農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 経済事業改革と営農指導

座談会
明日の経済事業の姿を描くために−いま営農機能の強化を
マーケティング的思考と制度依存からの脱却で改革に魂を
黒澤 賢治 JA高崎ハム常務理事(元JA甘楽富岡営農事業本部長)
伊集院正美 JAそお鹿児島参事
松岡 公明 JA全中食料農業対策部水田・営農ビジョン対策室長
(司会)米本 博一 JA全中経済事業改革推進室長

 昨年の第23回JA全国大会は「組合員の負託に応える経済事業改革」を最重点事項として決議し、現在、JAグループをあげて計画の実践に取り組んでいる。とくに、「営農指導機能強化」は、経済事業改革の重要な課題であることから、経済事業改革中央本部のもとに営農指導事業検討委員会を設置し検討を重ね、(1)JAごとの地域農業戦略、(2)営農指導事業の目標の明確化、(3)営農指導の組織、(4)営農指導員等育成計画、(5)営農指導の予算化の5つをJAにおける機能強化策とする「JAグループの営農指導機能強化のための基本方向」を取りまとめた。中央本部委員会では、この基本方向を踏まえて「営農指導機能強化」を経済事業改革の目標の一つとして位置づける方向で検討されている。また、各県域における検討も始まってきている。
 そこで、この検討委員会の委員として基本方向の取りまとめに携わり、自らも営農指導の先進的な実践に取り組んできた元JA甘楽富岡営農事業本部長の黒澤賢治氏とJAそお鹿児島参事の伊集院正美氏、そして全国的な取り組みを推進しているJA全中水田・営農ビジョン対策室長の松岡公明氏に、「何を目指して営農指導機能強化を行なうのか」「そのポイントは何か」などについて語ってもらった。司会はJA全中経済事業改革推進室の米本博一室長。

 

検討委員会


◆営農指導の「あるべき姿」を初めて論議

 米本 「基本方向」は「JAにおける営農指導機能強化策」と「県域・全国域におけるJAを支援するための具体策」の2つから成っていますが、今日は「JAにおける営農指導機能強化策」を中心にお話をいただきたいと思います。まず、検討委員会の感想を黒澤さんから…。

黒澤 賢治氏
黒澤 賢治
JA高崎ハム常務理事

 黒澤 営農についてJAグループの中で論議をし、運動論で終わるのではなく事業論でドラスティックにとらえ「あるべき姿」が確認されたことは、とても良かったと思います。そして、地域のなかで歴史的にJAがどういう役割を果たしてきたのか。そのなかで営農指導事業がどうだったのかということが検証され、あるべき姿について討議ができたと思います。そういう意味で、地域で営農指導部門にずっと携わってきた人間として非常にありがたかったですね。

 伊集院 営農指導は、JAにとって根本的な事業だと思いますし、あって当たり前という世界でずっときましたが、その見直しを迫られているわけです。そういう意味で、この「基本方向」がまとめられた意義は大きいと思います。とくに、目標の明確化や予算を明確化してみんなで共有化するという方向性がでたのは、営農指導員自身の意識改革につながると考えています。

 松岡 従来は、営農指導を議論するときに、営農指導があるから信用・共済事業があり農協の総合経営を支えているという「あり方論」「営農指導論」だけで終わっていました。今回の検討委員会では、営農指導自身の意識改革を中心に「営農指導論」という古い鎧を脱ぎ捨てて、いまの時代にあった営農指導の機能論というところで議論が進んできたところが、いままでと違う点だと思います。
 もう一つは、営農指導と経済事業をセットで議論することでの収穫があったということと、営農指導を改革するために、現場でこれだけはしなくてはいけないという点が、分かりやすく整理できたということでは、かなりの収穫がありました。


地域農業振興計画


◆「絵に描いた餅」にしないため現場でチェック機関の設置を

 米本 「地域農業戦略」を策定するにあたっては、JAだけではなく行政や普及センターなどその他の団体との連携・機能分担を整理したうえで、そのなかで具体的にJAは何をするのかという戦略を明確にするということですが、この点について伊集院さんいかがですか。

