農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 米事業改革とJAグループ

JA米現地ルポ JA佐賀市(佐賀県)
JA米は当たり前 佐賀米ブランドをより確かなものに


JA佐賀市地図
JA佐賀市
 佐賀市は北部に背振山地、南部は有明海に面し、市内の大部分は佐賀平野の中央に位置し、平坦な地形が大勢を占めている。市内にはJA佐賀市とJA佐賀市中央の2つのJAがある。このうちJA佐賀市は、中央部に位置するJA佐賀市中央を取り囲むようにドーナツ状に広がった、周辺部の田園地帯を管内としている。組合員数は6753人(正組合員3784人、准組合員2930人)で、そのうち米生産者は約1800人。
 古くから温暖な気候と平坦な地形を利用し稲作が盛んで、今も米どころとして全国に知られている。JA佐賀市も米作が中心で、裏作に麦、転作で大豆を生産しており、その3品目が主力農作物となっている。15年度の販売高64億9000万円のうち、米類が過半数の52.2%を占め、33億9000万円の売上があった。
 管内で生産している米は、うるち米で夢しずく、ヒノヒカリ、天使の詩、レイホウ、酒米で西海134号、山田錦、もち米でヒヨクモチの計7品種。
 各品種の今年度の見込生産量、出荷申請量等は〈表1〉のとおり。主力は夢しずく、ヒノヒカリの2品種。特にヒノヒカリは生産者数、耕作面積ともトップの実績で、見込生産量も5000トンを超える。なお、天使の詩は以前『佐賀27号』の名で知られていたが、名前を変え、そのイメージに合わせた新たな販路の開拓をめざしている。

◆取り組み初年度でJA米比率が95.2%

立川充也 営農部農畜産販売課長
立川充也
営農部農畜産販売課長

 JA米の取り組みは、15年度に生産者に栽培履歴の記帳を指導することから始めた。主力作物である米、麦、大豆の3品目について、一冊のノート形式にまとめた「水稲、大豆、麦栽培履歴書」を4月に生産者に配布した。その後、営農指導員が集落座談会等で生産者と話し合い、記入方法や記入項目などを確認しながらまとめた。15年度の栽培履歴の回収率は8割弱で、当初JAが予想していた以上の成果だ。
 今年度は取り組みの初年度にも関わらず出荷契約数量のうち、JA米の比率が95%を超えた。集落座談会などを通じて、JA米の取り組みを説明したことや、既に生産履歴を記入していたことなどで、生産者に安全で安心な米づくりへの理解が深まったのではないかと、JA佐賀市では見ている。
 「我々が考えていた以上に生産者は“安全”や“安心”の重要性を理解していたと思います。JA米に付加価値を設けないとの説明に、当初は手間がかかる分、価格差を付けるべきだなどの反対意見が出ましたが、議論を重ねるうち、これからはJA米が標準になり、それ以外の米は消費者に受け入れられないのだという理解が深まった。消費者の立場に立った米づくりを進めることが組合員の共通の認識になったのだと思っています」。JA米推進の最前線で指揮をとる、営農部農畜産販売課の立川充也課長は、この間の経緯をこう語る。
 また、管内のカントリーエレベーター(4ヵ所)、ライスセンター(3ヵ所)の7つの施設利用組合が一斉にJA米推進に取り組んだことも、取り組み初年度からJA米の比率を高めたことにつながった。7つの施設利用組合で生産者総数の約7割を占め、残り約3割が個人で乾燥調製などを行っている。
 施設利用組合では、すべての組合員が組合の運営方針に従うという意思統一ができており、JA米推進の方針が組合員一人ひとりに理解された。今年度から種子更新も含め、JA米生産に向け取り組む体制が出来上がり、他の組合員の推進を押し進める役割を担う格好となった。
 JA米100%に向けた問題としては、個人で乾燥調製などを行っている約3割の生産者の動向だ。JAではあくまでもJA米が標準であるとのスタンスを取り、JA米の有利さを説き、JA米100%をめざす意向だ。

