農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 これで良いのか 日本の食料

農業者のやりがいにつながる政策を  
  「食育」だけでなく「農育」も望みたい
座談会 都市消費者の立場から

 消費者ニーズがいわれるが、それを発信したのは果たして消費者なのか、という鋭い問いかけが出た。発信元は実は巨大な多国籍企業や流通ではないのかと衝く。消費者も農業者も自主的な価値観を持ち、もっと交流を深める必要がある、という論点などが出た。出席者は社会的視野も広く、話題は食料から農政へとはずんだ。なお出席者は4人とも東京都世田谷区在住の主婦(40〜60歳代)で、植田さん以外は生協の組合員。司会は坂田正通本紙論説委員。

◆3食の基本はやっぱりご飯

 ――まず各ご家庭の食生活などをご紹介して下さい。

 松島 私は朝ご飯を食べないと10時ごろには気持ちが悪くなってくるので、ご飯と味噌汁は欠かしません。ご飯に合うおかずも作っています。生活クラブに入ってからは、食べ物に気を遣うようになりました。

 岡本 うちも3食の基本はご飯です。会社勤めのころはゴミのポイ捨てをするような生活態度でしたが、子どもができてからは子どもを通じて環境や社会を見るようになり、また生活クラブに入って、いろんな勉強をさせていただいています。

 植田 私は環境問題から食べ物に関心を持つようになりました。仲間と一緒にお米作りもしています。豚肉も産直の形で地元の作物だけを飼料にしている養豚農場から毎月1回、グループで取り寄せたりしています。

 森田 うちは食べ盛りの中学生が2人いますので毎月買うお米がかなりの量になります。子どもの時にすり込まれた情報や意識や感覚は大人になっても出てきますから、母親として食材には気を遣っています。

 ――食の問題に意識の高い方ばかりですが、食材を買うのには産直なども利用しているのですか。豚肉の話が出ましたが。

 森田 夫の転勤で仙台にいた時に農家の方と仲良くなり、米作りに出かけたりもしました。また放牧で豚を飼っている友達がいて、今も月1回、その豚肉を送ってもらっています。

運動をもっと活発に―――植田さん

◆国産品が多すぎる?

 松島 私の実家は岩手の農家なので米は送られてきます。また、たまたま知り合いになった農家が旬の野菜を送ってくれます。しかし、それらは年間消費の1割程度で、あと9割近くは生協に頼っている生活です。

植田靖子さん
植田靖子さん

 岡本 私も安全安心の点で、生協が頼りです。夫の転勤で10カ月前まで中国の上海にいましたが、あちらでもスーパーが増えて、店頭には「緑色食品」と表示した有機農産物が並んでいました。しかし、そのシールが市販されているので、それを買って貼ったのではないかとの疑いもつきまといました。というのは有機シールの商品が不自然に増えていったからです。

 ――表示の問題になりましたが、ほかの方はいかがですか。

 松島 どのスーパーにも国産と表示した商品がずらりと並んでいますが、自給率40%の国でそんなに国産農産物があるのかと疑いたくなります。

 植田 私は店頭で添加剤とか産地とか表示を丹念に見ます。しかし加工品には原産地を書かなくてもよいので気に入ったものを探すのに骨が折れます。
 偽装問題については、日本の消費者はおとなしいですね。外国なら、ちょっとしたことで不買運動などが盛り上がるのですが、日本では広がりません。

 森田 根本的には消費者教育です。ただ国産品が良いという理解だけなら、じゃあ国産品に偽装して、もうけようという人が出てくる。なぜ国産品を買うことが良いことなのかを理解しなければ意味がない。それには国産品の生産費や流通費まで知らせる努力と教育が必要です。

子どもにも自給率説く―――岡本さん

◆もし戦争になれば…

岡本京子さん
岡本京子さん

 岡本 自給率という言葉は生産者サイドだけで使われていましたが、最近やっとマスコミでも時々は出てきていると思います。私は以前から子どもにもわかりやすいように「日本は島国だから、もし戦争にでもなれば食べられなくなっちゃうよ」と説明していました。
 上海にいる時、フランス人の学生さんが「私はアメリカのファストフードが大きらい」といい、食事のマナーとか食材の話をまくしたてたのを聞きましたが、日本の子どもにも、そんなことがいえる教育が必要だと思いました。

 森田 日本もやっと食育に乗り出しました。しかし「農育」にしてほしいと思います。この食べ物は、どのように作られたかまでを教えるのですよ。何を食べたら健康に良いかは、本来は家庭で教えるべきです。

 ――家庭教育が大切です。

 岡本 夕飯は家族そろって食べていますが、支度から後片づけまで時間がかかります。それを子どもがいやがって「早く寝たいから食事は簡単でいいよ」といいます。そして一人で食べている友達の例を引いて、その子の食事は冷蔵庫から出した食べ物で簡単に済ませ、風呂に入った後も夜の時間がたっぷりあるとうらやましがるのです。そんな家庭もあるのです。

 ――家族ばらばらで食事をする家庭も増えました。そういう家庭の子どもの影響も出ているということですね。

「味覚崩壊」を心配して―――森田さん

◆消費者飼い慣らしか?