伊集院正美氏
伊集院正美
JAそお鹿児島参事

 伊集院 私のところでは、中期計画と同時並行で3年ごとに策定し、地域にあった戦略を提起しています。15年度に策定したときのポイントは「農家の満足度合いがどこにあるのか」「消費者の満足度はどこなのか」、そして農協はこれらを推進できるスタッフなり販売責任者など人の体制、部会組織が支えあって意識改革をなしとげる必要があるということでした。
 いままでは「農業振興計画」といえば、指導員なり課長や部長がそれぞれ策定して「作った、作った」というだけで、ほとんどが「絵に描いた餅」ではなかったかと思います。今回、経済事業改革を進めるなかで、鹿児島県は「経営改革推進本部」を全JAで立ち上げていますが、そのなかに経営改善がうまく機能しているのかをチェックする機関を設けており、それがうまく機能しています。「農業振興計画」についても普及センターや行政も加わったチェック機関をつくっていく必要があるのかなと思っています。

◆「公開と参画」で組合員・地域との合意形成

 黒澤 基本的には、商業も工業も地域に混在しているわけですから、それらとどういう連携をするのかという「地域のあるべき姿」を描く。それが前提だと思っています。従来から計画は各JAや各県で策定してきていますが、計画をつくる準備段階で、JAが組合員の実態を分からなかったり、長い歴史のなかで育んできた地域にある資源に触れていなかったりしています。地域振興計画を策定するうえで、組合員に「公開と参画」という基本原則を打ち出して、組合員の意向調査とか地域の総点検運動をするなど、事前の準備をしないと、作っただけになってしまうと思います。
 そして産業としての農業として、行政も含めてあらゆる人たちに共通の論議をしてもらい、合意形成をしていく必要があると思います。地域の合意形成があって、そこからあるべき姿が浮き上がってきたら、公開と参画を原則に組合員のみなさんに作品をつくってもらうことが、「地域振興計画」のポイントだと思います。計画をたて、それを具現化していくときに、良い原因づくりをすると必ず良い結果が出る。悪い原因をつくると、どんなにいい計画をつくっても悪い結果が出てきますが、営農事業はそれがシンプルに出てくる事業だと思っています。
 それから、人数をいくら増やしても機能を捕捉できるわけではありません。そういう意味で、あるべき姿の営農指導に専任できる環境づくりも計画の中につくっておく。その機能が捕捉できなかったら行政などとの連携のなかで機能分担をすればいいと思います。事業ですから、最初に機能分担ありきではなく、自己責任自己完結で位置づけるのが「目標の明確化」の一番のポイントかなと思っています。

 米本 行政との連携についてもう少し詳しくお話ください。

 黒澤 価値体系の共有だと思います。みなさんが参画して成功すれば、その成果はみなさんのところにいくわけです。失敗したときも等しく分配されます。JA甘楽富岡の場合、JAが目立った存在ですが、行政や普及センターとのしっかりした連携があってはじめて成果があがったわけですし、成果物は等しく分配しようとやっています。

 米本 行政との連携では伊集院さんのところはどう考えていますか。

 伊集院 行政の合併が進み、普及センターは1ヶ所に集中されました。JAも本所に広域営農指導員が30名ほどいますので、年に何回か普及員の人たちと会合をもつ機会づくりが必要だと思います。ただ、作物部会ごとには、営農指導員を介して行政・普及センターと一緒にやっています。しかし、青色申告とか税務は普及センターではできませんからJAでやっています。また、各町(3町)と一体となって農業公社を立ち上げて、新規就農者の育成に力を入れています。今後、市町村合併が進んでくるとお互いの垣根を取って、指導・融資・経営をセットにして情報の共有化をはかれるような仕組みづくりが必要な時期にきていると思いますね。

