農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 改革の風を吹かそう、命と暮らしを守る21世紀の農業とJA全農の役割

 出荷前に残留農薬自主検査 産地で責任出荷体制を確立
現地レポート JA全農山形県本部
JAグループ山形「安全・安心ブランド」認証制度を推進


 JAグループ山形では、生産基準に沿った農産物づくり、生産履歴記帳、出荷前の残留農薬検査などの基準を満たした県内JAの生産部会を「JAグループ山形 安全・安心ブランド産地」として認証する制度を15年度からスタートさせた。現在、229の部会が認証を受け登録生産者数は2万9000人に達している(6月末)。
栽培情報を認定産地ごとに全農県本部のホームページで公開。消費者からの反響も多く生産者は自信を得ている。
 「産地から安心な農産物を届ける使命を果たす」(全農山形県本部)JAグループとして、消費者に支持され県内農業の振興につながるこの取り組みに期待が高まっている。

◆栽培情報の公開が鍵

「JA全農山形農作物安全検査室」1日平均役15検体を扱う。
「JA全農山形農作物安全検査室」1日平均役15検体を扱う。

 制度づくりのきっかけは、14年に県内で発覚した無登録農薬問題。一部の生産者の行為とはいえ、県産園芸作物は一時価格が暴落し、入荷を拒否する市場も出るなど厳しい事態に陥った。
 産地としてどう信頼を回復するか。全農山形県本部は安全・安心な食の供給のために3つの柱を立て県内農業の再生に取り組むことにした。
 ひとつは生産履歴記帳運動の徹底だ。JAが生産者に適正な農薬使用を指導し、生産者には自ら適正な栽培を行ったことを証明する生産履歴記帳を求めた。
 ふたつめの柱が、出荷前の残留農薬検査。県本部に「農産物安全検査室」を設置、分析機器を導入して出荷前にほ場からサンプルを取り寄せ残留農薬検査を行う体制をつくった。
 そして、3つめの柱が生産履歴などの情報開示である。自らの取り組みをつねに社会に発信する体制をとることで現場に緊張感が生まれ、それが消費者から信頼を得ることになると考えた。
 県本部管理部の赤塚俊男監理役は「この3つを同時に実行することが重要。どれが欠けても責任は果たせないと考えた」と強調する。

◆ほ場登録制を導入

 この3つの柱を核に、さらに県本部は「安全・安心ブランド産地認定基準」を設定し、すべての基準を満たした産地をブランドとして認定し流通させるシステムをつくった。
 この基準では、生産者はほ場登録をし、園芸作物では生産基準に基づく協定書の締結、米では農薬の使用量を控えるなどの山形マイルド栽培米かトレースが可能な米の生産を対象としている。
 ブランド産地として認定を受ける単位は、園芸作物は品目ごとの共選単位、米は品種ごとの生産部会を基本としている。
 そのほか、JAに安全・安心対策実践本部が設置されていることや、情報開示、クレーム対応に備えて生産履歴管理データなどの保管管理の徹底なども条件で、認定基準は全部で7項目となっている。

◆迅速検査で翌日には評価

赤塚監理役
赤塚監理役

 この取り組みのなかでもっとも大きな特徴は出荷前の安全性確認だ。山形県では残留農薬分析はこれまで消費地で実施されることはあっても産地自らが出荷前に安全性を確認し、確認されたものだけを出荷するという体制はほとんどなかった。
 検査は、各JAの生産部会を基礎に20人から50人程度の同じ品目をつくる生産者の小集団単位で実施されている。あらかじめ生産者から提出されている生産計画書(協定書)をもとに、JAが収穫前の農薬散布予定などからサンプリング計画を立て、それに基づいて
県本部の安全検査室が日別検査スケジュールを立てている。サンプル数は小集団の生産者数で決める。
 残留農薬分析には通常2〜3週間かかるが、このシステムでは迅速分析器を導入、検査の翌日か翌々日には分析結果が出る。
 かりに異常値がでれば直ちにJAの担当者らが現地に出向いて生産者から聞き取り調査など行い原因を追求する。不適正な使用がなければ再検査のうえ評価する。
 不適正な使用が確認されればその小集団すべての生産物が出荷停止となる。もちろんブランド産地としての認証も受けられない。一人でも不適正な農薬使用をすればその産地全体が打撃を受けることになる。
 「安全性を組織の力で証明しようという取り組みです」と赤塚監理役は話す。
 15年度は1100件あまりを検査。今年は7月末までに630件。1日平均15検体を扱っている。

◆販売戦略にも結びつけて

井上次長
井上次長

 ブランド産地としての認証を受けるため生産者は、品目、栽培面積、登録ほ場番号など記入した協定書を提出するが「実はこれは栽培面積と出荷時期を把握する基礎データでもあり、販売戦略にも役立てられる。初めて農地利用のマッピングデータが得られたという面も生まれました」と県本部園芸部の井上俊美次長は話す。
 JAグループ山形では14年度から「いきいき山形アグリプラン」に取り組んできた。このプランの核は、売れる品目と販売先を決めてから生産を実践していこうというマーケティングに基づく生産振興だ。
 転作対策や遊休農地利用、従来の品目からの転換などをこの方針に基づいて実践してきており、たとえば、輸入品が増加しているケーキ用イチゴでメーカーと契約栽培を実現したり、高糖度のトマトなど付加価値の高い野菜などの開発につなげるなど、取引先からは一層の信頼を得ることにつながった。今後はブランド産地としての認定を武器に直販や予約相対取引など多様化する流通に対応していく方針だ。
 井上次長は「安全・安心ブランド認定は産地にとってひとつの道具。今後は、販売戦略と生産振興にいかに結びつけ県の農業全体を活性化させることが課題です」と語る。