 松島 テレビのグルメ番組では、紹介した食材が国産のシーズンオフで店頭には輸入品ばかりというタイミングの悪さも見られます。日本でできる農産物の情報は非常に少ないですね。
 それから農産物にも工業製品のような規格が要求されるというのも問題です。自然界が生み出すものは千差万別で不細工な形もあって当然なのに、農家は大変な労力を費やして規格をそろえています。

 ――消費者が見てくれで選ぶからだといわれています。

森田美和子さん
森田美和子さん

 森田 消費者ニーズは実は、消費者が発信したニーズでなくて、巨大な種苗会社や流通がつくって発信したものじゃないですか。消費者自身も、それにコントロールされています。自分の価値観を持つべきです。

 植田 消費者は飼い慣らされています。例えば、昔の味のトマトがほしいのに、どこを探しても売っていない。甘いトマトばかりです。農家も業者から、甘いのがニーズだといわれて作る。主体性がないようです。

 森田 ファストフードや化学調味料の濃い味に慣らされていく子どもたちの味覚崩壊も心配です。友人と一緒に外で食べるのを禁止できませんからね。

 ――食材をセットにした商品も増えていますが。

 松島 女性の社会進出がいわれた20年以上も前に食材セットの宅配ができて結局、発展しなかったのですが、当時生まれた子が母親世代になった今再び新しい形で出てきたようです。

◆癒着があるのでは?

 岡本 ビジネスチャンスといえば、こんな話もあります。
 日本農業を考える講演会という集まりに誘われていったら、壇上に日の丸を掲げ、大上段の話がありましたが、結局は生ゴミ処理器の会社の販促イベントでした。1台30万円の器械を買って、月1回送られてくるおが屑と一緒に生ゴミを返送すれば1万円近くがもらえるという話でした。
 生ゴミはたい肥にして農家に無料で供給し、できた野菜は会社が買うから循環生活となって日本農業のためになるということでしたが、私としてはヘンな感じを抱きました。

 ――農協は安全安心な農産物づくりに取り組んでいますが、それについてはいかがですか。

 森田 全農の安心システムで農畜産物を作る農家は認証を取るのに、たくさんの書類を書いていますが、どこか行き過ぎた制度のようにも感じます。というのは書類を書く労力に見合う手取りがあるのかどうかと考えるからです。

 植田 関連して最近気になっているのは、臭素酸カリウムを添加した角型食パンを大手が売り出したことです。焼き上がった時には添加剤が完全に消えるということで厚労省が認可したからです。表示もちゃんとありますが、それが発ガン性物質であるとは表示されていません。以前に消費者運動で添加をやめさせた物質なのに、今度は国産小麦を原料にした値段の高いパンで使用を始めました。日持ちが良いとかよくふくらむなど利益率が高くなる理由があるようですが、何か役所と企業の癒着があるのではないかとも感じます。

票集めの補助金やめて―――松島さん

◆国は誰を守るのか

 森田 国は企業を守るけど、消費者は守ってくれないと、私たちはそう思っているじゃありませんか。しかし一般の人や農家はそう思っていません。農産物の場合はやはり消費者と農家が顔の見える関係になるのが一番の安全だと思います。

松島ミス子さん
松島ミス子さん

 松島 男性の大人のアトピーが増えていますが、食べ物の影響があるんじゃないかと思います。患者たちの食生活はファストフードが多く野菜をほとんど食べていない状況でした。

 ――最後に日本の農業について意見をお聞かせ下さい。

 森田 農家手取りが増えてほしいのですが、作物代金だけではムリでしょうね。環境支払とか何かを考える必要があります。

 松島 減反で青刈りをしていますが、お米を実らせれば家畜の飼料に使えるのに、もったいないと思います。何も植えていない休耕田に補助金を出すことはやめて、転作とか何かに活用する努力をしている農家に、それを回してほしい。政治家の票集めに利用される補助金はなくすべきです。

 森田 後継者のやりがいにつながる政策と自給率の向上、それに環境を守る政策をセットで出してほしいと思います。

 植田 輸入品が安いということは、それを作った国の農民がしいたげられていることだと考えます。国際的な巨大会社がもうけている構造をメディアはもっと知らせるべきです。

座談会を終えて

 都市消費者の生活スタイルは多様である。特に女性は家庭の中で中心的役割を担い多忙である。雨の午後、座談会の会場に駆けつけてくれた出席者は40代から60代の働き盛り、旬の女性人たち。松島さんは薬剤師の傍ら地域のゴミ問題に関わる運動、岡本さんは夫の上海転勤に同行し、帰国後生協活動に復帰したばかり、植田さんは共働きで環境問題に関わるフリーライター、そして森田さんは夫が単身赴任中、子供の教育に気を配りながら生協の農と緑の担当理事として活躍。日本の食糧について意識の高い人たちばかり。論談風発、時間が過ぎても話が止まらない。
 消費者は農業の現場をもっと知るべきだ。中間の流通業者やメーカーの情報が、あたかも消費者ニーズの如く伝えられる。本当の消費者ニーズを農家に伝えたい。生産者と消費者の交流の場が少ない。農家の情報メディアという意味で農協新聞が励まされた。

(坂田)

(2004.10.18)


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