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特集 経済事業改革と営農指導 |
座談会 明日の経済事業の姿を描くために−いま営農機能の強化を |
マーケティング的思考と制度依存からの脱却で改革に魂を |
黒澤 賢治 JA高崎ハム常務理事(元JA甘楽富岡営農事業本部長) 伊集院正美 JAそお鹿児島参事 松岡 公明 JA全中食料農業対策部水田・営農ビジョン対策室長 (司会)米本 博一 JA全中経済事業改革推進室長 |
検討委員会
米本 「基本方向」は「JAにおける営農指導機能強化策」と「県域・全国域におけるJAを支援するための具体策」の2つから成っていますが、今日は「JAにおける営農指導機能強化策」を中心にお話をいただきたいと思います。まず、検討委員会の感想を黒澤さんから…。
黒澤 営農についてJAグループの中で論議をし、運動論で終わるのではなく事業論でドラスティックにとらえ「あるべき姿」が確認されたことは、とても良かったと思います。そして、地域のなかで歴史的にJAがどういう役割を果たしてきたのか。そのなかで営農指導事業がどうだったのかということが検証され、あるべき姿について討議ができたと思います。そういう意味で、地域で営農指導部門にずっと携わってきた人間として非常にありがたかったですね。 伊集院 営農指導は、JAにとって根本的な事業だと思いますし、あって当たり前という世界でずっときましたが、その見直しを迫られているわけです。そういう意味で、この「基本方向」がまとめられた意義は大きいと思います。とくに、目標の明確化や予算を明確化してみんなで共有化するという方向性がでたのは、営農指導員自身の意識改革につながると考えています。 松岡 従来は、営農指導を議論するときに、営農指導があるから信用・共済事業があり農協の総合経営を支えているという「あり方論」「営農指導論」だけで終わっていました。今回の検討委員会では、営農指導自身の意識改革を中心に「営農指導論」という古い鎧を脱ぎ捨てて、いまの時代にあった営農指導の機能論というところで議論が進んできたところが、いままでと違う点だと思います。
米本 「地域農業戦略」を策定するにあたっては、JAだけではなく行政や普及センターなどその他の団体との連携・機能分担を整理したうえで、そのなかで具体的にJAは何をするのかという戦略を明確にするということですが、この点について伊集院さんいかがですか。
伊集院 私のところでは、中期計画と同時並行で3年ごとに策定し、地域にあった戦略を提起しています。15年度に策定したときのポイントは「農家の満足度合いがどこにあるのか」「消費者の満足度はどこなのか」、そして農協はこれらを推進できるスタッフなり販売責任者など人の体制、部会組織が支えあって意識改革をなしとげる必要があるということでした。 ◆「公開と参画」で組合員・地域との合意形成 黒澤 基本的には、商業も工業も地域に混在しているわけですから、それらとどういう連携をするのかという「地域のあるべき姿」を描く。それが前提だと思っています。従来から計画は各JAや各県で策定してきていますが、計画をつくる準備段階で、JAが組合員の実態を分からなかったり、長い歴史のなかで育んできた地域にある資源に触れていなかったりしています。地域振興計画を策定するうえで、組合員に「公開と参画」という基本原則を打ち出して、組合員の意向調査とか地域の総点検運動をするなど、事前の準備をしないと、作っただけになってしまうと思います。 米本 行政との連携についてもう少し詳しくお話ください。 黒澤 価値体系の共有だと思います。みなさんが参画して成功すれば、その成果はみなさんのところにいくわけです。失敗したときも等しく分配されます。JA甘楽富岡の場合、JAが目立った存在ですが、行政や普及センターとのしっかりした連携があってはじめて成果があがったわけですし、成果物は等しく分配しようとやっています。 米本 行政との連携では伊集院さんのところはどう考えていますか。 伊集院 行政の合併が進み、普及センターは1ヶ所に集中されました。