農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 米事業改革とJAグループ

座談会 どう展望を開くか カギは集落ビジョン
集荷円滑化対策の確実な実施を

求められるJAトップのリーダーシップと職員の意識改革

阿部長壽 JAみやぎ登米代表理事組合長
吉田俊幸 高崎経済大学地域政策学部教授
森澤重雄 JA全中食料農業対策部長

 今年は米政策改革の初年度。各地のJAでは様々な取り組みが見られる。進んだところでは組合員から「展望が出てきた」との声も聞かれるという。座談会では「米改革の原点は、集落ビジョンづくりにある。必要なことは、やはりJAトップのリーダーシップと、それを支える職員の意識改革だ」などの議論が展開された。議論は(1)米の価格・需給動向と、その要因および当面の需給安定対策(2)米政策改革の取り組み状況と課題(3)今後の展望とJAの課題、を三本柱に進められた。

◆計画生産は概ね順調

 吉田 今年は米政策改革の初年度ですが、意欲的に取り組んでいる農協がある一方、スムーズにいっていない農協もあり、温度差が見られます。
 もう一つ大きなことは、昨年の不作で値上がりした米が、その後下がって1昨年の水準を下回っていることです。とくに米改革とからんで今後の需給がどうなっていくのかと、生産者やJAの方々は先行き不安になっていると思います。
 そこで、改革実践の新しい取り組み状況と、それから需給の見通しなどについて、全体的なお話を、まず森澤さんから、お願いします。

 森澤 計画生産の実施について、当初はいろいろと心配もありました。しかし9月22日に農水省が公表した今年の作付面積を見ると、170万4000ヘクタールとなっています。これは前年産より3万4000ヘクタール、率にして2%の増加です。
 しかも、中身は1万ヘクタールが青刈りということで、あとは今年から新しく入った減収栽培にともなう単収の関係や、これまで超過達成していた部分ということで、当初心配されたような生産調整の緩みはないのではないかと見ています。
 産地で直接聞いてもすでにブロックローテーションとか、そういう方式を確立して進めているところが結構あるわけです。「“作る自由”みたいなだけの風潮はないよ」ということですので、計画生産全体としては概ね順調に進んでいるのではないかと見ています。

◆需給はタイトを予想

森澤重雄氏
もりさわ・しげお
昭和24年生まれ。茨城大学農学部畜産学科・農学研究科卒。昭和49年JA全中入会、水田農業課長、人事課長、広報課長、総合企画部次長を経て、平成10年組織対策部長、12年組織経営対策部長、13年監査部長、14年JA全国監査機構・全国監査部長、営農地域振興部長、15年食料農業対策部長。

 森澤 全体需給については、今年は豊作基調が見込まれましたが、農水省は9月10日現在の作柄概況を101の平年作と発表しました。とくに台風15、16、18号の被害が思った以上に大きいようです。
 この結果、予想生産量894万トンに対して需要量を859万トン、加工米等20万トン、これから計算して集荷円滑化対策(過剰米処理対策)の対象を、現時点では15万トン程度と農水省は説明しているようです。この対策は今年から実施されるものです。
 今後の作況がどうなるか。今回の台風では、特に潮風害という新しい災害がかなり東北の日本海側とか九州、北海道などに出ていますから、そういった影響がさらに10月の確定作況の時に出てくることを懸念しています。あと、西日本のほうの遅場地帯といわれる所では8月中旬以降に日照不足があるということです。これも確定作況時に影響が出るかも知れません。
 当初の豊作基調が平年作に変わったため、全体需給は現時点では概ね均衡ですが、当初考えた以上にタイトになっているのではないかと見ています。

 吉田 私も秋田県の日本海側で八郎潟などの台風の状況を見たのですが、塩害が相当ひどいですね。悪い所はゼロとなっている。北海道も多分風害がひどいようです。被害地にはお気の毒ですが、全体需給としては、当初の予定よりタイトになってきている。価格の大幅な低下がなくなるのかなということのようです。
 では阿部さん、宮城県では、米改革の取り組みとか、米価への対応などはいかがですか。

