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特集 これで良いのか 日本の食料 |
商社マンからみた人口増加と食料問題 |
もう一度農業を取り戻し安定した社会を |
一色 修二氏(元日商岩井肥料部) |
1) 100年で43億人も増えた――幾何数的に増加する世界の人口 46億年前に地球が誕生し、ホモサピエンスという人類が地球に誕生して20万年、文明が起きて1万年といわれる。キリストの生まれた頃の人口は1億、それが1000年掛かりやっと2倍の2億になった。 ◆なぜ発展途上国では人口増加・先進国では人口減少するのか 2)農業生産の限界と南北格差が食糧危機の原因 ◆ 質への欲求が食料需要を急増させる
人口が増えればとうぜん食料も多く必要になるが、これだけの理由で食料需要が増えるわけではない。「腹一杯食べたい」という量の欲求と「もっと美味しい物を食べたい」という質の欲求が生まれ、魚も肉も食べたくなる。この変化が起きると食料需要は一気に急増する。理由は、肉は贅沢な食べ物で、豚肉、牛肉、鶏肉など平均して肉1kgを生産するのに、穀物7kgがいるからである。 ◆南北の穀物供給力に圧倒的な格差が 2004年、世界人口は63億人だが、私が入社した1964年頃は30億人程度。人口は抑制しなければ幾何数的に増えるが、食料生産は算術的にしか増えない。しかも、北側(先進国)では食料は有り余っているが、南側(途上国)では飢餓問題が起きている(約8億人が飢餓人口)。つまり、この農業生産の限界、南北格差の二つが食料問題の原因である。1973〜74年はオイルショックが起きた年であったが、同時に世界的な飢饉が起きた年でもあった。ソ連の穀倉地帯(ウクライナ地方)で冬に雪が降らず、秋に撒いた小麦などの種が霜で枯れ、収穫ができず、そのため、ソ連が秘かに大量の穀物の買いに出たためである。ニクソン大統領が大豆輸出の禁止発表をしたため、日本では豆腐の値段が一夜にして上がった(40円→50円)。 3)すべての農地で生産し不足分を輸入するべき ◆日本の自給率は「馬鹿げている」と米国人が一蹴 日本は戦後、遮二無二に工業立国を目指し成功した。1970年代から円高を招き企業の採算は悪化したが、それでも頑張って輸出を続けた。円高の結果、海外の農産物は安くなり、大量に輸入が始まり、一方工場では「働いて、円高になって、首にされ」が始まった。1991年ソ連が崩壊すると、米国の一国主義が貿易面でも始まる。即ちガット最後の交渉(第8回のウルグアイラウンド1986〜1994年)で、米国は農産物にも関税主義の採用に成功した。農業は各国の自然環境の違い(耕作条件、気象など)から、平等ではないため、従来は一定の輸入制限措置が認められていたのに、原則の変更に成功した。そのため、ガットは1995年1月1日以降WTO(国際条約、それまでは行政上の取り決め)に変わる。最近のWTOの動きを見ると、自由貿易こそが世界を繁栄に導くという大義名分があるが、本音は国境を取り払い「米国の圧倒的有利な農産物を世界に自由に売る」という意図が見え私は賛成できない。よほど自国の体制を整えてからにしないと根こそぎ奪われ、食べ物の自由を奪われるため、他の面でも自分の意見も言えなくなる。 私はニューヨーク駐在時代、米国肥料会社の幹部がソ連に対し兵糧攻めすべしと主張していたのを知っている。アメリカの私の昔の部下にメールで日本の食料自給率(表5)を説明し、どう思うか聞いたところ、そんな状態はridiculous(馬鹿げている)と一蹴された。自分の食料はありったけの農地を使い生産し、そのうえで不足分を輸入するとすべきである。 消費者利益のために安い農産物を輸入せよといわれてもそれは日本の内政問題であって、他国からとやかくいわれる筋合いはない。None of your business(余計なお世話)である。 アメリカ人は理屈にあうことなら、あっさり理解できる国民だ。工業と農業のバランスを取るのは難しいが、もう一度農業を取り戻し安定した社会を取り戻して欲しいと思う。 ◆ 日本はもっと世界のために汗を流すべき 最後に、日本は領土的野心はなく、被爆国、非白人国なのだから、自国のためだけでなく、世界のためにもっと発言し、汗を流すべきと思う。日本には優れた農業技術があり、高齢の農業専門家もおられるのだから、職にあぶれた若い人を連れ、世界でもっと役に立って貰える仕組みを作って欲しいと思う。海外への援助(ODA)を農業の技術指導、人事交流、農産物買上げなどに重点を切り替えて貰えないものか(アメリカから嫌な顔をされるであろうが)。そのためのFTA(2国間協定)には私は大賛成である。
(2004.10.13)
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