農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 カントリーエレベーター品質事故防止強化月間

現地ルポ 米麦の品質事故ゼロをめざして
JA佐賀経済連・JA佐城
均質な農産物を大量に供給するために

◆共乾施設を核に水田農業経営の確立めざす

 佐賀県は、県中央の背振山系からの豊かな水が玄界灘と有明海に面した温暖で肥沃な大地を潤し、弥生時代の吉野ヶ里遺跡でも知られるように古くから農業が盛んなところだ。
 佐賀牛や肥前さくらポークに代表される畜産・酪農、果樹・野菜・花きなどの生産も全国的に知られているが、なんといっても佐賀を代表する農産物は、米・麦・大豆だといえる。
 佐賀の米は「さがひのひかり」を代表格に、独自ブランドの「夢しずく」などのうるち米と、全国の25%のシェアを占めるもち米の産地として有名だ。米の収穫が終わった後には、栽培技術の高さで定評がある大麦・小麦が栽培されるが、とくにビール麦は品質・生産量とも全国トップレベルにある。また、大豆の生産量は全国第2位だが、佐賀の「フクユタカ」は豆腐業界から高い評価を得ている。
 そうした佐賀県で平成13年度から17年度まで5年間取り組んでいるのが、(1)効率的・低コストな生産体制づくり(2)売れる米・麦・大豆づくり(3)需要拡大を目指した販売体制づくり、を柱とする「さが21水田農業パワーアップ運動」だ。
 この運動の特徴は、中山間地を除いてほ場整備が完了していることを背景に、水稲・麦・大豆・野菜など水田を利用する栽培作物ごとに団地化や土地利用の集積を行い、共同乾燥調製施設(共乾施設)を核とする地域ごとにブロックローテーションを実施。効率的で収益性の高い水田農業経営の確立と、良質で均質な米・麦・大豆を安定的に供給する産地形成をめざしていることだ。

◆施設の優位性を活かした「売れる米づくり」

 約8割を県外に販売している米では、消費地からは用途に応じた「良質・均質な商品」を安定的に供給することが求められているので、共乾施設での品質分析にもとづく栽培改善や分別荷受けを実践し「施設処理の優位性を発揮させる」ことで「売れる米づくり」をめざしていると堀博治佐賀経済連農産部長。
 県内には現在、ライスセンター(RC)109施設、カントリーエレベーター(CE)28施設、大豆センター12施設があり、米麦共乾施設の普及率(面積)は、全国平均約30%を大きく上回る82.5%で、利用率も90%近いという。
冷却装置を導入しているJA佐城三日月CE。右は低温貯蔵ラック式農業倉庫。 CEの近くには大豆センターも
冷却装置を導入しているJA佐城三日月CE。右は低温貯蔵ラック式農業倉庫。 CEの近くには大豆センターも
 佐賀県の共乾施設の大きな特徴は運営形態にある。それはJA直営の施設はRC3、CE8だけで、RC106、CE20は利用生産者による利用組合方式で運営されていることだ。JAは施設を建設し、その償却相当分を利用組合から受け取るだけなので、施設の損益がJAの経営そのものに直接的な影響をおよぼさないし、生産者も「俺たちの施設」として積極的に活用し利用率が高い。さらに米麦利用で、ランニングコストも抑えられている。
 こうした共乾施設普及率の優位性を最大限に活かすために、JA・施設代表者・県中央会・経済連関係者による「佐賀県共乾施設連絡協議会」では、共乾施設におけるトレーサビリティ体制の構築に取り組み、食に対する「安全・安心」の消費者ニーズに応えることにしている。