◆全量集荷の徹底へ

 阿部 その前に質問ですが、過剰米15万トンに、政府買い入れの40万トンは入っていないのですか。森澤さん。

 森澤 入っていません。だから、仮に、予想生産量から加工米と、集荷円滑化対策分を差し引き、その上に政府買い入れ40万トンを引くと、恐らく820万トン程度になるはずです。だから需要量に対してかなりタイトです。

 阿部 さらに台風被害があるから確定作況も下がる可能性があります。
 ところが、宮城の実態はというと、作況指数108で全国一です。台風被害がほとんどなかった。また作況変動の大きなファクターである“やませ”がなかったのです。
 もう一つは登熟期の日較差が多かったので収量も食味もかなり期待できます。調査したデータを見ると収量は600キロ前後です。食味値もまた80%以上です。昨年とは様変わりです。
 これに対して過剰米対策をどうするか、恐らくこれが宮城県の大きな課題でしよう。これは集荷円滑化の事業と関連して結局、全量集荷をするということ以外にありませんね。豊作で穫れ過ぎた分は全部JAに出荷してもらうと。それをJAが分別して円滑化対策に乗せ、隔離して市場に出さない。こういう対策をJAがきちんとやれるかどうかだと思います。
 それを可能にするためには仮渡金の問題があります。私どもでは過剰米も計画米も全部同額です。そうじゃないと今の政策が生きてこない。格差をつけないで1万2000円水準を出して全量集荷しています。そして全体の中で価格差補てんをやっていく作戦です。

◆完売で減反の削減を

 吉田 米改革に関して生産者の反応はどうですか。

阿部長壽氏
あべ・ちょうじゅ
昭和10年宮城県生まれ。宮城県立佐沼高等学校卒、宮城県立農業講習所卒。平成2年宮城県農協中央会参事、5年中田町農協理事、6年仙南農産加工農協連合会常務理事、8年中田町農協代表理事組合長、10年よりみやぎ登米農協理事、14年より同農協代表理事組合長、宮城県農協中央会理事、宮城県信連経営管理委員、全共連・全農宮城県本部運営委員。

 阿部 政府は米の需給政策から手を引いて民間に任せたということなので正に市場経済原理ですね。そのまっただ中に米が放り出されたようなものです。
 その中で産地の工夫が起きており、私どもでは完売しないと減反が増えるという政策で取り組んでいます。つまり完売を一つの大きな産地間競争と考えて「環境保全米」づくりの運動を展開しています。
 具体的には、国の特別栽培米基準より少し高い基準を作り、昨年から始めて今年から本番ですが、管内の稲作面積一万ヘクタールのうち6000ヘクタールが、環境保全米に切り替わりました。これの販売戦略に取り組んで、完売をねらっています。
 農家は米政策改革や産地間競争のことを、すでによく知っているため、私どもの提案に極めて敏感でした。だから去年の環境保全米作付面積は1000ヘクタールでしたが、今年は一挙に6000ヘクタールに増えました。

 吉田 ということは、農家としても、おいしい米づくりと同時に需給調整も考えているということですね。ここで私から、価格動向についてちょっとお話ししたいと思います。
 15年産の価格動向を見ると、今までとは違う動きがありました。昨年は、最高時に前年比で40%くらい上がりました。その後下がった最大の要因は、政府米の売却がかなり進んだからです。全体で約100万トンを売りましたからね。それで不作下の過剰が起きました。

◆政府米売却が問題

吉田俊幸氏
よしだ・としゆき
昭和23年生まれ。東京大学農学部卒、同農学系大学院博士課程修了、農学博士。(財)農政調査委員会研究員、同主任研究員、同国内調査部長を経て平成8年より現職、12年より同学部長。食料・農業・農村審議会臨時委員、自主流通米価格形成センター運営委員及び取引監視委員、米の情報委員会委員、国土交通省地域振興アドバイザー、群馬県食料・農業・農村政策審議会委員。