◆重点課題に人・もの・金・情報を集中させてベクトルを動かす

 米本 松岡さん、全国の農協はどうですか。

松岡 公明氏
松岡 公明
JA全中水田・営農ビジョン対策室長

 松岡 全国の約8割の農協で「地域農業振興計画」ができています。ところが、農協大会で決められた営農関係の重点課題が10項目あればそれが全部並列的に並べられ戦略の明確化ができていません。そして「計画は計画。実態は実態」になっていて、営農担当者が自分のところの地域農業振興計画を「あんな計画できっこないでしょう。絵に描いた餅でしょう」と言い切っているわけです。そして事業計画が達成できないと、「お天道様が悪かった」「農政が間違っている」という。経営トップに聞くと「営農指導員がへこたれている」という。営農指導員の研修会に行くと「経営トップの理解がない」という。天候や農政、人の責任に転化して自己責任になっていません。
 つまり、自分のところの農業振興計画や戦略が、明確化されていないことと、共有化されていないということです。JA甘楽富岡では、地域農業総点検をして、データで自分たちの農協や地域の健康診断をして、どこに問題があるのかを自覚し、計画を立てているわけです。自らの問題意識をもたないと本物の計画にはならないんです。地域点検活動をというと「点検のための点検活動」になって、また枝振りのいい計画を書いて「絵に描いた餅」になるという繰り返しだったわけです。
 今回は、「地域農業計画」を明確化し地域社会で共有化して、意思決定することが大事だから、それをキチンとやろうということです。黒澤さんは「あるべき姿」といいましたが「ビジョンなき民は滅ぶ」という言葉があるように、焼き直しではなくビジョンをつくり直す。ビジョン、つまり設計図を明確にした上で、人・もの・金・情報という経営資源を重点化することです。重点化というときにはそこに経営資源を集中しベクトルが動いていかなければいけないわけですが、いままでJAグループは、仕事の重点化というときに重点課題の羅列に終わっているのがほとんどです。羅列ではベクトルが動かないから、現場は何も変わりません。

 米本 データに基づいて戦略を明確化し、それを共有化することをきっちりやっておかないと、テクニック的なことをいくらやっても機能しないということですね。

 松岡 うちのJAはこれでいくんだということを明確にすることです。甘楽富岡の場合には、お蚕さんもコンニャクもダメになった。それなら何でいくのかと考え、シイタケがあったので、これにヒントを得て、少量多品目でいこう。そしてプロ農家にはこういう戦略、高齢者や女性にはこう、セミプロはこうと、多様化する組合員層とマーケットに応じた戦略を明確化しているわけです。農協としては、プロ農家にもセミプロやアマ農家にもそれなりに対応しています。足して1になっていますではダメなんです。農家からみれば0.5は0.5でしかない。マーケットもそうです。共販もやっているしファーマーズマーケットもやって、トータルで1やっていますといっても、マーケットから見れば0.5は0.5でしかない。生産現場もマーケットも多様化していますからそれをセグメントするなかで、層別に戦略を明確化しないと意味がないわけです。


目標管理


◆組合員も営農指導員もともに育つことが成功の条件

米本 博一氏
米本 博一
JA全中経済事業改革推進室長

 米本 戦略を明確化し共有化したうえで、目標管理を行なうことが重要だと提案されていますが、黒澤さんどうですか。

 黒澤 「多様性」がキーワードだと思います。JAの営農指導員にも多様性があると思います。地域農業振興計画を分解すれば、それは一経営体の積み重ねです。そして、一経営体ごとに目標があるわけです。それをどうサポートするかが、これからの営農指導の一番の目標ではないかと思います。そういう意味では、アマ農家からセミプロへそしてプロへ、プロからスーパープロへ育成していく仕組みづくりが必要で、営農指導員を評価するときにこれがないと、評価基準がぼやけてしまいます。
 営農指導は「あるべき姿」に誘導していく事業ですから、営農指導員にも育成プログラムがあっていい。全員が一軍の選手ばかりではないわけですから、その多様性も組合員ときちんと合意形成しておかないといけないと思います。そして地域農業振興計画とリンクした、営農指導員の成長期間に合わせた評価体系をつくることだと思います。そして地域ごとに計画をつくるわけですから、JA以外の人も入った評価委員会を各JAでつくり、そのジャッジメントを積み上げる必要があるのではと思いますね。そのことで組合員も営農指導員も共に育つ「共育」がなければ、目標管理制度は成功しないと思います。

 松岡 農協の目標管理は農協職員の管理ソフトではないはずです。組合員に対してもそうですが、地域全体に対して「生産者グループはこれからこういう地域農業をつくります」と公約すること、公開することです。いわゆる「マニフェスト」です。職場内だけでノルマを達成しても疲弊感しか残らないと思いますが、地域と公約してそれが達成でき、地域全体で評価されれば、やったという達成感があり、目標管理がもっともっと生き生きしてくると思いますね。


