農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 上原寿宰JA共済連理事長に聞く


「“3か年計画”実現のための抱負とこれからの共済事業」
組合員の期待に的確に応えることが事業の原点
上原寿宰 JA共済連理事長に聞く
聞き手:白石正彦 東京農業大学教授

 JA共済事業はこの16年度から「No.1の安心と満足の提供のために」を実現するための「3か年計画」に取り組んでいる。そして7月の総代会終了後、この3か年計画の牽引役として上原寿宰新理事長が就任した。そこで本紙では、上原理事長に3か年計画実現のための抱負とこれからの共済事業のあり方について聞いた。聞き手は、この3か年計画立案にあたって基本的な問題を審議した「農協共済審議会」の委員をされた白石正彦東京農業大学教授にお願いした。

◆道を守れば天の知るあり

 ――大変に厳しい時期に理事長に就任されましたが、現在の心境あるいは決意からまずお聞かせください。

上原寿宰氏
うえはら・としゆき 昭和37年4月全国共済農協連合会入会、同会推進部(近畿地区)部長、自動車部長、総務部長、総合企画部長、平成8年全国共済農協連合会参事、11年全国共済農協連合会常務理事、14年全国共済農協連合会代表理事専務、16年代表理事理事長。昭和16年生まれ。明治大学法学部卒。

 上原 従来から厳しい環境でしたが、ここにきて、2007年から銀行や信用金庫の窓口での保険販売を自由化することに向けた準備がすすめられています。さらに、2万4000もある郵便局が民営化され、保険も自由化して取り扱う方向で検討されているように、事業環境が急激に変わってきています。そして、外資系の保険会社が成熟化した共済・保険市場に入ってきていますから、特定多数の人のための共済事業といえども競争が一段と激しくなっていくと思います。
 競争とは何かといえば、まず保障の仕組み内容の競争があります。そしてインターネットを含めた販売競争があります。銀行での窓口販売ができるようになると、販売拠点が大幅に増えるため、大変な競争になると思います。また、経営の健全性や、価格やサービスの競争もあります。これらをしっかりやることが競争に勝つ条件だと思っていますし、やっていこうと考えています。

 ――聞くところによりますと中学卒業のときに先生から贈られた言葉を座右の銘にされているそうですね。

 上原 ああ、「憂き事の尚この上に積もれかし、限り有る身の力試さん」という山中鹿之介の歌ですね。苦しいことでもなんでもどんどん自分のところにもってこい、そのことで自分の力を試すという意味だと考え、大事にしていますね。
 もう一つ大事にしているのは「道を守れば天の知るあり」という言葉です。これを共済事業に置き換えると、組合員が何を期待しているかを知り、それに沿っていくことが「道を守る」ことで、それを組合員がちゃんと見ていますよ、ということだと考えています。それが私の心情ですね。

◆既契約者との絆を強め、若い人たちに魅力ある保障・仕組みを開発

 ――今年度から新たな「3か年計画」がスタートしました。そのたたき台となる議論をした農協共済審議会には私も参加しましたが、改めて何がポイントなのかお聞かせください。

 上原 「3か年計画」の目的は、将来に向けた磐石な事業基盤を構築するために、JA共済独自の強みを発揮して、組合員・利用者の生活総合保障を確立するとともに、JA活動への理解と参加の促進、新規契約者の加入促進に積極的に取り組んでいくことです。そのために、仕組み・制度の拡充などをはかるとともに、信用事業や経済事業との連携強化による相乗効果の発揮を追求していきます。
 具体的な施策の視点は2つあります。1つは、いままで利用していただいている既契約者のみなさんとの「絆を強化」していくことです。いまはJAの組合員であっても、自分にとって何がいいのかを生簡保を含めて比較・検討して選ばれる時代です。そういうなかで「JA共済を利用して良かった」という人たちとの絆をさらに強めていこうということです。具体的には「JA共済しあわせ夢くらぶ」に登録していただき、それを基軸に組合員・利用者の生活総合保障を確立していこうとしています。18年度末には、1000万人の登録を目標にしています。
 2つ目は、次世代層を含めた新たな「仲間づくり」です。これはいままでの契約分析をしてみると、契約者数が年間40万人も減ってきています。とくに若い層が減っています。これは重大なことです。そういう意味で、なぜ若い人が減ってきているのかなどを分析して、新たな共済事業利用者を開拓していかなければいけないということです。この人たちを「ニューパートナー」と呼んでいます。