 吉田 これは卸や量販店や外食産業などからの要望が相当強かったためです。なぜかというと、価格が上がってきた時に、特殊な商品を除き5キロ2000円を超える銘柄米の売れ行きが、大幅に減少した。量販店でも生協でもそうでした。それ以下でないとなかなか売れないため、その価格帯を確保するためにどうしても政府米が必要となりました。
 しかも、ブレンド米は1、2月の状況では売れ筋10銘柄のうち7つはブレンド米という量販店もありました。外食や中食も価格転嫁できないので、低価格の政府米が必要になった。
 つまり需給動向による価格変動と同時に、かつてのように高くても売れるという状況ではなくなってきたのです。他の食品との競合もあり、一定の価格水準が要求されてきています。
 これからの米産地は、いいものを作ったとしても、ある程度の価格帯が要求される時代になってきたようです。だから今回も需給がある程度タイトになったとしても、価格が上昇してくると政府米が要求されてくるという可能性があります。
 米も、市場原理であるが価格の安定が求められる時代に入ってきたのかなということです。同時に米消費の動向を考えると確実に安定供給していくシステムも必要となっている。そのため、豊作の時には市場隔離といったことを確実にやっていくことが消費者にも生産者にも必要じゃないかと感じます。では今年の需給安定の取り組みについて森澤さん、お話をして下さい。

◆卸在庫の動きに注目

 森澤 これまでは売り手、買い手とも、10月末の繰り越し在庫の見通しを意識していましたが、国はこれを6月末在庫の発表に変更しました。その数字は政府米と民間流通を含め267万トンです。これは過去数年間で最低です。多いときは500万トンを超えていた。これについて情報は本来もっと早く出すべきだったと思います。
 需給安定について、まず第一に、今年当初の入札で価格が低落した大きな要因は、豊作基調という情報に加えて15年産を高い価格で買った卸在庫の荷余りだと見られています。だから16年産はできるだけ低価格で買いたいというねらいがあるわけです。このため15年産在庫の動かし方が今後の米価変動の大きな要素になるでしよう。
 第二には政府米です。100万トンを売却して今は60万トンしかありません。備蓄の適正水準といわれる100万トン程度に早く持っていくよう政府米買い入れを早くやってもらうことが全体需給をさらに回復させる点で必要だと思います。
 第三に、新たな米政策で措置された、集荷円滑化対策が重要です。宮城のような県一本のやり方は比較的少ないのです。JA単位が過半数ですが、仕組みはいずれにせよ全体需給をいいところに持っていくために確実な実施が必要です。
 最後に、新しい米政策で流通面はほとんど自由化されてしまい、計画流通米がなくなって流通面の需給調整機能が弱いのです。政府米も回転備蓄だから、調整機能は持っていません。農家が豊作による価格低落を心配するような状況に対しては、集荷円滑化対策は措置されましたが、流通面についても新しい米政策の中で、もう少し手当てを工夫する必要があったと思います。消費者にとっても需給や価格の安定は大事です。

◆備蓄ルールの確立を

 吉田 豊作時の価格低落に対する歯止めは、農協が集荷円滑化対策を確実にやるかどうかになってしまっています。果たしてそれだけで価格が安定できるのかどうかについては、今後の課題になるかと思います。

 阿部 政府米売却の関連では私どもは卸に現地にきてもらって話し合いしたのです。彼らは異口同音に、昨年のおいしくない高い米をたくさん抱えて売れ残っているといいました。また政府米放出問題が大きなカギを握っていたし、今年の価格水準に大きな影響しているともいっていました。だから政府米売却の意味をきちんと分析しておく必要があるのではないか。私は非常に問題だったと思います。
 農水省はブレンド米を急に政策として押し出しましたが、これは量販店や外食産業が望んだからだといっても、古々米などもいろいろ放出して、ある意味では政府の過剰米処理にしかならなかったといえなくもない。売却の仕方も分析しておいてもらいたいと思います。