営農指導は農協全体で


◆組合員からみれば農協は一つ

 伊集院 うちのJAの農畜産物の販売高は250〜260億円です。そのうち畜産が150億円、園芸農産が90億円で担当営農指導員が80名いますが、共販手数料だけではとてもまかなえません。そこで園芸農産の指導員は生産資材、畜産の営農指導員は飼料など畜産資材を担当させ、販売手数料と購買手数料とセットで自分たちの経営管理をするというシステムをつくっています。そのおかげでそれなりの実績がでてきています。
 15年度から、専任指導員については販売や購買の年間目標を与えて取り組んでいます。そして年に2回、常務ヒヤリングを行い、何軒まわっていくらの実績があがったのか報告していますが、そのことで、常務や役員に指導員一人ひとりの顔が見えてきます。指導員にとっては嫌な面もあるでしょうが、発破もかかりやる気もでてくる。そういう仕組みが目標管理だと私は理解しています。ただ、マネジメントはまだできていませんので、全中にも入ってもらって、職員総体のレビュー制と併せて指導員の目標管理をやっていきたい。

 米本 検討委員会で伊集院さんが、「営農指導事業の目標を達成するのは、営農指導員だけでやるのではないよ」と発言されましたね。

 伊集院 農家サイドからJAをみれば、生産物を販売することだけではなくて、生活もあるし、貯金や共済を含めたトータルですから、農協は一つです。その一つのセクションが営農指導です。そういう意味では全体でやっていくということです。


営農指導員の階層化と組織


◆地域ごとに事業にあった階層化と組織を

 米本 先ほどからご指摘があるように、組合員が多様化し、その対象農家ごとにJAの営農指導に求めるニーズが違います。そのニーズに対応するには営農指導員も階層化していく必要があると思います。基本方向ではモデルとして、営農相談員、営農指導員、専門営農指導員の3つの階層化を示しています。さらに、階層化した営農指導員がその機能を十分に発揮するには営農センター化するのがいいのかどうか、各JAで検討していただくことになっていますが、この点について伊集院さんはどうお考えですか。

 伊集院 16年4月から、統括指導員、広域専任指導員、そして支所指導員という形に3つのランクに分けて、さらに大規模農家・法人対応のTAFということにしました。そして18年度を目標に、園芸農産の営農総合センターと畜産総合センターという2つの総合センター化をはかっていこうとしていますが、支所指導員をいつまで支所に配置するのかは検討中です。
 私は、地域農業振興計画を達成するためのベクトルの方向性として、80名の指導員全員が一つの方向を目指すためにはどこに在籍しようが機能は本所に一元化しなければいけないと考えています。

 黒澤 営農事業は「総合営農事業」だと思います。JA甘楽富岡でいえば、指導事業、販売事業、購買事業があり、利用事業や加工事業、そして直売事業があり、この6つで事業形成しています。いまマーケティングしている大手量販店のバイヤーは昔は品目ごとの担当でしたが、いまは生鮮というゾーンになっています。JAもいままでは営農指導の対象物は品目別でしたが、その組み換えも柔軟に行なえる体質づくりをしていかないといけないと思っています。
 私は、営農指導員は「集中と分散」だと思っています。つまり集団思考した方が効率的な部分と分散した方が効率的な部分が出てくると思います。もう一つは、農業の多様性とか機能性が評価される時代ですが、そういう意味ではコミュニティをどうつくるか、これは地域性といわれる部分ですね。だから、地域性は地域性の編成を組む、専門性は専門性のチームを組めばいい。そして6つの事業をしていますから、事業論的にきちんと階層化をしていけばいいと考えています。
 そういう意味で、3つの階層に分けるのではなくて、分け方の地域バージョンをしっかりもつ。事業論的に最適でないと制度は残らないと思いますね。

◆個々のグループの主体性は尊重し束ねたときに一つの力に

 米本 JA甘楽富岡の場合には、生産組織にも特徴がありますね。

 黒澤 アマチュアとセミプロは、あまりシバリのない運営委員会です。これは将来、この人たちが生産部会にステップアップできる場だともいえます。プロゾーンからはじめて、価値観や意思が共有できる目的集団としてのシバリをもった組織化をしています。プロゾーンは、農特産連絡協議会、畜産部連絡協議会部会というように全体を網羅した横のネットをはった組織にしています。横軸を重視しないと地域戦略ができないからです。