白石正彦氏
白石正彦 東京農業大学教授

 ――若い人たちはニーズも違いますよね。

 上原 どちらかといえば「短期掛け捨て」志向で、いまの入院費用とか交通事故への補償を大事にし、20年、30年先の保障ニーズはあまりありません。いまの生活のなかで有効に共済金を使うという需要が高いので、それに対応できるような医療共済など生存保障の共済仕組みを開発し、新しい共済利用者を拡大し、ニューパートナーの数を現在の年間55万人から80万人へというのが目標です。

 ――生存保障を含めて、若い人たちにも魅力のある商品開発をしていくわけですね。

◆高齢者が加入しやすい仕組みも重要

 上原 もう一つ、要望が強いのは、高齢者向けの共済です。15年度の満期共済金が2兆5300億円ありました。これは共済期間が20年、30年の契約が満期を迎えるわけですから、受け取る人はどちらかといえば高齢者です。この人たちが同じ保障で共済に加入しようとすると掛金が相当に高くなります。しかし、入院する危険とか高齢者特有の危険があります。そういう高齢者のニーズにあった入りやすい保障仕組みが重要ではないかということです。これも重要な課題です。現在、「花満ち」という満期契約専用仕組みがありますが、もっと入りやすいものができるのではないかと検討しています。
 そして、コンプライアンスの問題もありますから、大事なことは現在、2万人のLAを2万3000人くらいまで増やして、十分に説明をして、理解し納得をしていただいた上でJA共済を利用していただく「Face・to・Face」の関係を築いていくことだと考えています。
 それから、巨大災害や逆ザヤなどに対するリスク管理・リスク対応力を強化して、経営の健全性を高めて、JA共済への信頼を深めていく必要もあります。
 これらを一つずつ確実にやっていけば、きっと成果があがってくると確信しています。

 ――共済事業の理念というのは「共に助けあう」ということですね。民間保険の場合には、何かあったときに自分との関係ですが、協同組合の場合には、お互いが助け合い何とかしようという気持ちが支えているわけですから、組織的な活動に支えられた協同組合の共済事業をこの3か年で強化していくことが大切なことですね。

◆必要な人に、必要な共済を、必要な額まで、計画的に推進

 ――先ほどLAの話が出ましたが、普及推進面では長期共済新契約に占めるLA実績が50%を超えましたが、今後の普及推進のあり方についてはどうお考えですか。

 上原 JA共済加入者100人の内96人が生損保や簡保を利用しています。つまり、生損保や簡保と比較検討して、それぞれのニーズに合わせて選択して利用しているわけです。「ひと・いえ・くるま」のすべての面でJA共済を利用してもらうためには、十分に説明できる力がなければいけないということです。そういう意味でLAの重要性を強調しているわけです。
 最近は組合員の相談内容が、資産管理、税務相談、運用不動産と共済保障仕組みだけでなく、多様で幅広くなってきています。これに対応するためにJAでは、ファイナンシャル・プランナー(FP)資格を取るなどして、力をつけて組合員に接するような職員を育成しようと取り組んでいるところが増えています。
 そういう意味で今後も、「人づくり」が非常に重要だと思いますので、LA育成に力を入れていかなければいけないと考えています。

 ――量的な割合を増やすと同時に、それを支える質的な人材づくりが重要ですね。LAはまさにライフ・アドバイザーということですから、それぞれニーズが違う組合員に的確にアドバイスできることが大事ですね。

 上原 「必要な人に、必要な共済を、必要な額まで、計画的に進める」という方針で基本的にはやってきています。実績だけ伸ばせばいいということでやると、いつの間にか組合員は離れていってしまいますね。

 ――「ひと・いえ・くるまの生活総合保障」といっていますが、この3つに加入している人の割合はまだ20%強ですね。

 上原 そうです。だからまだまだ事業活動を展開できる余地が十分にあると思っています。

◆LAと一般職員がペアで推進する「推進サポート制度」を導入

 ――普及推進では、LAを基軸にして組合員・利用者との接点を大事にしていくということだと思いますが、従来から進めてきた一斉推進とか組織推進については、どうお考えですか。