 森澤 政府米備蓄の運営ルールが確立していないのです。国民食料の安定供給を果たすという国の役割から考えたルールがないのです。だから、ああいうことになっていったのかなと思います。こういうケースでは、こうするといったルールが重要ではないかと考えています。

◆需給調整機能が弱い

 吉田 国の備蓄ルールは100万トンを持って、50万トンずつを売却し、買い入れするということです。50万トンというのは新潟県の米流通量とほぼ同じです。また最大手の卸会社の取扱量です。だから売却の時期や数量や米の種類、価格などは市場に大変な影響を与えます。そういうことを踏まえた運営ルールをきちんとすることが新しい米政策において重要だと思います。
 農水省調べでは、卸の月末在庫は昨年12月が82万1000トンと最高で、今年6月末は56万トンに減っています。それでも前年同期より約22万トン多く、買い控えが起きていますが、これから作況が固まったりしてくると卸の動きに変化が出てくるだろうと思います。価格面では9月の入札動向が1つのメルクマールとなります。

 阿部 新政策の中には、需給調整機能が流通面ではどこにもない、もう一つは政府米の運営ルールが確立していない、私はここに根本的な問題点があると思います。だから集荷円滑化対策の制度的な充実をはかり、これを受け皿にして政府資金をもっと導入したりする運動が必要ですね。それから私はやはり全農が需給調整機能を実質的に果たしていかなきゃならないと思います。私は全農の改革の視点をそこに置いています。
 そういう機能に全農を再編成しないと市場原理の下で右往左往する時代がずっと続きます。これは消費者のためにもよくない。全農にそういう注文を一つ出したいし、もう一つは円滑化対策の制度的充実について課題提起をしたいと思います。

◆「環境保全米」に挑戦

 吉田 旧食糧法は米不足時代に作られ、今回の米改革は過剰時代のものだから、政府は過剰米に対するリスクを負う面では弱いと思います。集荷円滑化対策で十分であるかは検討の余地があります。同時に備蓄米の売買は米市場が需給に大きな影響を与えることも重要な視点です。
 では次ぎに、環境保全米と、それを完売をするための取り組みをもう少しお話下さい。

 阿部 この発想には二つの視点があり、一つは、産地間競争にどう対処するかで、それは完売と減反の削減という目的が持てるわけです。管内は水田地帯なので限りなく水田農業を活性化させたいのです。
 もう一つは、このまま化学化農業をやっていたら、農業が自然環境に対する加害者になるということです。これを避けて自然のルールに近い状態にどう保つかという問題、それから優良農地の保全、それと安全性の追求です。この二つに同時に挑戦できる方式はないかと考えたのが環境保全米です。
 これには三つのタイプがあり、AタイプはJAS米です。完全有機栽培です。Bタイプはその前の段階で、3年経過するとJAS米にできます。Cタイプは特別栽培米で、圧倒的に多いのはCです。厳しく除草剤制限をしています。それから一番問題は化学窒素の削減で、有機態窒素にどう置きかえるかという運動をしています。有機質肥料に置きかえるのです。
 畜産地帯でもあるため堆肥センターがたくさんできていますから、これを生産基準の中に織り込んで農家に飼料設計の中できちんと突き合わせていく対策をやっています。生産基準、いわゆる生産暦を作り、営農指導員が全力を挙げています。しかしこれは行政や農業共済組合などの関係機関と一緒にならないと成果が挙げられないため何回も協議し趣旨を徹底させました。