JAも本所に広域営農指導員が30名ほどいますので、年に何回か普及員の人たちと会合をもつ機会づくりが必要だと思います。ただ、作物部会ごとには、営農指導員を介して行政・普及センターと一緒にやっています。しかし、青色申告とか税務は普及センターではできませんからJAでやっています。また、各町(3町)と一体となって農業公社を立ち上げて、新規就農者の育成に力を入れています。今後、市町村合併が進んでくるとお互いの垣根を取って、指導・融資・経営をセットにして情報の共有化をはかれるような仕組みづくりが必要な時期にきていると思いますね。 ◆重点課題に人・もの・金・情報を集中させてベクトルを動かす 米本 松岡さん、全国の農協はどうですか。
松岡 全国の約8割の農協で「地域農業振興計画」ができています。ところが、農協大会で決められた営農関係の重点課題が10項目あればそれが全部並列的に並べられ戦略の明確化ができていません。そして「計画は計画。実態は実態」になっていて、営農担当者が自分のところの地域農業振興計画を「あんな計画できっこないでしょう。絵に描いた餅でしょう」と言い切っているわけです。そして事業計画が達成できないと、「お天道様が悪かった」「農政が間違っている」という。経営トップに聞くと「営農指導員がへこたれている」という。営農指導員の研修会に行くと「経営トップの理解がない」という。天候や農政、人の責任に転化して自己責任になっていません。 米本 データに基づいて戦略を明確化し、それを共有化することをきっちりやっておかないと、テクニック的なことをいくらやっても機能しないということですね。 松岡 うちのJAはこれでいくんだということを明確にすることです。甘楽富岡の場合には、お蚕さんもコンニャクもダメになった。それなら何でいくのかと考え、シイタケがあったので、これにヒントを得て、少量多品目でいこう。そしてプロ農家にはこういう戦略、高齢者や女性にはこう、セミプロはこうと、多様化する組合員層とマーケットに応じた戦略を明確化しているわけです。農協としては、プロ農家にもセミプロやアマ農家にもそれなりに対応しています。足して1になっていますではダメなんです。農家からみれば0.5は0.5でしかない。マーケットもそうです。共販もやっているしファーマーズマーケットもやって、トータルで1やっていますといっても、マーケットから見れば0.5は0.5でしかない。生産現場もマーケットも多様化していますからそれをセグメントするなかで、層別に戦略を明確化しないと意味がないわけです。
米本 戦略を明確化し共有化したうえで、目標管理を行なうことが重要だと提案されていますが、黒澤さんどうですか。 黒澤 「多様性」がキーワードだと思います。JAの営農指導員にも多様性があると思います。地域農業振興計画を分解すれば、それは一経営体の積み重ねです。そして、一経営体ごとに目標があるわけです。それをどうサポートするかが、これからの営農指導の一番の目標ではないかと思います。そういう意味では、アマ農家からセミプロへそしてプロへ、プロからスーパープロへ育成していく仕組みづくりが必要で、営農指導員を評価するときにこれがないと、評価基準がぼやけてしまいます。 松岡 農協の目標管理は農協職員の管理ソフトではないはずです。組合員に対してもそうですが、地域全体に対して「生産者グループはこれからこういう地域農業をつくります」と公約すること、公開することです。いわゆる「マニフェスト」です。職場内だけでノルマを達成しても疲弊感しか残らないと思いますが、地域と公約してそれが達成でき、地域全体で評価されれば、やったという達成感があり、目標管理がもっともっと生き生きしてくると思いますね。
伊集院 うちのJAの農畜産物の販売高は250〜260億円です。そのうち畜産が150億円、園芸農産が90億円で担当営農指導員が80名いますが、共販手数料だけではとてもまかなえません。そこで園芸農産の指導員は生産資材、畜産の営農指導員は飼料など畜産資材を担当させ、販売手数料と購買手数料とセットで自分たちの経営管理をするというシステムをつくっています。そのおかげでそれなりの実績がでてきています。 米本 検討委員会で伊集院さんが、「営農指導事業の目標を達成するのは、営農指導員だけでやるのではないよ」と発言されましたね。 伊集院 農家サイドからJAをみれば、生産物を販売することだけではなくて、生活もあるし、貯金や共済を含めたトータルですから、農協は一つです。その一つのセクションが営農指導です。そういう意味では全体でやっていくということです。
