特集号「これで良いのか? 日本の食料」は農業者のみならず国民全体で考えるべき問題だ。本号でもさまざまな立場の人々に登場してもらっている。なかでも日本の次世代を担う若者たちにしっかりと問題を受け止めて考え行動するエネルギーを期待したい。
JAグループなどが協賛し毎日新聞社が主催している『毎日農業記録賞』に昨年から高校生部門が新設された。全国から300人を超える応募があり、高校生たちの食と農への熱い思いがそれぞれの地域、体験に基づいて記録された。
今回は、優良賞受賞者のなかからこの春、東京農業大学に進学し本格的に食と農について学んでいる大学1年生4人に集まってもらい、日本の食と農についての考えや将来の夢などを語ってもらった。みな課題を冷静に捉えて自分のめざす道をしっかり歩み始めていた。 |
開発途上国の食料難解決を支援したい−萬家美穂さん
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萬家美穂さん |
愛媛県生まれ。花屋で働く母親、野菜づくりをする祖父の姿を見て、小さいころから農業に関わりたいと考えてきた。
東京に住むようになってからもその考えは変わらず、少しでも早くとの思いから農業高校へ。
そこでの勉強で農業の大変さを知り、逆に夢が大きく膨らむ。 「もっと大きな仕事に携わりたい、農業で人助けができないか、という気持ちから途上国の農業、農村の支援をしたいと思うようになりました」。
記録賞への応募作品のタイトルはずばり「私の夢」。専攻は国際農業開発学科。途上国の支援といってもその国の地域の人々とともに農産物の栽培法を考えたり、地域の人々が自立して食料難を解決できる力をつけることが必要だと考えている。
「もっと日本の子どもたちに農業の楽しさ、を知ってもらいたい」。
家の味、地域の味を守っていくことを大切に−井海慶太さん
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井海慶太さん |
実家は創業元禄2年の醤油メーカー。応募作品では父親の経営する会社の姿を描いた。
工場では米こうじを作って店先で販売する。地域の人々に自家製の味噌づくりをする習慣が残っている。販売も手伝ったこともあり、買いにきてくれる人々との交流も楽しいと感じた。
大阪でも醤油メーカーは少なくなっているが、「地域密着型の仕事を守っていきたい」。専攻は醸造科学科に。
最近は自家製味噌をつくる家庭も少なくなり、工場に米こうじを買いにくるのは高齢者ばかりになった。
「今はどこのスーパーでも同じ醤油を売っている。でももっと自分たちの地域にもともとあった食品を知ってもらいたい。小さな会社でも地域の伝統を大事にしていければ」。父の会社の仕事を「記録」する体験をして「一気に醤油に対する気持ちが過熱してきた」。
伝統野菜から「地域文化」を伝える仕事を−今津 亮さん
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今津 亮さん |
高校3年の昨年の夏。思い立って「農作業を手伝わせてほしい」と京都北部で伝統野菜を作る農家を訪ねた。快く受け入れてくれた農家。作業を手伝って自分の仕事にプライドを持っている農家だと感じた。そして「伝統野菜が地域のあり方にも影響を与えていることが分かった」。
もともと食文化と農業に興味があった。さらに「地域文化」も自分のキーワードになってきた。
「ちょうど親の世代からファスト・フードなどが浸透し、自分たちの世代がいちばん『食離れ』が進んでいるのではないかと思う」。
地域で作られているものを知ることによって食を知ることになると考えている。だから「地域の食から離れていってしまえば、日本の食も変わってしまうのではないか」。「食」と「地域」をもっと知ってもらう場をつくりたいと考えている。
自分たちの世代の力で農の衰退を食い止めよう−繻エ昌隆さん
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繻エ昌隆さん |
徳島県の実家では米や野菜を作っている。元気な祖母は作った野菜を日曜市に出荷している。応募作品ではその姿を書き、地産地消を考えた。
地元では農業が衰退し、また、市町村合併も進んで「地域の特色がどんどん薄れていく。このままでいいのか」。自分のふるさとへの思いが出発点だ。
一方でBSE問題、鳥インフルエンザの発生、安全性が疑問視される輸入農産物の増大など、食への不安が大きくなっていることを若い世代としても感じている。
不安の解決法は、「地域で作られたものを食べることではないか。地域の特色ある農業を生かすことが地域の活性化にもなると思う」。
祖母には元気でおいしい野菜づくりをしてもらいたいと思っている。「できれば、自分たちの世代で農業の衰退を食い止めたい。そんな立場になれることが目標です」。
(2004.10.18)