 上原 都市部近郊では、8割以上がLA推進という地域もありますし、地域によっては全役職員による推進が6〜8割占めるところもあります。これはどちらがいいかという話ではないと思います。組織活動でできれば協同組合らしく、また、全職員が推進するのは、生損保では真似のできない推進形態です。さらに、経済事業や信用事業との連携もできますから、地域やJA個々の状況に応じて推進形態を考える必要があります。
 ただ、共済・保険の仕組みは複雑化し多様になっていますから、共済推進の経験が浅い職員が十分に利用者に説明できるのかどうかという問題もあります。そこで、LA等の共済担当職員とペアで推進する推進サポート制度を導入することで成果をあげているところもありますから、3か年計画でもこうした「推進サポート制度」を導入して、18年度には全JAで完全実施したいと考えています。

 ――私は共済事業は、協同組合運動ですから、基幹支店を単位に地域の組合員・利用者の状況を把握し、地域づくりに貢献していく。地域に貢献する一環として、個々人の万一に備えるための共済という社会的目的をもった共済事業のあり方が大事だと思いますね。そもそも農協共済ができた経過からみても、お互いが気持ちを通じ合いながら、万一に備えてということですから、お互いが気持ちを支え合う普及推進をすることが、成果としての効率性にもつながると思います。そのなかで、LAのプロとしての的確なアドバイスが重要ですね。

 

共栄火災のノウハウを活かした開発で幅広い保障・仕組みを提供

 ――共済事業改革も大きな課題ですが、その主要なポイントは何でしょうか。

 上原 今回、農協法が改正され、組合員の利便性の向上や契約者保護の制度が整備されました。まず、組合員の利便性のために、共済代理店が認められました。それから共栄火災がもっている優れた商品をJAでも販売できることが明文化されました。これについては、共栄火災以外の生損保商品をJAが販売することになるのではないかというような批判がありましたが、そこは協同組合のモラルの問題だと思いますし、他社に負けない保障・仕組みがあればそういうことはありえないことだと考えています。そういう意味では、共栄火災には短期共済で独自のノウハウがありますから、それを商品開発に活かすことで、いままでにないものを提供できるようになるのではないかと期待していますね。
 今回の農協法改正では、契約者保護や経営の健全性の確保について、従来、省令・通達などの行政指導に基づいて実施していた制度が、法律上の制度として整備されました。クーリング・オフやディスクロージャーの制度が法定化されたほか、こういうことはありえませんが、契約者保護の観点から、万一、契約どおりの運用ができなくなり厳しい状況が生じた場合には、保険会社と同じように予定利率の引下げができるような制度ができました。
 また、農協法の改正と併せて、セーフティネット施策の一つとして、JAと連合会が一緒になって元受契約をし、共済金などの支払いについては連合会が責任をもって行う「共同元受方式」を導入することにしています。

 ――営農面をサポートする共済の仕組みとか、可能性は広がるわけですね。

 上原 農産物については、農業共済との関係もありますから難しいですが…

 ――農業共済のようなハード面は当然国が支援すべきだと私は思いますね。それを補完するのが協同組合共済だと思いますから、国の役割と協同組合共済のポジションを区別してやっていくことが重要だと思いますね。

 上原 農産物流通関係の共済とか、考えればたくさんあると思いますね。

◆訪問回数と納得できる十分な説明が顧客満足度を高める

 ――統合して4年になる連合会の改革の取組みはどうでしょうか。

 上原 全国本部と県本部で、事業実施体制が重複している部分をスッキリし効率化をめざしていきます。例えば、共済契約を引き受ける業務は、47県でそれぞれ行っているものを、全国1ないし2ヶ所に集約できないかということを検討しています。事故処理関係も約130のセンターで実施していますが、これも機能別に集約することが可能なのかどうかも検討しています。そのことでスリム化・効率化しコストも低減していきたいと考えています。しかし、一方では、中央集権的になり、契約者との接点が遠くなってしまうのではという心配もあります。