◆CE利用組合を核とした営農形態を模索――JA佐城

JA佐城
 JA佐城は、佐賀県中南部に位置する多久市・川副町・東与賀町・久保田町・大和町・小城町・三日月町・牛津町・芦刈町の1市8町の7JAが、13年4月に合併して誕生した広域JAだ。北の天山山系のミカン生産地帯から有明海を臨んで広がる平坦な水田地帯で、米・麦・大豆から肉牛・生乳などの畜産、イチゴ・ナス・キュウリ・トマトなどの野菜類や花き、ミカンなどの果樹類を生産する佐賀県農業の縮小版地帯ともいえるところだ。
 同JAには現在、県内のほぼ半分にあたる13ヶ所のCEと2ヶ所のRCそして大豆センターが3ヶ所ある。その内、JA直営はCE4と大豆施設1で、あとはすべて利用組合方式となっている。かつてはもっと多くの共乾施設があったが、機能強化と広域合理的な施設の配置ということでRCを統廃合してCEにするなど整備してきた。合併後も、広域大豆共乾施設の整備や共乾施設と一体化した低温貯蔵ラック式農業倉庫の建設。合併前旧小城郡で平成4年から8年まで牛津CEでサイロ冷却の実用化試験を行なったこともあって、5CEで冷却装置を導入するなど、施設の整備に力を注いできている。
 とくに、三日月CEでは、夏場のサイロ内穀温を15℃以下に設定し、籾での品質保持(玄米での劣化防止)と今摺米での良味維持に活用されている。さらに、三日月町での売れる米づくりとしては、平成14年度から人工衛星からの画像データを活用し、6.3%以下の低タンパク米を区分荷受け、調製、出荷するなどの良質米の周年供給体制がとられている。
野口好啓 JA佐城組合長
野口好啓 JA佐城組合長
 それは「農家の経営コストの低減と、品質を維持して大量で均一な商品を継続して供給していくため」だと野口好啓組合長。
 現在、川副町の90%を筆頭にJA全体では約70%が団地化され、複数集落で構成される各共乾施設の利用組合ごとにブロックローテーションを行なっている。そのことで、安定的な生産ができ、生産者の生産意欲も向上し、共乾施設の利用率も90%を超えているので、「これをさらに一歩進めて生産計画からその利用組合でたてるような共乾施設を中心とした営農形態をJAとして模索している」(水田徳美参事)。そして、これを国がいう「担い手」集団として認めてもらいたいとも考えている。

◆CEのトレーサビリティ実施で品質事故も防止

 CEにおける品質事故はもちろんだが、最近は、異種米の混入(いわゆるコンタミ)についても実需者から厳しく指摘されることが多い。とくに佐賀の場合には米と麦の産地であることもあって、米麦の収穫後に必ずコンバインや容器の清掃をすることを生産者に義務づけ、チェックを受けて問題がないと「OKシール」を貼ることにしている。このシールがないコンバインで収穫した米麦は荷受けをしないことにしている。
 さらに、佐賀県全体で生産履歴の記帳を進め、15年度は80%の生産者が実施するなど県全体でトレーサビリティに取り組んでいるが、この運動をCEなど共乾施設にも拡大している。それは「施設内における各調製段階の処理履歴を記録・整備し、施設に起因する品質事故などの発生時の追跡や原因究明を迅速化させる」ことが目的だが、「オペレーターが本来つけるべき記録を徹底するだけのこと」だし、そのことで事故防止もできると、共乾施設やオペレーターの指導者として経験の長い営農販売部営農企画室の釘本勝巳係長。
 CEにおける事故の原因は「油断」と「慣れ」(釘本さん)だから、毎日、キチンと点検しそれを記録することで、そうした気の緩みをなくすことだということだ。

◆生産・販売の戦略の中にキチンと位置づけて

 佐賀県は麦や大豆、もち米といった食品工業の原料供給産地だといえる。米も最近は、精米(家庭用)と外食・中食などで炊飯・加工されて供給されるものの割合が半々となっている。後者の業務用米への提供は、原料としての米の提供だといえる。「これは佐賀の得意分野ですから、共乾施設を有効活用して、年間を通して均質なものを提供していきますよ」(堀部長)というように、生産から販売までの戦略のなかに共乾施設がキチンと位置づけられ、それを活かすための工夫が全県をあげてされていることが強く印象に残った。 (2004.8.23)



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