◆アクセス件数3万件超す

 認定農産物は生産部会ごとにID番号を取得。出荷容器などに「私たちがつくりました」と表記された認証シールを貼ることができる。消費者と実需者はそのID番号から県本部のホームページに開設された情報開示コーナーで生産履歴などを知ることができる。また、量販店や小売店でのポップ活用も推進し、産地の取り組みを知ってもらう努力も行っている。
 ホームページのアクセス件数は7月末で3万2000件に達した。開示された情報を見て安心したというメールも届く。品質へのクレームもあるが自分たちの作った農産物がどのような形で消費者の食卓にのぼったのかダイレクトに分かり県本部やJAも迅速に対応できる。卸売市場からも先駆的な取り組みとして今後の広がりに期待が高まっているという。
 「生産者、JA、県本部それぞれに責任出荷体制を作るという意識が浸透してきた。問題が生じれば販売価格に影響することから生産者も真剣に受け止めている。コスト削減ばかりに目を奪われず、それぞれの立場で責任をもって出荷するという取り組みを忘れてはならない」と赤塚監理役。
 このシステムで園芸品目では「共選」を単位にブランド産地認定をしているが、井上次長は「共選こそ、生産者の気持ちがひとつになってブランド化する事業ではないか。JAブランドの確立はそこから考えるべきだと思う」と話す。
 安全・安心を組織の力で確保するJAグループならではの取り組みに期待が高まっている。

「安全・安心」に「環境対策」も重視し「ブランド化」めざす

「JAグループ売れる農産物づくりに向けた生産対策強化運動」を展開

 JA全農は今年度から17年度末まで、「JAグループ売れる農産物づくりに向けた生産対策強化運動」に取り組む。生産履歴記帳運動の定着による安全・安心対策に加え、「環境対策」も重視し、産地でのブランドづくりを支援する。この運動を中心的に推進する全国本部の営農総合対策部では「生産、販売、購買部門が横断的に取り組み売れる農産物づくりをめざす」としている。運動の概要とJA全農全国本部の取り組みを紹介する。

◆マーケティングを強化

 JAグループでは13年度から3年間、「環境と調和した農業における生産コスト低減運動」を展開してきた。運動のなかでコスト低減モデル実証圃の164JAでの設置や、減農薬栽培の普及、環境調和型資材の普及や新技術の導入などの成果を上げてきた。
 一方、この間、農業者の高齢化、担い手不足、輸入農産物の増加による価格低迷など国内農業は厳しい環境にさらされ、さらにBSE発生や無登録農薬問題など食の信頼を揺るがす事態も起きた。
 こうしたことからJAグループには消費者に信頼される国内農畜産物づくりに対応できる産地づくりを通して、農業者の所得向上と生産基盤の維持強化などへの取り組みが求められるようになっている。
 今回の運動はそうした状況をふまえて生産対策として(1)生産履歴記帳運動の定着・拡大、(2)環境と調和した省力・低コスト栽培技術の普及と、これらの実践によるブランド確立による売れる農産物づくりを3つの柱として展開する。これまでのコスト低減運動の成果をふまえて、安全・安心の取り組みと環境問題への意識の高まりに応えた生産資材の開発・普及を通じ、地域特性を生かした売れる農産物づくりにJAグループ一体となって打って出る新運動として展開する。

◆ブランド確立を重視

 具体的な実施策はJA、県域、全国域でそれぞれに作成。県域の取り組みでは現地レポートで紹介した山形県本部の実践が先進的な事例で生産履歴記帳運動、生産基準に基づく環境調和型農業の推進とそれらによるブランド確立の取り組みという姿に向けて動いている。
 全国域の取り組みとして生産履歴記帳運動では、(1)生産基準作成に向けた資材の選定、(2)研修会(安全な農産物づくり講習会など)の実施、(3)JA栽培履歴データベース、JA全農生産管理データベースの普及などに取り組む。
 また、環境と調和した省力・低コスト栽培技術の普及では、(1)低コスト資材、環境調和型資材の開発と選定、(2)作物別実行プログラムの実践JAを選定し低コスト資材、環境調和型資材の普及を図るなどの事業に取り組む。
 さらに農産物のブランド化に向けては、(1)「全農安心システム」の普及推進、(2)取引先の選定とJAとの結び付け支援、(3)「全農安心システム」による生産販売企画のJAへの提案、などに取り組むことにしている。

◆耕種部門が連携強化

 全国本部の具体的な実践方針を見れば明らかなように、今回の運動は販売、購買のさまざまな部門が連携して取り組むことが重視されている。とくに今回は耕種部門の連携を重視。生産面では、生産資材部、肥料農薬部の役割が重視され、販売面では園芸販売部、大消費地販売推進部の力が運動の成果にとって重要となる。
 その連携のコアとなるのが営農総合対策部だ。
 「今回の運動では生産現場に近づき現場と同じ視線で改革に取り組むという姿勢を重視したい。そのため耕種部門が連携して売れる農産物づくりが実現できるよう営農総合対策部がコーディネート役になっていく。これは『営農発』の生産対策の強化。単なるコスト削減ではなくいかに売れる農産物をつくって生産者の所得向上に結びつけるかがJAグループの課題となっていると考えています」と同部営農企画課の野口憲二課長は話す。 全国でこの運動が着実に実を結ぶよう全国本部は支援策を強化する方針だ。

(2004.8.13)


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