◆営農指導員の意識改革

 阿部 また水稲部会と徹底的に議論しました。一挙に6000ヘクタールに増やした決め手は、種子消毒をいっぺんに温湯消毒に切り替えたことです。今までは農業共済組合が無料で種子消毒剤を供給していましたが、その支出を温湯消毒器に切り替え、それをJAに寄贈してもらって一万ヘクタール分を温湯種子消毒できる体制を今春つくりました。
 そして農家に種を持って来てもらって営農指導員が種子消毒をやる方法です。それの徹底が大きな動機づけになりました。農家は、どうせJAから種籾を買うのだから種子消毒したものを欲しいといいましたが、私は頑として聞かず、農家が来なきゃだめだと主張して、集落割り当てして順番に来てもらって、営農指導員に消毒させました。間違いがあっては困るということと、もう一つは稲作の第一段階から農家との話し合いをしてほしいということで、それが功を奏したのではないでしょうか。
 これに至る一番の障害というか関門は営農指導員の意識改革でした。それまでは化学化農業しか頭にないわけですから。それがまた、かつての宮城の米生産失敗の原因でもあるわけですよ。そこで環境保全米栽培への転換で激論もし、一年間くらい時間をかけました。営農指導員たちに生産基準を作らせたことが彼らに自信を持たせましたね。
 一方、水稲部会のほうも1年のうちに、これからの生きる道は環境保全米しかないのだという感覚に大きく変わりました。また、今までは新政策にどう対応したらよいかわからなかったが、環境保全米運動で展望が出てきたという声も出ています。
 課題は、環境保全米に付加価値がつくのは当然じゃないか、という価格要求に対する対応です。私は、今はそんな時代じゃない、いかに完売するかというための環境保全米運動であって付加価値を求めるための運動ではないと最初から説明を繰り返し、付加価値は結果であり、買ってくれた客がつけてくれるものであり、こちらから、いくらで買ってくれと持ち出すのは間違いであると主張しました。
 環境保全米に切り替えても生産費が多くかかるわけじゃないですからね。つまり価値観を変えるだけです。それを運動として理解してもらうということです。そうはいってもできる限りは付加価値を追求したいと思いますけど。

◆マーケットに照準を

 吉田 米改革を推進するには「売れる米づくり」を柱としてマーケティングを基準に、営農指導員を中心に水稲部会を活性化させることは重要です。さらにまず、消費者が受け入れる品質と価格を前提として、生産者の手取りをどれだけにするかという視点です。あとにくる時代ですね。これまでは手取りが先で、コストを積み上げて小売価格が決まるという考えでした。今後は生産者が価値観を転換していかないと難しいと思います。

 阿部 もう一つの作戦は水稲部会対策でした。管内8町にまたがる各部会の幹部と、米の営農指導員とセットにして、それぞれ得意の卸先に派遣して勉強会をやらせました。これも大きな効果を挙げたと思います。
 この前も大手卸7社の方を呼んで水稲部会の幹部たちと直接議論させました。交流の中で例えば、部会の幹部たちは、環境保全米は加算金を追求するよりも売り切ることに力点を置くべきであると語り、彼ら自身が結論づけていました。

 吉田 全国でも地域水田農業ビジョンの作成などを契機に、いろいろないい動きがあると思います。森澤さん、それについてお話下さい。

 森澤 売れる米づくりにはいろんな切り口があります。品質や価格のほかに地域の文化とセットにしたような売り方もあって、マーケットを明確にすることに努力しています。
 例えば、山口県のJA山口美祢は、金太郎飴戦略という名称で均質米を作って勝負しています。誰が作った米でも同じ品質にするという戦略で、実需者の評判もよく、生産量を増やしています。JAがコンセプトを明確にし、生産者も一緒になって成功させています。

◆切り口を明確にして

 森澤 重要なことは、生産者と関係機関とJAが目標を明確にして進んでいるかどうかということです。地域水田農業ビジョンの実践強化をはかる全国運動を展開していますが、しかし集落段階からの合意で作られているかというと必ずしもそうではないという実態があります。
 調査結果では、集落レベルでビジョンを作り、それを積み上げて地域ビジョンにしたところは2割弱くらいで8割は、どちらかといえば上で作ったものを下に説明する形です。それでは生産現場の本当の意識改革にはなりません。米改革を進めていく上で今までと何も変わりはないことになるわけです。
 そこで集落段階からビジョンを作成していく運動を展開しています。一つの切り口が明確になると、それによって担い手や農地利用集積などの問題などもついてくるので、生産者に一番関心がある売れる米づくりという切り口は非常に重要です。

