農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 米事業改革とJAグループ

JA米現地ルポ JA会津みどり(福島県)
みんなの美味しいのためにすべての米をJA米に

◆県内トップの集荷率強い生産者と農協の信頼関係

JA会津みどり

 JA会津みどりは、新潟県と山形県に隣接した会津盆地の平坦部から山沿いの山間部を含む、河沼郡会津坂下町・柳津町・湯川村、大沼郡三島町・昭和村・金山町・会津高田町・会津本郷町・新鶴村の6町3村の広域JAだ。耕地は標高170mから750mと会津盆地の平坦部から高冷地まで変化に富んでいる。会津盆地は、東の会津磐梯山、北の飯豊山に抱かれ、尾瀬山ろくを水源とする只見川や阿賀川の恵まれた清流が肥沃な土壌を生むという豊かな立地を活かしてさまざまな農業が営まれている。とくに、夏の高温という盆地性気候は米づくりに最適で、食味の良い米の産地として知られている。
 JAの販売事業の7割強を米の販売が占めているように、米はこの地域の農業にとってもっとも重要な農産物だ。会津盆地はヤマセが吹かないこともあって、冷害や旱魃に強い土地だともいえる。15年産の作柄が全国90、福島県89の著しい不良というなかで、会津は98のやや不良に留まったことでもそのことは分かる。
 また、15年産の集荷実績が申出数量対比83.2%と、厳しい集荷環境のなかで、県内でもっとも高い集荷率だったというように、組合員・生産者と農協との信頼関係が強いこともJA会津みどりを語るときに忘れてはならないことだ。それは、米の情勢や集荷環境が変わっても、「農協の基本的な姿勢が変わらない」からだといえる。

◆99%以上がJA米高い安全・安心への意識

大井豊記 営農部米穀課長
大井豊記
営農部米穀課長

 16年産の水稲作付面積は、5330ヘクタールで、そのうちコシヒカリが3970ヘクタール、ひとめぼれが1180ヘクタールとこの2品種で96%を超えている。契約数量は36万6200俵(60kg)。その内、99.6%がJA米だ。加工用米も含めて生産される米のほとんどがJA米ということになる。
 同JAでは、14年度から農産物の生産された地域の慣行レベルに比べて、化学合成農薬の使用回数(成分数)、化学肥料の窒素成分量が各々50%以下で栽培された農産物を対象にする福島県特別栽培農産物認証制度に則った栽培に取り組んできている(16年産2万1000俵)。さらに、会津坂下・会津高田・新鶴の生産者1100名余が首都圏の食品スーパーいなげやとの「全農安心システム米」(ひとめぼれ、1500トン)、全国でも有数面積である約400ヘクタールの直播栽培など、「環境にやさしい農業と“安全・安心”な稲づくり栽培方法」を営農指導の基本として推進している。
 そうした下地があったことと「BSE以降、生産者の意識が高まっていた」ので、生産者にJA米に対する抵抗感は少なかったと、同JA営農部の大井豊記米穀課長。福島県のJA米は種子更新・栽培管理日誌記帳・検査のほかに、残留農薬分析を義務づけている。だから「キチンとしてください」というと、昔は「それじゃ農協に出さない」といっていた人が、いまでは理解してくれるようになり意識が変わってきているという。
 特栽米、直播栽培米、いなげや以外にも拡大している全農安心システム米を核にして、消費者に安全・安心な米を届けようという意識がここでは生産者にしっかり浸透している。

◆確定申告にも活かせる「栽培管理日誌」の記帳

 JA米を推進するときに生産者にとって一番負担となるのが「栽培管理日誌」の記帳だといえる。
 15年産米の時には、県内で統一したものがなかったので、会津地区各JAの営農指導員で構成する米穀部会で、会津地区の栽培暦を統一し、「栽培管理日誌」の様式を統一し、1ほ場ごとに記入してもらうことにした(団地化しているところは代表田のみ)。
 専業農家は「1ほ場ごとに記帳するのは当然」だというが、「大多数の人は、高齢化もあって書くのが面倒だから、もう少し簡単にして欲しい」という意見が集落座談会などで出された。16年産については、県で統一しようということで、県中央会が「トレーサビリティ研究会」をつくりそこで県として統一したが、コシヒカリやひとめぼれなどの品種ごとに代表田の記帳ということになった。ただし、同じ品種でもほ場が離れている場合は、別々に記帳することにした。
 「栽培管理日誌」は冬の集落座談会などで配布し、記帳方法を説明する。そして田植え後の5月下旬から6月上旬に第1回の確認を行なう。このときには確認をして生産者に返す。2回目は、出穂後の8月中下旬から9月初旬で、このときにはコピーをとって返す。そして最終の3回目は出荷時となる。ただ、最近は箱処理剤の普及もあって2回目以降の農薬使用はほとんどないため、「2回目に回収したコピーでほぼチェックはできる」という。
 記帳は確かに生産者にとって「面倒で億劫な作業」だが、毎年記帳し慣れてくれば生産者にとってもメリットがでてくると大井課長はいう。それは、(1)昨年はいつ、何を、どのように使ったかが記録されているので、確認し活かすことができる。(2)1年間に使った肥料農薬の量が分かるので確定申告にも活かせる。(3)さらに、使用量を記帳するので、生産者の在庫管理がキチンとできるようになるので、余分に購入しなくなるなどだ。