 ――その点も配慮し、認知をしてもらいながら進めていこうということですね。

 上原 そういうことですね。

 ――営利の会社と違い、協同組合というのは、それぞれが自立しながらできないところを単協と連合会が補完していくというネットワーク組織ですので、組合員やJAの意思反映を連合会にどうしていくかも重要だと思いますが…

 上原 連合会が統合してよくいわれるのは「官僚化してはいけない」ということです。それは、組合員やJAの意思を的確にとらえられるかどうかの心配だと思います。最終的には総代会ですが、ここで十分な意思反映ができるかというと私はそうは思っていません。総代会で決定する事業方針などを構築する段階での意思反映が重要だと思います。そのために、長期計画ではJAの役員による農協共済審議会やJA共済将来ビジョン研究会など、極力、JAの方々に参加していただく機会を設けるように努めています。これをやっていかないと絶対にダメだと考えています。
 それと組合員等の利用者のCS(満足度)の維持・向上も大事です。CS調査によるとJA共済の満足度は、総合満足度では簡保の方が少し良いんですね。ただし、非常に高い満足度を得ているJAもある。それを分析すると、契約のために何回訪問したか、また、契約後のフォロー活動のために何回来てくれたかという訪問回数と満足度は正比例するんです。そして契約にあたって十分な説明をしたかも大きなポイントです。LAとの契約の方が満足度は高いんですよ。これはこれからの事業活動の方向性を示していて、非常に重要だと考えています。そういう意味でLAは重要だと思います。

 ――員外利用について生損保からいろいろいわれていますが、この点についてどうですか。

 上原 私たちは組合員が設立した協同組合ですからエリアを決めて組合員のために事業をしていて、それを利用したいという人には農協法で決められた枠内で利用していただき、地域に住む皆さんにも一定のサービスが提供できればと考えています。

 ――法で定められた2割の員外利用に留意しながら運営しているわけですね。そして非営利で相互扶助ですから一定の剰余金は福祉とか地域に還元しているわけです。その点は営利会社と決定的に違うわけです。

 上原 協同組合保険の何たるかを、白石先生に論文発表していただきたいですね(笑)。

◆それぞれの立場で問題提起し主体的に解決していくことが大事

 ――最後にJAのみなさんへのメッセージをお願いします。

 上原 私たちは組合員のために在るのですから、どんなときにも行き詰れば、原点である組合員がJA共済に何を期待しているかを正確につかむことだと思っています。その組合員・利用者との接点で事業活動をしているJAが不安定ならば組合員に対する良い活動ができませんから、そういう面でもぜひ頑張っていただきたいと思います。
 それから職員にも言っているのですが、時代が変わり、組合員・利用者のニーズが変わるということは、こちらも変わらなければいけないということです。いままでの経験だけでは落ちこぼれてしまいます。変わるためには、指示命令待ちではダメで、新人からトップまで自分の立場で問題提起をし、それを主体的に解決する一人ひとりの意識が大事だと思います。
 それは連合会とJAとの関係でも同じだと思いますので、お互いに原点を忘れずに主体的にJA共済事業の発展のために頑張っていきたいと考えております。

 ――今日は大変お忙しいなかを長時間にわたってありがとうございました。

(インタビューを終えて)
 上原新理事長に就任の抱負と中期3か年計画の理念・戦略を語ってもらった。
 印象的だったのは、(1)道を守り、チャレンジする協同組合経営者らしい座右の銘(2)若い世代や高齢者などの新たな共済ニーズにも応えられる組織活動なり組織基盤づくり(3)組合員・利用者に満足し選択してもらえる子会社になった共栄火災とも連携した新商品開発(4)LAを前面に押し出した専門性が高く、かつ協同組合らしい複合型普及推進(5)地域社会に利益を還元しつつ、かつ組合員・利用者に安心し信頼し続けてもらえる支払い能力の高い協同組合らしい経営体質の強化のための連合会づくりの5点である。
 私は1936年にノア・バルウ博士が『協同組合保険論』の中で協同組合保険の活動が組合員に対して物質的利益だけでなく、それらの活動が教育的、組織的価値を持ち、その結果が道徳的危険を根絶させるほどになり、営利保険会社と根本的に異なる社会的経済的な効率・効果を力説している点に、協同組合共済の原点があると考えており、このような視角からの展開を期待したい。(白石)
(2004.9.10)



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