 松岡 「集中と分散」は言いえて妙だと思いますね。生産現場も生産者も、そしてマーケットも多様化している、農協がその多様性を尊重してその間のプロデュースをしようとういうのが一つですね。そして、黒澤さんがいわれるように、営農指導事業だけでは成立しないわけです。そこも農協の中で多様なわけです。そして部会のなかでも、米でも減農薬減化学肥料グループや慣行栽培とかいろいろなグループがあり多様化しています。
 「基本方向」で農家層の多様化に対応した営農指導員の階層化を一律的にいっていますが、これだけでは片手落ちだと思います。事業との接点、組合員との接点をどうするか。協同組合ですから、組合員活動や協同活動の活性化という意味でこれでいいのかという問題もあります。
 私は「合衆国方式」といっているんですが、アメリカにはテキサス州やフロリダ州など50の州があって、それぞれ州法も予算ももっているけれども、それがユナイテッドしたところに合衆国があるわけです。個々のグループの主体性・自立性は尊重するけれど、束ねたときには合衆国で一つです。そういう発想が大事だと思います。機能発揮型の営農指導をつくることが目的であっって階層化するのは手段です。

 伊集院 各JAごとに歴史があると思います。そのなかで右往左往しながらいまに行き着いているわけですから、いまこれが提示されたから、明日からこれができるかといえばそうはなりません。自分たちにあった仕組みをつくっていくことが大事だと思いますね。
 それから、指導員にすると、品目を専門化して階層化することで巡回しやすくなった、農家個々の顔がよく見えるようになったということはありますね。

 米本 黒澤さんのところも、伊集院さんのところも、苦労して築いてきているわけですよね。

 黒澤 生産者とのバトルの連続でしたよ。

 松岡 甘楽富岡やそお鹿児島のTAFチームのモデルだけをみてはダメなんですよ。


育成・研修


◆育てるのは生産者JA域を超えた交流の場を

 米本 営農指導員も高齢化していますが、営農指導員を意識的に育てていくことが必要ですが、この点はどうですか。

 黒澤 私は県中央会を強化して、営農指導員が交流できるセンター機能を具備しなければダメだと思います。群馬では営農指導員の協議会がありますが、これが若い営農指導員を育てる原点なんです。
 もう一つの営農指導員を育てるポイントは生産者です。私のところでは「営農アドバイザリースタッフ制度」というのがあり、品目別の地域のスーパースターに営農指導員を育てるコーチ役をお願いしています。この人たちが果たしてくれた役割には感謝しています。
 営農指導員を人事体系や研修体系だけであてはめても、本物の営農指導員にはなりません。JAのなかで唯一、原体験を積み重ねた人とデスクプランをした人と差がでるのは営農指導ですから、しっかりした長期プランをもって、JAの枠を超えて交流できる場をつくって欲しいと思いますね。関東甲信越では県域を超えた場をつくっています。

 伊集院 700名弱の要員のなかで、年数回集合研修と県連の専門研修にたよっていますが、体系的なものは見えていません。農家指導・交流などで活きた研修はできているのでしょうが、マネジメントができていないと私は思います。目標管理とか階層化ということであれば、道筋や研修体系とかをシッカリつくっていかないといけないと思いますので、そこらが宿題かなと感じています。

 松岡 営農指導員の基本は、OJTと田んぼやあぜ道に入って、生産者から教えられて育つことが一番でしょうから、後は、市場関係者からのクレーム処理から育つのだと思います。ただ、最近は農家子弟の職員でも農業の知識がほとんどないという現状もあるので、中央会の仕事として、階層別研修体系のカリキュラムをしっかり組むことだと思っています。そのときに、現場で目標管理がきちんとされ、自己啓発があり、意識的自覚的に研修に参加するという好循環をつくることが重要だと思います。


予算の確立


◆収支構造を明確にしてコスト意識をもつこと

 米本 最後に「営農指導予算の確立」ですが、これからは信用・共済部門で負担していくことは難しくなると思います。予算を確立するには、販売事業や購買事業での収益の確保など営農指導事業を核とした事業展開が重要だと思いますが、伊集院さんどうですか。

 伊集院 営農指導で人件費が3億5000万円かかっていますが、15年度農業関連事業の部門別損益で同額の赤字でした。特に農産特別会計で多額の赤字でした。そこで経済事業改革に取り組んできましたが、16年度見込みは黒字に転化し、全体収支も好調の見通しです。

 黒澤 それはすごいですね。

 伊集院 一部選果場等赤字会計を組合員に統廃合してもらって廃止したりもしましたからね。選果料も一部応益負担しました。組合員にも情報開示して納得してもらう努力も必要です。