◆協会を中心に種子更新100%達成めざす

 県経済連は種子更新100%について、「佐賀県主要作物種子協会」を中心に、県内の種子生産体制を整える方針だ。JA佐賀市でも今年度は、種子更新67.1%の数字をあげ、残りをDNA鑑定でカバーした。
 種子協会は現在、県内に3ヶ所の種子センターを持っているが、将来JA米生産が本格化した場合、それだけでは需要を満たすことはできない。今後は耕作面積1000ヘクタール以上のJA(県内14JAのうち9JA)に採種圃を設け、各JAと協力して県内の需要をまかなえる体制の確立をめざしている。JA佐賀市も将来的には、種子協会と協力しながら採種圃を設置し、管内の種子更新100%をめざす。
 県内14JAの中でも、JA米の取り組みに対する態度には大きな開きがある。JA佐賀市のように取り組み初年度にすでに95%以上の出荷をめざしている先進的なJAもあれば、取り組みについて苦慮しているJAもある。来年度は県全体でJA米取り組みの機運を盛り上げることが必要だと、県経済連の関係者は話す。

◆栽培履歴の県内標準化も目標

米の検査風景
米の検査風景

 培履歴は水稲・大豆・麦の3品種を1冊にまとめ、内容は種子、土質、土づくり、施肥、病害虫防除などの項目について具体的に答える内容となっている。すでに野菜などで栽培履歴記帳を行ってはいるが、水稲では初めてのことで当初は戸惑う生産者も見られたという。また、高齢者が多いことから、履歴記入項目の理解不足や付け忘れなどがあったが、営農指導員が足繁く訪問し話し合いを繰り返す中で、履歴記入の重要性が理解されるようになり、回収率8割弱の高率につながった。
 県内のJAでは佐賀市を始め個別に栽培履歴様式を作成し、各JAの実情に合わせて生産者に記入を求めているが、今後は全県的にJA米を推進する経済連の方針から、種子更新同様、経済連が中心となって、栽培履歴記帳の標準化をめざす。すでに昨年度から各JAの担当者を集め、栽培履歴管理システムの検討に入っている。各JAが作成した栽培履歴の項目を列挙し、必要な項目とそれ以外に分け、必要な項目について体裁を整えるなどして、記入しやすい栽培履歴づくりをめざす。統一様式での栽培履歴記帳は18〜19年度をメドに進めたいとしている。同時に、栽培履歴のデータベース化も計画している。米に先行して生産履歴記帳を実施している園芸作物のデータベース化は、17年度から試験的に取り組む。
 これにより県内各JAのデータがオンラインで結ばれ、経験や勘に頼るだけではなく、蓄積されたデータを分析して合理的な対応ができるようになると、期待される。JA佐賀市も経済連のスケジュールに合わせ、栽培履歴の標準化に取り組む。
 また、JA米要件を満たすため農産物検査が必要なことから、JA佐賀市には現在10名の検査員がいる。検査量の増大などで昨年より2名増員した。検査員は兼務で、営農指導などの日常業務に加え検査業務を行う。

◆JA佐賀市の米を全国区のブランドに

農家からCEに集まるお米
農家からCEに集まるお米

 JA米の販売は、全国統一の仕組みなので、各JAが個別に販売するのではなく県単位での販売を原則としている。既に『佐賀米』として知名度を作ってきているが、新たにJA米として全国統一ブランドの中でいかに差別化を図っていくかが問われる。
 その中でJA佐賀市は米どころの誇りにかけ、JA米としての生産は当たり前の要件として、それにどのような付加価値を付けるかがこれからのポイントだと考えている。すでに夢しずくで実施されている減農薬、減化学肥料による生産などの例が、売れる米として道筋をつけられるか、見守りたい。
 JA佐賀市をたずねた9月の末、例年ならば米検査の時期にあたっているが、今年は降雨の日が多かったこと、台風の直撃を受けたことなどが重なり、1週間程度スケジュールが遅れ、検査はこれからとのことであった。カントリーエレベーターでは、組合員からの米が集められて、乾燥調製等の作業が行われていた。検査は10月の初めころに予定されている。
 今後は、JA米の取り組みをさらに進め、『JA佐賀市』の米の名を全国区とすることで知名度を上げたいと、意欲的に米作りに取り組む決意を固めている。

表1 16年度のJA米の取り組み状況
(2004.10.6)


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