米本 先ほどからご指摘があるように、組合員が多様化し、その対象農家ごとにJAの営農指導に求めるニーズが違います。そのニーズに対応するには営農指導員も階層化していく必要があると思います。基本方向ではモデルとして、営農相談員、営農指導員、専門営農指導員の3つの階層化を示しています。さらに、階層化した営農指導員がその機能を十分に発揮するには営農センター化するのがいいのかどうか、各JAで検討していただくことになっていますが、この点について伊集院さんはどうお考えですか。 伊集院 16年4月から、統括指導員、広域専任指導員、そして支所指導員という形に3つのランクに分けて、さらに大規模農家・法人対応のTAFということにしました。そして18年度を目標に、園芸農産の営農総合センターと畜産総合センターという2つの総合センター化をはかっていこうとしていますが、支所指導員をいつまで支所に配置するのかは検討中です。 黒澤 営農事業は「総合営農事業」だと思います。JA甘楽富岡でいえば、指導事業、販売事業、購買事業があり、利用事業や加工事業、そして直売事業があり、この6つで事業形成しています。いまマーケティングしている大手量販店のバイヤーは昔は品目ごとの担当でしたが、いまは生鮮というゾーンになっています。JAもいままでは営農指導の対象物は品目別でしたが、その組み換えも柔軟に行なえる体質づくりをしていかないといけないと思っています。 ◆個々のグループの主体性は尊重し束ねたときに一つの力に 米本 JA甘楽富岡の場合には、生産組織にも特徴がありますね。 黒澤 アマチュアとセミプロは、あまりシバリのない運営委員会です。これは将来、この人たちが生産部会にステップアップできる場だともいえます。プロゾーンからはじめて、価値観や意思が共有できる目的集団としてのシバリをもった組織化をしています。プロゾーンは、農特産連絡協議会、畜産部連絡協議会部会というように全体を網羅した横のネットをはった組織にしています。横軸を重視しないと地域戦略ができないからです。 松岡 「集中と分散」は言いえて妙だと思いますね。生産現場も生産者も、そしてマーケットも多様化している、農協がその多様性を尊重してその間のプロデュースをしようとういうのが一つですね。そして、黒澤さんがいわれるように、営農指導事業だけでは成立しないわけです。そこも農協の中で多様なわけです。そして部会のなかでも、米でも減農薬減化学肥料グループや慣行栽培とかいろいろなグループがあり多様化しています。 伊集院 各JAごとに歴史があると思います。そのなかで右往左往しながらいまに行き着いているわけですから、いまこれが提示されたから、明日からこれができるかといえばそうはなりません。自分たちにあった仕組みをつくっていくことが大事だと思いますね。 米本 黒澤さんのところも、伊集院さんのところも、苦労して築いてきているわけですよね。 黒澤 生産者とのバトルの連続でしたよ。 松岡 甘楽富岡やそお鹿児島のTAFチームのモデルだけをみてはダメなんですよ。
米本 営農指導員も高齢化していますが、営農指導員を意識的に育てていくことが必要ですが、この点はどうですか。 黒澤 私は県中央会を強化して、営農指導員が交流できるセンター機能を具備しなければダメだと思います。群馬では営農指導員の協議会がありますが、これが若い営農指導員を育てる原点なんです。 伊集院 700名弱の要員のなかで、年数回集合研修と県連の専門研修にたよっていますが、体系的なものは見えていません。農家指導・交流などで活きた研修はできているのでしょうが、マネジメントができていないと私は思います。