 黒澤 基本的には、営農だからいいよという聖域ではないと思います。それが大前提です。その上で、本来なら組合員が拠出しなければならない部分を指導事業ということで負担していることがあると思います。それをきちんと整理して、JAも費用対効果をヒヤリングし、組合員にも開示していかないと、最終的に予算の確立を継続的に恒常的にやっていくことは不可能です。私のところでは、生産部会とJAが業務委託契約を結び互いのやるべきことを明確にする仕組みづくりをしています。全て一率といわれる手数料率も応益分担方式に変えました。
 それから、営農経済まで広げると、JAが新たにやれる事業がゴロゴロ転がっていると思いますよ。量販店が悪戦苦闘しているアウトソーシングとか、川上でやる方がコストが落ちるものがあります。それを見直していくと、信用・共済のようにシステムがしっかりしているものより、新局面がでてくる「宝の山」だと私は考えています。

 松岡 営農指導強化について総論では賛成でもうまくいっていない最大の原因は、財源問題です。一番大事なのは、営農経済事業は、昔は事業取扱高方式でどんぶり勘定で、一つひとつの品目別の収支構造が分かっていなかった。それを収益主義に発想を転換しなければいけないと思います。
 それからコスト意識をもたせることが、意識改革の第一歩だといえますから、自分たちの営農指導のコストはいくらかというコスト意識をまずもってもらうことです。コスト意識は、役員と職員、そして組合員で違います。私は、組合員にもコスト意識をもってもらうことが重要だと思います。情報を開示して、営農指導はタダではないことを認識してもらうことです。JAの内側だけで悩むのではなく、協同組合ですから組合員にも悩んでもらうことです。
 例えば、手数料問題も青果物の場合、直売所は普通15%ですが、市場出荷は1.5%です。1.5%では営農指導員に給料は払えません。なぜ1.5%かといえば、販売手数料ではなく集荷手数料だからです。ファーマーズマーケットは手数料が高くても農家手取りが見えるから文句がでないわけです。ファーマーズマーケットで1億円売ればJAの収入は1500万円です。市場出荷ならその10倍売らなければいけない。そういう収支構造を認識して、集荷から販売にチャレンジしていかないと損益管理は難しいと思います。「昔の名前で出ています」ではダメだということです。

◆内向きだけではなく外に向かった改革へ

 米本 最後に、一言づつ抱負を含めてお聞かせください。

 黒澤 私は基本的にマーケティングにつきると思います。イチローだって3割7分です。すべてが成功することはありません。ビジネスですから勝つときも負けるときもあります。マーケティングすると消費者が見えますし、営農指導した作品が消費者にジャッジされます。それが原点だといえます。そういう意味では、改革は内に向かってだけではなく、外に向かってもしっかりしなければいけないと思いますね。内と外と併行しないと本来の事業改革は成功しないと思っています。

 伊集院 最近は改革ばかりですね。企業でいえばリストラですね。私は、リストラも必要ですが、ある一定までいったら、その先に見えるものがないと農協はやっていけないと考えています。先日も職員研修会で、マーケティングを含めて新規事業を発掘して次期中期3年計画に提案してほしいといいましたが、そこがここ数年で見えてこないとJAの将来もないと思います。

 黒澤 もう一つは、施設の共同利用とか、あるJAがもっている輸送機能を他のJAが活用するとか、JA間連携なり、グループ連携すれば大ナタを振るえる部分がいろいろあると思います。産地間競争などといわず連携をしていくことです。

 松岡 制度依存からの脱却とマーケティング的思考をどれだけ取り入れることができるかだと思います。

 米本 経済事業改革に魂をいれるのが、営農指導機能の強化だということが確認できたと思います。伊集院さんがいわれた先に見えるものを描くのも営農指導機能強化を成功させることだと思います。今日はありがとうございました。

座談会を終えて

 検討委員会では委員各位の営農指導にかける熱き想いをぶつけ合ったのですが、「基本方向」という形でとりまとめてしまうと、それが伝わらなくなってしまったので、そうした熱き想いをお伝えするために、この座談会を企画しました。
 JA甘楽富岡、JAそお鹿児島で成功している要因は、戦略の明確化を役職員のみならず組合員・地域の合意のもとで進められていること、運動論ではなくJA全体の事業論(特に販売・購買)に結びつけて展開されていることなどにあると思われます。
 経済事業改革は単なるリストラではなく競争力を強化する事業システム改革であります。しかし、魂が入っていないと画餅になってしまいます。営農指導機能の強化は魂に当たるものでありますから、全国のJAで地域実態に即した強化策を組合員と共同で策定いただくことを期待しております。

(米本)

(2004.10.15)


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