなんとかなるだろうという考えではいけないと言っています」。
 今後、品目の拡大にために、ひとつのほ場から一年中、安心システムの認証を受けた農産物を出荷する体制を検討している。
 具体的には春菊。トマトの収穫が終わったあと、春菊を栽培しているが、これは土壌線虫対策に効果があるため。収穫後、再びトマトを植える。
 この春菊を安心システムの対象にすれば、ほぼ年間を通して出荷する生産物ができることになる。生産のサイクル全体を安定的な販売体制と結びつけるというテーマが見える段階にまでなった。
 「JAにとっても集荷したものを市場に出すという仕事から販売先が決まってから生産を誘導していくという発想に変わる必要がある。全農安心システムはJA改革を促進する仕組みだと考えています」と各品目担当者は話している。

全農安心システムを21世紀の食と農のインフラに

消費者とともに自らの農業の実現を

 平成12年度にスタートした全農安心システムは認証産地が年々拡大し、15年度では91産地、44加工場が認証を受けている。取扱い金額は46億円に達し取引先は量販店、百貨店、生協など45社に広がっている。
 今後の拡大が期待されるが、現地レポートで紹介したJAかしまなだのように消費者の支持を得ながら産地が描く自立した地域農業実現のための手段、という点を改めて理解する必要があるだろう。JA全農大消費地販売推進部の原耕造次長は「地域農業戦略にどう活用するかが重要」と指摘する。

◆地域の課題解決のための手段

 全農安心システムは、消費者の関心が高い「安全・安心」に応える制度として創設された。
 特徴は産地と取引先が生産基準を話し合って納得したうえで生産に取り組み、生産履歴情報も公開する点。それを第三者機関が認証する。
 国が定める有機食品の表示・認証制度のように一定の基準があってその認証を取得することをめざすのではなく、地域農業の実態に合わせ現実的な基準に合意するところが取り組みのスタート地点だといえる。
 原耕造次長は「第三者による認証を受けるが、農産物の格付けを取得するのが本質ではない。自分たちが思い描く農業の実現のため取引先、消費者の合意を得て取り組むという新しい農業生産の仕組みだ」と強調する。
 JAかしまなだのレポートでも現地で指摘が出たように「全農安心システムによる認証を取得すればなんとかなる」ではなく、「自分たちが何を実現したいのか」というビジョンこそが求められているのである。

◆安心システムで戦略づくり

主要課題と安心システムを活用した事業戦略の構築
主要課題と安心システムを活用した事業戦略の構築

 このシステムは食の安全性の確保に応える仕組みという点が大きな柱ではある。ただ、原次長は、一方でWTO農業交渉や食料・農業・農村基本計画の見直し議論などをふまえたさまざまな政策課題に対しても、戦略的に対応するための仕組みとして安心システムを位置づけることが不可欠になっていると指摘する。
 たとえば、今後、検討が本格化する食料自給率。自給率向上には畜産の飼料自給率の向上が重要で草地畜産などの本格的な検討が求められる。
 こうした課題に、放牧豚、放牧牛、山地酪農などの事例研究を活用して安心システムのモデル事業として立ち上げ、取引先の合意を得ながら具体的に自給率を向上させる取り組みとするという戦略だ。
 また、畜産では国際的に動物福祉が課題となり始めており、OIE(国際獣疫事務局)やWTO(世界貿易機関)でも検討テーマになっている。こうした課題には家畜の健康を安心システムの基準に織り込み産地を育成して、取引先を確保する方向も見えてくる。
 そのほか、GAP(適正農業行動規範)が現在議論されているが、安心システムの検査項目にはすでに盛り込まれており、今後の営農指導体制の強化が期待されている。さらに国会で議論が始まった所得補償の課題に対しては、すでに環境支払い対策の根拠となる環境指標の取り組みが展開されている。
 具体的には、消費者を巻き込んで産地での「生き物調査」を実施し環境の変化を実証する。こうしたデータが蓄積されることで農業者の環境保全への取り組みに対する消費者の理解も進み、政策的な所得補償の支援の必要性も理解される。
 そのほか競争が激化する量販店や外食、食品・飲料メーカーとJAグループが戦略的なパートナーとなるための安心システムの活用も課題だ。たとえば、中小量販店の生き残り戦略として安心システムの導入を働きかけたり、外食チェーンのなかでも国産農産物にこだわる企業に、安全・安心に加えて自給率向上をめざす取り組みとして安心システムを提案していくなどだ。

◆草の根ネットワークを全農が支援する

 「消費者、取引先は一層さまざまな価値観を持つようになっていく。現に価格は高くても国産をという動きがある。安心システムはそのためのさまざまな選択肢を示し実現していくインフラ。今後、戦略的に安心システムを組み立ていくことが課題。産地と消費者から始まる草の根運動のネットワークを全農が支援するという新たな機能を発揮していきたい」と原次長は話している。 (2004.8.13)



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