目標管理とか階層化ということであれば、道筋や研修体系とかをシッカリつくっていかないといけないと思いますので、そこらが宿題かなと感じています。 松岡 営農指導員の基本は、OJTと田んぼやあぜ道に入って、生産者から教えられて育つことが一番でしょうから、後は、市場関係者からのクレーム処理から育つのだと思います。ただ、最近は農家子弟の職員でも農業の知識がほとんどないという現状もあるので、中央会の仕事として、階層別研修体系のカリキュラムをしっかり組むことだと思っています。そのときに、現場で目標管理がきちんとされ、自己啓発があり、意識的自覚的に研修に参加するという好循環をつくることが重要だと思います。
米本 最後に「営農指導予算の確立」ですが、これからは信用・共済部門で負担していくことは難しくなると思います。予算を確立するには、販売事業や購買事業での収益の確保など営農指導事業を核とした事業展開が重要だと思いますが、伊集院さんどうですか。 伊集院 営農指導で人件費が3億5000万円かかっていますが、15年度農業関連事業の部門別損益で同額の赤字でした。特に農産特別会計で多額の赤字でした。そこで経済事業改革に取り組んできましたが、16年度見込みは黒字に転化し、全体収支も好調の見通しです。 黒澤 それはすごいですね。 伊集院 一部選果場等赤字会計を組合員に統廃合してもらって廃止したりもしましたからね。選果料も一部応益負担しました。組合員にも情報開示して納得してもらう努力も必要です。 黒澤 基本的には、営農だからいいよという聖域ではないと思います。それが大前提です。その上で、本来なら組合員が拠出しなければならない部分を指導事業ということで負担していることがあると思います。それをきちんと整理して、JAも費用対効果をヒヤリングし、組合員にも開示していかないと、最終的に予算の確立を継続的に恒常的にやっていくことは不可能です。私のところでは、生産部会とJAが業務委託契約を結び互いのやるべきことを明確にする仕組みづくりをしています。全て一率といわれる手数料率も応益分担方式に変えました。 松岡 営農指導強化について総論では賛成でもうまくいっていない最大の原因は、財源問題です。一番大事なのは、営農経済事業は、昔は事業取扱高方式でどんぶり勘定で、一つひとつの品目別の収支構造が分かっていなかった。それを収益主義に発想を転換しなければいけないと思います。 ◆内向きだけではなく外に向かった改革へ 米本 最後に、一言づつ抱負を含めてお聞かせください。 黒澤 私は基本的にマーケティングにつきると思います。イチローだって3割7分です。すべてが成功することはありません。ビジネスですから勝つときも負けるときもあります。マーケティングすると消費者が見えますし、営農指導した作品が消費者にジャッジされます。それが原点だといえます。そういう意味では、改革は内に向かってだけではなく、外に向かってもしっかりしなければいけないと思いますね。内と外と併行しないと本来の事業改革は成功しないと思っています。 伊集院 最近は改革ばかりですね。企業でいえばリストラですね。私は、リストラも必要ですが、ある一定までいったら、その先に見えるものがないと農協はやっていけないと考えています。先日も職員研修会で、マーケティングを含めて新規事業を発掘して次期中期3年計画に提案してほしいといいましたが、そこがここ数年で見えてこないとJAの将来もないと思います。 黒澤 もう一つは、施設の共同利用とか、あるJAがもっている輸送機能を他のJAが活用するとか、JA間連携なり、グループ連携すれば大ナタを振るえる部分がいろいろあると思います。産地間競争などといわず連携をしていくことです。 松岡 制度依存からの脱却とマーケティング的思考をどれだけ取り入れることができるかだと思います。 米本 経済事業改革に魂をいれるのが、営農指導機能の強化だということが確認できたと思います。伊集院さんがいわれた先に見えるものを描くのも営農指導機能強化を成功させることだと思います。今日はありがとうございました。
(2004.10.15)
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