 吉田 米改革は組合長のリーダーシップと、営農指導員の意識改革から、という阿部さんのお話でしたが、かつての米増産運動では営農指導の力があったけど、今度の売れる米づくりという全然違った視点が求められますね。でもJAの出番が出てきたわけですが、その一つの切り口がマーケティングということだと思います。
 もう一つは米を作る人と組織をどうしていくかという問題があります。農地をどう保全するか、高齢化が非常に進んできていますからね。この点についてどうですか。

◆農協運動の論点整理

 阿部 その前提として農協運動の論点整理をやらないといけませんね。今は農協運動なんていう言葉が風化しちゃってますね。農協運動の原点はやはり地域農業政策ですよ。そのさらに原点は個別農家の農業をどうするかです。そういう原点に立ち戻って論点整理をしないと農協運動じゃなくなってしまう。
 JAグループとして営農指導改革とか経済事業改革を進めており、大変結構なことですが、それを成功させるだけではだめだと思います。農協運動の本質である地域農業をどうするか。そこの論点整理をきちんとすることが第一です。それから農地を守って担い手を確保して地域農業を活性化させていくという切り口は、日本の場合、ベースになっている水田農業をどうするかでしょうね。
 その手段は今、全中が一生懸命やっている集落営農という一つの発想、これをどう具体的に展開するか。私はそれに尽きるのではないかと思います。
 農水省の食料・農業・農村政策審議会企画部会の中で全中の山田俊男専務が孤軍奮闘していますが、そのバックアップはどうなのか。よく考えると集落組織は属人属地の農家の母体組織です。やはりゲマインシャフトですよ。まだ崩れていません。それを法人化しなくちゃいけないとか、経理の一元化とか、企画部会の中間論点整理でいっていますが、そういう枠組みを取っ払い、集落の自由な発想で農地集積をさせて、担い手をつくっていくのがビジョンですよ。その中心になるのが農協です。

◆集落の議論積上げて

 阿部 兼業農家であれ、米以外に特化する専業農家であれ、水田農業をどうするかという条件整備を集落で話し合っていけば、兼業農家の土地も生きてくるのです。だから集落営農はどうあるべきかなどと決めつけて枠組みをすること自体ナンセンスではないですか。その点については農協を挙げて運動していかなくちゃならないのではないでしょうか。

 森澤 米政策改革を進めていくと、将来、主役システムという話に行きつきます。そこに至る過程で要は、米改革でJAが地域にどうかかわっていくかということ。これによって実は農協運動の再構築にもつながっていくのかなと考えます。
 集落ビジョンについて、例えば岩手県のあるJAではビジョンづくりに、JAの全職員を各集落担当としてかかわらせ、多い集落では20回以上もの話し合いを行っています。そうやっていけば協同組合としての組織の再結集がはかれます。水田地域ほど米とJA経営などがみな結びついてくるので、だからビジョンを集落レベルから築き上げていく実践を徹底して強化していこうという運動を展開しています。上からでなく、集落でよく話し合っていくと、担い手が帰ってくる例とか担い手が育っていくことなどにもつながっていきます。だから、そういう議論の場をJAがどんどん用意していく必要があります。

 阿部 国の政策レベルで考えられている集落営農の法人化論には私は異議を唱えています。この概念でやれば集落営農は育ちませんよ。

◆多様性を踏まえて

 吉田 集落営農は、それぞれの集落によって最もいい営農形態をつくっていくということだと思います。場合によっては法人が全部やってしまうとか個人の担い手がやる例もあります。ところが集落営農という言葉が画一的に捉えられているから、法人化という話になっちゃうので、集落営農はもっと多様性のあるものだと考えます。場合によっては定年帰農者の担い手だっていいと思います。森澤さんがいうように、JAが下からの話し合いを積み上げていくようにすれば、もっとそのことが明確となり取り組みが進むはずです。

 阿部 私たちは、そのつもりでやっていますが、政策レベルではそうではないでしょう。逆に、こういうものだと画一化して、決めつけちゃって。そこに誤りがあると指摘したいのです。

