農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 家畜排せつ物法完全実施に向けて

すべての畜産農家が法に対応して
11月1日を迎えるために
岡本俊弘 全農畜産総合対策部畜産環境対策室長

 国内で発生する家畜排せつ物は年間に約9000万トン弱になるという。この家畜排せつ物は、従来は農作物や飼料作物生産に有効な資源として利用されてきた。しかし、畜産経営の大型化や高齢化による農作業の省力化などによって資源としての利用が難しくなり、野積みや素掘りなど不適切な管理が行なわれるようになり、地域住民とのトラブルや環境問題が生じ、早急にその適切な解決が求められた。そして平成11年7月に「家畜排せつ物法」(家畜排せつ物の管理の適正化および利用の促進に関する法律)が成立し、5年の猶予を経て今年11月1日から「管理基準」に基づいた適正な管理が義務付けられた。JAグループでは、法の完全施行に向けてさまざまな取り組みを行なってきているが、残された時間はあと1ヶ月余となった。そこで、現在の状況とこれからの課題について、岡本俊弘全農畜産総合対策部畜産環境対策室長に聞いた。

◆加速した施設整備の取り組み

 ――家畜排せつ物法が完全実施される11月1日まで残された時間は1ヶ月余となりましたが、この間の取り組み状況についてまずお聞かせください。

岡本俊弘氏

 岡本 平成15年4月から全中と連携して「JAグループにおけるふん尿処理に関する緊急全国畜産農家個別点検・整備運動」(点検整備運動)に取り組み、系統畜産農家個別の状況を集約するとともに、各都道府県ごとに「県別環境対策施設整備計画」(県別整備計画)を作成し、畜種、飼養規模、農場環境などを考慮した農家別の効果的な施設整備の方法を選択・提案し、施設整備を促進してきました。
 施設整備を必要とする系統畜産農家は、15年8月時点で1万1237戸ありましたが、16年3月末では約2400戸の農家で施設整備が終了し8814戸となりました。しかしこの時点でまだ施設整備の方向が定まっていない農家が2017戸ありました。そこで、この農家の整備方向の整理が緊急の課題であると考えて、16年6月から県別巡回を行い整備方向の協議を進めてきました。

 ――整備を促進するために国へ「補助付リース」の予算要請もしたわけですね。

 岡本 16年度は法が完全施行される年ですので、JAグループは「平成16年度畜産・酪農対策運動」の重要課題として畜産環境対策の取り組みを掲げ、個人処理を対象とした施設整備に関わる「補助付リース」の継続と増額を農水省に要請し、15年度の210億円を大きく上回る301億円の事業費が予算化されました。
 このことで、積極的に効果的な恒久施設の整備を進めることが可能になり、系統各段階での取り組みを15年度にも増して加速することができました。

施設整備進捗状況

◆方向が定まらない農家は360戸に

 ――現在の状況はどうなっていますか。

 岡本 今年の8月末時点での見通しでは、表のように施設整備を必要とする農家は7560戸となっています。その内、恒久施設を整備する農家は3501戸、簡易対応が3398戸、規模縮小・廃業が299戸で、まだ施設整備の方向が定まっていない農家は360戸です。
 この結果、施設整備の方向が定まった農家は、簡易対応を含めると全国集計で95.2%。ブロック別では、北海道・東北地区が99.2%、関東・甲信越・東海地区が89.1%、北陸・近畿・中国・四国地区が74.6%、九州・沖縄地区が99.1%となっています。

 ――まだ方向が定まっていない農家に対してはどのように対応していくのでしょうか。

 岡本 各県本部・経済連、県中央会、JAと行政が一体となって最終的にはゼロにすることを目指して個別巡回をしています。畜産農家全戸が法に対応して11月1日を迎えることが私たちの大命題ですからね。

◆時間的に間に合わない場合はとりあえず簡易対応で

 ――恒久施設の設置で法に対応するというのがJAグループの基本的な考え方ですが、まだ施設整備の方向が定まっていない農家は簡易対応でないと時間的には難しいですね。

 岡本 時間的にかなり厳しくなっていますから、恒久施設でというのは難しくなってきているのも事実だと思います。物理的・時間的に恒久施設では間に合わない人は、簡易対応で11月1日を迎えてくださいということになります。

 ――簡易対応農家がかなり多くなるのではありませんか。

 岡本 8月末時点での見通しから、簡易対応による整備を計画している農家が増えています。そのため、9月から全農全国本部と全農畜産サービス(株)が中心となって、簡易対応による施設整備の取り組みを効果的に進めるために「手作りストックヤード(上下シート利用)」のパンフレットや「手作り浄化槽設置ハンドブック」を配布して、施設整備を促進しています。
 同時に、系統各段階の連携をさらに強化して、恒久施設の設置による施設整備を着実に進めるとともに、簡易処理で対応する農家の整備についても、遺漏のないように指導・確認を行なって、すべての農家が法に対応して11月1日を迎えられるようにしていきたいと思います。