「栽培管理日誌」の記帳は生産者にもJAにもメリットが
「栽培管理日誌」の記帳は生産者にもJAにもメリットがある

◆肥料農薬の予約率が向上推奨品への集約化も

倉庫に整然と積まれたJA米
倉庫に整然と積まれたJA米

 農協にとってはどうか。栽培暦で肥料や農薬について「農協から買う人が増え、予約率も上がったし、推奨品に銘柄が集約されるようになった」という。農協以外から購入した場合には、領収書などを添付することになっているので「面倒くさいから農協で」ということもあるようだ。
 とはいっても資材価格の問題はある。そこで今年から、10トン車が入れてフォークリフトのある大口需要者には工場から直送しメリットを還元することにした。集落でそういう対応ができるのなら集落単位でもよいということにしたという。
 もう一つ農協にとって大きなメリットは、栽培管理日誌を集計・分析することで、いままではよく分からなかった「この集落は農協から肥料農薬を購入している」ことが分かるようになったことだ。近い将来、栽培管理日誌をOCRで読み込みデータベース(DB)化する計画もある。そうすれば、生産者がもっとも関心がある食味値をよくするために、個別に「土壌改良剤をいれなければダメだとか、肥料の成分を変えなければいけない」などの営農指導ができるようになる。

◆栽培管理日誌をDB化し有効活用はかる

 さらに、DB化することで肥料農薬の使用状況が分かるので「基本的には肥料農薬を限定しながら、カントリーエレベーターのビンごと、あるいはこの倉庫のコシヒカリは同じ肥料農薬を使ったものというように倉庫ごとに分別」し、それを販売にも活かしていきたいと大井課長は考えている。
 DB化には、農協職員の仕事を軽減する意味もある。栽培管理日誌を4600戸の農家から回収する作業は大変なことだ。黙っていても農家が自主的にもってきてくれるわけではないからだ。座談会や会議のときに集まれがいいが、そうではない人のところには、米担当職員だけでは足りないので各支店の職員も加わって回収に回る。昼間は居ないことが多いから、夜間が中心だ。そして、回収した栽培管理日誌のチェックや集計など、農協職員にかかる負担は大きい。それを軽減化するのもDB化の目的の一つだ。
 さらに、「会津みどり米づくり基金」という独自の基金をつくって、山間部の西部地域で加工用米を生産してもらい、平坦部では基本的に加工用米を生産しないことにしたという。この基金は平坦部の生産者が1反あたり240円を基金に拠出し、西部地域で生産した加工用米に交付するものだ。

◆生産者の思いを込めてシールが貼られる

検査が終わると1袋ごとに「JA米」のシールが貼られる
検査が終わると1袋ごとに「JA米」のシールが貼られる

 JA米に取り組むことで、従来から食味がよく美味しいお米といわれてきた会津米生産者の「安全・安心」への意識がさらに高くなったこと。栽培管理などがキチンとされることで品質のグレードが高く保てるようになったと大井課長は評価する。
 そして今後の課題は、農協は米を集めるだけではなく「年間を通して30万俵を超える米を確実に責任を販売している。自分たちがつくった米が、どこで、どのように、誰に購入されているのか」、そうした販売の実態を生産者に理解してもらうことだと大井課長は考えている。スーパーなどの店頭に生産者が出向くのも一つの方法だが、人数に限りがあるので、広報誌なども含めてそのことを工夫したいという。そのことで変動する米価についての理解も求めていきたいという。
 米をめぐる情勢や制度が激しく揺れ動くなかで、米の主産地としてさらに不動の地位を確立するために、会津みどりの生産者と農協は心を一つにしてJA米の生産に取り組んでいる。取材の日も、検査を終わった米袋の一袋一袋に丁寧に、生産者の思いを込めた「JA米のシール」が貼られていた。

(2004.10.6)


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