 森澤 集落営農を類型化すると非常に多いのです。地域の中の知恵から出てきますから。その地域の農業生産と農地をどう組み立て、守って再生産を確保していくのかということなんです。結果として最後は法人化していこうとか、あるいは、その集落の中に協業組織をつくって、作業を行い、それ以外の肥培管理は高齢者でやっていこうとか、いろいろなタイプがあります。
 ただ、国がいっている法人化は、政策の対象としては、経理の一元化とか、そういうところまで求めるよ、といっているわけです。

 阿部 だから兼業農家も専業農家も集落営農を通して、もういっぺん地域農業を再構築したり、農協運動に参加できる機会が出てくるんですよ。そういう人たちに組織化を議論させていくことが大事です。

 森澤 法人化は一つの手法です。担い手の議論は中間論点整理にもとづいて、さらに詰められていくと考えられますが、私たちとしては、地域の中での担い手には多様性があるということを、きちんと踏まえて対応していくことが必要だと思います。
 また法人化に行き着けない集落については、一方的に切ってしまうと、政策から見放されることになるので、そんなことはあってはならないわけです。そこの農業と集落の機能は環境保全機能にも全部つながって地域社会ができており、それは今後とも継続していくわけですから地域の多様性は踏まえていかなければならないと思います。

◆「農協の出番」に対応

 阿部 もう一言だけ。基本計画の前提は自給率ですが、その向上目標が達成できそうもないという。これを問題にしないで農地や担い手の問題に入っているのは順序が逆ですよ。
 自給率をどうするかがあって農地問題となり、次ぎに、それを耕す担い手の問題になるのです。だからJAグループの運動の矛先を、そこに向けるためにも農協運動の論点整理が必要です。

 森澤 農協運動の論点は明らかですが、組合員の構造が変わってきて、少子高齢化の中で、さらに変わっていきます。JA組織の基盤をどうすべきかについては見直す必要があるかなと思います。現に長野県のあるJAでは一年がかりで組織基盤のあり方を組み立て直しました。JAには社会的役割も大きいから、地域住民との関係も含めて組織のあり方を見直したのです。
 最後に、米改革の原点は、集落ビジョンづくりにあるとして取り組んでいますが、必要なことは、やはりJAトップのリーダーシップと今一つは、それを支える職員の意識改革です。

 吉田 売れる米づくりとビジョンづくりに計画と実行責任は農協が担うことになりました。出番となった農協に必要なのは組合長のリーダーシップと職員の意識改革ということですが、併せていうと、全中のリーダーシップで、農協運動の方向を示し、それが新しい時代の農協づくりの契機になればいいと思います。新しい時代に向けて、農協の組織、営農、経済、事業に改革が進む契機となることを期待します。

座談会を終えて

 米改革元年、宮城県登米農協は水田営農の確立へ向けて意欲的に取り組んでいる数少ない事例である。マーケティングと米の「完売」を柱とした地域農業戦略に基づき、環境保全型稲作の栽培面積が10倍に拡大した。可能にしたのは組合長のリーダーシップであり、農協職員の意識改革であった。さらに、農協は、生産者とともに現場から地域戦略づくりを積み上げ、経営、技術指導を行なってきた成果である。つまり、「地域水田農業ビジョン」「売れる米づくり」は、農協が本来の意味での営農・販売活動を行なうことが前提なのである。多くの農協は、従来までは、生産調整の確認に追われ、営農活動が不充分であったと思う。登米農協の事例が参考となろう。さて、備蓄米の運営であるが、50万トンを売買することは、農水省が最大のプレーヤーであり、米市場に大きな影響を与える。15年産の政府米の売却の結果が部分的に示している。備蓄米の売買は、市場への影響を充分に考慮した上で行なうことが必要である。

(吉田)

(2004.10.5)


社団法人 農協協会
 
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル Tel. 03-3261-0051 Fax. 03-3261-9778 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。