 ――11月1日に間に合わないときはどうすればいいのでしょうか。

 岡本 恒久施設ですでに着工しているあるいは、これから着工するけれど11月1日には竣工が間に合わない人については、二重の投資になってしまいますが、とりあえずは簡易対応で整備する必要があります。

 ――11月1日の完全施行以降、国はその点検を行なうのですか。

 岡本 農水省では、12月1日時点での法施行状況について一斉に調査を行なう予定となっています。その調査結果を来年1月中旬までにまとめた後、国・県・団体の担当者による全国会議を開催してその後の対応を示すことにしています。

◆問題があるときは、行政に相談し確認を

 ――11月1日には間に合わないけれど、2、3日後とか1週間後には竣工できるという人もいるのではないでしょうか。

 岡本 そういうケースもあると思います。法の運用については各都道府県が行いますので、そうした問題については、各都道府県の判断となりますから、行政と相談をして確認していただきたいと思います。

 ――実際の運用は地方自治体がするわけですか。

 岡本 そうです。法は第3条で農水大臣が管理基準を定めることにしていますが、第4条で都道府県知事がこの管理基準に基づいて必要な指導・助言を行なうことができるとしていますし、第5条では勧告・命令などを行い不適切な管理の是正を図ることになっています。

 ――都道府県ごとに運用に多少の違いがあるわけですね。

 岡本 各地域の事情もありますから、問題があるときには行政と相談をし確認をする必要があります。国は、国と都道府県担当者向けにQ&A形式による詳細な「管理基準に係る執務参考資料」を作成して配布していますが、これでも各都道府県が「柔軟かつ臨機応変な対応を妨げることがないよう」配慮し作成されています。

◆簡易対応から恒久施設へを支援する

 ――簡易対応だとシートの耐用年数などもありますが、いずれは作り変えるなどしなければいけないわけですから、恒久施設に直したいという人も出てくるのではないですか。その場合には助成はないのですか。

 岡本 9月末時点で農家の施設整備の取り組み状況を確認する予定ですが、そのときに、とりあえず簡易対応した農家が改めて恒久施設にしたいという意向がどれくらいあるのかを調査して、その人たちをどう支援していくかもこれからの課題だと考えています。
 この意向調査の結果を、「畜産環境対策の取り組み」にかかわる実態基礎資料として、JAグループにおける17年度の畜産・酪農対策に反映させていきたいと考えています。

◆ふん尿処理から製品をつくるへの意識改革を

 ――恒久施設であれ簡易対応であれ法に対応した施設整備ができたとしても、毎日できる堆肥をどうするのかは、大きな課題ですね。

 岡本 施設整備ができて野積み素掘りはなくなっても堆肥は毎日できあがってくるわけですから、これをどう耕種農家に利用してもらうか。いまでも地域によっては堆肥が売れなくて苦労しているところもありますし、今後ますます厳しくなることが予想されますから、これが一番の課題だといえます。
 しかし、堆肥が余ることも予想されますから、炭化や焼却など、堆肥化以外の方法も検討していく必要があると考えています。

 ――堆肥の販売は個人では限界がありますから、JAなどの果たす役割が重要になりますね。

 岡本 個人では限界がありますから、組織的に取り組む必要があると思いますね。それから、耕種農家のニーズにあった品質の堆肥をつくることと、耕種農家が高齢化したり人手がないあるいは機械がないという問題がありますから、堆肥センターが配送し散布もするなどのサービスを充実していくことが大事だといえます。そういうサービスを充実させれば需要は伸びると思います。

 ――耕種との連携が大事だということですね。

 岡本 品目や土地柄などによって堆肥のニーズが違いますから、使う耕種側のニーズにあった製品をつくっていくことが必要ですね。
 畜産サイドは、肉や牛乳あるいは卵が商品ですが、堆肥についても、耕種農家が使いやすい「製品」を作るという意識が必要だと思います。

 ――その意識が堆肥センターの運営がうまくいくかどうかのポイントですね。

◆耕種営農部門が堆肥センターを運営

 岡本 堆肥センターの運営そのものをJAの畜産部門ではなくて、耕種部門がやって成功しているJAがあります。耕種部門が運営すれば、耕種農家がどういう堆肥を求めているかは分かっていますから、それにあった堆肥を自分たちでつくります。当然、耕種農家に受け入れられるわけです。これも一つの方向だと思いますね。
 耕種部門からみれば堆肥は、より良い作物を作るために必要な生産資材ですから、よりきめ細かな対応ができるのではないでしょうか。

×  ×  ×

 ――そうした課題をにらみながら、当面は11月1日に向けて全力投球ですね。

 岡本 その通りです。恒久施設であれ簡易対応であれ、11月1日にすべての畜産農家が法に対応していることが、私たちの大命題ですから、それに向かって全力で取り組んでいきます。

 ――ありがとうございました。

(2004.9.22)


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